逃亡のおそれがないことをどう立証するか
2026/08/12
「逃亡のおそれがない」ということを、どのように示せばよいのでしょうか。監理措置決定を得るためには、主任審査官が逃亡・証拠隠滅のおそれの程度や収容により受ける不利益の程度その他の事情を考慮したうえで、収容しないことを相当と認める必要があります。抽象的に「逃げません」と述べるだけでは足りず、生活の基盤や人的関係を裏付ける具体的な事実を積み重ねる作業が求められます。本稿では、逃亡のおそれがないことをどのような観点から立証していくべきか、退令前と退令後の違いも踏まえながら、基本的な考え方を整理いたします。
本記事の要点
- 逃亡・証拠隠滅のおそれの程度は、収容により受ける不利益の程度と併せて考慮されます。
- 令和6年末現在、監理措置決定を受けた者で所在不明になっている者はいないとされています。
- 住居の指定や行動範囲の制限といった条件を現実的に遵守できる見込みも、判断の重要な要素となります。
- 退令発付後は、逃亡のおそれに加えて不法就労のおそれの程度その他の事情も考慮されます。
逃亡のおそれの有無はどのように判断されるのですか
退去強制令書発付前の監理措置決定においては、主任審査官が、逃亡・証拠隠滅のおそれの程度、収容により受ける不利益の程度その他の事情を総合的に考慮し、収容しないことを相当と認めることが要件とされています。他方、退去強制令書発付後の監理措置では、逃亡のおそれに加えて不法就労のおそれの程度その他の事情が考慮され、送還可能のときまで収容しないことを相当と認めるかどうかが判断されます。いずれの場面でも、単に「逃げるつもりはない」という本人の意思表示だけでは足りず、その意思を裏付ける客観的な事情を積み重ねて疎明することが求められます。条文の構造としては退令前と退令後で要件も効果も異なりますので、自身がどちらの局面にあるのかをまず正確に把握することが、立証活動全体の出発点となります。この見極めを誤ると、疎明すべき事情の方向性そのものがずれてしまいかねません。
生活基盤の安定性はどのように示せばよいのですか
逃亡のおそれが低いことを裏付ける代表的な事情として、生活基盤の安定性が挙げられます。指定される予定の住居に長期間居住してきた実績、同居する家族との関係、監理人となるべき者との人的なつながりなどは、被監理者が地域社会に根を下ろして生活していることを示す資料となり得ます。また、監理措置の条件には、住居の指定、行動範囲の制限、呼出しに対する出頭義務、その他逃亡を防止するために必要な条件が含まれており、これらの条件を現実的に遵守できる見通しがあることも、主任審査官の判断に影響し得る事情です。保証金についても、主任審査官が必要と認める場合には300万円を超えない範囲内(未成年者は150万円の範囲内)で決定されますが、これも逃亡防止のための条件の一つとして位置づけられており、資力に見合った準備を進めておくことが望まれます。
統計上の運用実績は主張に活かせますか
出入国在留管理庁が公表している運用状況によれば、令和6年6月10日の施行から令和6年末までの間に、退令発付前647件、退令発付後476件、合計1,123件の監理措置決定がなされ、令和6年末現在、監理措置決定を受けた者で所在不明になっている者はいないとされています。この実績は、監理措置という制度全体が現実に機能していることを示す一つの手がかりとなり得ますが、個別の事案において逃亡のおそれがないことを直接裏付ける資料の代わりにはなりません。あくまで、個々の事案ごとの具体的な生活状況や人的関係を丁寧に疎明することが基本であり、統計はその主張を補強する背景事情として位置づけるのが適切です。統計の数字だけを引用するのではなく、自身の事案との関連性を意識して活用することが求められます。数字の一人歩きを避け、具体的な事実と結びつけて説明する姿勢が説得力を高めます。
当事務所のご案内
当事務所は、行政の判断を司法の場で正面から争う訴訟に注力してまいりました。入管事件もその延長線上にございます。
行政庁の措置について処分性を正面から認めさせた高等裁判所判決を得た実績がございます(令和6年6月26日大阪高等裁判所判決)。行政の判断を司法の場で争う経験を重ねてまいりました。
在留資格を喪失し不法滞在として刑事事件にもなっていた依頼者について、刑事裁判を見据えた被告人質問・証人尋問を実施しつつ、婚姻・認知の手続を成立させ、在留特別許可を得た事例がございます。
不法就労助長罪に問われ強制送還の危機に瀕された女性の事案では、「退去強制事由には故意・過失を要しない」とする従来の入管実務そのものを問い直す訴訟を、現在も係争中でございます。
身柄の解放と在留の維持は別の問題でございます。監理措置によって社会内での生活が認められても、退去強制手続そのものは進行いたしますので、在留特別許可を見据えた準備を並行して進める必要がございます。
松村大介弁護士が初動から終結まで全工程を直接担当し、若手弁護士や事務員による代行は行っておりません。外国人事件専属の中国語通訳も常駐しておりますので、言語の壁により事実関係が正確に伝わらないという事態を避けることができます。
※ 上記の解決事例はいずれも個別の事情を前提とするものであり、同じ結果をお約束するものではございません。
初回のご相談は無料です。中国語でのご相談にも対応しております。
おわりに
逃亡のおそれがないことの立証は、抽象的な誓約ではなく、生活の実態を積み重ねた具体的な資料によって支えられます。退令前か退令後かによって考慮される要件も異なりますので、ご自身の状況を正確に整理することが第一歩となります。統計データはあくまで補強材料であり、個別の事情の丁寧な説明が何より重要です。本記事は一般的な解説であり、個別のご事情については弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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