職務質問で警察官ともみ合い、公務執行妨害で逮捕されたら|罪名・刑罰と在留資格への影響
2026/09/10
職務質問の最中に警察官ともみ合いになり、公務執行妨害罪(刑法95条)で処罰されても、この罪自体は入管法24条4号の2に列挙されていないため、それだけで退去強制事由に当たることはありません。在留資格が別表第一でも別表第二でも、永住者でも同じです。
注意すべきなのは、その場で在留カードの提示を拒んだ場合と、警察官にけがをさせて傷害罪になった場合です。前者は中長期在留者であれば在留資格を問わず退去強制事由につながりうる罪、後者は別表第一の方にとって4号の2の列挙罪です。同じ一場面でも、何罪で処罰されるかで在留の結論が変わります。
本記事の要点
- 公務執行妨害罪(3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)は刑法第5章の罪で、4号の2の対象外です。
- 警察官がけがをすれば傷害罪(刑法第27章)となり、別表第一の方は執行猶予付きの拘禁刑でも4号の2に当たります。
- 在留カードの提示拒否(入管法75条の2)で拘禁刑に処せられると、永住者を含む中長期在留者全員について24条4号の4の退去強制事由になります。
- 在留カードの不携帯(75条の3)は罰金のみの罪で、それ自体は退去強制事由ではありません。
- 職務質問への回答は任意ですが、在留カードの提示は法律上の義務です。この二つを区別することが大切です。
職務質問には応じなければならないのですか
職務質問そのものは任意の手続で、答えることを強制されるものではありません。一方、中長期在留者が警察官から在留カードの提示を求められたときは、これに応じる法律上の義務があります。
警察官職務執行法2条1項は、不審な挙動などから犯罪との関わりを疑うに足りる相当な理由がある人を停止させて質問できると定めていますが、同条3項は、刑事訴訟法の規定によらない限り、意に反して警察署へ連行されたり、答弁を強要されたりしないとしています。
これに対し、入管法23条2項は中長期在留者に在留カードの常時携帯を、同条3項は警察官などから求められた際の提示を義務づけています。質問に答えるかどうかは自由でも、在留カードの提示は拒めない、という点が日本人と大きく異なるところです。なお、16歳未満の方は携帯義務がありません(同条5項)。
もみ合いになると、どのような罪に問われますか
職務執行中の警察官に暴行や脅迫を加えると、公務執行妨害罪(刑法95条1項)が成立しえます。法定刑は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
ここでいう暴行は、警察官の身体に向けられた有形力を広く含むと解されており、腕を強く振り払った、胸を押したといった行為でも立件されることがあります。他方で、判例・学説上、この罪は職務の執行が適法であることを前提とすると解されていますので、職務質問や所持品検査の経緯によっては、その適法性自体が争点になります。
警察官にけがをさせれば、傷害罪(刑法204条、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)も成立します。在留カードの提示を拒んだ場合には、入管法75条の2第2号(1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金)の問題も加わります。
在留カードを持っていなかった、見せなかった場合はどうなりますか
持っていなかっただけなら罰金のみの罪で、見せるのを拒んだ場合は拘禁刑もありうる罪です。この違いは在留上の扱いに直結します。
| 行為 | 条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 在留カードの不携帯 | 入管法75条の3 | 20万円以下の罰金 |
| 在留カードの提示拒否 | 入管法75条の2第2号 | 1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金 |
| 旅券の不携帯・提示拒否(短期滞在など在留カードのない方) | 入管法76条 | 10万円以下の罰金 |
自宅に置き忘れた場合でも不携帯には当たりますが、罰金で終わるなら退去強制事由にはなりません。これに対し、提示を拒んだことで拘禁刑に処せられると、次に述べる24条4号の4の問題になります。
公務執行妨害や提示拒否で、退去強制事由に当たりますか
公務執行妨害罪だけなら、1年を超える実刑でない限り退去強制事由には当たりません。ただし、傷害罪になった場合と、在留カードの提示拒否で拘禁刑になった場合は結論が変わります。
| 処罰の内容 | 別表第一(技人国・留学・特定技能・家族滞在など) | 別表第二(日本人の配偶者等・定住者など) | 永住者 |
|---|---|---|---|
| 公務執行妨害で罰金・拘禁刑(執行猶予) | 該当しない(第5章は列挙外) | 該当しない | 該当しない |
| 公務執行妨害で1年を超える実刑 | 4号リに該当 | 4号リに該当 | 4号リに該当 |
| 傷害罪で拘禁刑(執行猶予を含む) | 4号の2に該当 | 該当しない(1年超の実刑なら4号リ) | 現行は該当しない。2027年4月以降は取消事由(新9号) |
| 在留カード提示拒否で拘禁刑(執行猶予を含む) | 4号の4に該当 | 4号の4に該当 | 4号の4に該当 |
| 在留カード不携帯・提示拒否で罰金 | 該当しない | 該当しない | 該当しない |
入管法24条4号の4は、中長期在留者が75条の2(在留カードの受領拒否・提示拒否等)又は71条の2(住居地の虚偽届出等)の罪で拘禁刑に処せられたことを退去強制事由としています。条文は別表第一に限っていないため、永住者や日本人の配偶者等も対象です。軽く見られがちな提示拒否が、在留資格を問わず影響しうる点に注意が必要です。
