在留申請の書類偽造で逮捕されたら|私文書偽造罪の刑罰と在留資格取消し・強制送還への影響
2026/09/10
在留資格の申請に偽造した卒業証明書や在職証明書を使うと、有印私文書偽造・同行使の罪(刑法159条1項・161条1項)に問われ、法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑です。この罪には罰金刑がないため、別表第一の在留資格の方が有罪となれば、執行猶予が付いても入管法24条4号の2の退去強制事由に当たります。
加えて、偽造書類で得た在留資格や永住許可は、刑事の結論とは別に取り消されることがあります。書類を用意した業者や知人の側にも、刑罰を要しない退去強制事由があります。以下、文書の種類による違いと、在留資格ごとの帰結を整理します。
本記事の要点
- 中国の大学や会社の証明書を偽造・使用した場合、日本の刑法では私文書偽造・同行使として扱われるのが一般的です。
- 有印私文書偽造には罰金がなく、起訴されれば略式の罰金で終わることはできません。
- 偽造書類で受けた許可は22条の4第1項1号〜3号で取り消されえ、刑事の有罪は要件ではありません。
- 他人の申請のために偽造文書を作成・提供した外国人は、刑罰がなくても退去強制事由(24条3号)に当たります。
在留申請の書類を偽造・使用すると、どの罪になりますか
他人の印章や署名が入った文書を無断で作れば有印私文書偽造(159条1項)、それを入管に提出すれば偽造私文書行使(161条1項)となり、いずれも3月以上5年以下の拘禁刑です。卒業証明書、在職証明書、給与明細、日本語能力試験の認定書などが典型です。
中国の大学や公的機関が発行する証明書であっても、日本の刑法上の「公務所・公務員」は日本の国や地方公共団体の職員などを指すため(刑法7条)、その偽造は私文書偽造として扱うのが一般的な理解です。一方、日本の市区町村が発行する住民税の課税証明書や納税証明書を偽造すれば公文書偽造(155条1項)となり、1年以上10年以下の拘禁刑と、さらに重くなります。
書類を中国で作らせた場合でも、日本で入管に提出した時点で行使罪が成立します。偽りの申請で実際に許可を受けた場合は、入管法70条1項2号の2(3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科)も問題になります。
罰金がないことは、在留にどう影響しますか
有罪になれば必ず拘禁刑が言い渡されるという点が、在留との関係では最も重い意味を持ちます。文書偽造の罪は刑法第17章の罪で、4号の2の列挙罪に含まれるからです。文書の種類ごとの違いは次のとおりです。
| 文書の種類 | 罪名と法定刑 | 罰金の有無 | 別表第一の方への影響 |
|---|---|---|---|
| 他人の印章・署名のある私文書(大学の卒業証明書、会社の在職証明書など。外国の機関の文書を含む) | 有印私文書偽造・同行使(159条1項・161条1項)=3月以上5年以下の拘禁刑 | なし | 有罪なら執行猶予付きでも4号の2 |
| 印章・署名のない私文書 | 無印私文書偽造・同行使(159条3項・161条1項)=1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 | あり | 罰金なら4号の2に当たらない |
| 日本の役所の印章のある公文書(課税証明書、納税証明書など) | 有印公文書偽造・同行使(155条1項・158条1項)=1年以上10年以下の拘禁刑 | なし | 有罪なら4号の2。刑の減軽がない限り1年以上の刑となり、上陸拒否事由(5条1項4号)にも当たる |
なお、会社が自社の名義で内容の虚偽の在職証明書を作った場合、私文書の内容の虚偽は医師の虚偽診断書(160条)などを除いて処罰されないのが原則で、私文書偽造には当たりません。もっとも、その文書で許可を受ければ、取消しの問題は残ります。
逮捕されると、どのような流れで処分が決まりますか
逮捕から72時間以内に勾留が請求されるかが決まり、勾留されると原則10日、延長を含め最長で逮捕から23日の間に起訴か不起訴かが決まります。起訴前の保釈はありません。
書類偽造の事件は、ブローカーや他の申請者への捜査と一体で進むことがあり、押収された通信記録をもとに「偽物と知っていたか」を詳しく聴かれます。弁護人とは立会人なしで接見でき(刑訴法39条1項)、黙秘権もあります。どこまで知っていたかという点は結論を左右しますので、供述の前に弁護人と話してください。
偽造書類で得た在留資格や永住許可は取り消されますか
取り消される可能性があります。入管法22条の4第1項は、偽りその他不正の手段による許可の取得(1号・2号)と、不実の記載のある文書の提出による許可の取得(3号)を取消し事由とし、在留資格認定証明書や査証の段階で使われた場合も含めています。
1号・2号で取り消されると退去強制事由(24条2号の2)になります。3号の取消しでは原則として30日以内の出国期間が指定され(22条の4第7項)、その期間を過ぎると退去強制事由(24条2号の4)となります。3号は、申請者が偽造を知っていたかどうかを条文上の要件としていない点に注意が必要です。
永住申請に偽造の納税証明書を出した場合も同様で、永住許可自体が取消しの対象になりえます。取消しの前には意見聴取があり、代理人とともに出頭して意見を述べ、証拠を提出できます(同条2項・4項)。
在留資格の種類によって、刑事判決の帰結はどう違いますか
刑罰を理由とする退去強制事由は、別表第一と別表第二で大きく異なります。別表第一の方は拘禁刑であれば執行猶予付きでも4号の2に当たりますが、別表第二と永住者の方は、原則として1年を超える実刑(4号リ)の場合に限られます。
| 在留資格 | 執行猶予付き拘禁刑 | 1年を超える実刑 | 申請書類の偽造を理由とする取消し |
