「警察から呼出しがあっても行かなければ何も起きない」は本当か|出頭要請を無視した先にある逮捕状請求、「逃亡のおそれ」の評価、在留審査への影響と、呼出しの段階で弁護人を付ける意味
2026/09/12
警察署から封書が届き、「お聞きしたいことがあるので、都合のよい日にご連絡ください」と書かれている。あるいは知らない番号から電話があり、「○○警察署の者です」と名乗られた。微信の友人に相談すると、「行かなければ何も起きない。呼び出しは任意だから無視してよい」「留学生なら学校に迷惑がかかるから行かない方がよい」と言われた。在日中国人のコミュニティでは、この種の助言が善意で広く流通しています。しかし、この助言は法律の半分しか捉えていません。出頭が任意であることは正しい。しかし、無視し続けた先に何が起きるかについて、この助言は沈黙しています。本記事では、呼出しを無視した場合に捜査機関がどう動くのか、外国人であることが「逃亡のおそれ」の評価にどう影響するのか、在留期間の更新にどう跳ね返るのか、そして呼出しの段階で弁護人を付けることに何の意味があるのかを整理いたします。
本記事の要点
- 被疑者としての出頭要請は刑事訴訟法198条1項に基づく任意のものであり、出頭を拒む自由は法律上保障されています。
- しかし、正当な理由なく出頭要請に応じないことは、逮捕状請求における逮捕の必要性を裏付ける事情となり、軽微な罪では出頭に応じないこと自体が逮捕の要件とされています(同法199条1項ただし書)。
- 外国人の場合、帰国の可能性や日本での生活基盤の薄さが刑事訴訟法60条1項3号の「逃亡のおそれ」を肯定する方向に評価されやすく、呼出しの無視はこの評価を決定的にします。
- 呼出しを受けた段階で弁護人を選任すれば、日程の調整、取調べの準備、在宅のまま手続を進める交渉、被害者との示談が可能になり、不起訴処分の獲得に直結します。
- 在留期間の更新や変更の審査では、刑事手続が係属していること自体が審査の長期化や不許可の要因となり得るため、刑事事件を早期に、かつ不起訴で終わらせることが在留を守る近道です。
警察の呼出しは本当に任意ですか
任意です。刑事訴訟法198条1項は、捜査機関が必要があるときに被疑者の出頭を求めて取り調べることができると定めるとともに、そのただし書で、逮捕又は勾留されている場合を除いて、被疑者は出頭を拒み、出頭後いつでも退去することができると明記しています。参考人として呼ばれた場合も、同法223条2項がこの規定を準用しますので、同じく任意です。呼出状に「出頭しなければ処罰する」という趣旨の記載はありませんし、実際にそのような罰則もありません。
ここまでは、コミュニティで流通している助言のとおりです。問題は、「任意である」ことと「無視しても何も起きない」こととは別だという点です。捜査機関は、任意の出頭を求める方法で捜査ができないと判断すれば、次の手段に進みます。それが逮捕です。
無視し続けると、何が起きますか
逮捕状の請求です。刑事訴訟法199条1項は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときに、裁判官があらかじめ発する逮捕状により逮捕できると定めています。同条2項ただし書は、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状を発しないとしており、逮捕の必要性の有無は、逃亡のおそれと罪証隠滅のおそれを中心に判断されます。任意の出頭要請に正当な理由なく応じない事実は、この必要性を裏付ける典型的な事情として扱われます。捜査機関の側から見れば、「呼んでも来ないのだから、身柄を拘束しなければ取調べができない」という論理が成り立つからです。
さらに注意すべきは、軽微な罪についての規定です。同法199条1項ただし書は、30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限り逮捕できると定めています。つまり、軽微な事件では、本来であれば逮捕されないはずのところ、出頭要請を無視することによって初めて逮捕が可能になるのです。「軽い事件だから放っておいても大丈夫」という判断は、法律の構造とちょうど逆を向いています。
逮捕されれば、その後は勾留の問題に移ります。勾留の要件を定める同法60条1項は、定まった住居を有しないとき(1号)、罪証隠滅のおそれがあるとき(2号)、逃亡のおそれがあるとき(3号)を掲げ、被疑者の勾留にも同法207条によりこれが適用されます。呼出しを無視した経緯は、3号の逃亡のおそれを裏付ける事情として、勾留の判断でも再び登場します。
外国人であることは「逃亡のおそれ」の評価にどう影響しますか
率直に申し上げて、不利な方向に働きやすいのが実情です。逃亡のおそれの判断では、住居の安定性、家族の有無、職業、事件の重さ、これまでの捜査への対応が総合的に考慮されます。外国人の場合、本国に帰国すれば日本の刑事手続から事実上離れることができるため、帰国の可能性そのものが逃亡のおそれとして評価されがちです。日本に家族がいない、在留期間の満了が近い、勤務先や学校との結び付きが弱いといった事情は、それぞれが逃亡のおそれを補強する方向に読まれます。
