特定技能の外国人が窃盗・万引きで処罰されると在留資格はどうなりますか
2026/09/10
窃盗罪は、入管法24条4号の2が列挙する刑法第36章の罪です。特定技能の方が窃盗で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予が付いても退去強制事由に当たり、罰金で終わった場合は同号に当たりません。万引きのように被害額が小さい事件でも、拘禁刑を選択されれば在留の根拠が揺らぐため、処分の段階ごとの見通しを早くから持つことが欠かせません。
特定技能の方の窃盗事件には、店舗での万引きのほか、職場の資材や工具、金属くず、農産物の持ち出しといった、仕事の現場と結びついた類型があります。本記事ではこうした類型に固有の論点を中心に説明します。
本記事の要点
- 窃盗罪(刑法235条)は4号の2の列挙罪で、拘禁刑なら執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。
- 罰金刑や不起訴で終われば4号の2には当たらないため、起訴前の被害弁償が特に重要です。
- 職場の物の持ち出しでは、窃盗か業務上横領かによって4号の2の適用が分かれることがあります。
- 指定金属切断工具の隠匿携帯(盗難特定金属製物品処分防止法22条)や盗品の買取りも列挙罪です。
万引きや職場の物の持ち出しは、どの罪に当たりますか
他人の財物を無断で持ち去れば窃盗罪(刑法235条)となり、法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。店舗での万引きも、会社が管理する資材や工具を持ち帰る行為も、基本的にはこの罪で扱われます。
ただし、ご本人が業務上その物を預かって管理していた場合、たとえば現金や在庫の保管を任されていた場合には、業務上横領罪(同法253条、10年以下の拘禁刑)が問題になります。業務上横領罪は刑法第38章の罪で、4号の2には列挙されていません。どちらの罪に当たるかは、物を誰が実際に管理していたかという事実によって決まるため、捜査段階での事実の確認が重要です。
また、万引きが見つかって逃げる際に店員に暴行を加えると、事後強盗罪(同法238条)として、強盗と同じ5年以上の有期拘禁刑の対象になります。
金属や資材、農産物の窃盗では、どのような点に注意が必要ですか
建設や製造の現場で、銅線や金属製の資材を持ち出して買取業者に売る事件は、複数人で繰り返されることもあり、被害額が大きくなりやすい類型です。共犯として関与した場合、ご自身の取り分が少なくても、全体の被害について責任を問われることがあります。
この分野では、業務その他正当な理由なく、ケーブルカッターやボルトクリッパーなどの指定金属切断工具を隠して携帯することが禁止されており(盗難特定金属製物品処分防止法15条)、違反すると1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(同法22条)。この罪も4号の2に列挙されていますので、窃盗に至らなくても、拘禁刑に処せられれば同号の問題が生じます。
さらに、仲間が盗んできた物と知りながら買い取ったり、売却をあっせんしたりすると、盗品等に関する罪(刑法256条)が成立します。同罪は刑法第39章の罪で、これも列挙罪です。農業分野で収穫物や農機具を持ち出した場合も、窃盗罪として同じ枠組みで考えることになります。
逮捕されてから処分が決まるまで、どのくらいかかりますか
逮捕された場合は、逮捕から最長23日の間に起訴・不起訴が決まります。警察から検察官への送致が48時間以内、勾留請求が逮捕から72時間以内、勾留は10日間で最長10日間の延長があり、起訴前の保釈はありません。万引きなどでは、逮捕されずに在宅のまま捜査が進むこともあります。
法務省「令和7年版犯罪白書」によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%です。窃盗事件では、被害弁償の有無が起訴猶予の判断に大きく影響します。
刑の種類ごとに、在留上の帰結はどう変わりますか
特定技能は別表第一の在留資格ですので、窃盗罪で拘禁刑に処せられると、刑の執行が猶予されても4号の2に当たります。在留を守るうえでの分かれ目は、不起訴又は罰金で終えられるかどうかにあります。
| 処分・判決 | 退去強制事由 | 更新・再入国への影響 |
|---|---|---|
| 不起訴(起訴猶予など) | 当たりません | 前科はつきませんが、更新時に経緯を説明できるよう準備します |
| 罰金刑 | 当たりません | 素行の評価で不利に働くことがあります |
| 拘禁刑・執行猶予付き | 4号の2に当たります | 刑期1年以上なら上陸拒否事由(5条1項4号) |
| 拘禁刑・実刑 | 4号の2に当たり、1年を超えれば4号リにも当たります | 刑期1年以上なら上陸拒否事由 |
4号の2に当たる場合も、退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求めることは可能です。手続の流れは在留特別許可とはのコラムで解説しています。
被害者が勤務先の場合、示談と雇用の問題はどう整理しますか
職場の物を持ち出した事件では、被害者と所属機関が同じ会社になります。被害弁償を受けて宥恕の意思を示してもらえるかどうかと、特定技能雇用契約を続けてもらえるかどうかが、同時に交渉の対象になるのが特徴です。
