退去強制手続の全体像|違反調査から裁決・令書発付までを時系列でたどる
2026/08/13
収容されているご本人からの連絡や、入管から届いた書類を前にして、いま自分たちがどの段階にいるのか分からない。そうしたご相談を、当事務所は数多くお受けしてまいりました。退去強制の手続は、いくつもの段階が積み重なった構造になっており、段階ごとに担当する職員も、採りうる対応も異なります。逆に申しますと、現在地さえ把握できれば、次に何が来るのかは見通せる手続でもございます。本記事では、違反調査から退去強制令書の発付までを時系列に沿って並べ、ご自身の位置を確認していただけるように整理いたします。
本記事の要点
- 退去強制の手続は、違反調査、入国審査官による違反審査と認定、特別審理官による口頭審理と判定、法務大臣への異議の申出と裁決、退去強制令書の発付という順序で進みます。
- 薬物事犯で有罪の判決を受けた場合、入管法24条4号チにより退去強制事由に該当いたします。
- 在留特別許可は、47条3項の認定若しくは48条8項の判定に服し、又は49条3項の裁決の後でなければすることができないと50条4項が定めております。
- 在留特別許可の申請は、収容令書により収容された方又は監理措置決定を受けた方が行うものとされております(50条2項)。
- 退去強制令書が発付された後は在留特別許可の申請をすることができません(50条3項)。
手続の骨格を、はじめに一つの流れとして掴む
退去強制の手続は、大きく次の順序で進みます。まずこの骨格を頭に入れていただくと、届く書類の意味が見えやすくなります。
入管職員による違反調査が行われ、退去強制事由に当たる疑いがあると判断されると、入国審査官による違反審査に移り、退去強制対象者に当たるかどうかが認定されます。この認定に納得できないときは特別審理官による口頭審理を求めることができ、その結果として判定がなされます。判定にも納得できないときは法務大臣に対して異議を申し出ることができ、これに対する裁決がなされます。裁決を経てなお退去強制対象者とされた場合に、退去強制令書が発付されるという流れです。
この流れの各段階には、それぞれ法定の期間が定められております。期間を過ぎますと次の段階へ進む機会が失われますので、書類を受け取った日付を控えておくことが大切です。
- ① 違反調査(入国警備官)
- ② 違反審査と認定(入国審査官)/47条3項
- ③ 口頭審理と判定(特別審理官)/48条8項
- ④ 異議の申出と裁決(法務大臣)/49条3項
- ⑤ 退去強制令書の発付
いま自分はどの段階にいるのでしょうか
受け取った書類の名称と、話をした相手の職名から、おおよその位置を判断することができます。
調べを受けている段階であれば、違反調査です。収容令書が示されて収容されているのであれば、違反審査に向かう局面にあります。認定を告げる書面を受け取っておられるのであれば、次は口頭審理を求めるかどうかの判断です。判定を受けておられるのであれば法務大臣への異議の申出を、裁決の通知を受けておられるのであれば令書発付が目前という段階になります。
違反調査と収容の局面
違反調査は、退去強制事由に当たる疑いがあるかどうかを調べる手続です。薬物事件では、刑事手続の結果として有罪の判決があれば、入管法24条4号チに該当することになります。同号は、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、又は刑法第2編第14章に違反して有罪の判決を受けた者を掲げております。
違反審査・口頭審理では、何を争うことができるのでしょうか
この二つの段階で正面から問われるのは、退去強制事由に当たるかどうかという点です。有罪判決の存在が明らかな事案では、争いの余地が乏しいように見えることもございます。しかし、判断の対象となる事実関係そのものに疑義がある場合には、そこを丁寧に指摘していく意味がございます。
当事務所が問題意識を持っているのは、この局面における故意・過失の位置づけです。入管実務では、退去強制事由の判断に故意・過失は要件とされないとする運用が長年踏襲されてまいりました。松村大介弁護士は、不法就労助長を理由とする退去強制の事案において、責任主義の射程が行政処分たる退去強制にも及ぶべきではないかを正面から問う訴訟を現在も係属させております。この論点は係争中であり、結論を先取りしてお示しすることはできません。
薬物事件では、預かった荷物の中身を知らなかった、運搬を依頼された経緯に事情があったという事案が現に存在いたします。刑事手続で故意を徹底して争い、その記録を残しておくことが、この段階での主張の基礎になります。口頭審理では証拠を提出し、意見を述べる機会がございます。
異議の申出、裁決、そして在留特別許可の位置
法務大臣への異議の申出に対する判断が裁決です。そして、在留特別許可は、この流れのなかに明確な位置を与えられております。50条4項は、47条3項の認定若しくは48条8項の判定に服し、又は49条3項の裁決の後でなければ在留特別許可をすることができないと定めております。つまり、在留特別許可は手続の終盤に置かれた仕組みです。
申請の主体についても条文がございます。50条2項は、在留特別許可の申請を、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が法務大臣に対して行うものと定めております。
判断の内容については、50条5項が考慮要素を法定しております。在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性などを考慮するものとされ、50条10項により、不許可のときは速やかに理由を付した書面で通知されることになっております。
各段階でご家族にできること
ご本人が収容されている状況では、ご家族の役割が大きくなります。戸籍や住民票、お子さまの在籍証明、納税証明、在職証明、家族の陳述書。こうした書類は、在留特別許可を求める段階になってから急いで集めようとすると、時間が足りなくなりがちです。手続の早い段階から少しずつ準備しておくことをお勧めいたします。
- 入管から届いた書類は、日付とともに保管しておく
- ご本人が受けた説明の内容を、その都度メモに残す
- 家族関係・就労・納税に関する資料を早めに集め始める
- 刑事事件の記録のうち入手できるものを確認しておく
当事務所の体制と、これまでのお取り扱い
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)では、松村大介弁護士が刑事の接見から入管手続に至るまでを直接担当いたします。段階ごとに担当が替わることで情報が失われる事態を避けることが、この方針の目的でございます。
中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。その他の言語は事案に応じて通訳人を手配し、手続終了後の在留資格の更新・変更等は提携の行政書士とともに対応しております。
お取り扱いの例としては、冤罪により不法就労助長罪に問われて強制退去の危機に瀕した女性の事件で、前例のない在留特別許可を獲得し、あわせて退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務を問う訴訟を係属させております。また、不法滞在で逮捕・起訴された相談者について、当局との交渉と過去の許可事例の分析により在留特別許可を獲得した事例もございます。
退去強制の手続は、外から見ると一続きの流れのように映りますが、実際には段階ごとに区切られた構造を持っております。その区切りを知ることは、次に何を準備すべきかを知ることでもあります。書類を受け取った日付を確認するところから、どうか始めてみてください。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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