舟渡国際法律事務所

「正しく訳された」と誰が確認したのか|外国人事件における取調べ通訳の等価性と、弁護人が組む「準立会い」の設計

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「正しく訳された」と誰が確認したのか|外国人事件における取調べ通訳の等価性と、弁護人が組む「準立会い」の設計

「正しく訳された」と誰が確認したのか|外国人事件における取調べ通訳の等価性と、弁護人が組む「準立会い」の設計

2026/09/14

結論──外国人事件の弁護は「等価性」を争点化するところから始まる

外国人事件の帰趨は、多くの場合、捜査段階で作成された供述調書によって決まります。そして、その調書は、被疑者本人が書いた文章ではありません。被疑者が母語で話した内容を、捜査機関が手配した通訳人が日本語に置き換え、取調官がさらに調書の文体へと編集し、それを通訳人が口頭で母語に訳し戻したものに、被疑者が署名押印した——という何重もの変換を経た文書です。

この変換の過程で、原供述と調書の記載との間に意味のずれが生じていないか。これが「等価性(equivalence)」の問題です。当事務所は、外国人事件においては、①捜査機関側の通訳に等価性を期待できない構造があること、②弁護人依頼権の実質的保障として弁護人自身が通訳人を確保すべきこと、③取調べへの弁護人立会いが認められない現状では「準立会い」というべき態勢を組み、その中に等価性を検証する仕組みを埋め込むべきこと、を一貫して主張しています。以下、その根拠と具体的な手順を述べます。

1 「等価性」とは何か──通訳は「同じ言葉」を作れない

1-1 形式的正確性と意味的等価性

司法通訳の研究では、通訳の正確性を「言葉に忠実に訳す」形式的正確性と、「意味を余すことなく伝える」意味的等価性の二つに分けて論じられています。毛利雅子「司法通訳における言語等価性維持の可能性——起訴状英語訳の試み——」(日本大学大学院総合社会情報研究科紀要7号391頁、2006年)は、意味を余すことなく伝えることが使命だと考えるならば、何らかの補足・追加・編集を伴ったとしても通訳人は意味的等価性を維持する必要がある、と指摘します。

ここに最初のジレンマがあります。逐語的に訳せば、日本語の法律文の構造(一文が長く、「みだりに」「正当な理由がないのに」といった独特の言い回しを含む)がそのまま持ち込まれ、音声だけで聞く被疑者には理解できません。理解できるように訳せば、それは通訳人による解釈と編集が入った文になります。どちらを選んでも、原供述と調書の日本語との間には必ず落差が生まれる——これが等価性の問題の本質です。

1-2 法律用語には「等価物」が存在しない

問題は語彙のレベルで最も先鋭化します。前掲毛利論文は、覚醒剤取締法の「みだりに」が、辞書的には「むやみに」でありながら法律用語としては「法定の除外事由がないのに」を意味することを挙げ、この二義性が訳出を困難にすると指摘します。また、「輸入」をそのまま訳すと合法的な行為に聞こえるため、違法性を明示するには "smuggle" を用いる必要があるなど、用語の選択がそのまま構成要件該当性の理解を左右する例を示しています。

水野かほる「外国人事件における司法通訳の正確性——要通訳事件の事例からの考察——」(言語政策4号、2008年)も、ウルドゥー語の「ダッカ」が強盗と恐喝の両方の概念を含み、訳し違えれば「大変なことになる」語であることを紹介しています。

中国語圏の依頼者の事件でも同じことが起こります。「共謀」「故意」「未必の故意」「占有」「不法領得の意思」「正当な理由」といった概念は、中国語に一対一で対応する法概念用語が存在しません。取調べの現場では、通訳人が日常語で言い換えるほかなく、その言い換えが被疑者の理解と回答を規定します。被疑者は「訳された質問」に答えているのであって、取調官が発した質問に答えているわけではありません。

1-3 母語でない「共通語」で取り調べられるという問題

さらに深刻なのが、被疑者の母語ではない言語で取調べが行われる類型です。東京高判平成6年11月1日(判時1546号139頁)は、イロカノ語しか理解できないフィリピン国籍の被告人に対し、取調べがタガログ語および英語で行われた事案について、被疑者・被告人が十分に理解できる言語の適切な通訳人が得られる限りその言語によることが望ましいとしつつ、そのような通訳人を得ることが困難な場合等には、被疑者や被告人が理解でき意思の疎通ができる他の言語により取調べ及び公判審理を行うことも許される、と判示しました。

