入管法24条4号チを読む|薬物犯罪が刑の重さを問わず退去強制事由となる構造
2026/08/08
外国籍の方の刑事事件を考えるうえで、避けて通れない条文がございます。出入国管理及び難民認定法24条4号チでございます。この号は、他の号と異なり、言い渡された刑の重さによる絞りを設けておりません。そのため、罰金であっても、執行猶予が付されていても、退去強制事由に該当しうるという結論が導かれます。本記事は、この号の構造を条文に即して読み解き、実務上どのような場面で問題となるのかを整理するものでございます。
本記事の要点
- 入管法24条は退去強制事由を号ごとに定めており、それぞれ要件の立て方が異なります。
- 4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」とされ、刑の重さが要件となっています。
- これに対し4号チは、薬物関係法令に違反して有罪の言渡しを受けた者を掲げ、刑の重さを問いません。
- したがって薬物事犯では、執行猶予・罰金であっても退去強制手続に進む可能性があります。
- この構造ゆえに、薬物事犯における現実的な目標は、起訴前の不起訴処分の獲得となります。
24条は「号ごとに」構造が異なる
入管法24条は、退去強制の対象となる外国人を各号で列挙しております。実務でしばしば引用される4号は、さらにイからヨまでの細目に分かれており、それぞれ要件の立て方が異なっております。この点を意識せずに「刑事事件を起こすと強制送還される」と一括りに理解すると、判断を誤ることになります。
たとえば4号ロは不法残留を、4号ハは資格外活動を専ら行っていると明らかに認められる者を、4号ヌは他の外国人に不法就労活動をさせた者を、それぞれ掲げております。これらは、刑罰を受けたかどうかとは別の観点から定められた事由でございます。
4号リ(刑の重さを要件とする類型)
4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を掲げております。ここでは、言い渡された刑の重さが明示的な要件となっております。したがって、たとえば窃盗や詐欺で有罪となった場合であっても、刑が1年以下であれば、この号には該当いたしません。また、この号については、刑の全部の執行猶予との関係で除外の定めがあり、条文と実務の運用を慎重に確認する必要がございます。
この号を念頭に置く限りでは、「執行猶予を取れば在留を維持できる場合がある」という説明にも、一定の合理性がございます。問題は、この説明を全ての罪名に一般化してしまうことでございます。
4号チ(刑の重さを問わない類型)
4号チは、旅券法、大麻取締法、覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、あへん法、毒物及び劇物取締法、銃砲刀剣類所持等取締法等の一定の法令に違反して有罪の言渡しを受けた者を掲げております。ここには、刑の重さによる絞りが置かれておりません。
この違いが実務にもたらす帰結は重大でございます。大麻の単純所持で罰金となった場合、刑事手続としては最も軽い部類の処理でございますが、4号チの要件は充たされます。執行猶予付きの拘禁刑となった場合も同様でございます。すなわち、薬物事犯については、刑事手続で軽い結論を得ることが、そのまま在留の維持に結び付かないという構造が存在いたします。
なぜこのような立て方がされているのか
薬物関係法令が刑の重さを問わない類型として掲げられている背景には、これらの犯罪について、個々の刑の重さとは別に、その性質自体を重く見る立法の判断があるものと解されます。同じ4号チには銃砲刀剣類所持等取締法違反も含まれており、いずれも社会的な法益に対する侵害という共通性が見出されます。
もっとも、この立法の判断は、個々の事案における事情の差を捨象するものでもございます。初めての、ごく少量の、自己使用目的の所持と、営利目的の反復した所持とが、退去強制事由の該当性という点では同じ扱いを受けます。当事務所は、こうした一律の取扱いが、個別の事情に応じた判断を求める憲法上の要請と、どのように調和するのかという問題意識を持っております。この点は、在留特別許可の場面において、入管庁が公表している過去の許可事例との対比を通じて主張しうる論点でもございます。
実務上の帰結
以上を踏まえますと、薬物事犯における弁護方針は、次のように整理されます。第一に、目標は起訴前の不起訴処分に置く。嫌疑不十分であれ起訴猶予であれ、有罪の言渡しがなければ4号チの要件は充たされません。第二に、起訴された場合には、無罪を含めた争い方を検討する。第三に、有罪が避けられない場合には、退去強制手続を見据えて、在留特別許可の判断に対応する資料を刑事の段階から整えておく。
なお、退去強制事由に該当することと、実際に退去強制されることとは、同じではございません。入管法50条は、法務大臣が在留を特別に許可することができる旨を定めており、令和5年改正により考慮事情が同条5項に明示されました。該当性が認められた後にも、なお主張すべき場面が残されております。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、薬物事犯および入管法の各条項の構造に関する検討を、弁護活動の基礎に据えております。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の分析と反対尋問を尽くし、無罪判決を獲得した事例がございます。4号チの構造を踏まえれば、薬物事犯において有罪判決を回避することの意味は、量刑の問題にとどまりません。
また、不法就労助長罪の認定を受けた事案において、退去強制事由の判断に故意・過失の考慮を求める主張を展開し、前例のない在留特別許可を獲得した実績がございます。条文の構造を精査し、その適用の在り方自体を問うという姿勢を、当事務所は一貫して採っております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
条文は、読み方によって見え方が変わります。「刑事事件を起こせば強制送還される」という漠然とした理解から、「この罪名は何号のどの要件に当たり、その要件はどう立てられているか」という理解へ。この一段の精査が、取るべき方針を変えてまいります。個別の事案について、条文に即したご説明をご希望でしたら、どうぞご相談ください。
なお、本記事は2026年8月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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