勤務先の送金・経理を担当していて捜査対象になったら|従業員の立場と犯罪収益移転防止法
2026/08/08
貿易会社や決済代行を営む会社が資金の流れを理由に捜査を受け、実際に送金や入出金の処理を担当していた従業員まで対象となる事案がございます。ご本人としては、指示された振込を行い、帳簿を付け、依頼された名義で口座を開設したにすぎないという認識でございます。しかし捜査機関は、その一つ一つの処理が資金の出所を分かりにくくする働きをしていたと見ます。本記事は、会社の業務として資金を扱っていた在日中国人の方が、いかなる罪名で、何を争点として捜査を受けるのかを整理いたします。
本記事の要点
- 問題となりうる罪名は、犯罪収益等隠匿罪、犯罪収益移転防止法違反、銀行法違反(無登録の為替取引)、詐欺罪の幇助等です。
- 従業員であっても、資金の性質を認識していたと認められれば、業務としての処理であることは免責の理由になりません。
- 他方、通常の経理・送金業務との区別が困難な事案では、認識の不存在を具体的に示す余地が残されています。
- 「経営・管理」「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格の場合、勤務先の消滅そのものが在留資格該当性の問題を生みます。
- 刑事処分の軽重にかかわらず、在留期間更新における素行の評価(入管法21条3項)が別に働きます。
何が罪に問われうるのか
犯罪によって得られた収益であることを知りながら、その取得や処分について事実を仮装し、あるいはこれを隠匿した場合には、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条の犯罪収益等隠匿罪が問題となります。法定刑は10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科でございます。加えて、本人確認を欠いた口座の開設や、他人名義の口座の利用については犯罪による収益の移転防止に関する法律の各規定が、また、登録を受けずに為替取引を業として行っていた場合には銀行法違反が、それぞれ検討されます。
業務として行ったことは、免責の理由にはならない
従業員の立場でいらっしゃったこと、上司の指示に従ったこと、給与のほかに報酬を得ていないこと。これらはいずれもご本人にとって当然の前提でございますが、それ自体で刑事責任が否定されるものではございません。判断の中心は、扱っていた資金の性質について、どこまで認識していたかに置かれます。
もっとも、この認識の有無こそが、この類型における最大の争点でございます。捜査機関は、送金の分割の不自然さ、名義の多さ、取引先の実体の乏しさ、業務量に比して高額な報酬といった事情から、認識があったと推認しようといたします。これに対しては、業務の指示系統上の位置、会社内で共有されていた情報の範囲、同種の処理が業界で一般的に行われているか、取引先の実体を確認する権限や機会があったかといった事情を、具体的に示していくことになります。
勤務先が失われることの意味
この類型に特有の問題として、会社そのものが摘発を受けた場合、ご本人の在留資格の基礎が失われることがございます。「技術・人文知識・国際業務」や「経営・管理」といった就労資格は、特定の活動を行うことを前提としております。勤務先が営業を停止すれば、その活動を継続できなくなり、入管法22条の4が定める在留資格の取消しの対象となりうるほか、在留期間の更新の際にも在留資格該当性が問われます。
刑事事件で不起訴となった場合でも、この問題は残ります。したがって、刑事手続の見通しと並行して、転職の可否、所属機関に関する届出(入管法19条の16)の履行、更新申請の時期といった事柄を、早い段階から検討しておく必要がございます。
不起訴を目標に置く理由
犯罪収益等隠匿罪は法定刑が重く、有罪となれば1年を超える拘禁刑が言い渡される可能性がございます。その場合、入管法24条4号リの退去強制事由が問題となります。また、仮に罰金や執行猶予にとどまった場合でも、在留期間の更新においては、入管法21条3項に基づく裁量判断の中で素行が評価されます。出入国在留管理庁が公表している更新・変更のガイドラインは、素行が善良であることを審査の要素として掲げております。
したがって、この類型でも、目標は起訴前の不起訴処分に置くべきものと考えております。認識の不存在、業務上の役割の限定性、会社内での地位の低さ、捜査への協力の姿勢といった事情を、検察官面談と意見書によって具体的に示してまいります。
初動で押さえておきたい点
- 業務上作成した資料(メール、稟議、帳簿、指示書)は、ご本人の役割の限定性を示す資料にもなります。会社の指示で廃棄することのないよう、ご注意ください。
- 会社側の弁護士と、ご本人の弁護人とは、利益が一致しない場面がございます。会社が用意した弁護士に一任することの当否は、慎重にご検討ください。
- 資金の流れに関する説明は複雑であり、通訳を介した供述では細部の食い違いが生じやすいところでございます。この食い違いが、後に供述の信用性を争われる材料となります。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、企業の内部で生じた事案や、資金の流れが問題となる事案を、刑事・民事の双方から取り扱ってまいりました。
卸売業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案において、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得した事例がございます。資金の流れを追跡する作業は、被害者側の立場でも被疑者側の立場でも、共通して要となります。
また、虚偽の株主総会決議による代表取締役の解任が争われた事案において、決議の不存在を主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴した事例、外資系企業の支配権紛争において依頼者側の勝訴を得た事例もございます。企業内部の対立が背景にある刑事事件では、この種の構図の理解が弁護の前提となります。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
会社の業務として行ったことが、ある日から犯罪の一部として説明され始める。この転換に、ご本人が最も戸惑われます。もっとも、業務の記録は残っており、指示系統も追跡できるのが通常でございます。その記録に即して役割の限度を示すことが、この類型における最初の一歩でございます。
なお、本記事は2026年8月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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