勤務先の金を着服して業務上横領で逮捕されたら|刑罰と在留資格(強制送還)への影響
2026/09/10
勤務先のお金を着服して業務上横領罪に問われても、別表第一の在留資格の方が、執行猶予付きの拘禁刑を受けただけで退去強制事由に当たることはありません。横領の罪を定める刑法第38章は、入管法24条4号の2の列挙から外れているからです。意外に思われるかもしれませんが、同じ財産犯でも窃盗や詐欺とはここが大きく異なります。
その一方で、業務上横領には罰金刑がなく、起訴されれば公判で拘禁刑の重さと執行猶予の有無が争われることになり、被害額が大きければ1年を超える実刑(4号リ)も現実味を帯びます。手口によっては詐欺罪とされる可能性もあり、解雇による在留資格の取消しも無視できません。職場の着服事件と在留の関係を、順を追って整理します。
本記事の要点
- 業務上横領は10年以下の拘禁刑、横領は5年以下の拘禁刑で、いずれも罰金刑はありません(刑法253条・252条)。
- 第38章(横領の罪)は4号の2の列挙外で、別表第一の方でも執行猶予付きの拘禁刑だけでは退去強制事由に当たりません。
- 架空請求や経費の水増しで会社をだました場合は詐欺罪(第37章)となりうり、こちらは列挙罪です。
- 解雇後に3か月以上本来の活動をしていないと、在留資格の取消し(22条の4第1項6号)が問題になります。
勤務先のお金を着服すると、どの罪になり、刑罰はどれくらいですか
集金した売上や預かっている会社の資金など、業務上自分が占有している他人の金銭を自分のものにすれば、業務上横領罪として10年以下の拘禁刑に処されます(刑法253条)。業務性がない単純な横領は5年以下の拘禁刑です(252条)。
どちらにも罰金刑がないため、略式命令による罰金で終わる道はありません。検察官が起訴すれば公判となり、有罪となれば、結論は拘禁刑の実刑か執行猶予かのどちらかになります。在留を守るうえで、起訴前の段階がとりわけ重要になる理由はここにあります。
手口によって、横領ではなく詐欺や窃盗になることはありますか
あります。そして、どの罪名になるかで在留上の帰結が変わります。自分が預かる金を使い込めば横領ですが、架空の請求書や水増しした経費精算で経理担当者をだまして支払わせれば詐欺(246条)、会社のシステムに虚偽の情報を入力して送金させれば電子計算機使用詐欺(246条の2)が問題となります。
また、レジや金庫の現金の管理権限が店長など上司にある職場では、従業員がそこから抜き取る行為は、横領ではなく窃盗(235条)とされることがあります。
| 典型的な手口 | 問題となる罪 | 刑法の章 | 4号の2(別表第一) | 新9号(永住者・2027年4月以降) |
|---|---|---|---|---|
| 集金した売上や預かった資金の使い込み | 業務上横領(253条) | 第38章 | 対象外 | 対象外 |
| 架空の請求書・経費の水増しで支払わせる | 詐欺(246条) | 第37章 | 対象 | 対象 |
| システムへの虚偽入力で送金させる | 電子計算機使用詐欺(246条の2) | 第37章 | 対象 | 対象 |
| 任務に背いて会社に損害を与える | 背任(247条) | 第37章 | 対象 | 対象 |
| 上司が管理するレジ・金庫から抜き取る | 窃盗(235条) | 第36章 | 対象 | 対象 |
背任罪も第37章に置かれているため、列挙罪に当たる点に注意が必要です。捜査の初期に罪名の見立てが固まってしまうこともあるため、事実関係を正確に伝えることが大切です。詐欺事件の一般的な流れは詐欺事件のご相談でご案内しています。
業務上横領で逮捕された後の流れと、起訴・不起訴の分かれ目は何ですか
会社が被害届や告訴を出して捜査が始まり、逮捕されると、48時間以内に送検、逮捕から72時間以内に勾留請求の判断があり、勾留は延長を含めて最長20日です(刑事訴訟法203条・205条・208条)。起訴前の保釈はありません。着服が長期間に及ぶ事件では、一部の期間ごとに逮捕・勾留が繰り返されることもあります。
起訴か不起訴かを分ける最大の事情は、被害弁償と会社との示談です。全額又は大部分を弁償し、会社から処罰を望まない旨(宥恕)の意思表示を得られれば、起訴猶予(248条)となる可能性が高まります。参考までに、令和6年の来日外国人被疑事件では起訴率が44.28%、起訴猶予率が48.35%でした(法務省「令和7年版犯罪白書」)。
業務上横領で拘禁刑になった場合、退去強制の対象になりますか
1年を超える実刑でなければ、在留資格の種類を問わず退去強制事由には当たりません。別表第一の方についても、第38章は4号の2の列挙外なので、執行猶予付きの判決で同号に当たることはありません。
| 処分・刑(業務上横領の場合) | 別表第一(技術・人文知識・国際業務、特定技能、経営・管理、留学など) | 別表第二(日本人の配偶者等、定住者など) | 永住者 |
|---|---|---|---|
| 不起訴(起訴猶予など) | 退去強制事由なし | 退去強制事由なし | 退去強制事由なし |
| 拘禁刑(全部執行猶予) | 4号の2に当たらない。更新で不利に考慮されうる | 退去強制事由なし。更新で不利に考慮されうる | 退去強制事由なし。新9号の取消事由にも当たらない |
| 拘禁刑1年以下の実刑 | 退去強制事由なし。更新は厳しくなりうる | 退去強制事由なし。更新は厳しくなりうる | 退去強制事由なし |
| 拘禁刑1年を超える実刑 | 4号リに該当 | 4号リに該当 | 4号リに該当 |
永住者の方については、2027年4月施行予定の取消制度(新22条の4第1項9号)も4号の2と同じ範囲の罪を対象としており、業務上横領は含まれていません。ただし、施行前に確定した判決の扱いは法文上明らかでなく、今後の運用を確認する必要があります。
