薬物事犯は在留特別許可の「但書」対象外です|入管法50条1項但書を逐語で読む
2026/08/13
退去強制事由の場面では、薬物事犯はきわめて厳しい扱いを受けます。入管法24条4号チが、刑の重さを問わずに退去強制事由としているためです。ところが、在留特別許可の場面に目を移すと、条文の姿が変わります。判断の枠組みを加重する50条1項但書の列挙に、24条4号チは含まれていないのです。この事実は、薬物事案に取り組むうえでの数少ない足がかりの一つだと考えております。本記事では、但書の文言を一つずつ確認し、そこから何が言えて何が言えないのかを、控えめに、しかし正確に整理してまいります。
本記事の要点
- 入管法50条1項但書は、一定の場合に「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」という加重要件を課しております。
- 但書が列挙するのは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者(全部執行猶予等を除く)と、24条3号の2、3号の3、4号ハ若しくはオからヨまでに該当する者です。
- 薬物事犯を対象とする24条4号チは、この列挙に含まれておりません。
- したがって、1年を超える実刑でない限り、薬物事犯であることだけを理由に加重要件が課されることはありません。
- 但書の対象外であることは、許可されることを意味するものではなく、通常の枠組みで判断されるという意味にとどまります。
結論|24条4号チは、但書の列挙に載っておりません
入管法50条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、一定の場合に在留を特別に許可することができると定めております。その本文に続く但書が、判断の枠組みを加重する場合を定めております。
但書は、当該外国人が無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であって執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下のものを除く)であるとき、又は24条3号の2、3号の3、4号ハ若しくはオからヨまでに該当する者であるときは、本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、と定めております。
退去強制事由では最も厳しく、在留特別許可では列挙外|この非対称をどう読むか
同じ入管法のなかで、薬物事犯の扱いは場面によって異なっております。24条4号チは、罰金でも、刑の免除でも、全部執行猶予付きの判決でも、有罪の判決である限り退去強制事由に該当するという、きわめて広い規定です。これに対して50条1項但書は、加重の対象を明示的に列挙する方式をとっており、そこに4号チを掲げておりません。退去強制事由の入口では最も広く捉えながら、在留特別許可の判断枠組みでは特別の加重を置かないという対比が、条文から読み取れます。
もっとも、この非対称から過大な結論を導くことはできません。但書の対象外であるということは、加重要件が課されないという意味であって、通常の枠組みで判断される、それ以上でも以下でもございません。判断の内容は、50条5項の考慮要素に従って、事案ごとになされます。
なぜ「1年を超える実刑」だけが分かれ目になるのでしょうか
但書の前段が、刑の内容によって加重の有無を分けているためです。無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者が対象とされ、そこから、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者と、一部執行猶予で執行が猶予されなかった部分が1年以下の者とが除かれております。
同じ構造は、退去強制事由の側にも現れております。24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としつつ、但書で全部執行猶予の言渡しを受けた者などを除いております。もっとも4号リは柱書で「ニからチまでに掲げる者のほか」と定めており、薬物事犯はもともとその守備範囲の外にございます。
- 全部執行猶予=但書前段に当たりません
- 一部執行猶予で実刑部分1年以下=但書前段に当たりません
- 実刑1年以下=但書前段に当たりません
- 無期又は1年を超える実刑=但書前段に当たります
実刑1年超を避けることに、どのような意味があるのでしょうか
刑事弁護における量刑の争いは、服役期間の長短の問題として理解されるのが通常です。しかし外国人の薬物事件では、在留特別許可の判断枠組みが加重されるかどうかという意味が重なります。令和6年の犯罪白書(原資料は司法統計年報)によりますと、地方裁判所における有期刑の科刑は、覚醒剤取締法違反が総数4,770人のうち全部執行猶予1,717人(36.0%)、実刑(一部猶予を含む)3,053人(64.0%)、大麻取締法違反が総数2,326人のうち全部執行猶予1,959人(84.2%)、実刑367人(15.8%)とされております。
誤解を避けるために|但書対象外であることの限界
但書が課すのは、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるとき」に限るという判断のハードルです。その対象外であるということは、このハードルを課されないというだけであり、許可の判断そのものは50条5項の考慮要素に基づいてなされます。
また、在留特別許可には手続上の枠がございます。申請は、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が行うものとされ(50条2項)、認定・判定に服し、又は裁決の後でなければすることができず(50条4項)、退去強制令書が発付された後はできません(50条3項)。
第一の目標は、やはり不起訴処分の獲得です
在留を守るという観点から見た最善の結果は、有罪の判決そのものが存在しないこと、すなわち不起訴処分でございます。令和6年の犯罪白書(原資料は検察統計年報)によりますと、起訴猶予率は、覚醒剤取締法違反が8.5%、大麻取締法違反が35.5%、麻薬取締法違反が15.9%、麻薬特例法違反が52.5%とされております。参考として、道路交通法違反を除く特別法犯全体の起訴猶予率は45.5%です。
そのうえで、起訴を避けられなかった場合には、量刑の局面で1年を超える実刑を回避することが、次の目標として位置づけられます。当事務所が不起訴目標主義と呼んでいるのは、この優先順位を最初に確定させ、そこから逆算して弁護活動を設計する考え方でございます。入管法の構造を踏まえていなければ、この設計は組み立てられません。
当事務所の体制と、これまでのお取り扱い
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。量刑の局面と在留の局面をひとつながりで判断するためには、事件の細部を知る者が最後まで関与することが必要だと考えております。
中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。その他の言語は事案に応じて通訳人を手配し、手続終了後の在留資格の更新・変更等は提携の行政書士とともに対応しております。
お取り扱いの例としては、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した事例がございます。裁判員裁判対象事件や、世界的に報道された重大事件、国際刑事事件への対応実績もございます。また、不法滞在で逮捕・起訴された相談者について在留特別許可を獲得した事例もございます。
条文を正確に読むという作業は、地味ではありますが、採りうる手立ての範囲を確定させる作業でもございます。50条1項但書に24条4号チが載っていないという一点は、薬物事案において主張を組み立てる際の出発点になります。過大にも過小にも評価せず、そのままの意味で使っていくことが大切だと考えております。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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