この理屈は、実務では中国語圏の事件にもそのまま及びます。福建語・広東語・客家語・ウイグル語・モンゴル語などを母語とする依頼者に対して、標準中国語(普通話)の通訳人が付されるのは珍しくありません。日常会話ができることと、自己の刑事責任を左右する微妙な事実関係を過不足なく表現できることは、まったく別の能力です。「意思の疎通ができる」という基準は、等価性の基準ではありません。

1-4 等価性の欠落は、調書の日本語には痕跡を残さない

最後に、実務上もっとも重要な点を指摘します。誤訳・訳し落とし・過剰な言い換えは、完成した日本語の調書を読んでも発見できません。調書はきれいな日本語で完結しており、そこに「この部分は通訳人が言い換えた」という注記は付きません。等価性の欠落は、記録に残らないという形で存在するのです。だからこそ、事後の検証ではなく、取調べと同時並行の記録化が必要になります。

2 捜査機関側の通訳の危険性

2-1 条文構造──捜査段階の通訳には、公判の通訳に及ぶ規律が及んでいない

公判段階の通訳については、刑訴法175条が「国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない」と定め、178条が鑑定の章の規定を準用します。その結果、通訳人には166条(鑑定人には宣誓をさせなければならない)が及び、虚偽の通訳は偽証罪類似の制裁の対象となります。

これに対し、捜査段階の通訳の根拠は刑訴法223条1項です。同項は「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる」と定めるにとどまります。そして同条2項が準用するのは198条1項但書および3項ないし5項であり、宣誓に関する規定は準用されていません。学説上も、捜査通訳は取調べに付随的・補助的であって175条以下の通訳等に関する規定が適用されず宣誓手続も不要である、との整理が示されています(萩原昌三郎の非鑑定説。田中惠葉「外国人事件と刑事司法——通訳を受ける権利と司法通訳人に関する一考察」北大法学研究科ジュニア・リサーチ・ジャーナル12号1頁、2006年に紹介)。

整理すると、捜査段階の通訳人には、次のいずれも存在しません。

制度公判段階捜査段階
選任の主体裁判所(最高裁が取りまとめる通訳人候補者名簿を参考に選任)捜査機関による嘱託(刑訴法223条1項)
宣誓あり(178条・171条・166条)規定なし
事前の適性審査裁判官による面接、研修各捜査機関の内部運用
訳出内容の記録原則として公判調書・録音制度的な保存の仕組みなし
公的資格なし(名簿登載制度のみ)なし

なお、司法通訳人には日本において公的な資格制度が存在せず、裁判所も「最高裁判所が取りまとめている通訳人候補者名簿を参考にするなどして選任」し、裁判官の面接と研修によって適性を担保しているにとどまります(裁判所ウェブサイト「通訳人」)。公判段階ですら資格制度がないのですから、捜査段階に至っては制度の外側にあると言うほかありません。

2-2 通訳人が捜査官である、という構造的利益相反

警察の通訳体制は、外国語ができる警察官等が従事するほか、民間通訳人の協力を得るという二本立てで組まれています(例えば愛知県警察の案内)。すなわち、取調べの通訳人が、当の捜査機関の職員であることが制度上想定されているのです。

この点は古くから争われてきました。大阪高判昭和58年10月25日(判例集未登載)は、通訳人が警察官であり自ら取調べに当たっているから通訳の公正さが保たれないという弁護人の主張に対し、警察官である通訳人が取調べの際に犯行事実に関し取調官から相談された内容について被告人に質問したことは通訳の公正の観点から好ましいこととはいえず、供述調書の証拠能力を判断するにあたって考慮すべき事情の一つと考えられるとしつつ、右の一事のみをもって直ちに証拠能力を否定するのは相当でない、と判示しました。

また大阪高判平成3年7月30日(公刊物未登載)は、捜査官が被疑者の通訳を兼ねることについて、捜査官が被疑者の使用言語で取り調べる一面を有し取調べの充実や捜査の効率化などの観点からむしろ有用であるともみられ直ちに不当・違法ということはできないとしつつ、その反面、通訳の公正さを害するとの批判を免れることができないと述べています。

裁判所自身が「好ましくない」「公正さを害するとの批判を免れない」と認めながら、証拠能力は否定されない。この構造が意味するのは明確です。捜査官通訳の問題は、事後に証拠法で救済されることを期待できず、捜査の現場で潰しておくほかないということです。

