職務質問で「この在留カードは偽造ではないか」と疑われたとき|ICチップ読取りと番号照会の仕組み、真正なのに疑われた場合と、偽造と知らずに持っていた場合の対応
2026/09/12
駅前で警察官に呼び止められ、在留カードの提示を求められる。差し出したカードを警察官がスマートフォンにかざし、別の端末で番号を打ち込み、しばらく待ったあとで「このカード、読み取れないんだけど」「番号が失効していると出るね」と言われる。そのまま交番に来てほしいと求められ、気付けば偽造在留カードの所持を疑われている。ご本人は正規の手続で受け取ったつもりでいるか、仲介者から「手続は済ませておいた」と渡されたカードを疑いもせず使っていた。本記事は、偽造カードを買った側や雇用主側の話ではなく、路上の職務質問で真正なカードが疑われた場合と、偽造と知らずに持たされていた場合の2つに絞って、その場の対応と、その後に故意をどう争うかを整理いたします。
本記事の要点
- 警察官は、入管法23条3項に基づいて在留カードの提示とICチップの読取りを求めることができ、提示を拒めば同法75条の2の罪となるため、カードそのものは提示すべきです。
- 真正なカードでも、ICチップの破損や、再交付前の旧カード番号の失効照会などにより偽造を疑われることがあり、入管への照会で解消できる場合が多くあります。
- 偽造在留カードの所持罪(入管法73条の4)と行使罪(同法73条の3第2項)はいずれも偽造の認識を要件とし、知らずに持たされていた場合は故意の有無が最大の争点になります。
- 偽造カードの行使は入管法24条3号の5ハの退去強制事由に当たり、刑事判決を待たずに退去強制手続が動き得るため、刑事と入管の両面で故意を争う必要があります。
- 職務質問での説明は任意であり、記憶が不確かな入手経緯を断定的に述べてはならず、弁護人を通じて入手経路の裏付けを固めることが結論を左右します。
警察官は職務質問でどこまで在留カードを調べられますか
在留カードの提示とICチップの読取りまでは、法律上の根拠をもって求めることができます。警察官職務執行法2条1項は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して犯罪を犯し又は犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問することを認めています。質問への回答は任意であり、同条3項は、刑事訴訟に関する法律によらない限り、身柄を拘束され、意に反して警察署等に連行され、答弁を強要されることはないと明記しています。
これに対して在留カードは別の枠組みで規律されています。入管法23条2項は中長期在留者に在留カードの常時携帯を義務付け、同条3項は、入国審査官、入国警備官、警察官、海上保安官などがその職務の執行に当たり提示を求めたときは提示しなければならないと定め、在留カードについては、在留カード電磁的記録の内容を確認するために必要な措置を受けることまで含むとしています。ICチップを読み取るために端末にかざすよう求められた場合、これに応じる義務はここから生じます。提示や読取りを拒んだ場合は同法75条の2の罪となり、1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金が定められています。携帯していなかった場合は同法75条の3により20万円以下の罰金です。
他方、同条4項は、提示を求める職員に対して身分を示す証票の携帯と、請求があれば提示することを義務付けています。私服の警察官から求められた場合には、先に証票の提示を求めてよく、これは正当な確認行為です。また、カードの提示義務は、かばんの中身を見せる義務や、携帯電話のロックを解除する義務とは別です。所持品検査は、原則として本人の承諾を要する任意の措置であり、承諾なく行えるのは緊急かつ必要性が高い限られた場合に限られると解されています。
ICチップ読取りアプリと番号照会は何を調べているのですか
現在の在留カードにはICチップが埋め込まれており、券面に印字された氏名、生年月日、在留資格、在留期間、カード番号などと同じ情報と顔写真が記録されています。出入国在留管理庁は、このICチップを読み取って券面の記載と照合するためのアプリケーションを無償で公開しており、警察官はこれを用いて、券面とチップの内容が一致するか、チップに記録された署名が正規のものかを確認します。偽造カードの多くは券面だけを精巧に作り、チップが空であるか、別人の情報が記録されているため、この照合で発覚します。
もう1つの手段が、在留カード番号の失効情報の照会です。出入国在留管理庁は、失効した在留カードの番号を照会できる仕組みを公開しており、番号と有効期間を入力すると、そのカードが失効しているかどうかが表示されます。紛失、在留資格の変更、在留期間の更新などで新しいカードが交付されると、古いカードの番号は失効します。偽造カードは、実在する番号を流用して作られることがあるため、この照会で失効していると出れば疑いが強まります。
ただし、これらは「偽造である」ことを直接証明する道具ではなく、「正規のカードと整合しない」ことを示す道具にすぎません。
本物の在留カードなのに偽造を疑われることはありますか
あります。典型的な場面は3つです。第1に、ICチップの物理的な破損です。財布に長期間入れて曲がった、洗濯した、強い磁気に触れたといった事情でチップが読み取れなくなることがあり、この場合、アプリは読取り不能と表示します。第2に、番号照会の結果が失効と出る場合です。在留資格の変更や更新の際に新しいカードを受け取ったのに、古いカードも財布に残していて、そちらを提示してしまったという例が実際にあります。古いカードは真正ですが失効しており、法律上は有効な在留カードを提示したことになりません。第3に、券面の摩耗や写真の変化です。髪型や体格が大きく変わっていると、写真との同一性を疑われることがあります。
