携帯電話とSNSの履歴から共犯とされたら|デジタル証拠が描く「指示関係」の争い方
2026/08/08
匿名・流動型犯罪グループ、いわゆるトクリュウによる強盗や詐欺の摘発が相次いでおり、指示役として中国籍の若年者が逮捕されたとの報道もございました。この種の事案で、共犯関係の立証の中心に据えられるのが、押収された携帯電話の解析結果でございます。通信アプリのやり取り、削除された履歴の復元、位置情報、送金アプリの記録。これらが並べられたとき、ご本人の「言われた仕事をしただけ」という説明は、しばしば通用しないものとして扱われます。本記事は、デジタル証拠に基づく共犯認定に対して、何をどう争いうるのかを整理するものでございます。
本記事の要点
- 秘匿性の高い通信アプリを用いていたこと自体が、犯罪の認識を推認する間接事実として用いられます。
- 削除された履歴は復元されうるため、逮捕後の消去は証拠隠滅と評価され、勾留や保釈の判断に影響します。
- 共謀共同正犯の成否は、指示の内容をどこまで認識していたか(謀議の射程)によって決まります。
- 全体像を知らされていない末端の関与者について、正犯性を争う余地は現実に残されています。
- 強盗・詐欺は法定刑が重く、1年を超える拘禁刑となれば入管法24条4号リの退去強制事由に直結します。
解析結果は「事実」だが、その意味は解釈である
携帯電話の解析によって得られるのは、いつ誰と何を送受信したかという客観的な記録でございます。この記録自体を否定することは通常できません。争いの対象となるのは、その記録が何を意味するかという評価でございます。たとえば「例の件よろしく」という一文が、犯行の指示を了解したものと読むべきか、別の業務上のやり取りと読むべきかは、前後の文脈、当事者の関係、報酬の性質といった事情によって変わります。
捜査機関は、通常、犯罪の成立に整合する読み方を採ってまいります。これに対して弁護人は、同じ記録から成り立ちうる別の読み方を、具体的な事情によって支えていくことになります。この作業は、記録の全体を見なければ行えません。捜査機関が抜き出した一部のやり取りだけでは、文脈は失われております。
秘匿性の高いアプリを使っていたこと自体が不利に働く
この類型では、一定時間で自動的にメッセージが消える機能を持つアプリや、匿名性の高いアカウントの利用が、犯罪の認識を推認する事情として指摘されます。もっとも、こうしたアプリは中国語圏を含む多くの地域で日常的に用いられているものでもございます。日常的な利用の実態、当該アカウントの開設時期、犯行とは無関係なやり取りの分量といった事情を示すことで、この推認は相対化されうるものと考えております。
削除は最も避けるべき対応でございます
逮捕の前後に履歴を削除する行為は、多くの場合、復元によって発覚いたします。そして、削除の事実そのものが、犯罪の認識と証拠隠滅の意図を示すものとして扱われます。勾留の要件のうち罪証隠滅のおそれ(刑事訴訟法60条1項2号)の判断にも、保釈の判断にも、直接に影響いたします。ご家族が本人の携帯電話を預かっている場合も同様でございます。操作の前に、必ず弁護人にご相談ください。
共謀の射程を争う
共謀共同正犯が成立するためには、犯罪の実行について意思を通じ合っていたことが必要でございます。ここで問題となるのは、どこまでの犯罪について意思を通じていたかという射程でございます。荷物の受渡しを頼まれた、口座を用意するよう言われた、現場へ人を送るよう指示された。こうした個別の行為から、強盗や詐欺という具体的な犯罪の実行について認識と認容があったといえるかは、当然に導かれるものではございません。
弁護活動としては、ご本人が受け取っていた情報の量と質、報酬の額が担った役割との対応関係、離脱の機会があったか、指示者との従属関係の程度といった事情を、記録に即して具体的に示してまいります。組織図の末端に置かれた方ほど、全体像から遠いところで役割だけを担わされている構造がございます。
在留への影響
強盗(刑法236条)は5年以上の有期拘禁刑、詐欺(刑法246条)は10年以下の拘禁刑でございます。いずれも1年を超える拘禁刑が言い渡される可能性が現実にあり、その場合には入管法24条4号リの退去強制事由が問題となります。同号については執行猶予との関係を含め条文の構造を精査する必要がございますが、いずれにせよ、有罪判決を得たうえで執行猶予を目指すという設計では、在留を守りきれない場面が生じます。起訴前の段階で、関与の限度と認識の程度を検察官に示し、不起訴処分あるいは軽い罪名での処理を目指すことが、実際的な選択肢でございます。
初動で押さえておきたい点
- 携帯電話の暗証番号の告知を求められた場合の対応は、事案によって異なります。弁護人と相談のうえお決めください。
- 黙秘権の行使は、供述を一切しないことのみを意味するものではございません。何をどこまで述べるかの設計そのものが弁護活動でございます。
- 通訳を介した取調べでは、指示の受け方に関する微妙な言い回しが正確に記録されないことがございます。訳出の確認は、その場でしか行えません。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、組織型の事案において末端で関与したとされる方の弁護に、数多く取り組んでまいりました。
特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、取調べへの対応を徹底し、不当な取調べには抗議しつつ主張と立証を尽くした結果、全ての事件について不起訴処分を獲得した事例がございます。再逮捕が重なる局面では、一件ごとに争点を切り分ける作業が要となります。
また、海外のSNSを用いて行われた侮辱の被害について、日本の警察と国際刑事警察機構の協力を得て刑事告訴が受理された事例、さらに、なりすましアカウントを仮処分により削除した事例もございます。国境を越えるデジタル証拠の扱いについては、被害者側・加害者側の双方から経験を積んでまいりました。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
デジタル証拠は、雄弁であるように見えて、実は文脈を欠いた断片でございます。その断片から描かれた物語に対して、別の読み方がありうることを、記録に即して示していく。それが、この類型における弁護人の仕事でございます。押収された機器の解析には時間がかかりますので、その間にできる準備が数多くございます。
なお、本記事は2026年8月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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