技術・人文知識・国際業務の社員が薬物で逮捕された|仕事と在留を同時に失わないために
2026/08/13
日本の会社に就職し、技術・人文知識・国際業務の在留資格で働いてこられた方が薬物事件の当事者となると、雇用と在留という二つの基盤が同時に揺らぎます。ご本人にとっては生活そのものが、勤務先にとっては人員体制と対外的な信用が問題となり、双方が短い時間で判断を迫られる状況が生まれます。ここでは、この在留資格に固有の構造を確認したうえで、ご本人の側、そして人事のご担当者の側から、それぞれ何を検討すべきかを順にご説明いたします。
本記事の要点
- 技術・人文知識・国際業務は入管法別表第一の在留資格で、在留期間の更新を重ねる類型です。
- 薬物事犯については、別表の区別を問わず入管法24条4号チが有罪判決のみで作動します。
- 別表第一に上乗せされる24条4号の2は刑法の一定の罪等に関する規定であり、薬物はこの号ではなく4号チの問題です。
- 在留を失う経路は、退去強制事由と、更新審査における素行の評価の二つがあります。
- 令和7年の来日外国人犯罪の在留資格別で、技術・人文知識・国際業務は1,069人(8.4%)です(警察庁)。
この在留資格はどのような位置づけにありますか
入管法別表第一に掲げられた在留資格であり、本邦で行う活動に着目して付与されます。在留期間が定められており、更新の許可を受けながら在留を継続する仕組みです。永住者や日本人の配偶者等といった別表第二の資格が、身分又は地位に基づくものであるのとは、構造が異なります。
別表第一の在留資格をもって在留する方には、入管法24条4号の2という退去強制事由が別に置かれています。刑法の一定の章に掲げられた罪、暴力行為等処罰法の一定の罪、自動車運転死傷処罰法2条又は6条1項の罪などにより拘禁刑に処せられたときに該当し、執行猶予が付されていても適用があります。別表第二の方には適用されません。
ただし、薬物事犯はこの号の守備範囲ではございません。薬物については、在留資格の種類を問わない24条4号チが適用されます。就労資格であることが、この点で有利にも不利にも働くわけではありません。
有罪判決を受けると在留はどうなりますか
退去強制事由に該当することになります。刑の重さは問われません。
入管法24条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、刑法第2編第14章に違反して有罪の判決を受けた者と定めており、刑種にも刑期にも限定を設けていません。執行猶予による除外もございません。
在留を失う経路は、これに加えてもう一つございます。在留期間の更新や在留資格の変更の審査において、素行が善良であることが求められるという経路です。仮に不起訴となり退去強制事由に該当しない場合でも、更新が認められなければ、在留期間の満了によって在留の基礎を失うことになります。別表第一の有期の在留資格に特有のリスクです。
解雇されたら、在留資格も失われるのですか
解雇と在留資格の喪失は、法律上は別個の事柄です。もっとも、実際には強く連動いたします。
この在留資格は、本邦で行う活動を前提として付与されるものですから、活動の実態がなくなれば、更新の審査において不利に働きます。また、在留資格の取消しについては入管法22条の4が定めており、これは刑罰を理由とする制度ではなく、偽りその他不正の手段による許可や、その在留資格に応じた活動を行わないで在留していることなどに着目した別軸の仕組みです。退去強制の制度と混同しないことが大切です。
したがって、雇用関係をどう扱うかは、在留の見通しに直結いたします。事実関係が確定しないうちに退職の意思表示をしてしまうと、後に不起訴となった場合でも、復職の道が閉ざされていることがございます。判断を急がず、弁護人と相談しながら進めていただければと思います。
勤務先の人事担当者が押さえておくべき点
会社の側でも、いくつか整理しておくべき事項がございます。いずれも、結論を急がないことが共通の前提です。
事件に関する情報は、社内であっても広く共有すべきものではありません。関係者を特定しうる情報が外部に流出すれば、ご本人の権利を害するばかりでなく、会社にとっても別の問題を生じさせます。ご本人の同意を得たうえで、弁護人を窓口として必要な範囲の情報をやり取りする形が、実務的には最も安全です。
- 身柄拘束の見込みと、業務への影響の範囲
- 不起訴となった場合に、就労を継続する余地があるか
- 在留期間の満了時期と、更新手続に必要となる資料
- 社内での情報の取扱いと、公表の要否
- ご本人の同意を前提とした、弁護人との連絡体制
執行猶予がついたら「勝ち」といえるのでしょうか
日本人の依頼者であれば、社会内での生活を継続できるという意味で、十分な成果といえる場面がございます。しかし外国人の薬物事件では、そうはなりません。
24条4号チに但書がない以上、執行猶予が付されても退去強制事由は生じます。執行猶予による除外が働くのは24条4号リの但書ですが、同号は「ニからチまでに掲げる者のほか」と書き起こされており、薬物事犯はそもそもその守備範囲の外にあります。この対比を理解しないまま弁護方針を立てれば、刑事の結論としては穏当でも、在留を失うという事態が起こりえます。
したがって、弁護活動の最優先目標は、起訴前段階における不起訴処分の獲得に置かれるべきだと考えております。被疑事実の成否そのもの、所持や使用に関する認識、押収手続の適法性を検討すると同時に、就労の継続性、生活の安定、監督体制といった事情を、処分を決める検察官に対して具体的に示していく作業が中心となります。あわせて、退去強制手続における事由該当性の争い、在留特別許可における入管法50条5項の考慮要素の構築という、その後の局面も見据えて記録を残しておくことになります。
当事務所の体制について
舟渡国際法律事務所は東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階にございます。松村大介弁護士が、初回の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。
中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続の全般で利用していただけます。英語・ベトナム語・韓国語等については、事案に応じて通訳人を手配いたします。
これまでにお受けした事案から
特殊詐欺の出し子とされた20代の女性について、主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事案がございます(B-1)。処分決定前の段階で何をどう示すかが、その後を大きく分けます。
特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べへの対応、不当な取調べに対する抗議、主張立証を重ね、全件について不起訴を獲得いたしました(B-2)。身柄拘束が長期化する局面での対応の積み重ねが結果につながった事案です。
会社での立場と在留資格は、別々の制度に支えられていながら、実際には互いを支え合っています。片方の判断を急いだために、もう片方の選択肢が消えてしまうことは避けたいところです。ご本人にとっても勤務先にとっても、まずは事実関係と手続の見通しを確認するところから始めていただければと思います。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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