永住者が傷害・暴行で有罪になると在留資格はどうなる?|退去強制と2027年からの永住取消し
2026/09/10
永住者の方が傷害罪や暴行罪で有罪となっても、それだけで退去強制事由に当たるわけではありません。現行の入管法で退去強制が問題となるのは、原則として1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けた場合です。
ただ、状況は2027年(令和9年)4月1日に変わります。改正入管法の施行により、傷害・暴行を含む一定の罪で「拘禁刑に処せられたこと」が永住者の在留資格の取消事由に加わるからです。条文上は執行猶予付きの判決も含まれるため、今後の弁護では、罰金や不起訴にとどめられるかどうかが在留を守るうえで大きな分かれ目になります。
本記事の要点
- 永住者は別表第二の在留資格なので、入管法24条4号の2(特定の罪による退去強制)は適用されません。
- 退去強制事由となりうるのは、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑(24条4号リ)です。
- 2027年4月1日以降は、傷害罪・暴行罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予付きでも永住者の在留資格の取消事由(新22条の4第1項9号)となりえます。
- 罰金は取消事由に含まれないため、示談による不起訴や罰金での解決を目指す意味が大きくなります。
- 1年以上の拘禁刑を受けた方は、執行猶予付きでも出国後の再入国で上陸拒否事由が問題になりえます。
傷害罪・暴行罪は何条の罪で、どのような刑が定められていますか
傷害罪は刑法204条、暴行罪は刑法208条に定められています。相手にけがをさせれば傷害罪、けがに至らない有形力の行使であれば暴行罪という区別が基本です。
| 罪名(条文) | 法定刑 |
|---|---|
| 傷害(刑法204条) | 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 暴行(刑法208条) | 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
| 集団・凶器を示すなどした暴行等(暴力行為等処罰法1条) | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 銃砲・刀剣類を用いた傷害(同法1条ノ2) | 1年以上15年以下の拘禁刑 |
いずれも刑法第2編第27章(傷害の罪)や暴力行為等処罰法1条等に当たり、入管法が特に取り上げている罪の範囲に含まれます。一方、脅迫罪(第32章)や器物損壊罪(第40章)はこの範囲の外にあり、暴力行為等処罰法1条のうち脅迫・器物損壊に係る部分も除かれています。どの罪で処理されるかにより在留上の意味が変わります。
逮捕された場合、起訴か不起訴かが決まるまでどのくらいかかりますか
逮捕から起訴・不起訴の判断までは、最長で23日間です。警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に送り(刑事訴訟法203条)、検察官は送致から24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求するかどうかを決めます(同法205条)。
勾留は原則10日間で、さらに最長10日間延長されることがあります(同法208条)。起訴される前の段階には保釈の制度がありません。そのため、この期間に弁護人がどれだけ動けるかが結果を左右します。弁護人は立会人なしで接見でき(同法39条1項)、取調べでは黙秘権が保障されています(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。
被害が軽く示談が成立していれば、在宅で捜査が進み、起訴猶予(刑事訴訟法248条)で終わることもあります。罰金で終わる場合は、本人の同意を前提とする略式手続(100万円以下の罰金・科料)で処理されるのが一般的です。
永住者の場合、どの判決を受けると退去強制事由に当たりますか
現行法で永住者の方に問題となるのは、入管法24条4号リ、つまり「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた」場合です。刑の全部に執行猶予が付いた判決はここから除かれます。
別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学など)であれば、傷害罪で拘禁刑に処せられた時点で、執行猶予付きでも4号の2の退去強制事由に当たります。しかし永住者は別表第二の在留資格ですので、この4号の2は適用されません。この点は2027年の改正後も変わりません。刑の種類ごとの帰結を整理すると次のとおりです。
| 刑事手続の結果 | 退去強制事由(24条) | 2027年4月以降の永住取消し(新22条の4第1項9号) | 上陸拒否事由(5条1項4号) |
|---|---|---|---|
| 不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分) | 当たらない | 当たらない | 当たらない |
| 罰金・科料・拘留 | 当たらない | 当たらない(拘禁刑ではない) | 当たらない |
| 1年未満の拘禁刑(執行猶予付き・実刑とも) | 当たらない | 対象となりうる | 当たらない |
| 1年以上の拘禁刑・執行猶予付き | 当たらない | 対象となりうる | 当たる |
| 1年ちょうどの拘禁刑・実刑 | 当たらない | 対象となりうる | 当たる |
| 1年を超える拘禁刑・実刑 | 4号リに当たる | 対象となりうる | 当たる |
退去強制事由に当たっても、退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求める道は残ります。考慮される事情は50条5項に定められています。詳しくは在留特別許可とはで解説しています。
2027年4月から始まる永住者の在留資格の取消しとは、どのような制度ですか
