営利目的と認定されると何が変わるか|大麻・覚醒剤の営利目的を争う視点
2026/08/13
薬物事件の弁護において、単純所持として扱われるか、営利目的の所持として扱われるかは、法定刑の下限を動かし、身柄の帰趨を動かし、そして外国人の依頼者にとっては在留特別許可の判断枠組みまで動かします。押収された量、小分けの袋、秤、現金、携帯電話に残された連絡の履歴。こうした断片から営利の目的が推認されていく過程には、争う余地が残されている場面が少なくありません。本稿では、営利目的という要素が事案全体をどのように変質させるのかを、条文と手続の両面から見てまいります。
本記事の要点
- 大麻の営利目的の所持・譲渡し・譲受けは麻向法66条2項により1年以上10年以下の拘禁刑、情状により同刑及び300万円以下の罰金となります。
- 覚醒剤の営利目的の所持・譲渡し・譲受けは覚醒剤取締法41条の2第1項の加重類型として1年以上の有期拘禁刑及び500万円以下の罰金が定められています。
- 営利目的の有無を問わず、有罪判決である限り入管法24条4号チの退去強制事由には該当します。
- 1年を超える実刑となった場合には、入管法50条1項但書の加重要件が作動し、在留特別許可の判断基準が厳しくなります。
- したがって弁護の目標は、不起訴、営利目的の否定、実刑期間の抑制という順で階層的に設計する必要があります。
営利目的が付くと法定刑はどこまで重くなるのでしょうか
最も大きな変化は、刑の下限が設けられる点にございます。大麻については、単純な所持・譲渡し・譲受けが麻薬及び向精神薬取締法66条1項により7年以下の拘禁刑であるのに対し、営利の目的がある場合は同条2項により1年以上10年以下の拘禁刑となり、情状により同刑及び300万円以下の罰金が併科されます。
覚醒剤については、所持・譲渡し・譲受けが覚醒剤取締法41条の2第1項により10年以下の拘禁刑と定められておりますが、営利の目的がある場合は1年以上の有期拘禁刑となり、これに500万円以下の罰金が加わります。上限が事実上大きく引き上げられる構造です。
下限が1年以上に引き上げられるということは、量刑の出発点が変わるということでもあります。単純所持であれば十分に視野に入る処分が、営利目的の認定を経ることで視野の外に出てしまう、という事態が生じ得ます。
- 大麻・単純所持等(麻向法66条1項)=7年以下の拘禁刑
- 大麻・営利目的(同66条2項)=1年以上10年以下の拘禁刑、情状により同刑及び300万円以下の罰金
- 覚醒剤・所持等(覚醒剤取締法41条の2第1項)=10年以下の拘禁刑
- 覚醒剤・営利目的(同項の加重類型)=1年以上の有期拘禁刑及び500万円以下の罰金
営利目的はどのように推認されていくのでしょうか
営利の目的は、本人の内心にかかわる事柄ですので、多くの事案では外形的な事実からの推認によって認定が試みられます。実務上しばしば持ち出されるのは、押収された薬物の量、複数の小分け包装、電子秤やチャック付き袋といった器材、まとまった現金、そして通信履歴に残された取引をうかがわせるやり取りなどです。
しかし、これらはいずれも、それ自体としては営利目的以外の説明が成り立ち得る事実でもあります。自己使用者が一定量をまとめて入手する例、小分けの包装のまま譲り受けた例、現金の出所が就労収入や送金である例、通信の相手方が売買ではなく共同使用の相手である例など、事案の実相は一様ではございません。
推認は、前提となる事実が一つ崩れると全体の説得力が変わることがございます。したがって、それぞれの間接事実について、いつ、誰から、どのような経緯で、という具体的な説明を、記録と矛盾しない形で積み上げていく作業が要となります。
営利目的を争うということの実際
争い方は事案によって異なりますが、大きく分けて、間接事実の存在自体を争う場面と、間接事実は認めたうえでそこから営利目的を推認することの当否を争う場面がございます。後者では、生活状況、収入、使用歴、入手の経緯といった全体像を提示し、推認の過程に飛躍がないかを検討してまいります。
供述の扱いにも注意が必要です。取調べの場で「売るつもりもあった」といった趣旨の供述が録取されますと、後にこれを覆すことは容易ではございません。とりわけ通訳を介した取調べでは、日本語の「営利目的」という法律用語が、日常語としてのニュアンスと重なり合わないまま調書に落とし込まれてしまうことがございます。供述の一つひとつが持つ意味を、その場で理解しておくことが大切です。
当事務所では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問を通じて無罪判決を獲得した経験がございます。営利目的の認定は、争えば必ず覆るというものではございませんが、争う余地がないと決めつけてよいものでもありません。
在留への影響は、単純所持の場合と違うのでしょうか
退去強制事由に該当するかどうか、という一点に限れば、違いはございません。入管法24条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法や覚醒剤取締法などに違反して有罪の判決を受けた者を掲げるのみであり、営利目的の有無も、刑の重さも、条文上は要件とされていないからです。単純所持で罰金となった場合も、営利目的で実刑となった場合も、退去強制事由が生じるという点では同じ結論に至ります。
違いが生じるのは、その先の在留特別許可の場面です。入管法50条1項但書は、無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(全部執行猶予の言渡しを受けた者、及び執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下の一部猶予の者を除く)については、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、という加重要件を課しております。
薬物事犯を定める24条4号チは、この但書の列挙には含まれておりません。したがって、1年を超える実刑に至らなければ、加重要件ではなく通常の枠組みで判断されることになります。営利目的の認定によって刑の下限が1年以上へ引き上げられるということは、この分岐点に事案を近づけるということでもあり、そこにこの争点の制度的な重みがございます。
目標を階層的に設計する
外国人の薬物事件では、執行猶予判決の獲得を最終目標に据える弁護方針は、在留という観点からは目標設定を誤っております。24条4号チの構造上、有罪判決は刑種を問わず退去強制事由を生じさせるからです。まず目指すべきは、起訴前段階における不起訴処分の獲得でございます。
もっとも、営利目的が問題となる事案では、不起訴という出口の実現可能性が事案により大きく異なります。そこで当事務所では、目標を一つに絞り込まず、階層として設計いたします。第一に不起訴処分、これが困難であれば第二に営利目的の否定と単純類型としての処理、さらに実刑が避けられない見通しであれば第三に1年を超えない範囲への抑制、という順序です。
この三段目までを視野に入れるかどうかで、公判で提出すべき情状資料の性質が変わってまいります。在留特別許可の判断枠組みを見据えた立証を、刑事手続の段階から並行して積み上げていく必要がございます。
解決事例と弁護体制
営利目的が争点となる事案および重大事件について、当事務所の取扱い実績のうち公表可能な範囲を二件挙げます。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
松村大介弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。営利目的が争われる事案では、押収物の状況、通信記録、共犯者の供述といった多数の資料を突き合わせる作業が不可欠であり、担当を分散させない体制がここで生きてまいります。中国語については外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、中国語以外の言語につきましては事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続終了後の在留手続については、提携の行政書士とともに対応しております。
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得いたしました。
- 国際的な刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績がございます。
営利目的という一語が付くかどうかで、事案の景色は大きく変わります。刑の下限が動き、身柄の見通しが動き、そして在留特別許可の判断基準が動きます。押収物の状況から自動的に結論が導かれるわけではなく、そこには常に、経緯を丁寧に語り直す余地が残されております。ご不安を抱えたまま取調べに臨まれる前に、記録に即した検討の機会を持たれることをお勧めいたします。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------