児童買春・児童ポルノ禁止法違反で立件されたとき|示談が効きにくい類型と在留資格
2026/09/11
警察から連絡があり、スマートフォンやパソコンを提出するよう求められた。そこから先に何が待っているのか分からないまま、日々だけが過ぎていく。児童買春・児童ポルノ禁止法に関わる捜査は、しばしばこうした形で始まります。日本で働き、家族と暮らしておられる外国人の方にとって、この類型の事件は、刑事処分の重さそのものと同じくらい、その後の在留資格にどこまで影響が及ぶのかが切実な問題になります。本記事では、個別の事案には一切立ち入らず、制度の仕組みとして、この類型がなぜ他の犯罪類型と異なる扱いを受けやすいのか、在留にどう跳ね返るのか、そして最初の段階で何ができるのかを整理してご説明いたします。
本記事の要点
- この法律が守ろうとしているのは、被害を受けた児童個人の利益にとどまらず、児童一般の権利と健全な育成という社会全体の利益であり、示談が成立しても不利な評価が当然に解消されるわけではありません。
- 児童ポルノの単純所持罪は法定刑の上限が1年以下の拘禁刑であるため、その罪だけで入管法24条4号リの退去強制事由に当たることはありませんが、在留期間の更新審査では素行の面で不利に働き得ます。
- 出入国在留管理庁が公表している在留期間更新・在留資格変更の不許可事例には、児童ポルノ法違反に関するものが含まれています。
- 罰金刑にとどまった場合も、執行猶予付きの拘禁刑の場合も、在留への影響は残り得るため、起訴前の段階で不起訴処分、とりわけ起訴猶予を目指す弁護活動が要になります。
- 押収されたスマートフォンやパソコンは専門的な解析にかけられ、削除した履歴が復元されることもあります。
この法律は、誰の何を守るための法律なのでしょうか
結論から申し上げますと、この法律が正面から守ろうとしているのは、目の前の一人の児童の利益だけではありません。法律の題名自体が「児童の保護等に関する法律」と述べているとおり、児童一般の権利と、その健全な育成という、社会全体に関わる利益が保護の対象に含まれています。
この違いは、実務上きわめて大きな意味を持ちます。財産犯や傷害のように、特定の被害者個人の利益が侵害される類型、すなわち個人的法益に対する罪であれば、被害弁償と示談によって侵害された利益が個別的に回復され、処罰の必要性が具体的に薄れていきます。他方、社会全体の利益が問題となる類型では、たとえ関係する方との間で示談が成立しても、社会に向けられた側面までが同時に解消されるわけではありません。
弁護人としては、罪名の表面ではなく、その規定が何を守るために置かれているのかという保護法益から考えることを出発点にいたします。この類型で「示談さえすれば大丈夫」という助言が危ういのは、まさにこの点に理由があります。
どのような行為が、どの規定で処罰されるのでしょうか
主な罪をご説明いたします。まず、児童買春罪(同法4条)は、5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金と定められています。次に、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持する、いわゆる単純所持罪(同法7条1項)は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。
これに対し、他人に提供する行為(同法7条2項)や、提供の目的で製造・所持する行為(同条3項)は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金と重くなります。さらに、不特定又は多数の者に提供し、又は公然と陳列する行為(同条6項)になりますと、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科と、格段に重い扱いになります。
このように、同じ法律の中でも、手元に置いていたにとどまるのか、他人に渡したのか、不特定多数に向けたのかによって、法定刑が階段状に上がっていく構造になっています。加えて、事案によっては、令和5年に成立した性的な姿態を撮影する行為等の処罰に関する法律(性的姿態等撮影処罰法)が併せて問題となることもあります。どの規定が適用され得るのかによって見通しも弁護方針も変わってまいりますので、まずはこの整理が出発点になります。
被害を受けた方との示談ができれば、不起訴になるのでしょうか
示談が意味を失うわけではありません。もっとも、この類型では、示談が成立したことだけで直ちに不起訴に結び付くとは限らない、というのが率直なところです。理由は前述のとおりで、社会全体の利益に関わる側面が残るためです。
そこで弁護活動としては、示談や被害弁償が可能な事案でそれを尽くすことに加え、社会に向けられた側面に働きかける情状を積み上げていくことが必要になります。具体的には、贖罪寄付、機器や通信環境の整理を含む再犯防止のための具体的措置、専門的な医療機関やカウンセリングの受診とその継続、ご家族による監督態勢の確立といった事情です。これらを、抽象的な反省文ではなく、客観的な資料の形にして検察官に提出してまいります。
他方、事実関係そのものに争いがある場合には、当然ながらそこを争います。所持の事実の有無、対象とされた画像が法律上の要件に当たるかどうか、目的の有無は、いずれも争点になり得ます。
押収されたスマートフォンやパソコンは、どこまで調べられるのでしょうか
押収された機器は、専門の部署で解析にかけられます。通信アプリやSNSのやり取り、保存されていた画像や動画、閲覧の履歴、クラウドとの同期の状況までが対象になり得ます。
ご相談の中でよくうかがうのが、「消したから大丈夫だと思っていた」というお話です。しかし、削除した記録が復元されることは珍しくありません。むしろ、捜査が始まった後に慌てて削除する行為は、証拠隠滅を図ったものと評価され、身柄拘束が長引く方向に働くおそれがあります。捜査機関から連絡があった段階で、機器を操作することは避け、まず弁護人にご相談いただくことをお勧めいたします。
同じ理由から、関係する方にご自身で連絡を取ろうとすることも避けるべきです。関係者への働きかけと受け取られれば、勾留の理由や必要性の判断に直結いたします。
立件から処分が決まるまでの流れ
逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官へ身柄を送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断いたします。裁判官が勾留を認めますと、まず10日間、延長されればさらに最大10日間、身柄を拘束したまま捜査が続きます。この最初の72時間が、その後の展開を大きく左右いたします。
