永住者が人身事故を起こしたら在留資格はどうなる?|過失運転・危険運転・ひき逃げの違い
2026/09/10
交通事故で人にけがをさせた永住者の方が、過失運転致傷罪で罰金や執行猶予付きの判決を受けても、退去強制事由には当たりません。2027年4月に始まる永住者の在留資格の取消制度も、通常の過失による人身事故には及びません。
注意すべきは、同じ人身事故でも「危険運転致死傷罪」として処罰される場合です。この罪は取消制度の列挙罪に含まれ、執行猶予付きでも拘禁刑に処せられれば永住者の地位を失うおそれがあります。どの罪名で起訴されるかという点が、永住者にとっては刑の重さ以上に大きな意味を持つことになります。
本記事の要点
- 過失運転致死傷(自動車運転死傷処罰法5条)、準危険運転(同法3条)、救護義務違反(道路交通法117条)は、入管法の列挙罪に含まれていません。
- 危険運転致死傷(同法2条)と無免許運転による加重の同法6条1項は列挙罪で、2027年4月以降、拘禁刑に処せられれば永住者の取消事由(新22条の4第1項9号)となりえます。
- 永住者が退去強制事由に当たるのは、罪名を問わず1年を超える拘禁刑の実刑(24条4号リ)を受けた場合です。
- 執行猶予付きでも1年以上の拘禁刑は上陸拒否事由となるため、判決後の出国には慎重な検討が必要です。
人身事故を起こした場合、どの罪に問われますか
多くの人身事故は、自動車運転死傷処罰法5条の過失運転致死傷罪として扱われます。ただし、飲酒や高速度など運転の態様によっては、より重い罪が適用されます。
| 罪名(条文) | 法定刑 | 取消制度の列挙罪か |
|---|---|---|
| 過失運転致死傷(自動車運転死傷処罰法5条) | 7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | いいえ |
| 準危険運転致死傷(同法3条) | 負傷12年以下、死亡15年以下の拘禁刑 | いいえ |
| 危険運転致死傷(同法2条) | 負傷15年以下の拘禁刑、死亡1年以上の有期拘禁刑 | はい |
| 無免許運転による加重(同法6条1項) | 6月以上の有期拘禁刑 | はい |
| 救護義務違反(道路交通法117条) | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(運転に起因する死傷は10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金) | いいえ |
過失運転致傷罪は、傷害が軽いときは情状により刑を免除できるとされています(5条ただし書)。同じ無免許運転による加重でも、6条2項から4項(準危険運転・発覚免脱・過失運転に無免許が加わる場合)は列挙されておらず、6条1項だけが対象です。
永住者が人身事故で有罪になると、退去強制事由に当たりますか
罰金や執行猶予付きの判決であれば当たりません。永住者は別表第二の在留資格で、入管法24条4号の2は適用されないため、問題となるのは4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑。全部執行猶予を除く)だけです。
| 刑事手続の結果 | 過失運転致死傷・救護義務違反など | 危険運転致死傷(2条・6条1項) |
|---|---|---|
| 不起訴・罰金 | 退去強制・取消しとも当たらない | 罰金の定めなし。不起訴なら当たらない |
| 拘禁刑・執行猶予付き(1年未満) | 当たらない | 2027年4月以降は取消事由となりうる |
| 拘禁刑・執行猶予付き(1年以上) | 上陸拒否事由のみ | 取消事由となりうる+上陸拒否事由 |
| 1年を超える拘禁刑・実刑 | 4号リの退去強制事由+上陸拒否事由 | 4号リの退去強制事由+取消事由となりうる+上陸拒否事由 |
死亡事故や、ひき逃げとの併合では実刑となることもあります。その場合でも退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求めることは可能で、日本での生活の長さや家族関係などが考慮されます。手続の流れは退去強制・在留特別許可で解説しています。
2027年の永住者の取消制度では、どの交通事故が対象になりますか
対象は、自動車運転死傷処罰法2条の危険運転致死傷罪と、同法6条1項の罪で拘禁刑に処せられた場合です。過失運転致死傷罪や救護義務違反は対象外です。
危険運転致死傷罪は、アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での走行、制御困難な高速度での走行、あおり運転や赤信号の殊更な無視などを類型としています。現行の条文は、アルコールの保有量や速度超過の程度を数値で示す形に改められており、事故の態様によっては過失運転致死傷ではなくこの罪での起訴が検討されます。
取消しは裁量によるもので、意見聴取を経て判断され、在留が適当でないと認める場合を除いて定住者などへの変更が許可されます(新22条の6)。2026年9月時点では未施行で、施行前の判決の扱いは今後の運用を確認する必要があります。
