定住者が痴漢・盗撮・不同意わいせつで処罰されたら在留資格はどうなる?|罪名別の帰結
2026/09/10
痴漢、盗撮、不同意わいせつのいずれで処罰されても、定住者の方が退去強制事由に当たるのは1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けた場合(入管法24条4号リ)に限られます。性的な罪は同条4号の2の列挙罪に入っておらず、そもそも同号は別表第二の定住者には適用されないからです。
注意したいのは、不同意わいせつ罪に罰金刑がないことです。起訴されて有罪になれば刑は拘禁刑しかなく、1年以上であれば、執行猶予が付いても出国後の上陸拒否事由になりえます。同じ性的な事件でも、罪名によって在留への響き方が大きく異なるのです。
本記事の要点
- 性的な罪(刑法第22章、性的姿態等撮影罪、迷惑防止条例違反)は入管法24条4号の2の列挙罪ではなく、定住者にはそもそも同号が適用されません。
- 定住者の退去強制事由となるのは、1年を超える拘禁刑の実刑判決(4号リ)です。
- 不同意わいせつ罪は罰金刑がないため、有罪なら拘禁刑となり、1年以上なら執行猶予付きでも上陸拒否事由(5条1項4号)に当たりえます。
- 盗撮目的で住居や建物に立ち入った場合は、住居侵入罪・建造物侵入罪が別に成立しうる点にも注意が必要です。
痴漢・盗撮・不同意わいせつは、それぞれどの罪になりますか
行為の内容によって適用される法律が変わります。電車内で衣服の上から体に触れるなどの痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反として扱われることがあります。条例の罰則は都道府県ごとに定められています。
これに対し、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態に乗じてわいせつな行為をすれば、不同意わいせつ罪(刑法176条)となり、法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑です。罰金刑の定めはありません。性交等に及べば不同意性交等罪(同法177条)となり、5年以上の有期拘禁刑が科されます。
盗撮は、ひそかに人の性的な部位や下着などを撮影する行為が性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)に当たり、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金です。撮影のために他人の住居や施設のトイレなどに立ち入れば、住居侵入罪・建造物侵入罪(刑法130条、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)が別に成立することがあります。
逮捕された後、どのような手続が待っていますか
逮捕されると、48時間以内に検察官へ送致され、逮捕から72時間以内に勾留が請求されるかどうかが決まります。勾留は最長20日間で、逮捕から最長23日以内に起訴か不起訴かが判断されます(刑事訴訟法203条・205条・208条)。起訴前の保釈はありません。
盗撮事件では、スマートフォンやパソコンが押収され、保存されたデータから余罪の捜査が進むこともあります。取調べでは黙秘権が認められ(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)、弁護人とは立会人なしで接見できます(同法39条1項)。なお、法務省「令和7年版犯罪白書」によると、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%でした。
罪名ごとに、在留上の帰結はどう違いますか
定住者の方にとって、退去強制の基準は罪名ではなく刑の内容です。いずれの罪でも、1年を超える拘禁刑の実刑判決を受ければ入管法24条4号リに当たり、全部執行猶予や罰金なら当たりません。違いが出るのは、罰金で終わる余地があるかどうかと、上陸拒否事由(5条1項4号)に当たる可能性です。
| 罪名 | 法定刑 | 罰金の定め | 定住者の在留上の主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 迷惑防止条例違反(痴漢など) | 条例ごとに定め | あり | 罰金なら退去強制事由・上陸拒否事由に当たらない |
| 性的姿態等撮影罪(盗撮) | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 | あり | 罰金なら同上。住居侵入等の併合で刑が重くなりうる |
| 住居侵入・建造物侵入 | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 | あり | 単独なら罰金もありうる |
| 不同意わいせつ罪 | 6月以上10年以下の拘禁刑 | なし | 有罪なら拘禁刑。1年以上なら執行猶予でも上陸拒否事由になりうる |
| 不同意性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑 | なし | 実刑となりやすく、1年を超える実刑なら4号リ |
4号リに当たる場合も、退去強制手続の中で在留特別許可(50条)を求めることはできます。考慮事情は同条5項に定められています。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、なぜ特に重く受け止めるべきなのですか
罰金で終わる道がなく、起訴されれば拘禁刑しかないからです。不同意わいせつ罪の法定刑の下限は6月なので、1年以上の刑が言い渡されれば、執行猶予が付いても上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たりえます。
