舟渡国際法律事務所

日本生まれ・日本育ち、しかし国籍は外国の謎(1) 1歳で来日し25年半を日本で過ごした青年の在留特別許可訴訟

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日本生まれ・日本育ち、しかし国籍は外国の謎(1) 1歳で来日し25年半を日本で過ごした青年の在留特別許可訴訟

日本生まれ・日本育ち、しかし国籍は外国の謎(1) 1歳で来日し25年半を日本で過ごした青年の在留特別許可訴訟

2026/09/22

日本で生まれ、あるいは物心がつく前に日本へ来て、日本の学校で学び、日本語だけで暮らしてきた。それでも国籍は外国だ、という人がいます。在留資格を失えば、その人は法律上「外国人」として退去強制の対象になります。

当事務所では、この問題を「日本生まれ・日本育ち」シリーズとして取り上げます。第1回は、2026年9月に東京地方裁判所へ提起した在留特別許可をめぐる訴訟です。ご本人が特定されないよう、国名・地名・事件の詳細は伏せ、一部を抽象化しています(以下「Aさん」といいます。)。

本記事の要点

  • 日本の国籍法は血統主義です。日本で生まれ育っても、親が日本国民でなければ日本国籍は取得しません。
  • Aさんは1歳で来日し、「定住者」として約25年半適法に在留してきましたが、懲役2年の実刑判決を理由に在留特別許可を認められませんでした。
  • 当事務所は、不許可処分と退去強制令書発付処分の取消し、在留特別許可の義務付けを求めて提訴し、送還の執行停止も申し立てました。
  • 争点は、一つの実刑判決が、25年半の定着と国籍国に生活基盤がないという事情を覆すに足りるかどうかです。

日本で生まれても日本人にはならない理由

国籍法2条は、出生により日本国民となる場合を「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」などと定めています。基準は親の国籍であり、生まれた場所は、父母がともに知れないとき又は国籍を有しないとき(同条3号)を除き問われません。日本で育ったことも国籍には結び付きません。

日本国籍を得る道は帰化です。帰化には、素行が善良であることなどの条件があり(国籍法5条)、日本で生まれた人や10年以上日本に居所を有する人は住所の要件が緩められています(同法6条)。しかし帰化は法務大臣の許可によるもので、申請しなければ始まりません。子どものうちは、手続を選ぶのは親です。こうして、日本語しか話せない外国籍の人が、在留資格という許可の上で生活することになります。

Aさんの事案

Aさんは南米の国の国籍を持つ男性です。1歳で家族に連れられて来日し、上陸以来一貫して「定住者」の在留資格で、十数回の更新を経て約25年半暮らしてきました。日本の小学校と中学校を卒業し、話せるのは日本語だけです。国籍国で学んだことも働いたこともなく、生活の基盤はありません。

Aさんは罪を犯し、懲役2年の実刑判決を受けて(現行法の拘禁刑に当たります。)服役しました。服役中に在留期間が過ぎ、退去強制手続に付されました。在留特別許可を申請しましたが、2026年4月に不許可となり、退去強制令書が発付されました。現在は監理措置の決定を受け、収容を解かれています。

不許可の理由

入管法50条1項ただし書は、1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた人についても、「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるとき」は在留特別許可ができると定めています。

Aさんへの不許可の理由は、罪名と刑を挙げたうえで、特別の事情は認められない、在留を許可しないことが人道的見地から酷に過ぎるとは認められない、とするものでした。1歳で来日したこと、25年半の在留期間、国籍国に基盤がないことには触れられていません。

訴状の主な主張

第1に、実質的な消極事情は今回の実刑判決一つです。以前の執行猶予判決の後も、入管はAさんの在留期間の更新を繰り返し許可してきました。その猶予期間は処分時に満了し、刑の言渡しは効力を失っていました(刑法27条)。

第2に、公表事例との均衡です。出入国在留管理庁が公表した令和6年後半分・令和7年分の事例には、実刑判決を受けた人への許可例が複数あります。とくに、窃盗で懲役1年6月の実刑判決を受けた在日約22年の人について、「日系人として本邦で出生し、本邦の教育機関で教育を受けたもの」として、配偶者や子を挙げずに「定住者」を許可した例があります。Aさんとの違いは、日本で生まれたか1歳で来日したかという一点です。許否を分けているのは刑の重さではなく、在留特別許可歴、複数の実刑前科、家族との断絶、不法滞在の有無であり、Aさんにはそのいずれもありません。これを不許可とすることは憲法14条1項に反すると主張しました。

第3に、国自身の方針との整合です。国は2023年8月、日本で生まれ日本の学校で教育を受けた子どもとその家族に在留特別許可を与える方針を示し、201人中171人が許可されました。ガイドラインも、日本の初等中等教育機関で相当期間教育を受けたことを積極要素としています。大人になったことは、保護を弱める理由になりません。

第4に、入管法50条5項が定める考慮事情(在留期間、その間の法的地位、人道上の配慮の必要性等)を考慮していないことです。

第5に、比例原則と国際人権規約です。自由権規約12条4項は「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない。」と定め、自由権規約委員会は、この「自国」が国籍国より広く、その国と特別な結び付きを持つ人を含むと解しています。生後27日で入国し約33年を過ごした人について、犯罪歴があっても居住国を「自国」と認めた例(Nystrom v. Australia)もあります。国籍は外国でも、その人の「自国」は日本でありうるのです。

このほか、理由の示し方が罪名と刑の羅列にとどまり不十分であること、職員の誤った説明により口頭審理の請求を断念させられたこと、令和5年改正で在留特別許可が申請に基づく手続となったことから義務付けを求めることも主張しています。

送還の執行停止

判決の前に送還されれば、訴訟を続けることは事実上できず、上陸拒否により日本へ戻る道も閉ざされます。そこで、提訴と同時に退去強制令書の執行停止を申し立てました。

おわりに

事件は始まったばかりで、結論はまだ分かりません。問われているのは、刑に服した人を、その一つの判決を理由に、1歳から25年半を過ごした社会から言葉も知らない国へ送り出してよいのか、ということです。

日本で生まれ、あるいは幼くして来日し、日本で育った外国籍の方が、在留期間の更新不許可、在留資格の取消し、退去強制手続に直面している場合は、早い段階でご相談ください。手続には期限があり、とるべき手段は段階によって異なります。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本件は裁判所に係属中であり、記載は当方の主張を紹介するものです。

更新日:2026年9月22日

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士 第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録) 舟渡国際法律事務所。外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

弁護方針の全文:松村大介弁護士の弁護方針|法律に命を吹き込む(https://note.com/cool_pipit5023/n/n86fc2ef05201

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