解雇されたら、在留資格はどうなりますか
着服が発覚すると、懲戒解雇となることもあります。技術・人文知識・国際業務や特定技能などの方は、契約の終了から14日以内に出入国在留管理庁長官への届出が必要です(入管法19条の16)。
そのうえで、別表第一の在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないと、在留資格の取消し(22条の4第1項6号)の対象になりえます。再就職活動をしているなど正当な理由があれば取消しの対象外ですが、身柄拘束中や公判中は転職活動が難しいこともあります。取消しには意見聴取の手続があるので(同条2項)、事情を具体的に説明できるよう準備しておくことが大切です。制度の詳細は在留資格取消しとはで解説しています。
更新・転職・帰国の場面では、どのような影響がありますか
新しい勤務先で在留期間を更新する場合(入管法21条)や在留資格を変更する場合(20条)には、素行が考慮されます。執行猶予付きの判決は不利な事情となり、転職先での職務内容や生活の安定性とあわせて審査されます。
帰国の場面では、1年以上の拘禁刑に処せられたことがあると、執行猶予付きでも上陸拒否事由に当たる点が重要です(5条1項4号)。再入国許可による特例(5条の2)の余地はありますが、判決後の一時帰国は事前に弁護士へご相談ください。
不起訴を目指すために、どのような弁護活動をしますか
中心は、会社との示談交渉です。着服額を正確に確定させ、返済計画を示し、ご家族の援助も含めて弁償の原資を確保します。会社側が感情的になっていることもあるため、本人に代わって弁護人が交渉し、宥恕を含む示談書の取り交わしを目指します。
あわせて、会社が主張する被害額が実際より大きく計上されていないか、横領ではなく詐欺と評価される事実が含まれていないかを確認します。罪名が変われば4号の2の該当性が変わるため、供述の内容には細心の注意が必要です。示談の成立状況や反省、再発防止策をまとめ、検察官に意見書を提出します。
当事務所にご依頼いただいた場合の方針
当事務所は、業務上横領には罰金刑がなく、起訴されれば拘禁刑しか残らないことを重く見て、起訴前の不起訴処分の獲得を最優先にしています。示談の進め方ひとつが在留の見通しに響くため、刑事弁護と、取消しや更新といった入管手続をまとめて設計します。
松村大介弁護士が最初の接見から在留手続まで自ら担当し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行して、ご本人の話を丁寧に聞き取ります。中国本土にいらっしゃるご家族とは、微信(WeChat ID:matsumura1119)で弁償の準備や手続の進み具合を直接やり取りできます。
よくある質問
別表第一の在留資格で業務上横領の執行猶予付き判決を受けました。すぐに退去強制の対象になりますか。
業務上横領は刑法第38章の罪で、入管法24条4号の2の列挙に含まれていないため、執行猶予付きの拘禁刑でも同号には当たりません。全部執行猶予であれば4号リにも当たりません。ただし、刑期が1年以上なら再入国の際に上陸拒否事由(5条1項4号)が問題となり、更新でも素行の点で不利に考慮されえます。
会社に全額を返済すれば、刑事事件にはならないのでしょうか。
返済や示談によって会社が被害届や告訴を出さない、あるいは取り下げることはありますが、それだけで刑事手続が当然に終わるわけではありません。ただ、被害弁償と会社の宥恕は、検察官が起訴猶予とするかを判断する際の大きな事情になります(刑事訴訟法248条)。すでに捜査が始まっている場合は、弁護人を通じて交渉されることをおすすめします。
経費精算で架空の領収書を出していました。これも横領になりますか。
架空の領収書で経理担当者をだまして精算金を受け取った場合は、自分が預かっている金を着服する横領ではなく、詐欺罪(刑法246条)として扱われる可能性があります。詐欺罪は第37章の罪で4号の2の列挙罪ですので、別表第一の方は執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に当たりえます。どちらの罪になるかは事実関係次第なので、早めに弁護人と整理してください。
永住者です。2027年からの永住者の取消制度で、業務上横領は対象になりますか。
新22条の4第1項9号が対象とする罪は4号の2と同じ範囲で、第38章の横領・業務上横領は含まれていません。そのため、業務上横領で拘禁刑に処せられても、同号の取消事由には当たりません。ただし、1年を超える実刑であれば、現行法でも4号リの退去強制事由に当たります。
解雇されてから次の仕事が決まるまで、在留資格はどうなりますか。
技術・人文知識・国際業務などの方は、契約の終了から14日以内に届出が必要です(入管法19条の16)。本来の活動を継続して3か月以上していないと在留資格の取消し(22条の4第1項6号)の対象になりえますが、再就職活動をしているなど正当な理由があれば取消しの対象外です。刑事事件の見通しを踏まえて、転職先の確保と更新の準備を並行して進めることになります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
中国人の刑事事件と在留資格の全体像は、中国人の刑事事件|逮捕から不起訴・退去強制までにまとめています。あわせてご覧ください。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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