別表第一と別表第二|薬物事件では在留資格の「強さ」がほとんど効かない理由
2026/08/13
永住者の許可を得るまでに10年を要した。日本人の配偶者として家庭を築き、子どもは日本の学校に通っている。定住者として20年以上、同じ工場で働いてきた。そうした積み重ねをお持ちの方ほど、「自分の在留資格は強いはずだ」と考えておられます。その感覚は、多くの場面では正しいものでございます。ところが薬物事件に限っては、その強さがほとんど作用しない場面がございます。永住者・定住者・配偶者資格をお持ちのご本人とご家族に向けて、なぜそうなるのかを、在留資格の分類の話から順にご説明いたします。
本記事の要点
- 在留資格は、活動に基づく別表第一のものと、身分・地位に基づく別表第二(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者)のものに大きく分かれます。
- 入管法24条4号の2は、刑法の一定の罪などで拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としますが、その対象は別表第一に限られ、別表第二は適用除外とされております。
- これに対し、薬物事犯を対象とする24条4号チには別表による区別がなく、永住者・定住者・日本人の配偶者等にも等しく適用されます。
- 在留資格の強さは、退去強制事由の該当性ではなく、その後の在留特別許可の判断の場面で意味を持ってまいります。
- 入管法50条1項1号は永住許可を受けている場合を独立の号として掲げており、同条5項は家族関係・在留期間などを考慮要素として法定しております。
別表第一と別表第二は、何がどう違うのでしょうか
入管法は、在留資格を二つの別表に分けて定めております。別表第一に掲げられているのは、日本で行う活動の内容に着目した在留資格でございます。技術・人文知識・国際業務、技能実習、特定技能、留学、家族滞在、短期滞在などがここに含まれます。他方、別表第二に掲げられているのは、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者という、身分又は地位に着目した在留資格でございます。
この区別は、単なる整理の便宜ではございません。別表第一の在留資格は、定められた活動を行うことが前提とされているため、活動を継続できなくなれば在留の基礎が揺らぎます。これに対し別表第二の在留資格は、日本社会との結び付きそのものに根拠を置いておりますから、活動内容による制限を受けず、生活の安定度も相対的に高いといえます。
別表第二が守られている場面は、たしかに存在します
入管法24条4号の2をご覧いただくと、この保護が具体的に条文になっていることが分かります。同号は、別表第一の在留資格をもって在留する者が、刑法第2編の一定の章の罪、暴力行為等処罰法1条・1条ノ2・1条ノ3の一定の罪、盗犯等防止法の罪、特殊開錠用具所持禁止法15条・16条の罪、自動車運転死傷処罰法2条又は6条1項の罪、盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪により拘禁刑に処せられたときを、退去強制事由と定めております。
重要なのは、この号の名宛人が「別表第一の在留資格をもって在留する者」に限定されていることでございます。別表第二の在留資格をお持ちの方は、同号の適用を受けません。しかも同号は、執行猶予が付されていても該当いたしますから、別表第一の方にとってはかなり厳しい規定です。その厳しい規定が、別表第二には及ばない。ここには、日本社会に根を下ろした方の生活を保護しようとする立法の姿勢が読み取れます。
なぜ薬物だけ、別表による区別がないのでしょうか
入管法24条4号チは、昭和26年11月1日以後に、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、又は刑法第2編第14章に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由とすると定めるのみで、在留資格の種類による限定をまったく置いておりません。
したがって、日本で生まれ育った定住者の方も、永住許可を受けて20年になる方も、日本人の配偶者と家庭を営んでおられる方も、来日して間もない方と同じ条文の上に立つことになります。しかも4号チは刑の重さも問いませんから、罰金でも、全部執行猶予付きの判決でも該当いたします。
それでは、これまで積み上げてきた生活は評価されないのでしょうか
そのようなことはございません。在留資格の強さと、日本での生活の積み重ねは、退去強制事由に該当するかどうかという入口の判断ではなく、その後の在留特別許可の判断において、正面から意味を持ってまいります。
入管法50条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、法務大臣が在留を特別に許可することができる場合を定めており、その1号には「永住許可を受けているとき」が独立して掲げられております。また同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮するものと定めております。在留期間の長さ、家族との関係、法的地位。いずれも、別表第二の方が積み上げてこられたものと重なる要素でございます。
公表された許可事例を、平等原則の観点から使う
在留特別許可を求める場面で、当事務所が重視しているのが、出入国在留管理庁が平成16年以降、年度ごとに公表してきた許可事例・不許可事例の分析でございます。これらは、行政庁自身が「この事情なら在留を認めるのが相当である」と判断した先例の集積にほかなりません。
そこから、依頼者の方と本質的に共通する事情を備えた許可事例を抽出することができれば、同種の事情がありながら本件についてのみ異なる取扱いをすることの合理性を問う議論につなげることが可能となります。憲法14条1項の平等原則は、行政の裁量の中で軽んじられがちな視点でございますが、公表事例という具体的な素材があれば、抽象論ではなく比較の議論として提示することができます。
50条5項が考慮要素を法律上明示したことは、この作業を進めやすくいたしました。考慮すべき事項が条文に並んでいる以上、それぞれの要素について公表事例と本件とを対照し、どの要素が同等であり、どの要素がむしろ本件の方が有利であるかを、項目ごとに示していくことができるからでございます。もっとも、公表事例は個人情報の関係で記載が抽象化されておりますし、許可の可否は最終的に個別の事情によって判断されます。実績があることと、結果が約束されることとは、決して同じではございません。
当事務所の体制と、これまでのお取り扱い
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審に至るまでを直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。中国語につきましては、外国人事件に精通した専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人の立場で動く通訳を刑事手続の全般でご利用いただけます。中国語以外の言語につきましては、事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続の終了後は、提携の行政書士とともに在留資格の更新・変更等にワンストップで対応しております。
在留特別許可に関するお取り扱いといたしましては、観光目的で来日された相談者が在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案がございます。婚姻・認知が未了であるとして一旦は不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して婚姻と認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況のもとで有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することによって、一度の申請で在留特別許可を獲得いたしました。
また、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の救済にあたっては、不法就労助長罪の認定事件としては前例のない在留特別許可を獲得し、あわせて、退去強制事由には故意・過失を要しないとする従来の実務を問う訴訟を現在も係争中でございます。起訴前段階の弁護活動では、特殊詐欺の出し子とされた20代の女性について、主観的事情を総合的に主張して不起訴処分を獲得した事例もございます。
在留資格の強さは、薬物事件の入口ではほとんど働かず、出口で意味を持つ。この順序を取り違えると、守れたはずの生活を守れないまま手続が進んでしまいます。逆に申しますと、積み上げてこられた年月や家族との結び付きは、然るべき場面で、然るべき形で主張すれば、正面から評価の対象になるということでもございます。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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