2-3 捜査段階と公判段階の通訳人が同一人物であること

大阪高判平成3年11月19日(判時1436号143頁)は、原審が選任した通訳人が捜査段階から一貫して通訳している者と同一人物であり、事件について予断を有していて通訳人の正確性・公平性に疑問があるという控訴理由に対し、弁護人がその選任時・審理時に異議を申し立てていないことなどを指摘して、記録からは通訳人の客観性・正確性に疑いはないと判断しました。

実務家にとっての教訓は明白です。通訳人の同一性・中立性の問題は、気づいた時点で直ちに異議として顕在化させなければ、控訴審では「異議がなかった」の一言で処理されるということです。

2-4 検証可能性がないこと、そして録音・録画の対象外であること

東京高判平成3年5月23日(外国人犯罪裁判例集12頁)の事案では、捜査段階と原審公判での通訳が正確になされたか否かを検証する方法がないことが控訴理由として主張されました。前掲水野論文も、重要な証言や被告人質問を通訳した内容が録音化されていないため事後検証ができないという問題を指摘しています。

ここで刑訴法301条の2の限界が効いてきます。取調べの録音・録画が義務づけられるのは、①死刑または無期拘禁刑に当たる罪に係る事件、②短期1年以上の拘禁刑に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件(=裁判員裁判対象事件)、③司法警察員が送致・送付した事件以外の事件(=検察官独自捜査事件)に限られます。外国人事件の多くを占める入管法違反、窃盗、傷害、薬物の所持・使用、詐欺の一部などは、義務的録音・録画の対象外です。

検察は法定対象事件のほかにも録音・録画の試行を重ねてきましたが、その類型として公表されてきたのは、知的障がいによりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等の事件、精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者等の事件などであり(最高検察庁「検察における被疑者取調べの録音・録画についての試行状況」)、「通訳を介する取調べ」は独立の試行類型として掲げられていません。通訳という、最も客観記録を必要とする場面が、制度の網から落ちているのです。

2-5 等価性の欠落が調書の信用性を左右した例

もっとも、争えば結果につながる場合もあります。大阪高判平成元年11月10日(判タ729号249頁)は、売春防止法違反被告事件において、国外強制退去となったタイ人女性の検察官面前調書につき、捜査段階の通訳が本件の重要な争点である「性交」と「性交以外の方法によるサービス」とを区別して通訳していなかったこと、他の通訳は本件捜査に従事していた警察官であったこと、タイ語ではなく英語で通訳されていたことなどが争われた事案について、通訳人がタイ語ができなかったため英語で通訳しているところ、調書には英語で通訳した旨の記載がないばかりか、そのタイ人女性がどの程度英語を話せるかの記載もない等の理由で、結局、前示供述調書の信用性に疑問があると判示しました。

注目すべきは、裁判所を動かしたのが「訳語の当否」そのものではなく、「調書に通訳言語の記載がない」「被供述者の当該言語の能力が記録されていない」という記録の欠落だった点です。等価性は、抽象的な言語論としてではなく、記録上の具体的な穴として主張したときに、はじめて裁判所に届きます。

なお、外国人事件では、被害者・共犯者が退去強制により出国してしまい、その検察官面前調書だけが法廷に残るという事態が常態的に生じます。最判平成7年6月20日(刑集49巻6号741頁)は、検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備または公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん、裁判官または裁判所が証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など、当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得る、と判示しています。通訳の等価性が疑わしい調書が、反対尋問の機会なしに証拠となる——外国人事件の構造的危険はここで頂点に達します。

3 弁護人依頼権と、「自分の通訳」を持つ必要性

3-1 援助を受ける権利の実質的保障

憲法34条前段は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と定め、37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と定めます。最大判平成11年3月24日(民集53巻3号514頁)は、憲法34条について、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障する趣旨であるとし、捜査機関は弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない、と判示しました。

ここから直ちに導かれるはずのことがあります。日本語を解しない被疑者にとって、通訳を伴わない接見は「援助を受ける機会」ではないということです。弁護人が助言できず、被疑者が事情を説明できない接見は、憲法34条が保障した実質を欠きます。したがって、弁護人が自ら選んだ通訳人を伴って接見することは、恩恵でも便宜でもなく、弁護人依頼権の実質的保障そのものです。

国際人権規約(自由権規約)14条3項も、(a)でその理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること、(f)で裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には無料で通訳の援助を受けることを保障しています。

