留学生が人身事故・ひき逃げを起こしたら退去強制になる?|過失運転と危険運転の違い
2026/09/10
留学生の方が交通事故で人にけがをさせた場合、どの罪で処罰されるかによって在留上の結論が正反対になります。通常の不注意による事故である過失運転致傷罪は入管法24条4号の2の列挙に含まれませんが、危険運転致死傷罪は列挙されており、拘禁刑になれば執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。
ひき逃げ(救護義務違反)が加わった場合、自転車での事故の場合、電動キックボードでの事故の場合など、事故の態様によって適用される条文も変わります。本記事では、罪名ごとの在留への影響を表で示したうえで、学業や帰国の予定との関係を説明します。
本記事の要点
- 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)、準危険運転致死傷罪(同法3条)、救護義務違反は4号の2の列挙外です。
- 危険運転致死傷罪(同法2条)と、無免許で危険運転致傷をした場合の加重(同法6条1項)は列挙されており、拘禁刑なら執行猶予付きでも退去強制事由です。
- 自転車は同法の「自動車」に当たらず、自転車事故は刑法の過失傷害の罪などで処理されます。
- 1年以上の拘禁刑は、執行猶予付きでも上陸拒否事由となり、帰国後の再来日に影響しえます。
人身事故を起こした場合、どのような罪に問われますか
運転上必要な注意を怠って人を死傷させれば、過失運転致死傷罪として7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に問われます(自動車運転死傷処罰法5条)。傷害が軽いときは、情状により刑が免除されることもあります(同条ただし書)。
アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で走行した場合や、制御困難な高速度で走行した場合などは、危険運転致死傷罪となり、負傷させれば15年以下の拘禁刑、死亡させれば1年以上の有期拘禁刑です(同法2条)。アルコールの影響で運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、その結果、正常な運転が困難な状態に陥って人を負傷させた場合は、12年以下の拘禁刑(同法3条)とされています。
事故の後に負傷者を救護せずに立ち去れば、道路交通法の救護義務違反として5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金、死傷が自分の運転に起因するときは10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金となります(同法72条1項・117条)。
どの罪であれば、退去強制事由に当たりますか
自動車運転死傷処罰法の罪のうち、入管法24条4号の2に列挙されているのは2条(危険運転致死傷)と6条1項だけです。別表第一の在留資格である留学生がこれらの罪で拘禁刑に処せられれば、執行猶予が付いていても退去強制事由に当たります。
| 罪名 | 4号の2の列挙 | 拘禁刑・執行猶予の場合 | 拘禁刑・1年超の実刑の場合 |
|---|---|---|---|
| 過失運転致死傷(5条) | 含まれない | 退去強制事由に当たらない | 4号リに当たる |
| 準危険運転致死傷(3条) | 含まれない | 当たらない | 4号リに当たる |
| 危険運転致死傷(2条) | 含まれる | 4号の2に当たる | 4号の2・4号リに当たる |
| 危険運転致傷+無免許(6条1項) | 含まれる | 4号の2に当たる | 4号の2・4号リに当たる |
| 過失運転致死傷+無免許(6条4項) | 含まれない | 当たらない | 4号リに当たる |
| 救護義務違反(道路交通法117条) | 含まれない | 当たらない | 4号リに当たる |
いずれの罪も、罰金であれば退去強制事由に当たりません。危険運転致死傷罪(2条)には罰金刑がないため、この罪で起訴されるか、過失運転致傷罪にとどまるかが在留を大きく左右します。検察官の罪名選択の段階で、事故時の速度や飲酒の程度を正確に争うことが重要になります。刑の種類の基本は拘禁刑とはをご参照ください。
自転車や電動キックボードで人にけがをさせた場合は、どうなりますか
自転車は自動車運転死傷処罰法の「自動車」に当たらないため、同法の罪は成立しません。同法は「自動車」を道路交通法上の自動車と原動機付自転車と定義しており(同法1条1項)、自転車は含まれないためです。自転車事故では、刑法の過失傷害罪(209条、30万円以下の罰金又は科料。告訴が必要)や、重大な過失による重過失致死傷罪(211条後段、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)が問題になります。これらは刑法第28章の罪で、4号の2の列挙には含まれません。
一方、電動キックボードの多くは道路交通法上の原動機付自転車に当たるため、同法の「自動車」に含まれ、過失運転致傷罪などの対象となります。自転車で事故を起こして立ち去った場合は、道路交通法117条ではなく、同法117条の5第1号(1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)の対象です。
事故の後、逮捕や処分はどのように進みますか
現場で逮捕されることもあれば、在宅のまま捜査が進むこともあります。逮捕された場合は、48時間以内の送致、72時間以内の勾留請求を経て、勾留が延長されれば最長23日で起訴・不起訴が決まります(刑事訴訟法203条・205条・208条)。起訴前の保釈はありません。
交通事故では、実況見分やドライブレコーダーの映像、車両の損傷状況が過失の有無や程度を判断する中心的な証拠になります。取調べでは黙秘権(憲法38条1項)があり、中国の領事機関への通報を求めることもできます(領事関係に関するウィーン条約36条1項(b))。
ひき逃げになると、何が変わりますか
