解体現場や工事現場に入管の職員が来たとき|合同立入調査、在留カードの提示、出頭要請への対応
2026/09/11
朝、いつもどおり現場に入ったところ、作業服姿ではない人が数人、書類を手に立っている。名乗ったのは役所の職員と、入管の職員だった。出入国在留管理庁が、外国人の不法就労の摘発を強化するため、今秋から他省庁と合同で立入調査を行う方針を固めたとされ、まず国土交通省と、10月にも解体業者を対象に実施する予定とされる、という報道がありました。関係省庁の立入検査に入管職員が同行し、その場で在留カードを確認して、就労資格のない外国人が確認された場合には出頭を求めたうえで事業者側の調査に進む、と伝えられています。本記事は、現場で働いていた外国人ご本人のお立場から、そのとき何が求められ、どう動けばよいのかを整理いたします。
本記事の要点
- 中長期在留者には在留カードの携帯義務と提示義務があり(入管法23条2項・3項)、これに反した場合の罰則も置かれています(同法75条の3、76条)。
- 各省庁の立入検査は業法に基づく行政調査、入管職員の調査は入管法に基づく違反調査であり、根拠法令も名宛人も異なります。
- その場で求められる出頭は任意の要請であり、逮捕や収容とは別の手続です。
- 入管法29条2項は違反調査における供述の強要を禁じていますが、述べたことは記録に残り、後の手続で用いられ得ます。
- 資格外活動や不法残留は、刑事責任(入管法70条・73条)と退去強制事由(同法24条4号イ・ロ)の双方に関わります。
現場に入管の職員が来たら、まず何をすればよいですか
まず在留カードを提示することです。入管法23条2項は、中長期在留者に在留カードの携帯を義務付け、同条3項は、入国審査官、入国警備官、警察官等から提示を求められたときにこれを提示することを義務付けています。提示は法律上の義務であり、拒むことにはそれ自体としての不利益が伴います。携帯していなかった場合は同法75条の3により20万円以下の罰金、提示を拒んだ場合は同法76条により1年以下の拘禁刑若しくは20万円以下の罰金又はその併科が定められています。なお、特別永住者の方については、特別永住者証明書について別の定めが置かれています。
他方で、提示の義務と、その場で事情を説明する義務とは、別のものです。カードをお見せになることと、いつから誰に雇われ、いくら受け取り、他にどこで働いていたかを語ることとは、法律上の位置付けが異なります。この区別を意識しているかどうかで、その後の展開は大きく変わってまいります。
入管の調査と、他の省庁の立入検査は同じものですか
別のものです。根拠となる法令も、調べられる相手も違います。
国土交通省などが行う立入検査は、それぞれの業法に基づく行政調査であり、事業者が許可の条件を守っているか、必要な体制を備えているかを確かめるものです。名宛人は事業者であって、そこで働く個々の労働者ではありません。
これに対して、入管職員が行う違反調査は入管法に基づきます。入国警備官は、入管法24条各号に該当すると思料する外国人があるときに違反調査をすることができ(同法27条)、その目的を達するため必要な取調べをすることができますが、強制の処分は法律に特別の定めがある場合に限られます(同法28条)。容疑者に対して出頭を求めて取り調べることができる一方(同法29条1項)、供述を強要してはならないと明記されています(同条2項)。住居等への臨検、捜索、押収には、裁判官の許可状を要します(同法31条)。
報道によれば、今回の方針は、事業者に対する立入検査に入管職員が同行するというものとされています。つまり、事業者を名宛人とする行政調査の場に、外国人ご本人を名宛人とする違反調査の端緒が同時に生まれる構造です。事業者に対する検査だから自分には関係がない、とは考えない方がよい理由が、ここにあります。
出頭を求められました。逮捕されるということですか
出頭の要請そのものは任意の手続であり、逮捕や収容とは別のものです。入管法29条1項に基づく出頭要求は、その場で身体の自由を奪う効力を持つものではありません。
もっとも、任意であることは、放置してよいことを意味しません。要請に応じないまま時間が経てば、収容令書による収容という別の手続が用意されていますし(入管法39条)、資格外活動や不法残留が刑事事件として立件されれば、刑事訴訟法に基づく逮捕、勾留の手続に移ることもあります。任意の出頭、行政手続としての収容、刑事手続としての逮捕は、それぞれ別の入口だとご理解ください。
実務的には、その場で日時を確定させてしまう前に、連絡先と担当部署を控え、後日弁護人とともに出頭する旨をお伝えして日程を調整する、という対応が考えられます。何を持参すべきか、誰に同行してもらうかを整えてから臨むのと、その日のうちにお一人で向かうのとでは、手続の入り方が違ってまいります。
その場で聞かれたことに、どこまで答える義務がありますか
在留カードの提示は義務ですが、働いていた事情の説明については、義務の性質が異なります。入管法29条2項は違反調査における供述の強要を禁じており、刑事手続に移行すれば、憲法38条1項が保障し、刑事訴訟法198条2項が告知を求める黙秘権が及びます。
