「認めれば早く出られる」と言われたら|自白と在留、二つのリスクの重なり
2026/08/13
取調べの場で、認めれば早く帰れる、争えば長引く、という趣旨の言葉を掛けられたというお話を、ご本人やご家族から伺うことがございます。仕事や家族のことを思えば、一日でも早く外に出たいと願うのは当然のことでございましょう。ただ、外国人の薬物事件では、早く出るという目的と、日本に住み続けるという目的とが、必ずしも同じ方向を向きません。本稿では、この二つがどこで食い違うのか、取調べにどう向き合えばよいのかを整理してまいります。
本記事の要点
- 早期の身柄解放と、在留資格を守ることとは、別の目的であり、時に相反いたします。
- 薬物事件では有罪の判決そのものが入管法24条4号チの退去強制事由となり、刑の重さを問いません。
- 供述するかしないかは本人の権利であり、黙秘を選ぶことが不利益な取扱いの理由とされるべきものではございません。
- 通訳を介した供述は、ニュアンスが調書上で変わることがあるため、読み聞かせの段階での確認が重要です。
- 故意を争った記録は、後の入管手続における主張の土台となり得ます。
早く出ることと、日本に住み続けることは、同じ目的なのでしょうか
残念ながら、常に同じではございません。ここが、外国人の刑事事件で最も誤解されやすい点でございます。
たしかに、事実を認めて争点がなくなれば、手続が早く進むことはございます。しかし薬物事件の場合、その先には有罪の判決という結論が待っております。入管法24条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、刑法第2編第14章のいずれかに違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由と定めており、刑種にも刑期にも触れておりません。罰金でも、刑の免除でも、執行猶予付きでも該当いたします。早く出られたとしても、その後に入管の手続が始まるという構図になり得るのです。
「認めれば早く出られる」という説明を、どう受け止めればよいのですか
まず、その言葉が何を約束しているのかを冷静に見極める必要がございます。身柄の拘束を続けるかどうかを決めるのは裁判官であり、起訴するかどうかを決めるのは検察官です。取調べの場でなされる見通しの説明は、結果を保証するものではございません。
そのうえで申し上げますと、事実に反する内容を認めてしまった場合の回復は、想像以上に困難です。一度作成された調書は記録として残り、後に説明を変えれば、なぜ最初はそう述べたのかと問われます。逆に、事実として認めるべき点があるならば、それを誠実に述べたうえで情状を積み上げていく方針が有利に働くこともございます。要は、認めるか否かではなく、何が事実かを確定させてから方針を決めるという順序が大切なのでございます。
黙秘権と、供述調書への署名について
供述するかどうかは、ご本人が選ぶことができます。答えたくない事項について答えないという対応も、法が認めた権利の行使であって、後ろめたいことではございません。ご本人には、この点を最初の接見で明確にお伝えするようにしております。
供述調書は、話した言葉がそのまま書き取られるものではなく、取調べを担当する側が要旨をまとめる形で作成されます。読み聞かせの後に署名を求められますが、内容が自分の述べたところと違うと感じたときには、その場で修正を求めることができます。署名を拒むこともできます。理解できないまま署名してしまうことだけは、避けていただきたいところです。
- 答えたくない事項について答えないという選択ができる
- 調書の内容に違和感があれば、その場で訂正を申し出てよい
- 内容を理解できないまま署名する必要はない
- 取調べの状況で気になったことは、接見の際に弁護人へ具体的に伝える
通訳を介した供述には、どのようなずれが生じ得るのか
言語をまたぐ手続では、微妙な言い回しが失われやすくなります。たとえば、そうかもしれないと思った、という留保のある表現が、知っていた、という断定に置き換わってしまう。誰かから預かった、という説明が、受け取った、と要約される。こうしたずれは、後に故意の認定を左右し得る重大な差でございます。
捜査機関が手配する通訳は、あくまで手続を進めるために置かれているものです。ご本人の立場に立って、言葉の選び方まで一緒に検討してくれる存在ではございません。だからこそ、弁護人側の通訳を通じて、母語で事実関係を丁寧に確認しておくことに意味がございます。
故意を争った記録が、後の手続で持つ意味
薬物事件では、荷物を預かっただけだった、中身を知らなかった、といった認識をめぐる争いが少なくありません。刑事手続の中で、この点を丁寧に主張し記録に残しておくことは、後の入管手続においても意味を持ちます。
入管の実務では、退去強制事由の判断に故意や過失は要件とされないとする運用が長く踏襲されてまいりました。松村大介弁護士は、不法就労助長を理由とする退去強制の事案において、責任主義の考え方が行政処分たる退去強制にも及ぶべきではないかを正面から問う訴訟を、現在も継続しております。結論を先取りして申し上げることはできませんし、係争中の論点であることをお断りしておきます。それでも、刑事段階で認識の内容を争い、その経緯を記録に残しておくことが、第二の防御線を組み立てる際の土台になるという実務的な意義は、はっきりと申し上げられます。
反対に、早く出たい一心で認めてしまえば、後の手続で認識を争う余地は狭まります。
当事務所の体制について
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。取調べへの対応方針は、日々の状況に応じて調整が必要となりますので、担当者が代わることのない体制を採っております。
中国語については、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけますので、供述のニュアンスを母語で確認しながら方針を決めることができます。中国語以外の言語につきましては、事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続の終了後に必要となる在留資格の手続については、提携の行政書士とともに対応いたします。
これまでにお受けした事案から
特殊詐欺の受け子とされ、複数回にわたって再逮捕された事案では、取調べへの対応を細かく設計し、不当な取調べに対しては明確に抗議を行い、主張立証を積み重ねることで、全件について不起訴処分を獲得いたしました。取調べにどう向き合うかが結論を分けた例でございます。
また、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の徹底的な分析と被告人質問・反対尋問を通じて無罪判決を得た事案もございます。冤罪により不法就労助長罪に問われた女性の事件では、責任主義の射程を問う訴訟を継続するとともに、同罪の認定事件において前例のない在留特別許可を獲得した実績もございます。
早く出たいという願いは、決して間違ったものではございません。ただ、決断の前に一度、弁護人と事実関係を確かめる時間をお取りください。方針を丁寧に設計すれば、身柄の解放と在留の維持を同時に目指す道も開けてまいります。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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