輸出免税・消費税還付の不正申告を疑われたとき|消費税法64条・詐欺罪との関係・免税店の不正と、経営・管理の在留資格への影響
2026/09/13
「税務署の調査だと思っていたら、ある日、国税局の査察官が事務所に入ってきた」。中国向けの輸出や、訪日客向けの免税販売を営む中国人経営者から、こうしたご相談をいただくことが増えています。輸出には消費税がかからず、仕入れに含まれる消費税が還付される仕組みは、正しく使えば貿易業の当然の権利ですが、架空の輸出や仕入れを装って還付を受けたとされれば、消費税法違反として告発され、逮捕に至ることがあります。しかも、経営・管理の在留資格で会社を営む方にとっては、刑事責任と同時に会社の存続と在留資格そのものが問われます。税務調査から査察、告発、そして在留への影響まで、順に整理いたします。
本記事の要点
- 偽りその他不正の行為により消費税の還付を受けた者は10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科とされ(消費税法64条1項2号)、還付申告書を提出した段階で未遂も処罰されます(同条2項)。
- 不正受還付は、国に対する詐欺の性質を持ちますが、実務では税法固有の罰則である消費税法64条によって立件されるのが通例です。
- 免税店での免税販売は、免税購入対象者が国外へ持ち出すことが前提であり(消費税法8条)、国内での転売や名義貸しは免税の要件を欠きます。
- 国税通則法に基づく犯則調査(同法131条以下)は任意の税務調査とは異なり、令状による捜索・差押えを伴い、犯則があると思料されれば検察官に告発されます(同法155条)。
- 1年を超える実刑は入管法24条4号リの退去強制事由に当たり、経営・管理の在留資格では、会社の実体喪失による取消し(同法22条の4第1項5号・6号)や更新不許可(同法21条3項)も現実の問題になります。
輸出免税と消費税還付は、どのような仕組みですか
消費税は国内の消費に課される税であるため、本邦からの輸出として行われる資産の譲渡には消費税が免除されます(消費税法7条1項1号)。一方で、輸出する商品を国内で仕入れる際には消費税を支払っていますから、この仕入れに係る消費税額は控除の対象となり(同法30条1項)、売上げに係る消費税額から控除しきれない不足額は、確定申告により還付されます(同法45条1項、52条1項)。輸出業者に消費税の還付が生じるのは、この構造によるものです。
輸出免税の適用を受けるには、その取引が輸出として行われたことを財務省令の定めにより証明できなければなりません(同法7条2項)。輸出許可書などの書類を保存していないと、免税の適用は受けられません。したがって、還付を巡る争いの多くは、輸出の事実そのものと、仕入れの事実そのものが本当にあったのか、書類が実態を伴っているのかという点に集中します。
不正受還付の罪。消費税法64条の構造
偽りその他不正の行為により消費税の還付を受けた者は、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金に処せられ、又はこれを併科されます(消費税法64条1項2号)。還付金の額が1,000万円を超える場合には、情状により、罰金の上限を還付金相当額まで引き上げることができます(同条3項)。さらに、還付を受けるための申告書を提出した段階で、未遂として処罰されます(同条2項)。還付金が実際に振り込まれていなくても、不正な還付申告書を提出しただけで犯罪が成立し得るということです。
「偽りその他不正の行為」とは、税の徴収や還付を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を行うことを指すと解されており、架空の輸出取引を仕入帳や輸出書類で装う、実際には存在しない仕入れについて請求書を作成する、実際の仕入れ額を水増しするといった行為が典型です。単に計算を誤ったり、輸出証明書類の保存を怠ったりしただけでは、更正や加算税の対象にはなっても、この罪には当たりません。
争点となるのは、書類と実態の食い違いが、意図的な工作によるものか、取引の管理が杜撰であったことによるものかという点です。中国側の取引先との間で、商品の流れと代金の流れが一致していない、あるいは複数の会社を経由しているという事情は、それ自体は不正の証拠ではありませんが、捜査機関からは仮装の徴表として見られやすい傾向があります。取引の実在を示す資料を、中国側からも取り寄せて整理することが、防御の中心になります。
詐欺罪との関係
不正に還付を受ける行為は、国を欺いて還付金を交付させるものですから、性質としては刑法246条1項の詐欺に当たり得るものです。しかし、実務では、税法が固有の罰則として消費税法64条を置いていることから、同条によって立件されるのが通例です。法定刑は、詐欺罪が10年以下の拘禁刑、消費税法64条1項が10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科であり、税法の方が罰金の併科を予定している点で重くなっています。