このような場合の対応は、慌てて弁解を重ねることではなく、確認の方法を提案することです。具体的には、パスポートを携帯していればその提示、在留資格認定証明書や在留期間更新許可の通知書の写しがスマートフォンにあればその表示、出入国在留管理庁への照会を求めることが有効です。入管への照会であなたの番号と在留資格が正規に登録されていると確認できれば、疑いはその場で解消されます。チップの破損が原因であれば、入管法19条の13に基づき、著しい毀損等を理由とする再交付を申請してください。
仲介者から渡されたカードが偽造だった場合、故意はどう争いますか
この場面で問題となる罪は主に2つです。入管法73条の4第1項は、行使の目的で偽造又は変造された在留カードを所持した者を5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処し、同法73条の3第2項は、偽造又は変造された在留カードを行使した者を1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。職務質問で提示した行為は「行使」と評価され得ます。加えて在留カードは公務所が作成する文書であるため、刑法155条の公文書偽造罪や同法158条の偽造公文書行使罪との関係も論じられますが、入管法の規定との適用関係は解釈上の問題であり、事案ごとに検討を要します。
いずれの罪も故意犯です。所持罪は偽造カードであることの認識に加えて行使の目的を要件とし、行使罪は偽造カードであることを認識して使用したことを要件とします。仲介者が「入管で手続をしておいた」と言ってカードを渡し、ご本人がそれを信じて正規のカードだと思っていたのであれば、故意は認められず、罪は成立しません。
問題は、その認識をどう証明するかです。捜査機関は、本人の弁解ではなく周辺の事実から認識を推認します。カードの代金として支払った額が正規の手数料と著しく異なっていなかったか、入管の窓口や申請の手続を自分で経験していたか、仲介者の身元や連絡先を把握していたか、カードに記載された在留資格が自分の実態と整合していたか、在留期間の更新を自分で行った経験があるか。こうした事実が「正規の手続だと信じるのが自然だった」方向に揃っていれば、故意の否定に結び付きます。逆に、格安の代金、現金のみのやり取り、連絡先が微信のIDだけ、記載された在留資格の内容を説明できないといった事実が重なると、少なくとも偽造かもしれないと思いながら受け取ったという未必の故意が認定されやすくなります。
弁護人の仕事は、この間接事実を1つずつ確認し、仲介者とのやり取りの記録、送金の履歴、仲介者が示した書類の写し、同じ仲介者を利用した他の方の経験などを集めて、ご本人が偽造と知らなかったことを裏付ける資料に変えることです。取調べで「少しおかしいとは思っていました」という表現を安易に認めてしまうと、それが未必の故意の自白として扱われますので、認識の程度を正確に区別して述べることが必要です。
職務質問のその場で、何を言い、何を言わないべきか
在留カードは提示してください。提示を拒めば、その拒否自体が罪となります。しかし、それ以上の質問への回答は任意です。「どこで手に入れたのか」「誰から受け取ったのか」「いくら払ったのか」と問われた場合、記憶が不確かなまま答えると、その内容がそのまま供述として記録され、後に訂正するのが難しくなります。特に入手経緯は、故意の認定を左右する中核の事実ですから、弁護人と整理してから話すのが適切です。
交番や警察署への同行を求められた場合、これは任意同行であり、応じる義務はありません。もっとも、断ることで逮捕に至る可能性もありますので、同行に応じるかどうかは、その場の状況とご本人の資料の有無によって判断が分かれます。同行した場合でも、供述調書への署名は、内容を通訳を通じて確認し、納得できない部分は署名を拒むことができます(刑事訴訟法198条5項)。そして、可能な限り早く弁護士に連絡してください。逮捕された場合は、弁護士を指定して弁護人の選任を申し出ることができます。
想定される刑事手続の流れ
職務質問から偽造の疑いが強まると、その場で現行犯逮捕されるか、後日、通常逮捕されることになります。逮捕から48時間以内に警察が検察官に事件を送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。裁判官が勾留を認めれば原則10日、延長でさらに10日、最長23日間の身柄拘束のうちに起訴か不起訴かが決まります。
この類型に特有なのは、カードが真正か偽造かの鑑定に時間を要すること、そして入手経路の解明のために仲介者の捜査が並行して進むことです。勾留中の取調べで、仲介者との関係についてどこまで、どのように述べるかは、逮捕直後の段階で弁護人と方針を決めておく必要があります。
在留資格への影響
この類型の在留への影響は、他の類型よりも直接的です。入管法24条3号の5は、偽造され、変造され、又は不正に作られた在留カード等を行使した者(ハ)、行使の目的で他人名義の在留カードを提供し、収受し、又は所持した者(ロ)などを退去強制事由として掲げています。この規定は「行為を行った者」を対象とし、刑事裁判で有罪判決を受けたことを要件としていません。つまり、刑事事件が不起訴で終わっても、入管が独自に行使の事実を認定すれば退去強制手続が進み得ます。
