大麻の起訴猶予率35.5%と覚醒剤の8.5%|統計から読む薬物事件の勝負所
2026/08/13
これから先の見通しを知りたい、その一心で数字をお探しのご本人やご家族がいらっしゃいます。刑事手続は結果が読みにくいものですから、そのお気持ちは自然なことと存じます。公表されている統計は手がかりの一つになりますが、個別の事件の結論を告げてはくれません。本稿では、令和6年版犯罪白書と警察庁の公表資料に基づき、罪名ごとに何がどれだけ違うのかを整理したうえで、その数字をどこまで信じ、どこから先は信じるべきでないかを、外国人の在留という視点を交えて申し上げます。
本記事の要点
- 令和6年の起訴猶予率は、大麻取締法違反が35.5パーセント、覚醒剤取締法違反が8.5パーセントで、罪名により大きく異なります。
- 科刑段階では大麻の全部執行猶予率が84.2パーセントに達しますが、外国人にとって執行猶予は在留の保障になりません。
- したがって統計上の勝負所は、公判ではなく検察官の処分決定前の段階に置かれます。
- 公表統計は罪名ごとの全体値であり、初犯か再犯か、単純所持か営利目的かの区別を含んでおりません。
- 令和7年の外国人の薬物事犯検挙人員は1,502人で、前年より214人増加しております。
罪名ごとの数字を並べてみます
まず全体像です。令和6年版犯罪白書(原資料は検察統計年報)によれば、令和6年の起訴率と起訴猶予率は罪名により次のとおり分かれております。参考として、道路交通法違反を除く特別法犯全体の起訴猶予率は45.5パーセントでございます。
同じ薬物事犯という括りの中に、性格の異なる類型が同居していることが見えてまいります。覚醒剤取締法違反の8.5パーセントは際立って低く、麻薬特例法違反の52.5パーセントは全体の平均を上回ります。ひとまとめに薬物事件と呼んでしまうと、この差が見えなくなります。
- 覚醒剤取締法違反:起訴率74.2パーセント/起訴猶予率8.5パーセント
- 大麻取締法違反:起訴率44.1パーセント/起訴猶予率35.5パーセント
- 麻薬取締法違反:起訴率57.5パーセント/起訴猶予率15.9パーセント
- 麻薬特例法違反:起訴率36.8パーセント/起訴猶予率52.5パーセント
なぜ大麻と覚醒剤でこれほど差が出るのでしょうか
断定はできませんが、事犯の構造の違いが背景にあると考えられます。警察庁の令和7年における組織犯罪の情勢によれば、大麻事犯の初犯者率は72.6パーセントで、20歳未満では85.4パーセント、20歳代でも71.9パーセントに達します。これに対し覚醒剤事犯の再犯者率は64.6パーセントでございます。初めての摘発が大半を占める領域と、繰り返しが多い領域とでは、処分の判断も変わってまいります。
違反の態様にも差がございます。令和7年の統計では、覚醒剤は使用3,742人、所持2,030人。大麻は所持5,354人、施用700人、栽培126人でございます。同年の薬物事犯の検挙人員は総数14,574人で、うち大麻は6,832人と過去最多を記録いたしました。
大麻事犯では起訴猶予が現実的な選択肢として存在する一方、覚醒剤事犯では入口が相当に狭い。方針の立て方も、当然に変わってまいります。
この数字を、どこまで信じてよいのでしょうか
率直に申し上げれば、見通しの代わりには用いられません。公表されている起訴猶予率は罪名ごとの全体の数値であり、初犯か再犯か、単純所持か営利目的か、外国人であるかどうかといった区別を含んでおりません。単純所持や自己使用の初犯に限った数値は公表されておりませんし、大麻の使用に関する統計はまだ蓄積の途上にございます。
したがって、大麻だから3件に1件は起訴猶予になる、といった読み方は成り立ちません。数字が教えてくれるのは、どの罪名でどこに力を注ぐべきかという配分の目安であって、結果そのものではございません。ご説明の際には、この限界を併せてお伝えするようにしております。
外国人の薬物事犯は、いまどのような状況にあるのか
警察庁の令和7年における組織犯罪の情勢によれば、外国人の薬物事犯の検挙人員は1,502人で、前年より214人増えております。内訳は覚醒剤657人、大麻527人、コカイン118人、MDMA等88人。国籍・地域別ではベトナム343人、ブラジル229人、フィリピン128人、韓国・朝鮮119人、アメリカ106人、タイ83人、ペルー47人、中国41人と続きます。
来日外国人に限れば薬物事犯は1,142人でございます。来日外国人犯罪の総検挙人員12,777人を在留資格別に見ますと、技能実習2,812人(22.0パーセント)、短期滞在2,166人(17.0パーセント)、留学1,521人(11.9パーセント)、定住者1,469人(11.5パーセント)、技術・人文知識・国際業務1,069人(8.4パーセント)となっており、生活の基盤を日本に置く方が相当数含まれていることが分かります。
執行猶予率84.2%を、安心材料にしてはならない理由
令和6年の科刑の統計では、大麻取締法違反で地方裁判所において有期刑を言い渡された2,326人のうち全部執行猶予が1,959人(84.2パーセント)、実刑は367人(15.8パーセント)。覚醒剤取締法違反では総数4,770人のうち全部執行猶予1,717人(36.0パーセント)、実刑3,053人(64.0パーセント)でございます。
日本人の被告人であれば、大麻事犯の8割超が社会内での更生に向かうと読めます。ところが外国人の場合、この数字は安心材料になりません。入管法24条4号チは、薬物関係法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由と定め、刑種にも刑期にも触れていないからです。執行猶予による除外が置かれているのは同条4号リの但書ですが、同号は、ニからチまでに掲げる者のほか、と規定しており、薬物事犯には但書が届きません。
統計と重ね合わせれば、力を注ぐべき局面がはっきりいたします。公判での執行猶予は、在留という物差しでは到達点になりません。勝負は、起訴率と起訴猶予率が動く処分決定前にございます。
当事務所の体制について
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行わない方針を採っております。
中国語については、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。中国語以外の言語につきましては、事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続の後に控える在留資格の手続については、提携の行政書士とともにワンストップで対応しております。
これまでにお受けした事案から
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問を通じて無罪判決を得た事案がございます。統計上は見通しが厳しい類型でも、証拠の中身を一つずつ検証する作業に意味があることを示す例でございます。
また、特殊詐欺の受け子とされ複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べへの対応と不当な取調べに対する抗議、主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を得ております。
統計は進むべき方向を照らす灯りにはなりますが、行き先を決めてはくれません。ご自身の事案がどの類型に属し、どの局面に力を集められるかを早めに見極めることが肝要でございます。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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