3-2 弁護人側通訳を確保する意味

刑訴法39条1項は、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と立会人なくして接見することを保障しています。弁護人が同行する通訳人は、弁護人の職務を補助する者であって、同項にいう「立会人」には当たらないと解され、実務上も弁護人が通訳人を伴って接見することは広く行われています(施設によって事前の届出を求められることがあります)。

弁護人側通訳を確保することの実務的意味は、次の四点に集約されます。

  1. 秘密交通権の下で、防御方針を母語で正確に伝えられる。捜査機関側の通訳人は、取調べの場では捜査機関のために稼働している者です。防御の中身をその者に触れさせない体制が不可欠です。
  2. 取調べで何が訳されたかを、その日のうちに再現できる。後述する準立会いの中核です。
  3. 捜査機関側通訳の訳語と、弁護人側通訳の訳語とを対照できる。等価性の争点化には、比較の対象が必要です。
  4. 公判で、弁護人側通訳が法廷通訳を検証できる。愛知県弁護士会の会報に紹介された事例では、外国人留学生の事件で被告人の弁解が正しく伝わっていなかったことから、弁護人が依頼した通訳人に被告人質問を傍聴してもらい、訳の違いについて意見書を提出するという対応が採られ、無罪判決に至っています。

なお、国選事件では通訳人の費用の手当てが問題になりますので、受任直後に費用の裏づけを検討しておく必要があります。

4 取調べへの弁護人立会いの議論

4-1 現状──明文がなく、捜査機関はほぼ認めない

日本の刑訴法には、取調べへの弁護人立会いに関する明文規定がありません。日弁連は、被疑者・被告人が取調べにおいて圧倒的弱者であり弁護人の援助が不可欠であるとして、多くの国で立会権が認められているにもかかわらず日本では捜査機関がこれを認めることがほとんどない現状を批判し、法制化を求めています。

経過を整理すると次のとおりです。

  • 2018年4月13日 日弁連「弁護人を取調べに立ち会わせる権利の明定を求める意見書」を法務大臣に提出
  • 2019年10月4日 第62回人権擁護大会で「弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言——取調べへの立会いが刑事司法を変える」を採択
  • 2024年6月14日 全事件・全過程の録音・録画と弁護人立会い権の確立を求める決議
  • 2025年7月24日 「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」が取りまとめ。政府に対し、録音・録画の対象範囲拡大を含む制度改正等につき新たな検討の場を設けて具体的に検討することを期待するとしたものの、弁護人立会い権には触れられませんでした

2019年宣言は、立会権の憲法上の根拠として34条・37条3項(弁護人の援助を受ける権利)および38条1項(黙秘権)を挙げ、自由権規約委員会が2008年・2014年に、拷問禁止委員会が2013年にそれぞれ日本政府に対し懸念・勧告を示していることを指摘しています。大阪弁護士会は、これに31条(適正手続)、37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)、38条2項(自白法則)を加えて整理しています。

比較法的にも、米国は1966年のミランダ判決以来立会権が認められ、EU諸国では英国・ベルギー・オランダ・フランス・ドイツなど多数の国で確立し、韓国は2003年の大法院判示を経て2007年改正で意見陳述権・異議申立権を明記、台湾は1982年改正で明文化しています。立会いを認めない日本は、比較法的にはむしろ例外です。

4-2 「準立会い」という発想

立法を待つ間、被疑者を保護できないという結論は取れません。そこで実務上採られてきたのが、立会いに準ずる態勢——本稿でいう「準立会い」です。大阪弁護士会も、捜査機関が立会いを拒否することがほとんどである現状を前提に、弁護人が警察署や検察庁に同行し、取調室に近い場所で待機することで、すぐに弁護人に相談できるようにするという方法を紹介しています。

「準立会い」は法令用語ではなく、確立した実務慣行でもありません。しかし、①立会いを正式に請求し、②拒否されたことを記録に残し、③その上で代替措置を積み上げる、という一連の作業は、立会権が法制化されるまでの間、弁護人ができる最大限の防御です。そして外国人事件においては、この準立会いに「等価性の検証装置」を組み込むことができます。ここが本稿の中心です。

5 等価性の観点から準立会いを設計する

準立会いを「近くで待っている」だけの態勢に終わらせてはいけません。目的を「通訳を介した取調べの等価性を、その場で記録に残すこと」に設定すると、やるべきことが具体化します。