令和6年の入管法改正により、2027年4月1日から、永住者が一定の罪で拘禁刑に処せられたことが在留資格の取消事由になります(新22条の4第1項9号)。対象となる罪の範囲は4号の2とほぼ同じで、刑法第27章の傷害の罪や暴力行為等処罰法1条等も含まれます。
この規定は「拘禁刑に処せられたこと」とだけ定めており、執行猶予の有無を区別していません。したがって、執行猶予付きの判決でも取消しの対象となりうる一方、罰金刑にとどまれば対象外です。
取消しは「できる」と定められた裁量的なもので、取り消す前には意見聴取の手続があります(22条の4第2項)。また新22条の6により、引き続き在留することが適当でないと認める場合を除き、法務大臣は職権で永住者以外の在留資格への変更を許可するものとされています。出入国在留管理庁の説明では、多くの場合「定住者」への変更が想定されています。直ちに出国となるとは限りませんが、永住者の地位は失いうる制度です。
なお、2026年9月時点ではこの規定は施行されていません。施行日より前に確定した判決が取消しの判断でどのように扱われるかは法文上明らかではなく、今後の運用を確認する必要があります。取消制度の全体像は在留資格取消しとはもご覧ください。
在留カードの更新やご家族の在留資格に影響はありますか
永住者には在留期間がないため、他の在留資格のような更新審査(入管法21条)はありません。
ただし、2027年以降に取消しを受けて定住者などへ変更された場合は、以後は在留期間の更新ごとに素行を含めた「相当の理由」が審査されることになります。前科は更新や再度の永住許可申請(22条の素行善良要件)で不利に考慮されうるため、判決の内容は長く影響します。
ご家族への波及も見落とせません。配偶者や子が「永住者の配偶者等」の在留資格で暮らしている場合、その資格はご本人が永住者であることを前提としています。ご本人の在留資格が変わったり失われたりすれば、ご家族の在留資格の見直しが必要になる可能性があるため、刑事事件の段階から家族全体の在留を視野に入れて方針を立てることが大切です。
有罪判決を受けたあと、海外へ出国しても日本に戻れますか
1年以上の拘禁刑に処せられた方は、執行猶予付きであっても上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たるため、出国後の再入国で問題が生じえます。この事由には期間の限定がありません。
再入国許可を受けて出国した場合などには、相当と認められれば、その事由のみによっては上陸を拒否しない特例があります(5条の2)。もっとも、特例が認められるかは個別の判断です。判決後にみなし再入国許可で出国する場合は特に慎重に考え、事前に弁護士へご相談ください。また、起訴されて裁判が続いている間は、傷害罪のように長期3年以上の拘禁刑に当たる罪の場合、出国の確認が留保されることがあります(25条の2)。
示談で不起訴を目指すには、どのような弁護活動をしますか
傷害・暴行事件で最も重視されるのは、被害者との示談と宥恕(許しの意思表示)です。示談が成立し、被害者が処罰を望まないことが書面で示されれば、起訴猶予となる可能性が高まります。
被害者との交渉は弁護人を通じて行うのが通常です。治療費や慰謝料の支払いに加え、再発防止策や身元引受人を整え、検察官に不起訴を求める意見書を提出します。正当防衛やけがの因果関係に疑問がある事件では、防犯カメラ映像や目撃者の供述など客観的な証拠を確保し、事実そのものを争います。
2027年以降は、執行猶予では永住者の地位を守れない可能性があるため、起訴された場合でも罰金にとどめる余地がないかを検討します。ちなみに、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%と報告されています(法務省「令和7年版犯罪白書」)。傷害事件の弁護の概要は暴行・傷害事件のご相談でも紹介しています。
舟渡国際法律事務所では、どのように対応していますか
当事務所は、起訴される前に不起訴処分を得ることを第一の目標に据えています。永住者の方の傷害・暴行事件では、刑事の結論がそのまま将来の在留資格に響くため、刑事弁護と入管手続を切り離さず、一つの事件として方針を立てます。
松村大介弁護士が、逮捕直後の接見から判決後の在留手続まで自ら担当します。外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見に同行してご本人の言葉を正確に受け止めます。捜査機関が手配する通訳とは立場が異なり、ご本人のために動く通訳です。中国本土にいるご家族とは、微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りすることもできます。
よくある質問
永住者が傷害罪で執行猶予付き判決を受けたら、退去強制になりますか
現行法では、執行猶予付きの判決だけで退去強制事由に当たることはありません。永住者に適用される24条4号リは、全部執行猶予の判決を除いているためです。ただし2027年4月1日以降は、執行猶予付きでも永住者の在留資格の取消事由となりえます。
暴行罪で罰金を払った場合、永住者の資格を取り消されますか
罰金は、2027年に施行される新22条の4第1項9号の「拘禁刑に処せられたこと」に当たりません。そのため、この規定による取消しの対象にはならないと考えられます。拘留や科料も同様です。
2026年中に判決が確定した場合、2027年の取消制度は適用されますか
施行前に確定した判決の扱いは法文上明らかではありません。現時点で断定はできず、今後の運用を確認する必要があります。
夫婦げんかで配偶者にけがをさせた場合も同じ扱いですか
家族間であっても傷害罪・暴行罪が成立すれば、在留上の扱いは同じです。配偶者の方が永住者の配偶者等の在留資格であれば、ご本人の在留資格の変動が家族にも及びうる点に注意が必要です。
脅迫罪や器物損壊罪で有罪になった場合はどうなりますか
脅迫罪と器物損壊罪は、4号の2や新9号に列挙された罪に含まれていません。これらで拘禁刑に処せられても新9号の取消事由には当たらず、退去強制が問題となるのは1年を超える実刑の場合です。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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