このような構造の中で、呼出しを無視したという事実は、単なる一事情ではなく、「実際に捜査から逃れようとした」という具体的な行動の証拠として扱われます。日本人であれば任意の呼出しで済んだ事件が、外国人の場合には逮捕と勾留に進む。その分かれ目を作っているのが、呼出しへの対応であることは少なくありません。
なお、帰国すれば逃げ切れるという考えも正確ではありません。刑事訴訟法255条1項は、犯人が国外にいる期間、公訴時効の進行が停止すると定めています。また、逮捕状が発せられた後に出国しようとすれば、一定の重さの罪については、入管法25条の2に基づいて出国確認が留保されることがあります。帰国は事件を消すのではなく、事件を凍結したまま再入国を困難にするだけです。
呼出しに応じた場合、どのように手続が進みますか
在宅のまま捜査が進みます。警察署に出向いて取調べを受け、供述調書が作成され、必要があれば数回にわたって呼び出されます。捜査が終われば事件は検察庁に送られ、検察官からも呼出しがあり、最終的に起訴、不起訴、又は略式命令の請求のいずれかが決まります。略式命令は、簡易裁判所が公判を開かずに100万円以下の罰金又は科料を科す手続で(刑事訴訟法461条)、被疑者の同意が必要です。
在宅事件の利点は明らかです。身柄を拘束されないため、仕事や学業を続けられ、家族と連絡が取れ、弁護人と落ち着いて打合せができます。取調べの日程も、ある程度は調整が可能です。逮捕された場合の最長23日間の身柄拘束と比べれば、生活への影響は格段に小さくなります。
ただし、在宅事件であっても、取調べの内容は逮捕された場合と同じ重みを持ちます。供述調書は署名すれば証拠となり、後から訂正することは困難です。任意であることを理由に軽く考え、準備なしに出向いて、記憶の曖昧な部分を推測で埋めた供述をしてしまう。これが在宅事件で最も多い失敗です。
呼出しの段階で弁護人を付けることに、どんな意味がありますか
第1に、日程と方法の調整です。弁護人が警察に連絡し、出頭の意思があることを伝えたうえで、通訳の手配、日程、取調べの予定時間を確認します。この連絡自体が、逃亡のおそれを否定する事情として機能します。捜査機関にとって、弁護人を通じて連絡が取れる被疑者は、身柄を拘束する必要のない被疑者です。
第2に、取調べの準備です。何を聞かれるのか、事実関係のどこが争点になるのか、黙秘すべき事項と話すべき事項はどれか。これを事前に整理したうえで臨む取調べと、何も知らないまま臨む取調べとでは、調書の内容が大きく変わります。弁護人は取調べに立ち会うことはできませんが、取調べの合間に相談することは可能であり、取調べ後に何を聴かれ何を答えたかを確認して、次回の方針を修正できます。
第3に、在宅のまま手続を進めるための交渉です。逮捕の可能性がある事案でも、弁護人が身元引受人を確保し、住居と勤務先の安定を示し、出頭に応じる意思を明確にすることで、逮捕を回避できる場合があります。第4に、被害者がいる事件では、示談の交渉です。在宅の段階で示談が成立すれば、不起訴処分の可能性は大きく高まります。逮捕後に示談を始めるのと比べて、時間的にも心理的にも余裕をもって進めることができます。
想定される刑事手続の流れ
呼出しに応じた場合と無視した場合とで、流れは分岐します。応じた場合は、在宅のまま取調べが数回行われ、検察庁への送致、検察官の取調べを経て処分が決まります。この間、身柄の拘束はありません。
無視した場合は、逮捕状の請求と執行に進みます。逮捕から48時間以内に警察は事件を検察官に送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。裁判官が勾留を認めれば原則10日、延長でさらに10日、最長23日間の身柄拘束のうちに起訴か不起訴かが決まります。勾留が決まるまでのおよそ72時間は、ご家族が面会することができず、接することができるのは弁護人だけです。
同じ事件、同じ証拠であっても、呼出しへの対応ひとつで、この2つの流れのどちらを辿るかが決まります。在宅で済んだはずの事件が、身柄事件になれば、仕事や学校を失い、その事実がさらに在留に跳ね返るという連鎖が始まります。
在留資格への影響
刑事事件の結論が在留に及ぼす影響は、罪名と刑の重さによって入管法24条の該当号が変わります。無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者は同条4号リに該当しますが、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれます。留学、技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能、家族滞在などの別表第一の在留資格で在留する方については、同条4号の2が、刑法の窃盗、詐欺、傷害などを含む一定の罪により拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、こちらは執行猶予を除外していません。薬物事犯は同条4号チにより刑の軽重を問わず該当し得ます。