|---|---|---|---|
| 別表第一(留学、技術・人文知識・国際業務、経営・管理、特定技能、家族滞在など) | 4号の2に当たる | 4号の2・4号リに当たる | 22条の4第1項1号〜3号 |
| 別表第二(日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者) | 当たらない | 4号リに当たる | 同上 |
| 永住者 | 現行法では当たらない。2027年4月1日以降は取消し事由(新22条の4第1項9号) | 4号リに当たる | 同上 |
永住者について2027年4月から加わる9号の取消しは、原則として職権で他の在留資格への変更が許可される仕組みです(新22条の6)。施行前に確定した判決の扱いは法文上明らかでなく、今後の運用を確認する必要があります。
書類を用意した業者・知人・勤務先には、どのような責任がありますか
他の外国人に許可を受けさせる目的で文書を偽造し、虚偽の文書を作成し、又は偽造文書を提供した外国人は、刑罰を受けていなくても退去強制事由に当たります(24条3号)。これを唆し、助けた者も同じです。
営利目的で他人の不正な許可取得を容易にした者には、入管法74条の6(3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科)が適用されえ、外国人がこの罪で刑に処せられると罰金でも退去強制事由(4号ホ)になります。永住者や日本人の配偶者等の方でも、3号やこれらの号に当たれば退去強制の対象となる点が、刑罰の種類で線を引く4号の2とは異なります。
在留期間の更新や、出国・再入国への影響はありますか
更新(21条)や変更(20条)では素行の善良さも考慮されるので、申請書類を偽ったことは、刑事処分の軽重にかかわらず次の審査で大きく不利に働くおそれがあります。
出国の場面では、1年以上の拘禁刑に処せられたことが執行猶予付きでも上陸拒否事由になります(5条1項4号)。公文書偽造は法定刑の下限が1年なので、酌量減軽などで刑が1年未満とされない限り、有罪となればこれに当たります。上陸拒否の期間については上陸拒否期間とはで解説しています。
不起訴を目指すために、何をすべきですか
被害者のいない罪なので、示談ではなく、事実と証拠で争うことが中心になります。第1に、偽造を知っていたかどうかです。業者に手続を一任し、費用も通常の報酬の範囲だったといった事情は、行使罪の故意を否定する材料になりえます。
第2に、証明された内容が真実かどうかです。実際に卒業し、実際に勤務していたのであれば、その裏付けを中国の大学や勤務先から取り寄せ、再発行の手続記録とともに検察官に示します。第3に、自ら申請を取り下げた、入管に事情を申告したといった経緯も、起訴猶予を求める事情として意見書にまとめます。不起訴の種類と効果は不起訴処分とはをご覧ください。
当事務所では、どのような体制で対応していますか
罰金のない罪であるだけに、当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先に据えます。そのうえで、入管から取消しの意見聴取の通知が届いた場合にも同じ弁護士が対応し、刑事と入管の主張が食い違わないようにします。
松村大介弁護士が接見の初動から在留の手続まで一貫して担当し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行します。中国の大学や勤務先への照会など、現地での資料集めが必要な事件では、微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本土のご家族と直接連絡を取り合いながら進めます。
よくある質問
業者に任せただけで、書類が偽物だとは知りませんでした。それでも罪になりますか。
偽造文書行使の罪は、その文書が偽物だと知りながら使ったことが必要なので、本当に知らなかったのであれば成立しません。ただし、入管は不実の記載のある文書の提出を理由に在留資格を取り消すことができ(22条の4第1項3号)、この号は申請者の認識を要件としていません。刑事と入管の両面で対応が必要です。
卒業は本物ですが、卒業証書をなくしたので作り直して出しました。偽造になりますか。
学歴そのものが真実でも、大学の名義と印章を使って証明書を無断で作れば、私文書偽造に当たりえます。ただ、証明される内容が真実であることは、起訴するかどうかの判断や量刑で重要な事情になります。正規の再発行の記録などを早めにそろえてください。
罰金で済ませることはできないのですか。
有印私文書偽造・同行使(159条1項・161条1項)は法定刑に罰金がないため、起訴されれば略式命令での罰金という終わり方はできません。在留を守るうえで、起訴前の不起訴処分の意味がとりわけ大きい罪です。
永住申請で出した納税証明書が偽造だと分かりました。永住許可はどうなりますか。
偽りその他不正の手段で永住許可を受けたと判断されると、22条の4第1項2号により取り消されうるうえ、取消しは退去強制事由(24条2号の2)になります。2027年に始まる永住者の職権変更(新22条の6)は、この不正取得による取消しには適用されません。
知人の在留申請のために在職証明書を作ってあげました。私の在留資格にも影響しますか。
他の外国人に許可を受けさせる目的で虚偽の文書を作成・提供した方は、刑罰を受けていなくても退去強制事由に当たります(24条3号)。永住者や日本人の配偶者等の方も含まれますので、事情を整理したうえで弁護士に相談してください。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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