5-1 取調べ開始前──用語の等価性をあらかじめ確定しておく

受任直後の接見で、弁護人側通訳を伴い、その事件の争点となる法概念について対訳リストを作成します。「共謀」「故意」「未必の故意」「知っていた/知り得た」「頼まれた/指示された」「渡した/預けた/運んだ」「正当な理由」など、有罪・無罪や共犯関係の認定を分ける語について、被疑者本人が理解できる母語表現を確定し、被疑者にもその区別を理解してもらいます。

これは単なる準備ではありません。後に「捜査機関側通訳がこの語をどう訳したか」を検証するための基準線になります。基準線がなければ、誤訳の主張は水掛け論に終わります。

あわせて、供述しない意思を表明する定型文(日本語と母語の併記)を用意し、被疑者に持たせます。日本語を解しない被疑者にとって、黙秘権は「告げられる権利」であると同時に「行使できる形で手渡されるべき権利」です。

5-2 立会いの請求と、拒否された場合の代替措置の申入れ

取調べに先立ち、書面で申入れを行います。実効性の観点から、立会請求だけを書くのではなく、拒否された場合に求める代替措置を同じ書面に並べておくのが有効です。

求める事項目的
弁護人の立会い本来的な請求。拒否の事実と理由を記録に残す
取調べの全過程の録音・録画301条の2の対象外事件でも、通訳を介する取調べは事後検証が不可能であることを理由に求める
通訳人の氏名・通訳言語・通訳経験の開示捜査官通訳か否か、母語通訳か否かを特定する
取調べの都度、通訳人名と開始・終了時刻を明らかにすること通訳人の交代・同一性を追跡する
調書に通訳言語および訳文添付の有無を明記すること大阪高判平成元年11月10日が信用性を疑わせる事情として挙げた記録の欠落を封じる
被疑者が弁護人との接見を求めたときは直ちに取調べを中断すること準立会いの実効性の前提

5-3 同行待機と、取調べ直後の接見

弁護人は、可能な限り取調べの時間帯に警察署・検察庁に同行し、待機します。被疑者には、疑問が生じたら取調べを中断して弁護人との接見を申し出るよう、あらかじめ具体的な言い方(母語と日本語)を伝えておきます。

そして、その日の取調べが終わった直後に、弁護人側通訳を伴って接見します。ここで行うのは、次の再現作業です。

  1. 取調官の質問と自分の答えを、覚えている限り母語で再現してもらう
  2. その中で、意味が分からなかった語、答えにくかった質問、訂正を求めたのに直されなかった点を特定する
  3. 調書の読み聞かせがあったか、どの言語で行われたか、訳文が添付されたかを確認する
  4. 通訳人の氏名・性別・話していた言語・警察官らしい様子だったかを記録する
  5. 日付、時刻、立会人の有無とともに、弁護人のメモに残す

この作業を毎回積み上げれば、公判では「弁護人が当日作成した再現記録」と「捜査機関の調書」との対照という形で、等価性の欠落を具体的に提示できます。抽象論ではなく、日付と時刻の付いた事実として主張できるかどうかが、勝敗を分けます。あわせて、被疑者ノートを母語で記載してもらうことも有効です。

5-4 調書作成の場面での作法

刑訴法198条4項は、調書を被疑者に閲覧させ、または読み聞かせて誤りがないかを問い、被疑者が増減変更の申立てをしたときはその供述を調書に記載しなければならないと定めます。同条5項は、被疑者が調書に誤りのないことを申し立てたときに署名押印を求めることができるとし、但書で拒絶した場合はこの限りでないと明記しています。

したがって、外国人事件では次の指導を徹底します。

  • 読み聞かせが母語で行われない限り、内容を確認できたことにはならない。確認できていない旨を述べる
  • 訳文が添付されていない調書について、内容を理解したという前提での署名押印はしない
  • 増減変更の申立ては具体的に行い、その内容が調書に記載されたかを、その場で母語で確認する
  • 訂正が反映されないときは、署名押印を拒絶する(198条5項但書)

署名押印の拒絶は、調書の証拠能力(322条1項は「被告人の署名若しくは押印のあるもの」を要件とします)に直結する、最も強力かつ確実な防御手段です。等価性が確保されない場に置かれた被疑者にとって、署名しないという選択は消極的な態度ではなく、積極的な権利行使です。