ご注意いただきたいのは、その場の受け答えが記録として残るという点です。入国警備官の作成する調書は、その後の違反審査、口頭審理、異議の申出、そして在留特別許可の判断に至るまで参照されます。刑事事件になれば、そこでも証拠として扱われ得ます。記憶があいまいなまま「たぶん半年くらい前から」「1日1万円ぐらいだったと思う」と述べると、その数字が後の手続の出発点になってしまうことがあります。
したがって、分からないことは分からないと述べる、確認してから答えると述べる、という対応が基本になります。他方で、事業者や同僚をかばうために事実と違う説明をすることは、避けるべきです。裏付けとなる資料が後から出てくれば、虚偽の説明をしたという評価が加わり、ご本人にとっても事業者にとっても状況が悪くなります。事業者側には不法就労助長罪(入管法73条の2)の問題があり、退去強制事由としても24条3号の4が置かれていますが、それはご本人の防御とは別の軸で検討されるべき事柄です。
就労資格がないことが確認されると、どうなりますか
二つの道筋が並行して進み得ます。刑事手続と、入管の退去強制手続です。
刑事の面では、在留資格に属しない収入活動を行っていた場合、入管法19条1項違反として資格外活動が問題となります。専らその活動を行っていると明らかに認められる場合は同法70条1項4号(3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその併科)、そこに至らない場合は同法73条(1年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金又はその併科)が予定されています。在留期間を過ぎて残っていたのであれば、不法残留として同法70条1項5号が問題となります。
入管の面では、資格外活動は同法24条4号イ、不法残留は同号ロが退去強制事由として置かれています。違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という段階を経て、最終的に在留特別許可を求めるかどうかという判断に至ります。刑事事件として立件されず、入管の手続にとどまる場合もありますし、両方が同時に進む場合もあります。どちらの道筋に乗っているのかを早い段階で見極めることが、方針を立てる出発点になります。
自分から出頭した方がよいのでしょうか
一概には申し上げられません。ただ、在留特別許可の判断において、自ら出頭して申告したのか、摘発によって発覚したのかは、考慮され得る事情の一つとされています。
出入国在留管理庁は、平成16年以降、在留特別許可の許可事例と不許可事例を年度別に公表しています。これらは行政自身が許可相当と判断した先例ですから、同種の事情を持つ事案について異なる取扱いをすることは、憲法14条1項の平等原則の観点から問題となり得ます。当事務所が意見書を作成する際は、公表事例を丹念に読み込み、本件と事情が近い許可事例を具体的に対置する方法を取っております。もっとも、これによって必ず許可されるというものではありません。
他方で、出頭のタイミング、家族関係の整理、母国の公的書類の取寄せ、就労状況を裏付ける資料の準備を欠いたまま出頭してしまうと、主張すべき事情を主張できないまま手続が進んでしまいます。出頭するかどうか、するとしていつ、どのような資料を揃えて臨むかは、弁護人と方針を立ててからお決めになることをお勧めいたします。
想定される刑事手続の流れ
資格外活動や不法残留が刑事事件として立件され、逮捕された場合、警察は48時間以内に事件を検察官へ送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。裁判官が勾留を認めれば原則10日間、延長されればさらに10日間、身柄を拘束したまま捜査が続きます。起訴の可否が決まるまで、最大で23日間です。
逮捕から勾留が決まるまでのおよそ72時間は、特に重要です。この間、ご家族は面会することができず、ご本人と会えるのは弁護人のみです。ここで作られた供述調書は、刑事手続だけでなく、その後の入管の手続でも参照されます。就労の期間や頻度、報酬の額についての最初のご説明が、退去強制手続における事実の前提として引き継がれていくのです。
なお、刑事手続が不起訴で終わったとしても、入管の手続はそれとは別に進みます。刑事事件が終わったから在留の問題も終わった、ということにはなりません。
「執行猶予なら大丈夫」という理解の危うさ
入管法24条は退去強制事由を号ごとに定めています。4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を掲げ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。この規定だけを見れば、執行猶予が付けば在留は守られるように読めます。
しかし、資格外活動や不法残留は、刑の重さとは関係なく、4号イ、4号ロという別の号で退去強制事由とされています。薬物事犯については4号チが有罪判決を受けた者を掲げ、刑の重さを問いません。旅券法違反は4号ニにより、同法23条1項(6号を除く)から3項までの罪により刑に処せられた場合、罰金でも該当し得ます。他の外国人に不法就労活動をさせた場合は3号の4、別表第一の在留資格の方については一定の特定犯罪を対象とする4号の2があります。
