技人国(就労ビザ)で傷害・暴行事件|執行猶予でも退去強制になる?
2026/09/10
技術・人文知識・国際業務の在留資格で働いている方が、傷害罪や暴行罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いても入管法24条4号の2の退去強制事由に当たります。逆に、処分が罰金にとどまれば、この号には当たりません。
つまり、就労ビザの方にとって傷害・暴行事件の分かれ目は「拘禁刑か罰金か」、そしてその前段階の「起訴されるかどうか」にあります。飲み会の帰りの口論や、職場・駅での小競り合いから始まる事件でも、この線引きを知っているかどうかで、取るべき対応がまったく変わってきます。本記事では、会社を解雇された場合の在留資格への影響もあわせて、条文に沿って整理します。
本記事の要点
- 傷害罪・暴行罪は刑法第2編第27章の罪で、別表第一の在留資格者に適用される入管法24条4号の2の列挙罪です。
- 拘禁刑(執行猶予付きを含む)なら退去強制事由、罰金なら同号には当たりません。
- 解雇などで本来の仕事を3か月以上していない状態が続くと、在留資格取消し(22条の4第1項6号)の問題が生じます。
- 最も在留を守りやすいのは、示談などによる不起訴処分です。
傷害罪・暴行罪はどのような刑が定められていますか
傷害罪は15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(刑法204条)、暴行罪は2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(同208条)です。どちらも罰金を選べる罪ですので、事案が比較的軽ければ略式命令による罰金で終わる可能性があります。
相手にけがをさせれば傷害罪、けがに至らなければ暴行罪という関係です。複数人で暴行した場合や常習的な場合には、暴力行為等処罰法が適用されることもあり、同法1条・1条ノ2・1条ノ3(脅迫・器物損壊に係る部分を除く)も4号の2の列挙に含まれています。なお、相手からの攻撃に対してやむを得ず反撃したのであれば、正当防衛(刑法36条)が問題になります。
逮捕されると、どのくらいの期間、身柄を拘束されますか
逮捕から最長で23日間、起訴されるまで身柄を拘束されることがあります。逮捕後48時間以内に検察官へ送致され、24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留が請求されます(刑事訴訟法203条・205条)。勾留は10日間で、さらに最長10日間延長されえます(同208条)。
日本では起訴される前の保釈はありません。この間に取調べが進み、検察官が起訴・不起訴を決めます。黙秘権(憲法38条1項)があり、弁護人とは立会人なしで接見できます(刑事訴訟法39条1項)。本国の領事への通報を求めることもできます(領事関係に関するウィーン条約36条1項(b))。
警察や検察に、勤務先へ逮捕を知らせる法律上の義務はありません。しかし20日を超えて出勤できなければ、会社に知られないまま済ませることは事実上難しくなります。家族や弁護人から、どこまで、どう説明するかを早めに決めておくことが、後の雇用継続にも影響します。
どの刑になると退去強制事由に当たりますか
技術・人文知識・国際業務は別表第一の在留資格ですので、傷害罪・暴行罪で「拘禁刑に処せられた」時点で4号の2に当たります。執行猶予が付いても結論は変わりません。罰金や不起訴であれば、同号には当たりません。
| 処分・判決 | 退去強制事由(24条) | 出国後の上陸拒否(5条1項4号) |
|---|---|---|
| 不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分) | 当たらない | 当たらない |
| 罰金(略式命令を含む) | 当たらない(ただし更新・永住の審査で考慮されうる) | 当たらない |
| 拘禁刑・全部執行猶予(1年未満) | 4号の2に当たる | 当たらない |
| 拘禁刑・全部執行猶予(1年以上) | 4号の2に当たる | 当たる |
| 拘禁刑・実刑(1年以下) | 4号の2に当たる | 刑期1年なら当たる |
| 拘禁刑・実刑(1年超) | 4号の2及び4号リに当たる | 当たる |
退去強制事由に当たっても、退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求めることはできます。考慮される事情は同条5項に定められていますが、許可されるかどうかは事案ごとの判断です。手続の全体像は退去強制・在留特別許可のページでも解説しています。
事件がきっかけで解雇されたら、在留資格はどうなりますか
解雇されても在留資格がすぐに消えるわけではありません。ただし、技術・人文知識・国際業務としての活動を継続して3か月以上行っていないと、在留資格取消しの対象になりえます(入管法22条の4第1項6号。正当な理由がある場合を除く)。取消しの前には意見聴取の手続があります(同条2項)。
勤務先との契約が終了したときは、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る義務があります(同法19条の16第2号)。新しい会社と契約したときも同様です。再就職先の仕事が技術・人文知識・国際業務に当たるかどうかに不安があれば、就労資格証明書(同法19条の2)の交付を受けて確認する方法があります。