本記事のテーマに固有の問題は、退去強制事由に至る前の段階にあります。在留期間の更新は、入管法21条3項により、法務大臣が更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可されます。更新と変更のガイドラインは素行が善良であることを求めており、刑事手続が係属している事実は、それだけで審査の長期化や、場合によっては不許可の要因となります。呼出しを無視して事件を長引かせることは、更新の時期に刑事事件が未処理のまま重なる可能性を高めます。逆に、早期に出頭して不起訴処分を得ていれば、更新の審査において「捜査に協力し、処分は不起訴であった」という事実を示すことができます。
また、勾留により学校を長期に欠席し、除籍や退学に至れば、在留資格の取消し(入管法22条の4第1項6号)が別の入口として問題となります。勤務先を解雇されれば、就労資格の該当性が揺らぎます。呼出しの無視は、刑事の結論とは別のところで、在留の基礎そのものを崩す引き金になり得るのです。
不起訴処分を最優先の目標とする理由
当事務所は、執行猶予判決の獲得ではなく、起訴前の段階で不起訴処分を得ることを最優先の目標に据えて弁護活動を組み立てます。別表第一の在留資格の方は、執行猶予が付いても入管法24条4号の2に該当し得るからです。在宅事件は、この目標を達成するうえで最も条件のよい局面です。身柄拘束の時間的な圧力がなく、示談や環境調整に十分な時間を使え、捜査への協力的な態度を継続的に示すことができるからです。
呼出しの段階で弁護人を付けることは、この局面を最大限に活用するための第一歩です。呼出しを無視して逮捕された後に弁護人を選任するのと比べて、選択肢の数がまったく異なります。
呼出しを受けたら、まず何をすべきか
第1に、黙秘権を正しく理解することです。憲法38条1項が保障し、刑事訴訟法198条2項が取調べに先立つ告知を求めている権利であり、行使しても不利益に扱われません。出頭に応じることと、すべてを話すこととは別です。出頭したうえで、話す事項と話さない事項を方針として決めておくことができます。
第2に、できる限り早く私選の弁護人を選任することです。呼出しの段階では当番弁護士の制度は使えませんし、国選弁護人は勾留された後でなければ付きません。在宅の段階で弁護人を付けるには、私選で依頼するしかありません。呼出しを受けてから出頭するまでの数日間が、事件全体の中で最も自由に動ける時間です。
第3に、通訳の質です。警察が手配する通訳は、捜査のための通訳です。「行かなかった」と「行けなかった」、「知らなかった」と「気にしていなかった」の違いが、訳し方ひとつで変わります。当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、依頼者ご本人のために動く通訳を、呼出しの段階の打合せから公判まで一貫してご利用いただけます。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、呼出しの段階でのご相談から、接見の初動、公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。警察との連絡、出頭日程の調整、取調べの準備、示談交渉を弁護士本人が行います。刑事手続と並行して、提携する行政書士とともに在留資格に関するサポートも行っております。
特殊詐欺の出し子とされた20代の女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況に置かれていたこと、犯意が存在しなかったことを主張し、不起訴処分を獲得いたしました。事実関係を早期に整理し、捜査機関に対して一貫した説明を示すことが、不起訴の判断を引き出す基礎となった事案です。
特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された方の事案では、不当な取調べに対して抗議を重ね、主張と立証を尽くした結果、全件について不起訴処分となりました。取調べへの対応の方針を早期に固め、それを貫くことの意味を示す事例です。
在留資格を失い不法滞在で起訴された方の事案では、婚姻と認知の手続を実現させ、入管が公表する過去の許可事例を分析して主張を組み立て、在留特別許可を一度の申請で獲得いたしました。刑事の結論と在留の結論を一体として設計する当事務所の姿勢を表す事案です。
結語
「行かなければ何も起きない」という助言は、出頭が任意であるという正しい前提から、誤った結論を導いています。呼出しを無視した先にあるのは、何も起きない平穏ではなく、逮捕状の請求と、外国人であるがゆえに認められやすい逃亡のおそれの評価、そして在留審査への跳ね返りです。呼出しの封書が届いた日は、事件が悪化した日ではなく、最も多くの選択肢を持っている日です。その日のうちに弁護人に連絡し、方針を立ててから出頭していただければ、在宅のまま不起訴処分で終える道は十分に開かれています。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):“警察传唤不去就什么事也不会发生”是真的吗|无视出头要请之后的逮捕令申请、“逃亡之虞”的评价、对在留审查的影响,以及在传唤阶段委托辩护人的意义
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東京を中心に刑事事件の弁護
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