なお、法人の代表者や従業者が法人の業務に関して不正受還付を行った場合には、行為者が罰せられるほか、法人にも罰金刑が科されます(消費税法67条1項)。代表者個人が刑事責任を負うだけでなく、会社が罰金を科され、その事実が会社の信用と在留資格の審査に響くという、二重の結果を生じます。
免税店(輸出物品販売場)を巡る不正
訪日客向けの免税販売についても、不正の疑いを持たれる場面が増えています。輸出物品販売場を経営する事業者が、免税購入対象者に対して一定の方法で物品を販売した場合、消費税が免除されます(消費税法8条1項)。免税購入対象者とは、原則として非居住者であって、短期滞在などの一定の在留資格で上陸した者を指します。
この制度は、購入者が物品を国外へ持ち出すことを前提としています。免税で購入した物品を出国までに輸出しないときは、出港地の税関長が消費税を徴収し(同条3項)、国内で譲渡することは禁じられており(同条4項)、承認を受けずに譲渡した場合には譲渡者から消費税が徴収されます(同条5項)。他人の旅券で免税購入を装う、免税で購入した物品を国内で転売する、店側がそれを知りながら販売を繰り返すといった行為は、免税の要件を欠くものとして、店側についても不正受還付の疑いにつながります。免税店の側で、免税購入対象者による購入であることを証する書類や電磁的記録を保存していなければ、免税の適用そのものが否定されます(同条2項)。
なお、免税販売の制度は、2026年11月から、購入時に免税とする方式から、出国時に税関の確認を経て還付する方式へ改められる予定です。制度の変わり目には、旧制度下の取引が遡って調査の対象になることがありますので、書類の保存状況を今のうちに確認しておくことをお勧めいたします。
税務調査から査察・告発への流れ
消費税に関する調査には、二つの性質の異なるものがあります。一つは、税務署の職員が質問検査権に基づいて行う調査で(国税通則法74条の2)、これは適正な課税のための任意の調査であり、修正申告や更正、加算税につながるものです。仮装や隠蔽があると認められれば重加算税が課されます(同法68条)。
もう一つは、国税局の査察部門が行う犯則事件の調査です。当該職員は、犯則嫌疑者に質問し、物件を検査し、任意に提出された物件を領置することができ(同法131条1項)、裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、捜索、差押えをすることができます(同法132条1項)。差し押さえるべき物件が電子計算機であるときは、接続する記録媒体の電磁的記録も対象となります(同条2項)。査察官が令状を持って事務所や自宅に入る場面は、この段階です。
犯則事件の調査により犯則があると思料されるときは、当該職員は検察官に告発しなければならないとされています(同法155条)。告発を受けた検察官が捜査を行い、逮捕・勾留を経て起訴するか、在宅のまま起訴するかを判断します。査察の着手から告発まで数か月から1年程度を要することが多く、この間に、取引の実在を裏付ける資料を整え、査察官への説明を組み立てることができるかどうかが、告発の有無と、告発後の量刑を左右します。
想定される刑事手続の流れ
告発後に逮捕された場合、警察や検察が48時間以内に手続を進め、検察官は24時間以内に勾留を請求するかを判断し、勾留は原則10日、延長でさらに10日まで認められます。査察事件は、告発の時点で証拠の大部分が収集済みであるため、逮捕された場合には、罪証隠滅よりも共犯者との通謀や逃亡のおそれを理由に勾留が続く傾向があります。外国籍の経営者の場合、出国のおそれが強調されやすく、勾留と接見禁止が付くことも珍しくありません。
他方で、査察事件は在宅のまま起訴される例も多く、逮捕されるかどうかは、事案の規模、否認の有無、証拠の状況によって分かれます。査察の段階から弁護人が関与し、資料の提出と説明を積み重ねることが、身柄拘束を避けるうえでも意味を持ちます。
経営・管理の在留資格への影響
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。不正受還付の事件は、還付額が大きいほど実刑となる可能性が高まりますから、まずこの号が問題になります。消費税法違反は、別表第一の在留資格で在留する方を対象とする同条4号の2が列挙する罪には含まれていませんが、詐欺罪(刑法第2編第37章)で処罰された場合には同号に該当し、執行猶予の有無を問わず退去強制事由となります。
