定住者が窃盗・万引きで処罰されたら在留資格はどうなる?|退去強制・更新・永住申請
2026/09/10
定住者の方が窃盗罪や万引きで処罰されても、罰金や全部執行猶予付きの判決であれば、退去強制事由には当たりません。窃盗罪は入管法24条4号の2の列挙罪の一つですが、同号は別表第一の在留資格にしか適用されず、定住者について問題になるのは1年を超える実刑判決(同条4号リ)だけだからです。
一方で、万引きは繰り返されやすく、回数を重ねるごとに処分が罰金、執行猶予、実刑と重くなっていく傾向があります。常習的な窃盗や転売目的の大量窃盗では、初めて起訴された事件で実刑となることもありえます。一回目の段階で立ち止まり、再発を防ぐ手立てを講じることが在留を守る近道です。
本記事の要点
- 窃盗罪(刑法第36章)は入管法24条4号の2の列挙罪ですが、別表第二の定住者には同号が適用されません。
- 定住者の退去強制事由となるのは、1年を超える拘禁刑の実刑判決(4号リ)を受けた場合です。
- 万引きを繰り返したり、常習累犯窃盗や事後強盗に当たったりすると、実刑となって4号リに当たるおそれが高まります。
- 罰金や執行猶予でも、在留期間の更新や将来の永住許可申請では素行の問題として考慮されます。
窃盗罪や万引きには、どのような刑罰がありますか
万引きは窃盗罪(刑法235条)に当たり、法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。店の外に出る前に見つかった場合でも、未遂として処罰されることがあります(同法243条)。
注意したいのは、罪名が変わって刑が一気に重くなる場面です。見つかった後に商品を取り返されまいとして、あるいは逮捕を免れようとして店員に暴行や脅迫をすれば、事後強盗罪(同法238条)として強盗罪と同じ5年以上の有期拘禁刑の対象になり、けがをさせれば強盗致傷罪(同法240条、無期又は6年以上の拘禁刑)が問題になります。また、一定の方法で常習的に窃盗を犯した場合や、過去10年内に窃盗等で3回以上6月以上の拘禁刑の執行を受けた者が常習として窃盗を犯した場合には、盗犯等防止法により3年以上の有期拘禁刑が科されます(同法2条・3条)。
万引きで捕まった後は、どのような流れになりますか
被害額が小さく、身元がはっきりしている初めての万引きでは、逮捕されずに在宅で捜査が進むことがあり、警察限りの処理で終わる場合もあります。逮捕された場合は、48時間以内に送検され、逮捕から72時間以内に勾留請求の有無が決まり、勾留されれば最長20日間、逮捕から通算して最長23日で起訴・不起訴が判断されます(刑事訴訟法203条・205条・208条)。起訴前の保釈の制度はありません。
取調べでは黙秘権が保障され(憲法38条1項)、弁護人とは立会人なしで接見できます(刑事訴訟法39条1項)。法務省「令和7年版犯罪白書」によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%であり、捜査段階の対応によって処分が分かれる余地は小さくありません。
窃盗罪で有罪になると、定住者は退去強制されるのですか
1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けない限り、退去強制事由には当たりません。技術・人文知識・国際業務や留学など別表第一の在留資格の方であれば、窃盗罪で拘禁刑に処せられた時点で執行猶予付きでも24条4号の2に当たります。これに対し、定住者は別表第二の在留資格なので同号は適用されず、4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑。全部執行猶予を除く)だけが問題になります。
| 処分・判決 | 別表第一の在留資格の場合(参考) | 定住者の場合 | 上陸拒否事由(5条1項4号) |
|---|---|---|---|
| 不起訴・警察限りの処理 | 退去強制事由に当たらない | 当たらない | 当たらない |
| 罰金 | 当たらない | 当たらない | 当たらない |
| 拘禁刑・全部執行猶予 | 4号の2に当たる | 当たらない | 刑期1年以上なら当たりうる |
| 拘禁刑1年以下の実刑 | 4号の2に当たる | 当たらない | 刑期1年なら当たりうる |
| 拘禁刑1年を超える実刑 | 4号の2・4号リに当たる | 4号リに当たる | 当たりうる |
4号リに当たる場合でも、退去強制手続の中で在留特別許可(50条)を求めることはできます。考慮される事情は同条5項に定められています。窃盗事件の弁護については窃盗・万引き事件のご相談でもご案内しています。
万引きを繰り返してしまう場合、在留にはどう響きますか
回数を重ねるごとに、処分は重くなっていきます。初回は不起訴や罰金で済んでも、二回目、三回目と続けば公判請求され、執行猶予付きの判決へ、さらに執行猶予中の再犯であれば実刑へと進んでいくことがあります。再度の執行猶予は、2年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがある場合に限られます(刑法25条2項)。
実刑判決の刑期が1年を超えれば、定住者であっても4号リの退去強制事由に当たります。お金に困っていないのに盗みをやめられない場合は、窃盗症(クレプトマニア)などの可能性も考え、専門の医療機関での治療につなげることが、再犯を防ぐうえでも処分を考えてもらううえでも大切です。
