日本で薬物事件を起こすと、母国でも処罰されるのか|二重のリスクを考えるときの整理の仕方
2026/08/13
日本での手続の見通しがようやく立ってきた頃に、ふと浮かんでくるのが、帰国した後のことです。日本で処分を受けた事実が母国でも問題にされるのではないか。もう一度捜査を受けることになるのではないか。こうしたご不安を抱えたまま日々を過ごしておられる方は少なくありません。結論から申し上げますと、この問いに対して一つの答えを差し上げることはできません。国によって法制度も運用も異なり、当事務所が母国の法律について確定的な説明をする立場にないからです。本記事では、断定を避けながら、何を、誰に、どのように確認すればよいのかという道筋をご案内いたします。
本記事の要点
- 母国でも処罰されるかどうかは国により制度が異なり、日本の弁護士が一律にお答えできる事柄ではありません。
- 国によっては、国外で行われた行為を自国の刑法で処罰する規定を置いている場合があります。
- 同じ行為について二度処罰されないという原則が国境を越えてどこまで及ぶかも、国ごとの制度により異なります。
- 母国での在留資格・職業資格・旅券などへの影響も、国ごとに扱いが分かれます。母国の弁護士への確認が確実です。
- 他方、日本側の帰結は条文から明確です。入管法24条4号チと5条1項5号の効果を踏まえ、日本の手続に集中することが現実的です。
日本で処分を受けたら、母国でも罰せられますか
一律にはお答えできません。これは慎重を期した言い回しではなく、実際にそうだからです。刑法の適用範囲、国外で行われた行為の扱い、外国での処罰をどのように考慮するかといった論点は、いずれも各国の法律が定めるところであり、国ごとに大きく異なります。
インターネット上には、特定の国について断定的に述べる情報が流通しております。しかし、法改正や運用の変更は珍しくなく、ご本人の国籍、行為の内容、日本での処分の種類によっても結論は変わり得ます。当事務所は、日本法については条文に基づいて明確にご説明いたしますが、外国法については推測でお答えしないことを方針としております。
国外犯処罰という考え方について
多くの国の刑法は、自国の領域内で行われた行為を処罰することを原則としつつ、一定の場合には国外で行われた行為も処罰の対象とする規定を置いております。自国民が国外で行った行為を対象とする類型や、特定の重大な犯罪について国外の行為を対象とする類型などが知られております。
同じ行為について二度処罰されないという原則が、国境を越えた場面にどこまで及ぶかについても、国ごとに考え方が分かれます。外国での確定判決を自国の手続でどう扱うか、外国で服した刑を算入するか。これらはいずれも、その国の法律を確認しなければ判断できない事柄です。したがって、日本での結果が母国での帰結を自動的に決めるとお考えにならないほうが安全です。
母国にはどのように情報が伝わるのですか
どのような情報が、どの経路で母国の当局に伝わるかについても、一般化してお答えすることはできません。国家間の取決めの内容や各国の運用によって異なるためです。この点についても、憶測に基づく説明は避けるべきだと考えております。
なお、外国籍の方が逮捕された場合、領事関係に関するウィーン条約36条1項(b)に基づき、本国の領事機関への通報を求めることができます。これは、身柄を拘束された方が本国の保護を受けられるようにするための仕組みです。通報を求めるかどうかは、ご本人の意向を確認したうえで検討する事柄になります。
母国の弁護士に確認するときに、何を聞けばよいか
確認すべき事項をあらかじめ整理しておくと、限られた時間の相談でも要点を押さえられます。日本での処分の内容を正確に伝えることが前提になりますので、処分を示す書面は大切に保管し、必要に応じて翻訳を用意しておくことをお勧めいたします。
- 自国の刑法に、国外で行われた薬物関係の行為を処罰する規定があるか
- 外国での有罪判決や不起訴処分が、自国の手続でどのように扱われるか
- 帰国後に旅券の発給・更新や出国に制約が生じることがあるか
- 職業に関する免許や資格、公的な登録に影響が及ぶ可能性があるか
- 自国での在留や住民登録、社会保障の取扱いに変化が生じるか
それでも、まず日本側の手続に集中していただきたい理由
母国での扱いが不確実であるのに対して、日本側の帰結は条文の形で明確に定まっております。入管法24条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、又は刑法第2編第14章に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由として掲げ、刑種も刑期も限定しておりません。さらに5条1項5号は、薬物に関する法令違反により刑に処せられたことのある者を上陸拒否事由とし、期間の定めを置いておりません。
この二つの条文が意味するところは明快です。日本で有罪判決を受けなければ、いずれの条文も作動しない。したがって、外国人の薬物事件においては、公判で執行猶予を得ることではなく、起訴前の段階で不起訴処分を獲得することが、在留を守る完全な出口になります。不確実な将来を案じるよりも、いま働きかけることのできる場面に力を集中していただくほうが、得るものは大きいと考えております。
当事務所の体制について
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。国際的な要素を含む事件では、ご本人の説明の細部が結論を分けることが少なくありません。中国語については、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。中国語以外の言語については、事案に応じて通訳人を手配いたします。
刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともにワンストップで対応しております。母国の法制度に関するご質問については、当事務所が確定的な回答を差し上げることはできませんが、確認すべき論点の整理はお手伝いできます。
参考となる解決事例
当事務所は、国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績を有しております。国境をまたぐ事案では、証拠の所在や関係者の居所が複数国に分かれ、事実関係の再現そのものが困難になることがございます。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴されたご依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した事例がございます。また、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された相談者について、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況の中で有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することにより、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例もございます。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
帰国後のことを心配なさるお気持ちは、当然のものです。ただ、その不安の多くは、確認すれば輪郭がはっきりするものでもあります。母国の制度については母国の弁護士に、日本の制度については日本の弁護士に。役割を分けて確認していけば、見通しは少しずつ整ってまいります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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