5-5 公判段階での顕在化

公判では、次を早期に行います。

  • 捜査段階の通訳人が公判の通訳人と同一である場合、選任の段階で異議を述べる(大阪高判平成3年11月19日は、異議を申し立てていないことを結論の理由の一つとしました)
  • 弁護人側通訳に公判を傍聴させ、法廷通訳の訳出について意見書を提出する(前掲・愛知県弁護士会の事例)
  • 捜査段階の通訳人を証人として尋問し、通訳言語、経歴、捜査への関与の有無、訳出の方法(逐語か要約か)、争点となる語をどう訳したかを明らかにする
  • 取調べの録音・録画が存在する事件では、その取調べ請求により、通訳部分を具体的に検証する

6 まとめ

外国人事件において、通訳は「手続の付随物」ではありません。通訳は、事実認定の入口そのものです。捜査段階の通訳人には宣誓も資格制度も忌避の手続もなく、捜査官が通訳を兼ねることすら制度上想定されており、その訳出は原則として記録されません。裁判所も「公正さを害するとの批判を免れない」と述べながら証拠能力までは否定しない、というのが現在の到達点です。

この構造の中で依頼者の権利を守るには、事後に証拠法で争う姿勢では足りません。弁護人が自ら通訳人を確保し、立会いを正式に請求し、拒否の事実を記録に残したうえで、同行待機・直後接見・再現記録・対訳リスト・署名押印の適切な拒絶という「準立会い」の態勢を組む。そして、その一つひとつを等価性を検証するための記録として設計する。それが、立会権が明文化されるまでの間、弁護人が採り得る最も実効的な防御です。

当事務所は、中国語圏の依頼者の刑事弁護を中心に、外国人事件の弁護を数多く手がけてきました。取調べが始まってからでは間に合わない作業が多くあります。逮捕・勾留の連絡を受けたら、できるだけ早くご相談ください。

7 よくあるご質問

Q1 警察の通訳を断って、自分で通訳を連れて行くことはできますか

取調べに弁護人側の通訳人を同席させることを捜査機関が認めた例は、ほとんどありません。ただ、認められないこと自体を記録に残し、取調べの直後に弁護人側の通訳人を介して内容を再現しておくことはできます。捜査機関の通訳を「断る」のではなく、弁護人側の通訳を「別に持つ」というのが現実的な形です。

Q2 調書に署名しないと、不利になりませんか

刑訴法198条5項但書は、署名押印の拒絶を明文で認めています。母語での読み聞かせがなく内容を確認できない調書に署名しないことは、正当な権利行使であり、それ自体が不利益に扱われることはありません。署名した調書が公判で証拠となる(322条1項)ことの方が、はるかに重い結果を招きます。

Q3 通訳の間違いは、後から裁判で争えますか

争えますが、容易ではありません。捜査段階の通訳は原則として録音されず、通訳人の訳出そのものを検証する材料が残っていないためです。だからこそ、取調べの直後に弁護人側で再現記録を作り、争点となる用語の対訳を事前に確定しておくという「準立会い」の準備が意味を持ちます。

Q4 家族が中国語しか話せません。どこに連絡すればよいですか

当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、ご家族からの中国語でのご連絡にも対応しています。微信ID(matsumura1119)からご連絡いただけます。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。

過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年9月時点の情報です。

8 参考文献・出典

  • 日本弁護士連合会「弁護人の取調べへの立会い」/「弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言——取調べへの立会いが刑事司法を変える」(2019年10月4日)/「『改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会』の取りまとめを受け……法改正を速やかに進めることを求める会長声明」(2025年7月24日)
  • 大阪弁護士会「立会いなくして取調べなし〜取調べへの弁護人立会い実現を〜」
  • 毛利雅子「司法通訳における言語等価性維持の可能性——起訴状英語訳の試み——」日本大学大学院総合社会情報研究科紀要7号391頁(2006年)
  • 水野かほる「外国人事件における司法通訳の正確性——要通訳事件の事例からの考察——」言語政策4号(2008年)
  • 田中惠葉「外国人事件と刑事司法——通訳を受ける権利と司法通訳人に関する一考察」北大法学研究科ジュニア・リサーチ・ジャーナル12号1頁(2006年)
  • 裁判所ウェブサイト「通訳人」
  • 最高検察庁「検察における被疑者取調べの録音・録画についての試行状況」
  • 愛知県弁護士会「刑事弁護人日記(83)外国人留学生に対する無罪判決」

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


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