経営・管理の在留資格に固有の問題は、会社の実体です。査察や刑事手続の過程で、会社の事業が停止し、取引先が離れ、従業員が退職すれば、本来の活動を行っていないとして在留資格の取消しの対象となり得ます(入管法22条の4第1項5号・6号)。また、在留期間の更新は、更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可されるものであり(同法21条3項)、更新の審査では、事業の継続性と安定性に加え、素行が善良であること、納税義務を履行していることが求められます。脱税や不正受還付で有罪となった事実は、これらのいずれにも直接響きます。
したがって、この類型では、刑事の結果が執行猶予にとどまったとしても、更新が不許可となり在留を失う危険が現実にあります。刑事手続と並行して、事業を継続し、修正申告と納税を完了し、再発防止の体制を整えたことを、更新申請の段階で示せるように準備しておく必要があります。
不起訴処分を最優先目標とする理由
当事務所は、この類型において、執行猶予判決を最終目標に置くのではなく、告発を回避すること、告発された場合には不起訴処分を得ることを最優先の目標として活動を組み立てております。上に述べたとおり、有罪判決は執行猶予であっても在留期間更新の審査に直接影響し、経営・管理の在留資格の方にとっては会社の存続と在留の双方を失うおそれがあるからです。
不起訴に向けた主張の柱は、取引の実在と、不正の意図の不存在です。輸出取引が実際に存在したこと、仕入れが実際に行われたことを、船積書類、決済記録、中国側の受領記録によって裏付け、書類の不備が意図的な工作ではなく管理の不備であったことを説明します。また、修正申告と納税を早期に完了することは、告発の要否や起訴の判断において重要な考慮要素になります。
査察の連絡や逮捕の連絡を受けたら押さえるべき3点
第1に、黙秘権です。憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されないことを保障し、刑訴法198条2項は取調べに先立つ告知を求めています。査察官の質問は任意のものですが、そこで述べた内容は後の刑事手続で証拠として用いられます。取引の経緯や書類の作成過程について、記憶に頼って述べた内容が、後に不正の意図を裏付けるものとして扱われることがあります。
第2に、早期の私選弁護人の選任です。査察事件では、税理士だけで対応しようとして、刑事手続の視点を欠いたまま説明を重ねてしまう例が少なくありません。査察は刑事事件の入口であり、告発前の段階から刑事弁護の視点で対応する必要があります。
第3に、通訳の質です。査察官や捜査機関が手配する通訳は、手続のための通訳であり、ご本人の利益のために動く立場ではありません。貿易取引の専門用語や中国側の商習慣を正確に伝えられるかどうかで、同じ説明が不正の自白にも、正当な取引の説明にもなります。当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。中国語の専属通訳が常駐しており、中国側の取引先とのやり取りや契約書の読み解きを、弁護士と通訳が一体となって行います。提携する行政書士とともに、経営・管理の在留資格の更新に向けたサポートも並行して行っております。
会社の支配を巡る紛争にも対応してまいりました。虚偽の株主総会決議によって代表取締役を解任されたとされる事件では、東京地方裁判所と東京高等裁判所のいずれにおいても依頼者側が勝訴いたしました。また、外資系企業の支配権を巡る紛争でも勝訴を得ております。会社の意思決定が誰によって行われていたのかを明らかにする作業は、法人の刑事責任と代表者個人の責任を切り分ける場面でも生きてまいります。
卸売業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得いたしました。取引の実在を資料によって裏付ける作業は、不正受還付の疑いに対して取引の真実性を示す場面と共通しております。
このほか、国際的な刑事事件や、世界的に報道された事件への対応経験を積んでおり、中国籍の方の重大事件にも多数対応しております。
結語
輸出免税と消費税の還付は、貿易業を営む方にとって正当な制度ですが、書類と実態の食い違いが「偽りその他不正の行為」と評価されれば、10年以下の拘禁刑を法定刑とする重い罪に直結します。そして、経営・管理の在留資格で会社を営む方にとっては、刑事の結論にかかわらず、会社の実体と納税の履行が在留の審査に直接影響します。査察の連絡を受けた時点で、税務の対応と刑事の対応、そして在留の対応を一体として設計できるかどうかが、その後を決めます。早い段階で、方針を立てられる立場の者にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
中文版(简体字):被怀疑出口免税、消费税退税申报不实时|消费税法64条、与诈骗罪的关系、免税店的违规,以及对经营·管理在留资格的影响
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------