在留期間の更新や、生活の立て直しにはどう関係しますか
罰金や執行猶予でも、在留期間の更新(入管法21条)では素行が考慮されるため、不利に評価されるおそれがあります。更新が認められなければ、在留期間の満了とともに在留資格を失います。一方、窃盗事件そのものは在留資格の取消事由(22条の4)とされていません。
生活の困窮が万引きの背景にあることもあります。離婚や死別の後に定住者の在留資格を得た方などは、ひとりで家計を支えている場合もあり、更新の審査では生計の安定も見られます。刑事事件をきっかけに、就労や公的な相談窓口の利用など生活の立て直し策を具体的に整えることは、刑事処分の面でも在留の面でも意味を持ちます。
永住許可の申請や、永住者の取消制度とはどう関係しますか
定住者の方が永住許可を申請する場合、素行が善良であること(入管法22条2項1号)が審査されるため、窃盗の前科は不利に働きます。日本人・永住者・特別永住者の配偶者又は子である方は同項各号への適合を要しないとされていますが、許可するかどうかは法務大臣の判断であり、前科が考慮されうることに変わりはありません。刑の全部の執行猶予期間を無事に経過すれば刑の言渡しは効力を失いますが(刑法27条)、申請の時期は慎重に選ぶ必要があります。
なお、令和9年(2027年)4月1日施行の新22条の4第1項9号は、永住者が窃盗罪などで拘禁刑に処せられた場合の取消制度であり、定住者には適用されません。同制度で取り消された永住者は、多くの場合に定住者への職権変更が想定されていますが(新22条の6)、これは永住者に関する仕組みである点を混同しないよう注意が必要です。
判決を受けた後に出国すると、戻れなくなることはありますか
1年以上の拘禁刑に処せられた方は、執行猶予が付いていても入管法5条1項4号の上陸拒否事由に当たりえます。罰金や1年未満の拘禁刑であれば該当しません。
再入国許可を受けて出国した場合などは、5条の2によりその事由のみで上陸を拒否しない扱いがされる余地がありますが、みなし再入国許可での出国を含め、事前の確認が欠かせません。上陸拒否の考え方については上陸拒否期間とはをご覧ください。
不起訴を目指して、どのような弁護活動をするのですか
窃盗事件で最も重要なのは被害弁償です。商品の代金を支払い、被害店舗や被害者に謝罪し、可能であれば示談書や宥恕を得ます。店舗によっては示談に応じない方針をとることもありますが、その場合も弁償の申出をした経過を記録として残し、検察官に伝えます。
あわせて、家族による監督、生活の立て直し、窃盗症が疑われる場合の通院など、再び同じことを繰り返さないための環境を具体的に整えます。盗んだ覚えがない、会計を忘れただけといった事情があれば、防犯カメラの映像や店内での行動を確かめ、故意がないことを主張します。これらを意見書にまとめ、起訴猶予による不起訴を目指します。
舟渡国際法律事務所では、どのように取り組んでいますか
当事務所は、捜査段階で不起訴処分を得ることを最優先の目標としています。窃盗は回を重ねるほど処分が重くなる事件であり、最初の事件をどう終えるかが、その後の在留の見通しを大きく左右するからです。刑事弁護と入管手続を一つの事件として扱い、松村大介弁護士が初回の接見から在留手続まで自ら担当します。
外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、接見に同行して、ご本人の事情や気持ちを正確に伝えます。中国本土にいらっしゃるご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りができます。
よくある質問
初めての万引きで、定住者の在留資格を失うことはありますか
初めての万引きで在留資格を失うことは、通常は考えにくいといえます。不起訴や罰金であれば退去強制事由に当たらず、在留資格の取消事由でもありません。ただ、更新の審査で素行として考慮されるおそれはあるため、被害弁償や反省の状況を記録に残しておくことをお勧めします。
窃盗罪は入管法の列挙罪だと聞きました。定住者も執行猶予で退去強制されるのですか
されません。窃盗罪を含む刑法第36章の罪は入管法24条4号の2に列挙されていますが、同号の対象は別表第一の在留資格の方に限られます。定住者の場合は、1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けたときに4号リに当たるかどうかで判断されます。
万引きを見つかって店員を振り払って逃げました。窃盗罪のままですか
逮捕を免れるために暴行や脅迫をすると、事後強盗罪(刑法238条)として強盗と同じく5年以上の有期拘禁刑の対象になりえます。けがをさせれば強盗致傷罪(同法240条)が問題になり、実刑の可能性が大きく高まります。
お店が示談に応じてくれない場合は、どうなりますか
大手の店舗などでは示談に応じない方針をとっていることもあります。その場合でも、商品代金の支払いや被害弁償の申出をした経過を記録し、再発防止の取組みとあわせて検察官に示すことで、処分の判断に反映してもらえるよう努めます。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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