偽装結婚で逮捕されたら|公正証書原本不実記載罪の刑罰と在留資格取消し・強制送還への影響
2026/09/10
偽装結婚をしたとして逮捕されると、多くの場合、婚姻届によって戸籍に事実と異なる記録をさせたとして公正証書原本不実記載等の罪(刑法157条1項)に問われ、法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。そして、偽装結婚で得た「日本人の配偶者等」の在留資格は、刑事裁判の結果を待たずに取消しの対象となりえます。
つまり「刑事で有罪になるか」と「在留資格が維持されるか」は別々の手続で判断されます。本記事では在留資格ごとの帰結、日本人の配偶者や仲介者の責任、2027年4月以降の永住者の扱い、婚姻の実体の示し方を順に説明します。
本記事の要点
- 偽装結婚は刑法第2編第17章(文書偽造の罪)の公正証書原本不実記載等・同行使に当たり、入管法24条4号の2の列挙罪です。
- 不正な手段で得た在留資格は、有罪判決がなくても22条の4第1項により取り消されえ、1号・2号による取消しは退去強制事由(24条2号の2)になります。
- 別表第一の方は執行猶予付きでも拘禁刑なら4号の2に当たり、別表第二の方は1年を超える実刑(4号リ)が問題になります。
- 2027年4月1日からは、永住者も第17章の罪で拘禁刑に処せられると在留資格取消しの対象になります。
- 防御の中心は、届出時の婚姻の意思と、交際・同居・生計の実態を資料で示すことです。
偽装結婚ではどのような罪が成立し、刑罰はどのくらいですか
中心となるのは、公正証書原本不実記載等の罪(刑法157条1項)で、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。現在の戸籍は電磁的記録で管理されているため、条文上は「公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた」ことが問われます。
その記録を役所の事務に用いさせた点は同行使・供用の罪(158条1項)となり、刑は157条と同じです。未遂も処罰されます(157条3項)。婚姻は「当事者間に婚姻をする意思がないとき」は無効とされており(民法742条1号)、夫婦として暮らす意思のない届出は「不実」の記録と評価されます。
さらに、偽装の婚姻をもとに在留資格の変更や更新の許可を受けると、入管法70条1項2号の2(偽りその他不正の手段による許可の取得)にも当たりえます。こちらは3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科です。
逮捕されたら、起訴・不起訴が決まるまでどう進みますか
逮捕から最長23日の間に、検察官が起訴するかどうかを決めます。逮捕から72時間以内に勾留が請求され、勾留は10日、延長されると最長でさらに10日続きます。起訴前には保釈の制度がありません。
偽装結婚の事件では、日本人の配偶者や仲介者も同時に捜査されることがあり、、口裏合わせを防ぐ目的で接見等禁止(刑訴法81条)が付されることがあります。その場合でも弁護人は立会人なく面会できます(39条1項)。取調べでは黙秘権があります。夫婦の出会いや生活について記憶があいまいなまま供述すると、配偶者の供述との細かな食い違いが「偽装」の根拠として扱われかねません。
偽装結婚で得た「日本人の配偶者等」は取り消されますか
取り消される可能性があり、しかも取消しには刑事の有罪判決を必要としません。入管法22条の4第1項は、偽りその他不正の手段により上陸許可や在留資格変更などの許可を受けたこと(1号・2号)、不実の記載のある文書を提出して許可を受けたこと(3号)が「判明したとき」に取り消せると定めています。
1号又は2号で取り消されると、その時点で退去強制事由(24条2号の2)に当たり、そのまま日本にとどまることは処罰の対象にもなります(70条1項3号)。3号による取消しの場合は、30日を超えない範囲で出国のための期間が指定されるのが原則で(22条の4第7項)、その期間を過ぎると退去強制事由(24条2号の4)となります。
取消しの前には入国審査官による意見聴取があり、ご本人や代理人が出頭して意見を述べ、証拠を出すことができます(同条2項・4項)。退去強制手続に進んだ後も、在留特別許可(50条)を求める道は残ります。手続の全体像は在留資格取消しとはをご覧ください。
刑事の判決は退去強制事由に当たりますか。在留資格によって違いますか
違いがあります。公正証書原本不実記載等は刑法第17章の罪なので、別表第一の在留資格の方が拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いても24条4号の2に当たります。別表第二の方には4号の2が適用されず、刑罰を理由とする退去強制は、原則として1年を超える実刑(4号リ)の場合に限られます。
別表第一の方が当事者になるのは、たとえば留学生が婚姻届を出したものの在留資格の変更が許可される前に摘発された場合や、就労資格の方が仲介役を務めた場合です。
| 刑事手続の結果 | 別表第一(留学・技術・人文知識・国際業務など) | 別表第二(日本人の配偶者等・定住者など) | 永住者 |
|---|---|---|---|
| 不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分) | 刑罰を要件とする号には当たらない | 同左 | 同左 |
| 罰金 | 4号の2に当たらない | 当たらない | 当たらない |
| 拘禁刑・執行猶予付き | 4号の2に当たる | 当たらない | 当たらない(2027年4月以降は取消し事由) |
| 拘禁刑の実刑(1年以下) | 4号の2に当たる | 当たらない | 当たらない(2027年4月以降は取消し事由) |
| 拘禁刑の実刑(1年超) | 4号の2・4号リに当たる | 4号リに当たる | 4号リに当たる |
