住む場所も所持金もない状態で不法残留が発覚したら|勾留・身元引受人・その後の入管手続
2026/08/08
在留期間が切れた後も日本に留まり、住まいを失い、通報を端緒として不法残留で逮捕されるという事案が報じられております。今年に入っても、神社の敷地で寝泊まりしていた外国籍の男性が不法残留の疑いで現行犯逮捕されたとの報道がございました。所持金も住まいもない状態での摘発は、その後の手続のあらゆる場面で不利に働きます。本記事は、この最も過酷な状況に置かれた方とそのご家族に向けて、手続の流れと、それでも打てる手を整理するものでございます。
本記事の要点
- 不法残留は入管法70条1項5号の罪であり、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科とされています。
- 住居不定の状態では刑事訴訟法60条1項1号の勾留要件が形式的に当てはまり、身柄拘束が長期化しやすくなります。
- 所持金がないことは、身元引受人の確保と住居の確保という二つの課題に直結します。
- 刑事手続が終わると入管への収容へ切り替わり、退去強制手続が別途進行します。
- 住居不定であっても、在留特別許可の判断で考慮される事情(在日期間・家族関係・素行等)は個別に存在しうるため、諦める必要はありません。
なぜ身柄拘束が長引くのか
不法残留の事案そのものは、事実関係が単純であることが多く、証拠も旅券や在留カード等の客観資料でほぼ尽きております。それにもかかわらず身柄拘束が長引くのは、罪の重さではなく、刑事訴訟法60条1項の勾留の要件によるものでございます。同項1号は「定まった住居を有しないとき」を勾留の理由として掲げており、住まいを失った状態はこれに正面から当たります。加えて、同項3号の逃亡のおそれについても、住居がなく所持金もない状況は、形式的には認められやすい方向に働きます。
したがって、この類型で最初に取り組むべきは、事実関係の争いではなく、身柄の解放に向けた環境の整備でございます。具体的には、釈放後に住むことのできる場所と、監督を引き受ける方を確保することでございます。日本国内に親族がいらっしゃらない場合でも、雇用関係にあった方、同郷の知人、支援団体等が身元引受人となりうる場合がございます。
刑事手続の後に、入管手続が待っている
不法残留の刑事事件は、初犯であれば起訴猶予となり、あるいは略式命令による罰金で終わることも少なくありません。もっとも、刑事手続の終了は、事案の終了を意味いたしません。釈放と同時に入国警備官による収容が行われ、入管法上の退去強制手続に移行するのが通例でございます。ご家族が「不起訴になったと聞いたのに、本人が帰ってこない」と当惑されるのは、この切替えが十分に説明されていないことによります。
退去強制手続は、違反調査、違反審査、口頭審理、法務大臣への異議の申出という段階を踏みます。在留特別許可は、この最終段階における判断でございます(入管法50条)。令和5年改正入管法により、考慮事情が同条5項に明示され、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、法的地位、退去強制の理由、その他人道的配慮の必要性が、判断の枠組みとして条文上に置かれました。
住居不定であっても、示すべき事情は個別に存在する
住まいを失っているという事実は、たしかに不利な事情でございます。もっとも、そこに至った経緯は人それぞれでございます。勤務先の倒産や解雇によるものか、疾病によるものか、あるいは同居していた家族との関係の変化によるものか。在日期間がどれほどに及び、その間に納税や社会保険料の納付がなされていたか。日本に生活の基盤といえるものが残っているか。これらは、いずれも入管法50条5項が挙げる考慮事情に対応する事柄でございます。
当事務所では、こうした事情を、刑事手続の段階から証拠として整えることを重視しております。刑事手続の中で作成される調書や、身元引受人の陳述書は、その後の入管手続においても資料として機能いたします。刑事と入管を切り離さず、一本の線として設計することが、この類型では特に重要でございます。
初動で押さえておきたい点
- 旅券・在留カード・過去の在留資格に関する書類が手元にない場合でも、入管の記録から経緯を確認できることがございます。手元の資料がないことを理由に諦める必要はございません。
- 「早く帰国したい」というお気持ちは自然なものですが、退去強制を受けた場合の上陸拒否期間(入管法5条1項9号)は原則5年、事情により10年に及びます。出国命令制度との違いを含め、選択の帰結を確認したうえでご判断ください。
- 中国本土のご家族との連絡が途絶している場合、弁護人を通じた連絡調整が可能でございます。身元引受や送金の手配は、ご家族の協力なしには進みません。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、入管手続と刑事手続の双方に跨がる困難な事案に、継続的に取り組んでまいりました。
冤罪により不法就労助長罪に問われ、退去強制の危機に立たされた女性の救済について、「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務そのものを問い直す訴訟を、現在係争中でございます。行政処分にどこまで責任主義の考え方が及ぶべきかという、根本に関わる論点でございます。
また、裁判員裁判の対象事件を含む重大事件についても対応してまいりました。関係者が多数にのぼり、ご本人が全体像を把握できていない事案では、位置付けの正確な提示が結論を左右いたします。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
住まいも所持金もない状態で身柄を取られたとき、ご本人には打てる手が何もないように見えます。しかし、身元引受人の確保、在日期間の裏付け、日本での生活実態の立証といった作業は、いずれも外部からしか進められないものでございます。ご家族やご友人からご連絡をいただければ、そこから動かせる部分は少なくありません。
なお、本記事は2026年8月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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