不同意性交等罪はさらに深刻です。刑の全部の執行猶予は3年以下の拘禁刑を言い渡す場合にしか付けられないため(刑法25条1項)、法定刑の下限が5年であるこの罪では、酌量減軽などで刑が3年以下とされない限り執行猶予を付けることができません。実刑となれば、減軽を経ても刑期が1年を超えるのが通常で、4号リに当たることになります。こうした罪名で捜査を受けている場合は、事実関係を早い段階で精査し、罪名そのものを争うべきかどうかを見極める必要があります。
在留期間の更新では、どのように評価されますか
罰金や執行猶予でも、在留期間の更新(入管法21条)で不利に評価されるおそれがあります。更新の判断では素行が善良であることが考慮され、性的な事件は被害者の尊厳を傷つける行為として重く受け止められる可能性があるからです。許可される在留期間が短くなったり、更新が認められなかったりすれば、在留期間の満了とともに在留資格を失います。
在留資格の取消し(22条の4)は、刑事事件を直接の取消事由としていません。とはいえ、取消しの対象にならないことと、更新が認められることは別の問題です。更新の申請では、処分の内容、被害者との示談の状況、治療や再発防止の取組みを具体的に説明できるよう準備しておくことが望まれます。
家族関係や生活の基盤が崩れると、定住者の在留にどう響きますか
定住者の在留資格は、日本人の実子を監護養育していること、離婚や死別後の生活の事情、日系人としての地位など、個別の事情を法務大臣が考慮して認めたものです。性的な事件をきっかけに配偶者と離婚したり、子どもと離れて暮らすことになったりすると、更新の際に、在留を認めた事情がなお続いているかが問われます。
また、事件が報道されたり勤務先に知られたりして職を失えば、生計の安定という面でも説明が必要になります。刑事弁護の段階から、家族の協力や就労の見通しを示す資料を集めておくことが、後の在留手続を支える土台になります。
判決を受けた後に出国しても、日本に戻ってこられますか
罰金や1年未満の拘禁刑であれば、上陸拒否事由(入管法5条1項4号)には当たりません。これに対して、1年以上の拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予付きでもこの事由に当たり、しかも期間の限定がありません。不同意わいせつ罪で有罪となった方は、刑期によってはこの問題を避けられないことがあります。
再入国許可を受けて出国した場合などに、5条の2により上陸を拒否しない扱いがされる余地はありますが、みなし再入国許可での出国を含め、事前の検討が欠かせません。一時帰国の予定がある方は、出国前にご相談ください。
不起訴を目指して、どのような弁護活動をするのですか
被害者のいる事件では、被害者との示談が最も重要です。性的な事件の被害者は加害者との接触を強く拒むこともあり、連絡先も通常は本人に知らされません。弁護人が捜査機関を通じて被害者の意向を確認し、謝罪の気持ちと賠償の申出を丁寧に伝えます。示談が成立し宥恕が得られれば、起訴猶予の可能性が高まります。
身に覚えのない痴漢を疑われている場合は、事実と証拠で争うことになります。防犯カメラの映像、目撃者、手指に付着した繊維の鑑定など、客観的な証拠の保全を急ぎ、取調べでは不利な供述調書を作られないよう黙秘権の行使も含めて助言します。事実を認める事件では、専門のクリニックでの治療や家族による監督など、再発防止の具体的な計画を意見書にまとめて検察官に提出します。性犯罪の弁護については性犯罪事件のご相談もご覧ください。
舟渡国際法律事務所は、どのように支援していますか
当事務所は、起訴前に不起訴処分を得ることを最優先の目標に据えています。罰金刑のない罪を含む性的な事件では、起訴されるかどうかが在留の行方を大きく左右するためです。刑事手続と入管手続を一体の事件として扱い、松村大介弁護士が初回の接見から在留手続まで一貫して担当します。
外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、接見に同行して、微妙な言い回しまで正確に伝えます。捜査機関の通訳とは別に、ご本人のために動く通訳です。中国本土のご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りができます。外国人の刑事手続と在留の関係については外国人刑事・在留Q&Aもあわせてご覧ください。
よくある質問
電車内の痴漢で罰金になった場合、定住者の在留資格はどうなりますか
迷惑防止条例違反の罰金であれば、退去強制事由にも上陸拒否事由にも当たりません。ただし、性的な事件は更新の審査で素行の問題として重く見られるおそれがあるため、反省や再発防止の取組みを示せるよう準備しておくことが大切です。
不同意わいせつ罪で拘禁刑1年・執行猶予3年の判決でした。何に気を付けるべきですか
全部執行猶予なので入管法24条4号リには当たりません。ただ、1年以上の拘禁刑に処せられたことになるため、出国すると上陸拒否事由(5条1項4号)が問題になりえます。海外に出る予定があるときは、事前に弁護士に相談してください。
盗撮のためにトイレや他人の家に入った場合、罪は一つだけですか
撮影罪などとは別に、住居侵入罪・建造物侵入罪(刑法130条)が成立しうるので、罪が二つになる可能性があります。定住者の場合、どちらも退去強制事由の判断は変わらず、1年を超える実刑かどうかが基準になります。
身に覚えがないのに痴漢を疑われています。どうすればよいですか
やっていないのであれば、その旨をはっきり伝え、取調べでは黙秘権を行使することも検討してください。すぐに弁護人を呼び、防犯カメラ映像や目撃者の確保など客観的な証拠の保全を急ぐことが大切です。
示談をすれば前科は付きませんか
示談が成立すれば起訴猶予となる可能性は高まりますが、確実とはいえません。不同意わいせつ罪のように罰金刑がない罪では、起訴されれば拘禁刑が求められることになるため、捜査段階での示談がより重要になります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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