これらに当たる場合でも、退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求めることはできます。制度の概要は在留特別許可とはで解説しています。
逮捕された後の手続はどう進みますか
もみ合いの場で現行犯逮捕されると、最長23日の身柄拘束を経て起訴・不起訴が決まります。起訴前の保釈はありません。
逮捕から48時間以内に検察官へ送致され(刑事訴訟法203条)、24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留請求の有無が決まります(同法205条)。勾留は10日、延長で最長さらに10日です(同法208条)。弁護人は立会人なしで接見でき(同法39条1項)、取調べでは黙秘権が保障されています(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。
罰金相当と判断されれば、本人の同意のもとで略式命令(100万円以下の罰金)により終わることもあります。罰金でも前科にはなるため、更新への影響は残ります。
在留期間の更新や永住者の取消しには影響しますか
退去強制事由に当たらない罰金や執行猶予でも、在留期間の更新(入管法21条)・在留資格の変更(同法20条)では素行の善良さが審査され、不利に考慮されえます。更新が認められなければ、在留期間の満了により日本に住み続けることができなくなります。
永住者については、2027年4月1日施行の改正(令和6年法律第60号)で、傷害罪などの列挙罪による拘禁刑(新22条の4第1項9号)のほか、入管法上の義務を遵守しないこと(同項8号)も取消事由として条文に加わります。在留カードの携帯・提示義務がこの義務に含まれうる以上、施行後はより慎重な対応が求められます。どの程度の違反で取消しに至るかは、今後の運用を見る必要があります。取消しの場合も、在留が適当でないと認められる場合を除き、職権で他の在留資格への変更が許可されます(新22条の6)。
判決を受けた後、出国や再入国に影響はありますか
1年以上の拘禁刑の判決は、執行猶予付きでも上陸拒否事由(入管法5条1項4号)に当たります。公務執行妨害や傷害でこの刑期が言い渡された方は、出国前の確認が欠かせません。
再入国許可を得て出国した場合など、同法5条の2により上陸を拒否しない扱いがされることもありますが、みなし再入国許可で出国してから問題が顕在化する例も考えられます。帰国を予定している方は、判決の内容を踏まえて事前にご相談ください。
不起訴を目指すため、弁護人は何をしますか
公務執行妨害事件では、被害者が警察官であるため、一般の暴行事件のような示談は成立しにくい面があります。そのため、事実と証拠に基づく弁護が中心になります。
具体的には、職務質問に至った経緯と所持品検査の方法、有形力を加えたとされる場面の具体的な動き、警察官のけがの有無と程度を、周囲の防犯カメラ、同行者の供述、ご本人やその場にいた人が撮影したスマートフォンの動画などで確認します。日本語が十分に通じず、何を求められているのか分からないまま抵抗したように見えた、という事情が重要な意味を持つこともあります。
そのうえで、反省の状況、勤務先や家族による身元引受け、在留カードを今後は常に携帯する旨の誓約などを示し、起訴猶予(刑事訴訟法248条)を求める意見書を検察官に提出します。暴行事件全般については暴行・傷害事件のご相談もご覧ください。
舟渡国際法律事務所の対応について教えてください
当事務所では、どの罪名で処分されるかによって在留の結論が変わる点を重視し、傷害や提示拒否での起訴を避けること、ひいては不起訴処分を得ることを第一の目標に据えています。刑事手続と在留手続を切り離さずに見通しを立てます。
接見の初動から在留の手続まで、松村大介弁護士が自ら一貫して担当します。外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見に同行してご本人の言い分を丁寧に聞き取ります。捜査機関が手配する通訳とは立場が異なり、ご本人のために動く通訳です。中国本土のご家族からは、微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接ご相談いただけます。
よくある質問
職務質問を断ったら、それだけで逮捕されますか
職務質問は任意の手続で、答えないことだけを理由に逮捕されることは本来ありません。ただし中長期在留者は在留カードの提示義務があり、提示を拒むと入管法75条の2の罪に当たりえます。
在留カードを家に忘れただけでも、強制送還されますか
在留カードの不携帯(入管法75条の3)は20万円以下の罰金のみの罪で、それ自体は退去強制事由ではありません。ただし前科として更新審査で考慮される可能性はあります。
永住者でも在留カードの提示拒否で退去強制になるのですか
入管法24条4号の4は中長期在留者を対象とし、永住者も含まれます。提示拒否等の罪で拘禁刑(執行猶予付きを含む)に処せられると、永住者でも退去強制事由に当たります。罰金にとどまれば該当しません。
警察官の手を振り払っただけでも公務執行妨害になりますか
警察官の身体に向けられた有形力は暴行に当たりうるため、立件されることはあります。ただし職務の適法性や行為の具体的な態様によって結論は変わるため、映像や供述をもとに事実を確認することが大切です。
公務執行妨害で罰金になった場合、更新に影響しますか
公務執行妨害罪は4号の2に列挙されていないため、罰金で退去強制事由にはなりません。ただし在留期間の更新では素行が審査され、前科が不利に考慮される可能性はあります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
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