入管法5条1項5号|薬物の前科は「期間の定めのない上陸拒否」になります
2026/08/13
日本を離れることになったとしても、いつかまた戻りたい。日本にご家族を残して出国された方、日本での仕事や学びを途中で断たれた方から、そうしたお気持ちを何度も伺ってまいりました。「何年経てば、また入国できますか」というご質問も、非常に多くいただきます。この問いに対して、薬物事件については、他の類型とは異なるお答えをしなければなりません。入管法5条1項5号には、待つべき年数というものが書かれていないからでございます。再入国をお考えのご本人とご家族に向けて、条文の仕組みを正確にお伝えいたします。
本記事の要点
- 入管法5条1項5号は、薬物の取締りに関する法令に違反して刑に処せられたことのある者を上陸拒否事由と定めております。
- 同項9号が退去強制歴等について1年・5年・10年という期間を定めているのに対し、5号には期間の定めがございません。
- したがって、年数の経過によって5号の上陸拒否事由が消滅するという仕組みにはなっておりません。
- 5号は「刑に処せられたこと」で足りるため罰金でも該当し、日本国以外の国の法令違反も対象に含まれます。
- 5号に該当する場合の入国は、入管法12条1項の上陸特別許可を得る道が残されるにとどまります。
入管法5条1項5号は、どのような規定なのでしょうか
入管法5条1項は、日本に上陸することができない外国人を号ごとに列挙しております。その5号が掲げているのが、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤又は向精神薬の取締りに関する日本国又は日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられたことのある者でございます。
この条文が働く場面は、退去強制の場面とは異なります。退去強制は、すでに日本にいる方を国外に退去させる手続でございますが、上陸拒否は、日本の外にいる方が入国しようとする場面の判断でございます。ですから、薬物事件に関わった外国人の方は、入管法24条4号チという出口の規定と、5条1項5号という入口の規定の、二つの条文に向き合うことになります。
同じ5条1項の中で、他の号も見ておきますと理解が深まります。4号は、法令に違反して1年以上の拘禁刑又はこれに相当する刑に処せられたことのある者を掲げております。6号は、麻薬・向精神薬・けし・あへん・けしがら・覚醒剤・覚醒剤原料・あへん煙吸食器具を不法に所持する者、8号は銃砲刀剣類等を不法に所持する者を掲げております。
何年待てば、また日本に入国できるのでしょうか
この点について、率直に申し上げなければなりません。5条1項5号には、待つべき期間が定められておりません。したがって、一定の年数が経過すれば自動的に上陸拒否事由が消滅する、という仕組みにはなっていないのでございます。
期間を定めているのは、同項9号でございます。9号は、イからヘまでに掲げる者について、それぞれ定める期間を経過していないものを上陸拒否事由としております。たとえばイは、6号又は8号に該当して上陸を拒否された者について、拒否された日から1年としております。ロは、入管法24条各号(4号オからヨまで及び4号の3を除く)に該当して退去強制された者で、52条5項の決定を受け、法務省令で定める日までに同条4項の許可に基づき退去したもの(短期滞在で入国しようとする者を除く)について、退去の日から1年としております。ハ以下では、退去強制歴に応じて5年又は10年と定められております。
つまり、退去強制を受けたという事実に基づく上陸拒否には、年限という出口が用意されております。ところが、薬物の刑に処せられたという事実に基づく5号には、その出口がありません。9号の期間を無事に経過した後も、5号が残り続けるという構造でございます。この非対称は、ご相談の場面で最も誤解の多い点の一つでございます。
罰金でも該当し、外国での処罰も含まれます
5条1項5号が要求しているのは「刑に処せられたこと」でございます。刑種による限定はございませんから、罰金で終わった事案であっても該当いたします。同項4号が「1年以上の拘禁刑又はこれに相当する刑」という敷居を設けているのと比べると、薬物についてだけ敷居が外されていることが分かります。
さらに、5号は「日本国又は日本国以外の国の法令」に違反した場合を対象としております。日本で処罰された場合に限られないということでございます。母国や第三国で薬物に関する法令違反により刑に処せられた経歴がある場合にも、日本への上陸の場面で問題となりうることになります。
残されている道は、上陸特別許可です
5条1項5号に該当する場合、通常の上陸許可を受けることは想定されておりません。残されているのは、入管法12条1項に基づく上陸特別許可、すなわち法務大臣の裁量による特別の許可を求める道でございます。
この許可は、あくまで例外的な判断でございますから、見通しを軽々にお示しすることはできません。ご相談の場面では、日本に残るご家族との関係、出国からの経過年数、その間の生活状況や更生の実績、渡航の目的といった事情を丁寧に整理し、資料として提出できる形に組み立てていくことになります。もっとも、それらを尽くしたとしても、判断は個別の事情に委ねられます。「時間が経てば大丈夫です」といったご説明を差し上げることは、誠実さを欠くことになりますので、いたしません。
日本にいるうちにできることは、想像以上に多くございます
当事務所は、外国人の薬物事件について、防御線を三段に分けて設計しております。第一の防御は、刑事事件における不起訴処分の獲得でございます。構成要件該当性、故意の存否、職務質問や採尿を含む証拠収集手続の適法性を精査し、起訴前の限られた期間に検察官の判断の材料を整えます。不起訴となれば有罪の判決は生じませんから、入管法24条4号チも、そして将来の5条1項5号も、その要件を欠くことになります。
第二の防御は、退去強制手続における退去強制事由該当性そのものの争いでございます。第三の防御が在留特別許可であり、入管法50条5項が法定する考慮要素、すなわち在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を、一つずつ資料に落とし込んでまいります。日本に在留し続けることができれば、そもそも上陸拒否の問題は生じません。
当事務所の体制と、これまでのお取り扱い
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審までを直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。中国語以外の言語につきましては、事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続の終了後は、提携の行政書士とともに在留資格の更新・変更等にワンストップで対応しております。
在留を守る場面のお取り扱いといたしましては、観光目的で来日された相談者が在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案がございます。婚姻・認知が未了として一旦不受理とされた状況から、憲法的観点に立って当局と交渉し、婚姻と認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない条件のもとで有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することによって、一度の申請で在留特別許可を獲得いたしました。
また、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の救済にあたっては、不法就労助長罪の認定事件として前例のない在留特別許可を獲得するとともに、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務のあり方を問う訴訟を現在も係争中でございます。国際刑事事件や裁判員裁判の対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績も有しております。
「何年経てば戻れますか」というご質問に、年数でお答えできないことを、心苦しく思いながらお伝えしております。しかし、答えられないという事実を早く知っていただくことにも意味がございます。日本におられるうちに打てる手と、出国後に残される手とでは、幅がまったく違うからでございます。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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