救護義務違反そのものは4号の2の列挙外ですが、処分は大きく重くなりえます。過失運転致傷罪と救護義務違反が併せて起訴されると、事故の結果や逃走の経緯によっては実刑判決の可能性も視野に入り、1年を超える実刑となれば4号リの退去強制事由に当たります。
「人にぶつかったことに気づかなかった」という事案では、事故の認識があったかどうかが争点です。車両の損傷、衝突音、走行経路などの客観的事実から、認識の有無を丁寧に検討します。気づいて立ち去ってしまった場合は、早期の出頭が処分の判断で考慮されることがあります。
学業や在留期間の更新には、どのような影響がありますか
判決が退去強制事由に当たらなくても、在留期間の更新(入管法21条)や卒業後の在留資格の変更(同法20条)では素行が善良であるかが考慮され、前科が不利に働く可能性があります。勾留や入院で欠席が続き、退学となって在学しない状態が3か月以上続けば、在留資格取消し(同法22条の4第1項6号)の問題も生じます。
フードデリバリーなどのアルバイト中の事故では、資格外活動許可の範囲内の就労であったか、週28時間の上限を守っていたかも確認されます。この点は中国人留学生の刑事事件と資格外活動(週28時間)で詳しく説明しています。
帰国の予定がある場合、どのような点に注意しますか
1年以上の拘禁刑に処せられたことがあれば、執行猶予付きでも上陸拒否事由に当たり(入管法5条1項4号)、帰国後に再来日する際に問題となりえます。再入国許可を受けて出国した場合などには例外の余地(同法5条の2)がありますが、確実とはいえません。
捜査中や公判中の出国も制約されます。長期3年以上の拘禁刑に当たる罪で訴追されている方などは出国の確認が留保されることがあり(同法25条の2)、拘禁刑以上の判決の宣告を受けた人は裁判所の許可なく出国できません(刑事訴訟法342条の2)。被害者への損害賠償が未解決のまま帰国すれば、示談の機会も失われます。
不起訴や軽い処分を目指すには、どうすればよいですか
被害者への賠償と宥恕が、処分を左右する大きな要素です。任意保険に加入していれば保険会社が賠償を担いますが、刑事手続では、ご本人からの謝罪や見舞い、保険でまかなえない部分の補償なども含めて、被害者の処罰感情が和らいでいるかが見られます。宥恕が得られれば、起訴猶予(刑事訴訟法248条)の可能性が高まります。
過失の有無そのものに疑問がある事故では、ドライブレコーダーの映像、信号の状況、被害者側の動きなどを検討し、事実と証拠に基づいて争います。また、危険運転ではなく過失運転にとどまることを具体的に示すことも、在留を守るための重要な弁護活動です。
当事務所の対応について教えてください
交通事故の刑事事件では、罪名が一つ違うだけで在留上の帰結が変わります。当事務所は起訴前の不起訴処分を最優先の目標としながら、起訴が避けられない場合にも、どの罪名で処理されるかを見据えて弁護活動を組み立てます。刑事事件と入管の手続は一体のものとして扱います。
松村大介弁護士は、最初の接見から判決後の在留手続まで、自ら一貫して担当します。外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行し、事故の状況をご本人の言葉で正確に伝えられるよう支えます。中国本土のご家族からのご連絡は、微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接受け付けています。よくある疑問は外国人刑事・在留Q&Aにもまとめています。
よくある質問
過失運転致傷罪で執行猶予付きの判決を受けました。留学ビザは取り消されますか。
過失運転致傷罪は入管法24条4号の2の列挙に含まれないため、執行猶予付きの拘禁刑でも同号の退去強制事由には当たらず、判決だけを理由に在留資格が取り消される規定もありません。ただし、在留期間の更新では素行が考慮されますし、刑期が1年以上なら上陸拒否事由に当たります。
配達のアルバイト中に原付で事故を起こしました。在留に特有の問題はありますか。
刑事責任とは別に、そのアルバイトが資格外活動許可の範囲内であったか、週28時間の上限を超えていなかったかが確認されることがあります。上限を大きく超えていた場合は、事故とは別の問題が生じるおそれがありますので、勤務記録を整理したうえで弁護人に相談してください。
相手のけがが軽ければ、処罰されないこともありますか。
過失運転致傷罪には、傷害が軽いときは情状により刑を免除できるという規定があります(自動車運転死傷処罰法5条ただし書)。実際には、被害者への賠償や宥恕の有無を踏まえて、起訴猶予とされることもあります。
事故の後、怖くなってその場を離れてしまいました。どうすればよいですか。
救護義務違反や報告義務違反に問われるおそれがあるため、弁護人と相談のうえで、早期に警察へ出頭することを検討してください。出頭の経緯は処分や身柄拘束の判断で考慮されることがあります。
19歳の留学生が危険運転致死罪で捜査されています。少年事件として扱われますか。
20歳未満なので家庭裁判所に送られますが、18歳・19歳の特定少年が短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯した事件は、原則として検察官に送り返されます(少年法62条2項)。危険運転致死罪は1年以上の有期拘禁刑ですので、刑事裁判になる可能性が高い類型です。
関連コラム
- 在留資格と罪名で見る退去強制・取消しの早見表|執行猶予でも強制送還になる組合せ
- 留学生が傷害・暴行で捕まったら在留資格はどうなる?|罰金と執行猶予で分かれる帰結
- 留学生が飲酒運転・無免許運転で処罰されたら退去強制になる?|道路交通法違反と在留
- 留学生が不同意わいせつ・盗撮・痴漢で有罪になったら在留はどうなる?|侵入罪との違い
- 留学生が万引き・窃盗で捕まったら退去強制になる?|罰金と執行猶予の分かれ目
- 永住者が人身事故を起こしたら在留資格はどうなる?|過失運転・危険運転・ひき逃げの違い
- 日本人の配偶者等の方が人身事故を起こしたら在留はどうなるか|過失運転致傷・危険運転・ひき逃げ
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119