注意したいのは、生活のためにつなぎの仕事をする場合です。技術・人文知識・国際業務に当たらない仕事で報酬を得るには資格外活動の許可(同法19条2項)が必要で、許可なく働くと別の問題を招きます。取消し制度の詳細は在留資格取消しとはをご覧ください。
罰金で終わった場合、更新や永住申請への影響はありますか
罰金なら退去強制事由には当たりませんが、在留期間の更新(入管法21条)では「更新を適当と認めるに足りる相当の理由」が審査され、素行が善良であることが考慮されます。罰金の前科も不利な事情として扱われうるため、更新申請では事件の経緯、示談の成立、反省と再発防止の取組みを資料で示すことが望まれます。
永住許可(同法22条)では素行善良が要件とされており、前科は不利に働きます。刑の言渡しの効力は、罰金なら執行を終えてから5年、拘禁刑なら10年を罰金以上の刑に処せられずに経過すると失われます(刑法34条の2)ので、その前後で評価が変わりうる点も押さえておきたいところです。
判決後に一時帰国や海外出張をしても問題ありませんか
1年以上の拘禁刑の判決を受けた方は、執行猶予付きであっても、出国すると再入国の際に上陸拒否事由(入管法5条1項4号)が問題になりえます。傷害罪では、執行猶予付きで拘禁刑1年以上の判決が言い渡されることもあります。
再入国許可を受けている場合などには、相当と認められれば当該事由のみを理由に上陸を拒否しない特例(同法5条の2)がありますが、どのような場合に適用されるかは個別の判断です。とりわけ、みなし再入国許可で気軽に出国することは慎重に考えるべきで、出張の予定がある方は出国前に弁護士へご相談ください。
不起訴を目指すには、どのような弁護活動をするのですか
傷害・暴行事件で不起訴を得るための柱は、被害者との示談です。被害弁償を行い、許すという意思(宥恕)を示談書に記載していただければ、起訴猶予(刑事訴訟法248条)の可能性が高まります。ご本人が相手の連絡先を知らない場合でも、弁護人であれば検察官を通じて示談を申し入れることができます。
喧嘩の経緯に争いがある事件では、正当防衛や相手の先行行為を示す証拠を早期に確保し、事実の面から検察官に意見を述べます。あわせて、会社の上司などによる身元引受書や、雇用継続の意向を示す上申書は、身柄解放・処分の判断で考慮されうる資料です。こうした資料は、後の更新申請でも素行を説明する材料として活かせます。
参考までに、法務省「令和7年版犯罪白書」によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%です。事件の内容次第で、不起訴は十分に現実的な目標になります。
舟渡国際法律事務所では、どのように対応していますか
当事務所は、就労ビザの方の傷害・暴行事件について、不起訴処分の獲得を第一の目標に据えています。執行猶予では4号の2を避けられないためです。刑事弁護と、解雇後の届出・更新・転職といった在留手続を、別々の問題としてではなく一つの事件として組み立てます。
松村大介弁護士が、逮捕直後の接見から在留手続まで自ら担当します。外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行し、捜査機関の通訳とは別に、ご本人の言い分を正確に伝える役割を担います。中国本土のご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りできます。傷害事件の一般的な流れは暴行・傷害事件のページもご参照ください。
よくある質問
罰金の略式命令に同意すると、在留資格に傷がつきますか。
罰金は入管法24条4号の2の「拘禁刑」ではないため、罰金にとどまれば同号の退去強制事由には当たりません。ただし前科として記録は残り、在留期間の更新や永住許可の審査では素行の点で考慮されえます。略式に同意するかどうかは、不起訴の可能性と比べたうえで判断されることをお勧めします。
執行猶予が付けば、日本で働き続けられますか。
傷害罪・暴行罪は4号の2の列挙罪ですので、技術・人文知識・国際業務の方が拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。退去強制手続の中で在留特別許可を求める道はありますが、許否は個別の事情によります。
逮捕されたことは会社に連絡されますか。
捜査機関に勤務先へ知らせる法律上の義務はありません。もっとも、勾留が長引けば無断欠勤が続き、事実上隠しとおすことは難しくなります。弁護人を通じて会社への説明の仕方を検討することが大切です。
解雇されてから次の仕事が見つかるまで、在留資格はそのままですか。
在留資格は直ちには失われませんが、本来の活動を継続して3か月以上行わないと在留資格取消しの対象となりえます(入管法22条の4第1項6号。正当な理由がある場合を除く)。契約終了の届出を14日以内に行い、再就職の活動を記録しておくことが大切です。
相手が先に殴ってきた場合でも罪になりますか。
急迫不正の侵害に対してやむを得ずした行為であれば、正当防衛(刑法36条)として罪になりません。防衛の程度を超えたと評価されると過剰防衛となり、刑が減軽・免除されうるにとどまります。防犯カメラ映像や目撃者の確保が早いほど有利です。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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