弁償の方法としては一括払いが望ましいものの、難しい場合は、ご家族からの送金や分割払いの計画を示すこともあります。雇用が終了した場合は、所属機関は入管への届出(入管法19条の18第1項1号)を、ご本人は14日以内の届出(同法19条の16第2号)を行う必要があり、転職には在留資格の変更許可が必要です。本来の活動を正当な理由なく継続して3か月以上行わないでいると、在留資格の取消事由(同法22条の4第1項6号)に当たりえます。制度の全体像は技能実習生・特定技能の中国人が事件を起こしたときのコラムでも説明しています。
在留期間の更新、特定技能2号への移行、永住への影響はありますか
在留期間の更新(入管法21条)と在留資格の変更(同法20条)の判断では素行の善良さが考慮され、窃盗の前科は罰金であっても不利に働くことがあります。特定技能1号から2号への移行も変更許可の手続ですので、同じ審査を受けます。
永住許可(同法22条)では素行善良が要件です。刑の消滅(刑法34条の2)の前後で評価が変わりうることも踏まえ、将来の在留の選択肢を見据えて、今回の処分をできる限り軽くとどめることが重要になります。
一時帰国すると、日本に戻れなくなることはありますか
1年以上の拘禁刑に処せられた方は、執行猶予付きであっても上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たり、期間の限定はありません。窃盗罪の法定刑は10年以下ですから、余罪が多い事件や金属窃盗のように被害額が大きい事件では、刑期が1年以上となることも考えられます。
再入国許可を受けて出国した場合などには、上陸を認める特例(同法5条の2)がありますが、相当と認められるかは個別の判断です。退去強制されれば原則として5年間は上陸できません(同法5条1項9号)。判決後の出国は、事前に弁護士と見通しを確認してから判断してください。
不起訴に向けて、弁護人はどのような活動をしますか
最も重要なのは、被害者への弁償と示談です。店舗の場合は、会社の方針として示談に応じないこともありますが、その場合でも被害額の弁償を申し出た経過や、弁償金を受け取ってもらえなかった事情を記録し、検察官に示します。
あわせて、窃盗に至った背景、たとえば仕送りの負担や生活費の不足、借金の有無を丁寧に聞き取り、所属機関や登録支援機関による生活面の支援、家計の管理方法、再び同じことをしないための具体的な約束を意見書にまとめます。持ち出しの事実や金額に争いがある場合は、防犯カメラ映像や在庫の記録を検討し、認められない部分は認めない姿勢で臨みます。
当事務所はどのように対応しますか
当事務所は、窃盗事件でも起訴前に不起訴処分を得ることを最優先の目標としています。拘禁刑が選択されれば執行猶予でも退去強制事由に当たるため、刑事弁護と入管手続を一つの事件として扱い、被害弁償の段取りから在留期間の更新まで見通しを立てて進めます。
松村大介弁護士が接見の初動から在留手続まで一貫して担当し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行します。この通訳は捜査機関側の通訳とは別に、ご本人のために動く通訳です。中国本土のご家族からの弁償金の送金方法などについても、微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接ご相談いただけます。窃盗事件全般については窃盗事件のページもご覧ください。
よくある質問
スーパーで万引きをして罰金になりました。特定技能の在留資格は続けられますか。
窃盗罪で罰金刑にとどまれば、入管法24条4号の2の退去強制事由には当たりません。ただし、次の在留期間の更新や特定技能2号への変更では素行の問題として考慮されますので、事件の経緯と反省の状況を説明できるよう準備しておくことが大切です。
職場の工具を持ち帰って売ってしまいました。どのような罪になりますか。
会社が管理している工具を無断で持ち出せば、通常は窃盗罪(刑法235条)が問題になります。窃盗罪は4号の2の列挙罪ですので、拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。売却先が事情を知っていた場合は、買った側に盗品等に関する罪が問われることもあります。
勤務先が被害者です。弁償すれば解雇されずに済みますか。
被害弁償と宥恕は刑事処分を軽くする重要な事情ですが、雇用を続けるかどうかは所属機関の判断です。弁護人が間に入り、弁償の方法と再発防止策を示したうえで、雇用継続の可能性も含めて話し合うことになります。
万引きが見つかって逃げようとしたとき、店員の手を振り払いました。罪が重くなりますか。
逮捕を免れるために暴行を加えたと評価されると、事後強盗罪(刑法238条)として強盗と同じく5年以上の有期拘禁刑の対象になります。手を振り払った程度で同罪に当たるかどうかは暴行の程度によるため、事実関係を丁寧に確認して争う余地があります。
窃盗で執行猶予付きの判決を受けた後、在留特別許可を得られることはありますか。
執行猶予付きの拘禁刑でも4号の2の退去強制事由に当たりますが、退去強制手続の中で在留特別許可を求めることはできます。考慮事情は入管法50条5項に定められており、日本での生活の実態、家族の状況、反省と更生の見込みなどを具体的に示すことになります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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