勾留期間の満了までに、検察官は起訴するか不起訴とするかを決めます。起訴されますと公判が開かれ、判決に至ります。不起訴には、嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予といった種類があり、いずれであっても前科は付きません。
なお、この類型では、逮捕を伴わず、在宅のまま捜査が進むことも少なくありません。在宅であっても、処分が決まるまでの間に弁護人が果たせる役割は大きく、「呼び出されたら行けばよい」とお考えになって放置することは望ましくありません。
在留資格には、どのように影響するのでしょうか
外国人の方にとって最も重要な条文の構造をご説明いたします。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定めていますが、括弧書きで、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれています。つまり、執行猶予が付けば、この号だけを理由に退去強制の対象となることはありません。
もっとも、「執行猶予が付いたから日本に居られる」という理解は正確ではありません。退去強制事由に当たらないことは、あくまで最低限の出発点にすぎないからです。在留期間の更新は入管法21条3項により法務大臣の裁量に委ねられており、在留資格の変更・在留期間の更新に係るガイドラインは素行が善良であることを求めています。有罪判決を受けた事実は、この素行の評価に直接影響いたします。加えて、在留資格の取消し(入管法22条の4)の問題も併存いたします。
現に、出入国在留管理庁が公表している在留期間更新・在留資格変更の不許可事例には、児童ポルノ法違反に関するものが含まれています。しかも、児童の保護という社会全体の利益に関わる類型であるため、被害弁償や示談が済んでいることをもって素行の評価が当然に回復されるとは限りません。罰金刑にとどまった場合であっても、更新審査の場面では不利に働き得るとお考えいただくのが、実際に即しています。
また、単純所持罪は法定刑の上限が1年以下の拘禁刑ですので、この罪だけで24条4号リに該当することはありません。しかし、それは退去強制の一つの入口を免れるという意味にすぎず、更新審査での評価はまた別の問題です。
なぜ、起訴される前の段階が決定的なのか
当事務所は、執行猶予判決の獲得を最終目標に置くのではなく、起訴される前の段階で不起訴処分を得ることを最優先の目標として、弁護活動を組み立てております。
理由は単純です。有罪判決を受けたという事実そのものが、その後の在留審査に長く影響を残すからです。入管法24条各号の構造を正確に把握しないまま「執行猶予なら大丈夫」とご説明することは、結果として在留資格の喪失につながりかねません。当事務所は、刑事手続の段階から、その先の退去強制手続や在留期間更新の場面までを一体のものとして視野に入れ、必要な資料を刑事手続の中で先に整えてまいります。
最初にしていただきたい3つのこと
第1に、黙秘権を行使できることを知っておいていただくことです。取調べで話した内容は調書として残り、後から撤回することは容易ではありません。日本の刑事手続では、供述しないことを理由に不利益な扱いを受けないことが保障されています。まずは弁護人と方針を相談してから話すという順序をお守りください。
第2に、できる限り早く弁護人を選任することです。逮捕された場合には、1回に限り無料で接見に来てもらえる当番弁護士の制度があります。ただし、当番弁護士がその後の弁護を当然に担当するわけではありませんので、継続的な弁護人の選任は別途ご検討いただく必要があります。
第3に、通訳の質を確保することです。当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、接見から公判に至る手続全般で利用していただけます。微妙な言い回しの違いが認識の有無の認定を左右する類型であるだけに、この点は軽視できません。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と、その先に続く入管手続を、一体のものとしてお引き受けしております。
解決事例を3件ご紹介いたします。まず、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者の事案です。徹底した証拠分析を行い、被告人質問と反対尋問を通じて事実関係を丹念に検討した結果、無罪判決を獲得いたしました。裁判員裁判の対象事件や、報道された重大事件にも多数対応してまいりました。
次に、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要である」とする従来の実務に対し、責任主義・過失責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められております。
さらに、観光目的で来日された相談者が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。日本人女性との間にお子様を授かっておられましたが、婚姻も認知も未了で、当局から一旦は不受理とされました。憲法的な観点から交渉を重ねて婚姻と認知を実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を丹念に収集し、入管当局の過去の許可事例を分析した上で、1回の申請で在留特別許可を獲得いたしました。
在留資格やビザに関する手続については、提携する行政書士と連携してサポートを行っております。刑事手続の見通しと在留の見通しを、同じテーブルの上に並べてご説明できることが、当事務所の特徴です。
おわりに
この類型の事件は、罪名の重さだけを見ていると判断を誤りやすい領域です。守られている利益が社会全体に及ぶために示談が効きにくく、他方で刑が軽く収まっても在留への影響は残り得るという、二重の難しさがあります。だからこそ、捜査が始まった最初の段階で、刑事処分と在留の双方を見据えた方針を立てることに意味があります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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