偽装結婚で得た在留資格そのものの取消し(22条の4)は、表のどの行に当たる場合でも別に問題となります。
日本人の配偶者や仲介者はどのような責任を負いますか
日本人の配偶者も、婚姻届を一緒に出した以上、公正証書原本不実記載等・同行使の共同正犯として同じ法定刑で処罰されうる立場にあります。報酬を受け取っていた場合は、営利の目的で他人の不正な許可取得を容易にしたとして、入管法74条の6(3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科)が問題になることもあります。
外国籍の仲介者には、在留上の帰結が加わります。他の外国人が偽りその他不正の手段で許可を受けることをあおり、唆し、又は助けた者は、刑罰の有無を問わず退去強制事由に当たり(24条4号ル)、74条の6の罪で刑に処せられた場合は罰金でも4号ホに当たります。
永住者が関わった場合、2027年4月以降はどう変わりますか
2027年(令和9年)4月1日に施行される改正入管法により、永住者が刑法第17章の罪などで拘禁刑に処せられたことは、在留資格取消しの事由になります(新22条の4第1項9号)。条文上、執行猶予付きの拘禁刑も含まれ、罰金は含まれません。
この場合、引き続き在留させることが適当でないと認められるときを除き、職権で永住者以外の在留資格への変更が許可されます(新22条の6)。施行前に確定した判決の扱いは法文上明らかでないため、今後の運用を確認する必要があります。なお、永住許可そのものが偽装の婚姻を前提に得られていた場合には、現行法でも22条の4第1項の不正取得による取消しが問題になりえます。
在留期間の更新や、出国・再入国にはどう影響しますか
更新(21条)や変更(20条)は「相当の理由」がある場合に許可され、素行が善良であることも考慮されるため、罰金や執行猶予で終わっても不利に働くことがあります。配偶者の在留資格では、更新のたびに婚姻の実体が確認されます。
出国にも注意が必要です。1年以上の拘禁刑に処せられたことは、執行猶予付きであっても上陸拒否事由(5条1項4号)に当たります。再入国許可があれば例外的に上陸が認められる場合もありますが(5条の2)、みなし再入国許可で出国して戻れなくなるおそれもあるため、判決後の出国は事前に弁護士へ相談してください。
「偽装ではない」ことは、どう示せばよいですか
届出の時点で夫婦として暮らす意思があったこと、そして実際に共同生活があることを、客観的な資料で積み上げることが基本です。判例も、法律上の婚姻関係が続いていても、その婚姻関係が実体を失い、社会生活上の実質的基礎を欠く場合には「日本人の配偶者」としての活動に当たらないとしています(最高裁平成14年10月17日判決・民集56巻8号1823頁)。
- 交際の経過:出会いの場所と時期、微信やLINEのやり取り、写真、互いの家族との交流
- 同居の実態:賃貸借契約、住民票、光熱費や通信費の請求書、生活用品の購入記録
- 生計の一体性:家計の分担、送金の記録、健康保険の扶養関係
- 意思疎通の手段:共通の言語、翻訳アプリの利用状況など
紹介料などの金銭の授受があれば、その趣旨を具体的に説明できるよう整理します。実体のある婚姻が疑われている事件では、これらの資料を検察官に示し、嫌疑不十分による不起訴を求めます。
当事務所は、偽装結婚を疑われた事件にどう対応しますか
当事務所は、起訴前の段階で不起訴処分を得ることを第一の目標にしています。偽装結婚の事件では刑事の結論と在留資格の取消しが並行して進むため、刑事弁護で集めた証拠を入管への意見書や意見聴取にもそのまま生かせるよう、両方を一つの事件として組み立てます。
松村大介弁護士が最初の接見から在留手続まで自ら担当し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行します。捜査機関の通訳とは別に、ご本人のために動く通訳です。中国本土のご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りしています。外国人の刑事手続と在留の関係は外国人の刑事事件と在留で、退去強制手続に進んだ場合については退去強制・在留特別許可で詳しく説明しています。
よくある質問
不起訴になれば、偽装結婚を疑われた在留資格は守れますか。
不起訴は刑事手続の結論で、在留資格の取消し手続(入管法22条の4)は別に進みます。取消しに有罪判決は要らないため、意見聴取の場で婚姻の実体を示す必要があります。捜査段階で集めた交際や同居の資料は、そのまま役に立ちます。
紹介業者を通じて知り合い、紹介料も払いました。それだけで偽装結婚になりますか。
紹介を受けたことや紹介料を払ったことだけで、偽装結婚になるわけではありません。問われるのは、届出の時点で夫婦として共同生活を送る意思があったか、実際にその生活があるかです。
離婚すると、偽装結婚だったと疑われるのでしょうか。
離婚それ自体は犯罪ではなく、離婚だけで偽装結婚と扱われることはありません。ただし、配偶者としての活動を正当な理由なく6か月以上行わないと、22条の4第1項7号の取消しの対象になりえます。定住者など他の在留資格への変更を早めに検討してください。
偽装結婚の罪で執行猶予付きの判決を受けました。中国へ一時帰国しても大丈夫ですか。
1年以上の拘禁刑の判決であれば、執行猶予付きでも上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たり、再入国の際に問題になるおそれがあります。出国の前に必ず弁護士に相談してください。
中国にいる家族は、どうやって状況を知ることができますか。
接見等禁止が付くとご家族は面会できませんが、弁護人は立会人なく接見できます。当事務所では、微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本土のご家族に中国語で直接状況をお伝えしています。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119