在留資格取消し(入管法22条の4)は薬物事件にどう関わるか|退去強制との違いを整理する
2026/08/13
薬物事件のご相談をお受けしていると、「入管から在留資格を取り消されるのでしょうか」というお尋ねと、「強制送還されるのでしょうか」というお尋ねが、しばしば同じ意味で用いられております。実際には、この二つは別々の制度でございます。就労資格や留学の在留資格で日本に滞在しておられる方にとって、この区別は単なる言葉の問題ではありません。働きかける相手も、争い方も、時間の流れ方も違うからでございます。二つの制度がどこで交わり、どこで分かれるのかを、順にご説明いたします。
本記事の要点
- 入管法24条の退去強制と、22条の4の在留資格取消しは、根拠も要件も異なる別個の制度でございます。
- 薬物の有罪判決による退去強制事由は24条4号チの問題であり、在留資格取消しの制度とは直接に結び付いておりません。
- 22条の4は、偽りその他不正の手段による在留資格の取得や、在留資格に応じた活動を行わなくなったことなどを理由とする制度で、刑罰ではございません。
- 身体拘束が長引き、就労や就学を継続できない状態が続くと、この別の軸から在留の基礎が揺らぐ可能性がございます。
- そのため、不起訴処分を得た場合であっても、勤務先や学校との関係を含めて在留の基礎を保つ手当てが必要になります。
在留資格の取消しと退去強制は、どう違うのでしょうか
端的に申し上げれば、退去強制は「日本から退去させる」処分であり、在留資格の取消しは「日本に在留する法的な根拠を失わせる」処分でございます。結果として日本を離れることになる場合がある点は共通いたしますが、法律上の位置付けはまったく別のものでございます。
退去強制の根拠は入管法24条各号にございます。薬物事件との関係で問題となるのは、その4号チ、すなわち麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、又は刑法第2編第14章に違反して有罪の判決を受けた者という規定でございます。刑事の裁判で有罪の判決が確定したという事実が、そのまま要件となる仕組みです。
これに対し、在留資格の取消しの根拠は入管法22条の4でございます。こちらは、刑事事件の結果を要件とする規定ではございません。偽りその他不正の手段によって在留資格を得たといえる場合や、在留資格に応じた活動を行わなくなった場合など、法律に定められた事由に該当するときに、在留資格を取り消すことができるとするものでございます。刑罰ではなく、在留の基礎が失われたことに対応する行政上の措置と位置付けられます。
薬物事件で、22条の4はどのように関わってくるのか
薬物の有罪判決それ自体は、22条の4の取消事由として掲げられているものではございません。ですから、「薬物で有罪になったから在留資格が取り消される」という言い方は、制度の理解としては正確ではないのです。有罪判決の問題は、あくまで24条4号チの問題でございます。
では、なぜ薬物事件で在留資格の取消しが話題になるのか。それは、事件に伴って生じる事実上の状態が、別の軸から在留の基礎に影響を及ぼしうるからでございます。逮捕・勾留によって身体を拘束されれば、その間、勤務先で働くことも、学校に通うこともできません。勾留が長期化し、あるいは勤務先を解雇され、学校を除籍されるといった事態に至れば、在留資格に対応する活動が行われていない状態が続くことになります。
「不起訴になったから在留は大丈夫」といえるのでしょうか
不起訴処分を得ることは、在留を守るうえで決定的に重要でございます。入管法24条4号チは「有罪の判決を受けた者」を要件としておりますから、判決が存在しない以上、この退去強制事由は生じません。この点は、はっきりと申し上げられます。
しかしながら、そのことと、在留の基礎が何ら揺らがないということとは、別でございます。数か月の身体拘束の後に釈放されたとき、勤務先はすでに退職の扱いとしているかもしれません。学校は在籍を認めていないかもしれません。就労資格や留学の在留資格は、日本で行う活動の内容に着目したものでございますから、その活動の基盤が失われれば、在留資格の取消しという別の軸から問題が生じうることになります。
三つの防御線という考え方
当事務所は、外国人の薬物事件について、防御線を三段に分けて設計しております。第一の防御は、刑事事件における不起訴処分の獲得でございます。構成要件該当性、故意の存否、職務質問や所持品検査、採尿手続を含む証拠収集手続の適法性を精査し、起訴前の限られた期間に検察官の判断材料を整えてまいります。
第二の防御は、退去強制手続における退去強制事由該当性そのものの争いでございます。入管実務では、退去強制事由の判断に故意・過失は要件とされないという運用が長く踏襲されてまいりました。松村大介弁護士は、不法就労助長を理由とする退去強制の事案において、責任主義の射程が行政処分たる退去強制にも及ぶべきではないかを正面から問う訴訟を現在も係争中でございます。薬物事件では、預かった荷物の中身を知らなかったという事案や、所持の認識を争う事案など、故意の存否が刑事・入管の双方で意味を持つ場面が少なくありません。なお、これは現に争われている論点であり、結論を先取りしてお伝えできるものではございません。
第三の防御は、在留特別許可でございます。入管法50条5項が法定する考慮要素、すなわち在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を、一つずつ資料に落とし込んでまいります。在留資格の取消しという別軸のリスクは、この三段の設計とあわせて、生活の基盤を保つという観点から検討することになります。
混同を避けることが、対応の第一歩になります
制度の名前が似ていることから、ご相談の場でも混乱が生じがちでございます。整理いたしますと、有罪判決を受けたことによる問題は入管法24条4号チ、すなわち退去強制の枠組みでございます。活動を行わなくなったことなどによる問題は22条の4、すなわち在留資格取消しの枠組みでございます。
この整理ができていないと、対応が的を外れてしまいます。たとえば、刑事の見通しばかりに気を取られて勤務先との連絡を怠れば、刑事では良い結論を得たのに在留の基礎を失うということが起こりえます。逆に、在留資格の維持だけを考えて刑事手続で安易に事実を認めてしまえば、有罪判決による退去強制事由という、より重い問題を招くことになります。
当事務所の体制と、これまでのお取り扱い
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審までの全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。中国語以外の言語につきましては、事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更等につきましては、提携の行政書士とともにワンストップで対応しております。
在留に関わる場面では、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の救済にあたり、不法就労助長罪の認定事件として前例のない在留特別許可を獲得しております。また、在留資格を喪失して不法滞在で逮捕・起訴された相談者について、当局との交渉により身分関係を成立させ、過去の許可事例の分析を通じて一度の申請で在留特別許可を獲得したお取り扱いもございます。
在留資格の取消しと退去強制は、走っている線路が違います。片方の心配ばかりをしていると、もう片方の列車が近づいていることに気付けません。就労資格や留学の在留資格で日本におられる方は、刑事の見通しと同時に、活動の基盤をどう保つかという視点を持っていただければと思います。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------