事故の後、救護せずに立ち去ってしまった場合はどうなりますか
負傷者の救護などをせずに立ち去れば、いわゆるひき逃げとして救護義務違反(道路交通法72条1項前段、117条)に問われます。この罪自体は入管法の列挙罪ではありません。
とはいえ、過失運転致傷罪と併せて処罰されると刑は重くなり、1年を超える実刑となれば4号リの問題が生じます。事故に気づかなかったのか、気づいたうえで立ち去ったのかは、救護義務違反の成否を分ける重要な事実です。ドライブレコーダーの映像や車両の損傷状況、現場の状況から、ご本人の認識を丁寧に確認する必要があります。
事故で逮捕された場合、どのように手続が進みますか
逮捕された場合、起訴か不起訴かは最長23日で決まります。逮捕後48時間以内に送検され(刑事訴訟法203条)、72時間以内に勾留請求の判断があり(同法205条)、勾留は延長を含め最長20日です(同法208条)。起訴前の保釈はありません。
被害者のけがが軽く、逃亡や証拠隠滅のおそれがない事故では、逮捕されず在宅で捜査が進むこともあり、その場合は期間の制限がないまま数か月かかることもあります。実況見分への立会いや取調べでの説明は、後の罪名や過失の程度の認定に直結します。黙秘権(憲法38条1項)を踏まえ、供述の前に弁護人に相談してください。
判決後、母国への帰省や海外出張はできますか
1年以上の拘禁刑の判決を受けた方は、執行猶予付きでも上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たります。出国すると、戻る際の上陸審査で問題となるおそれがあります。
再入国許可を受けて出国した場合などに、相当と認めれば上陸を拒否しない特例(5条の2)がありますが、認められるかは個別の判断です。永住者の方がよく利用するみなし再入国許可での出国は、とくに慎重に判断すべきです。また、危険運転致死傷罪など長期3年以上の拘禁刑に当たる罪で起訴されている間は、出国の確認が留保されることがあります(25条の2)。配偶者や子が「永住者の配偶者等」で在留している場合、ご本人の在留の変動は家族にも及びうるため、渡航の予定は家族全体で相談して決めることをお勧めします。
不起訴や罰金にとどめるため、どのような弁護活動をしますか
人身事故では、被害者への誠実な謝罪と損害の回復、そして宥恕(処罰を求めない意思)の獲得が中心です。任意保険による賠償とは別に、刑事手続では被害者のお気持ちが重視されるため、弁護人を通じて謝罪の意思を伝え、示談書や嘆願書の取得を目指します。
永住者の方にとって特に重要なのは、罪名の選択を争うことです。危険運転致死傷罪で起訴されるか、過失運転致死傷罪にとどまるかで、2027年以降の在留上の帰結は大きく変わります。ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、速度の鑑定、アルコールの検知結果などを検討し、危険運転の要件を満たさないと考えられる事件ではその旨を検察官に示します。刑事事件と在留の関係は外国人の刑事事件と在留でも整理しています。
舟渡国際法律事務所では、交通事故の事件をどう扱いますか
当事務所は、不起訴処分の獲得を最優先の目標にしています。交通事故は保険対応と刑事手続、そして在留の問題が同時に進むため、刑事弁護と入管手続を一つの事件としてまとめて見通しを立てます。
松村大介弁護士が、接見の初動から判決後の在留手続まで自ら担当します。外国人事件専属の中国語通訳が在籍して接見に同行し、ご本人の側に立って言葉を伝えます。中国本土のご家族からは、微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接ご相談いただけます。
よくある質問
永住者が過失運転致傷罪で罰金になった場合、永住資格はどうなりますか
罰金は退去強制事由に当たらず、過失運転致傷罪は2027年施行の取消制度の列挙罪でもありません。罰金によって永住者の在留資格を失うことは通常ありません。
危険運転致傷罪で執行猶予付き判決を受けたら、永住者の資格は取り消されますか
2027年4月1日以降は、危険運転致死傷罪で拘禁刑に処せられたことが、執行猶予付きでも取消事由となりえます。取り消す場合も、在留が適当でない場合を除き定住者などへの変更が許可される仕組みです。
ひき逃げで有罪になると、永住者は退去強制されますか
救護義務違反は入管法の列挙罪ではなく、退去強制事由となるのは1年を超える拘禁刑の実刑を受けた場合です。実刑でも在留特別許可を求める余地があります。
無免許運転中に人身事故を起こした場合も取消しの対象ですか
危険運転致傷罪に無免許運転が加わる自動車運転死傷処罰法6条1項は対象です。過失運転致死傷罪に無免許運転が加わる6条4項は対象外です。
軽い接触事故でも前科は付きますか
過失運転致傷罪は、傷害が軽いときは情状により刑を免除できるとされ、不起訴となる場合もあります。示談や被害者の宥恕の有無が判断に影響します。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
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