さらに、在留資格の取消し(入管法22条の4)や、在留期間更新の不許可(同法21条3項)という別の入口も存在します。更新・変更のガイドラインは素行が善良であることを求めており、有罪判決の事実はここに影響します。刑事の結論と在留の結論は、別々に見立てなければなりません。
起訴前の段階で不起訴処分を目指す理由
当事務所は、執行猶予判決の獲得を最終目標に置くのではなく、起訴前の段階から不起訴処分の獲得を最優先目標として弁護活動を組み立てております。入管法24条各号の構造を正確に把握しないまま「執行猶予なら大丈夫」とご説明することは、結果として在留資格の喪失につながりかねません。刑事手続の段階から退去強制手続を一体のものとして視野に入れる必要があります。
資格外活動や不法残留は、特定の被害者がいる類型ではなく、出入国管理の秩序という社会的な利益を保護法益とするものです。そのため、示談によって反社会性が個別的に解消されるという道筋を取りにくく、稼働の実態、生活の基盤、家族関係、納税や社会保険の状況といった事情を、資料をもって積み上げていく作業が中心になります。
初動で押さえる3点
第1に、黙秘権です。憲法38条1項が保障する権利であり、行使したことを不利に扱うことは許されません。話す内容と話さない内容を方針として整理したうえで臨むことが、後の手続を通じてご本人を守ります。
第2に、早期の弁護人選任です。逮捕の直後であれば当番弁護士を呼ぶことができ、継続的な弁護活動をお望みの場合は私選の弁護人を選任することになります。まだ逮捕されておらず、出頭を求められている段階であっても、弁護人にご相談いただくことはできます。むしろ、その段階でのご相談が最も効きます。
第3に、通訳の質です。当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、接見から公判、さらに入管の手続まで一貫してご利用いただけます。就労の内容や雇用の形態は、訳し方によって意味が変わりやすい事柄です。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、接見の初動から公判の結審まで松村大介弁護士が全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行を行っておりません。提携する行政書士とともに在留資格に関するサポートを行い、刑事手続と入管手続を一体で担当いたします。
入管手続では、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案を担当いたしました。退去強制事由には故意・過失が不要であるとする従来の実務に対し、責任主義、過失責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。訴訟の帰趨と在留特別許可の獲得は別の事柄ですが、故意・過失をめぐる主張を早くから積み上げてきたことが、その後の手続に生きたと考えております。
また、観光目的で来日された相談者が、日本人女性との間にお子さんを授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕、起訴された事案では、婚姻と認知が未了であったために当局から一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を実現いたしました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析して、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。
取調べ対応そのものが結論を左右した事案もございます。特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議、主張立証を通じ、全件について不起訴処分を獲得いたしました。何を述べ、何を述べないかを方針として管理することの重みが、はっきりと表れた事案です。
結語
現場に調査が入る場面は、突然にやってきます。そのとき手元にあるのは在留カード一枚と、その日の記憶だけです。提示すべきものは提示し、答えるべきかどうか迷うことについては、その場で無理に答えず、弁護人と相談してから臨む。この二つを分けて考えられるかどうかが、その後の刑事手続と入管手続の入り方を左右します。出頭を求められた段階であれば、まだ打てる手は残っております。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):入管职员来到拆除现场或工地时|联合入内调查、在留卡的出示与出头要求的应对
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
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