入管の事情聴取(違反審査)で気をつけること|刑事裁判の記録と食い違う説明が危うい理由
2026/09/18
在留特別許可を申請すると、入管の審査官から呼出しを受け、事情聴取が行われます。婚姻の経緯や生活の状況、刑事事件の内容について、1日がかりで質問されることもあります。この事情聴取での説明は、在留特別許可の判断に直結します。2026年9月に当事務所が在留特別許可を得た事例でも、事情聴取の当日、午前中の説明を午後に改めるという場面がありました。本記事では、この経験も踏まえて、事情聴取に臨む際の注意点を整理します。
本記事の要点
- 事情聴取(違反審査)は入国審査官が行い、退去強制事由に当たるかどうかとともに、在留特別許可の判断材料となる事情が詳しく聴かれます(入管法45条)。
- 刑事事件がある場合、審査官は判決や裁判の記録を手元に置いて質問します。
- 確定判決の認定と食い違う説明は、反省していない、再び同じことをするおそれがある、と受け取られかねません。
- 事実と異なることを認める必要はありません。ただし、判決の認定と違う説明をするなら、その理由を整理しておく必要があります。
- 虚偽の申告はガイドライン上、消極的な事情として扱われます。分からないことは分からないと答えてください。
事情聴取では何を聴かれるか
違反審査は、入国審査官が、退去強制事由に当たるかどうかを審査する手続です。在留特別許可を申請している場合は、その判断に必要な事情もこの場で確認されます。主に聴かれるのは次のような事項です。
- 入国した経緯、在留資格と在留期間の経過、在留期限を過ぎた理由
- 配偶者と知り合った経緯、交際と婚姻の時期、同居の状況、家計の管理
- 家族や親族が婚姻を知っているか、共通の友人がいるか
- 仕事と収入、納税の状況
- 刑事事件の内容、犯行に至った理由、違法性の認識、現在の反省と再発を防ぐための取組み
- 日本に在留を希望する理由、帰国した場合の生活
配偶者にも、別途、質問書への回答が求められます。婚姻の経緯や同居の状況について、夫婦の説明が一致しているかが確認されます。
刑事裁判の記録と突き合わせられる
刑事事件がある方の事情聴取では、審査官は判決書や裁判の記録を把握したうえで質問します。当事務所の事例でも、審査官は刑事裁判の記録を手元に置いていました。
このとき注意したいのが、違法性の認識をめぐる説明です。有罪判決は、罪を犯す故意があったと認定しています。事情聴取で「違法だとは全く思っていなかった」とだけ説明すると、確定した判決の認定と食い違います。審査官から見れば、判決を受け入れていない、反省していない、と映るおそれがあります。ガイドラインは素行や再犯のおそれを考慮するため、この受け止め方は在留特別許可の判断に不利に働きかねません。
当事務所の事例:午前の説明を午後に改めた
2026年9月に在留特別許可を得たベトナム国籍の男性は、知人の依頼で他人名義の委任状を作ったとして、有印私文書偽造・同行使の罪で執行猶予付きの判決を受けていました。2026年8月の事情聴取で、男性は午前中、違法性の認識を否定する趣旨の説明をしました。
昼の休憩時間に、ご家族を通じて弁護士が助言しました。助言の内容は3点です。はっきり違法と認識していたわけではないこと。しかし、違法の可能性は認識していたこと。今後は少しでも違法の可能性があることには一切関わらないこと。あわせて、審査官の質問は「再び同じことをしないか」を確かめる意図で行われていることを意識して答えるよう伝えました。
午後、男性はこのとおり説明を改めました。審査官からは「午前と午後で説明が違うのはなぜか」と問われましたが、男性は「午前はそう思っていたが、よく考え直した結果、訂正したい」と率直に答えています。この日のうちに口頭審理を請求しないことも決め、事情聴取から35日後に在留特別許可がされました。ご本人の同意を得て紹介しています。
結果として許可には至りましたが、説明が変わったこと自体は審査官に指摘されています。理想は、事情聴取の前に判決の内容を確認し、何をどう説明するかを整理しておくことです。
事前に準備しておくこと
- 判決書の「罪となるべき事実」と「量刑の理由」を読み、裁判所が何を認定したかを確認する
- 判決の認定と自分の認識に違いがある場合は、その違いを正直に、かつ判決を受け入れる姿勢と両立する形で説明できるよう整理する
- 反省の内容と、再発を防ぐための具体的な取組み(交友関係の整理、家族による監督、仕事の状況等)を言葉にしておく
- 婚姻の経緯や日付、同居の状況について、夫婦で記憶をすり合わせておく(事実と異なる口裏合わせではなく、日付や出来事の確認)
- 申請書に書いた内容と矛盾しないよう、提出した書類の控えを読み返しておく
事実と異なることを認める必要はありません。否認のまま有罪となった方が、事情聴取でも一貫して否認を続けることはあり得ます。その場合は、判決を受け入れて刑に服していること、再び疑われるような行為をしないことを、どう示すかが重要になります。いずれにしても、嘘をつくことは避けてください。虚偽の申告は、それだけで消極的な事情として扱われます。
事情聴取の後の判断:口頭審理を請求するか
事情聴取の結果、退去強制事由に当たると認定されると、通知を受けた日から3日以内に口頭審理を請求するかどうかを決めなければなりません(入管法48条1項)。退去強制事由そのものに争いがなければ、認定に服して在留特別許可の判断に進むことで、結論が出るまでの期間を短くできる場合があります。逆に、退去強制事由に当たるかどうか自体を争う事案では、口頭審理で主張を尽くすべきです。3日という期限は短いため、事情聴取の前に方針を決めておいてください。
弁護士はどう関わるか
違反審査の事情聴取には、弁護士が同席できないのが通常の運用です。そのため、事前の準備と、休憩時間や当日中の連絡体制が大切になります。口頭審理では、代理人の弁護士が立ち会い、証拠の提出や意見を述べることができます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が、事情聴取の前の打合せから当日の連絡、口頭審理への対応まで直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、他の言語は事案に応じて通訳を手配します。在留資格の更新・変更は、提携の行政書士と連携して対応します。
刑事事件の段階からの事例として、観光目的で来日し不法滞在で逮捕・起訴された方について、入管手続を見据えた被告人質問・証人尋問を公判で行い、過去の許可事例の分析も踏まえて在留特別許可を得た事例があります。刑事裁判での説明と入管での説明を一貫させることは、事情聴取の準備の土台になります。
結語
事情聴取は、書類では伝わらないご本人の人柄や反省を、審査官に直接伝える機会でもあります。刑事裁判での説明、申請書の内容、事情聴取での説明が一本の線でつながるよう準備して臨んでください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士/第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)/中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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