次に、留学、技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能などの別表第一の在留資格で在留する方については、同条4号の2が問題となります。刑法第2編第17章の文書偽造の罪を含む一定の罪により拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とするもので、執行猶予を除外する文言がありません。偽造公文書行使罪で執行猶予付きの拘禁刑判決を受けた場合でも該当し得ます。さらに、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられれば同条4号リが問題となりますが、こちらは刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれます。提示拒否の罪については、中長期在留者が同法75条の2の罪により拘禁刑に処せられた場合を同条4号の4が退去強制事由としています。
ここで重要なのが、故意・過失の位置付けです。刑事事件では故意の有無が当然の出発点であるのに対し、入管実務では、退去強制事由該当性の判断に故意や過失は要件とされないという運用が長く踏襲されてきました。当事務所は、冤罪により不法就労助長罪に問われた依頼者の事案で、退去強制事由の判断に故意・過失を要するかを問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。同じ方について、その後、在留特別許可が認められています。この論点は議論の途上にあり結論を断定できませんが、知らずに偽造カードを持たされた方については、刑事段階で故意を丁寧に争い、その記録を入管手続でも主張の基礎とします。
不起訴処分を最優先の目標とする理由
別表第一の在留資格の方が偽造公文書行使罪で有罪となれば、執行猶予が付いても入管法24条4号の2に該当し得ます。加えて、行使の事実そのものが同条3号の5の退去強制事由です。したがってこの類型では、執行猶予判決を目指す弁護活動には意味が乏しく、故意の不存在を理由とする不起訴処分、すなわち嫌疑不十分による不起訴を最優先の目標に据える必要があります。
不起訴処分は、入管手続においても、刑事の捜査機関が故意を認定できなかったという重要な事実として機能します。退去強制手続に進んだ場合、違反審査、口頭審理、法務大臣の裁決という各段階で、偽造と知らなかったことを示す資料と刑事の処分結果をあわせて主張し、在留特別許可の判断に結び付けていくことになります。
逮捕されたら、まず何をすべきか
第1に、黙秘権です。憲法38条1項が保障し、刑事訴訟法198条2項が取調べに先立つ告知を求めている権利であり、行使しても不利益に扱われません。この類型では、入手経緯と代金の額、仲介者との関係についての最初の供述が、故意の認定を決定的に左右します。曖昧な記憶で述べた内容が調書に固定される前に、方針を立てるべきです。
第2に、できる限り早く私選の弁護人を選任することです。勾留が決まるまでのおよそ72時間、ご家族は面会できず、接することができるのは弁護人だけです。この間に弁護人が仲介者とのやり取りの記録や送金履歴を確保できるかどうかが、立証を左右します。
第3に、通訳の質です。捜査機関が手配する通訳は、捜査のための通訳です。「本物だと思っていた」と「本物だと聞いていた」、「おかしいとは思わなかった」と「おかしいとは思っていたが確認しなかった」の違いは、故意の認定においてまったく異なる意味を持ちます。当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、依頼者ご本人のために動く通訳を接見から公判まで一貫してご利用いただけます。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。刑事手続と並行して、提携する行政書士とともに在留資格に関するサポートを行い、退去強制手続に進んだ場合の入管対応まで一体で担当いたします。
当事務所は、冤罪により不法就労助長罪に問われた依頼者の事案で、退去強制事由の判断に故意・過失を要するかを問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。同じ方について、その後、在留特別許可が認められています。論点は議論の途上にあり結論を断定できません。
在留資格を失い不法滞在で起訴された方の事案では、婚姻と認知の手続を実現させ、入管が公表する過去の許可事例を分析して主張を組み立て、在留特別許可を一度の申請で獲得いたしました。同種の事情で許可された事例があるのに不許可とすることは平等原則に反するという主張は、この類型でも中核となります。
覚醒剤取締法違反の営利目的所持で起訴された依頼者の事案では、徹底した証拠分析と被告人質問、反対尋問により無罪判決を獲得いたしました。認識の有無を証拠から組み立て直す姿勢は、偽造カードの故意を争う場面にも通じます。
結語
職務質問で在留カードを疑われた瞬間は、ご本人にとって理不尽さと恐怖の入り混じった時間だと思います。しかし、真正なカードであれば入管への照会で疑いは解消できますし、知らずに持たされていたのであれば、故意の不存在を裏付ける資料は必ずどこかに残っています。その場では提示義務を果たしつつ、入手経緯についての説明は急がず、できる限り早く弁護人に連絡してください。刑事の結論と在留の結論は別の枠組みで進みますが、故意を丁寧に争った記録は、その両方を支える土台になります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):盘查时被怀疑“这张在留卡是伪造的”怎么办|IC芯片读取与号码查询的原理、真卡被怀疑时的应对,以及不知情持有伪造卡时如何争取
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東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
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