部屋で薬物が見つかり、居合わせただけで逮捕されたら|共同所持と「知らなかった」の主張
2026/08/08
繁華街の雑居ビルの一室に複数人が集まっていたところ、警察の立入りによって覚醒剤が発見され、その場にいた全員が所持の疑いで逮捕された、という報道が続いております。今年8月にも、大阪市内のビルで外国籍の男性8名が覚醒剤所持の疑いで一斉に逮捕されたと伝えられました。こうした事案でご家族から寄せられるのは、「本人は薬物など見たこともないと言っている。なぜ逮捕されるのか」という、率直な疑問でございます。本記事は、複数人が居合わせた場所で薬物が発見された場合に何が争われるのかを、在留資格への影響とあわせて整理するものです。
本記事の要点
- 薬物が発見された場所に居合わせただけでは所持罪は成立せず、その物に対する事実上の支配(支配の意思と支配可能性)が必要とされます。
- 共同所持が認められるためには、共同で支配する意思の連絡が必要であり、単なる同席・同居はこれを当然には基礎づけません。
- 初動の取調べで「みんなで使うつもりだった」と述べた一言が、共同所持の自白として扱われることがあります。
- 薬物事犯は入管法24条4号チにより、刑の重さを問わず退去強制事由となりうる点が、他の罪名と決定的に異なります。
- したがって、執行猶予ではなく起訴前の不起訴処分の獲得が、在留を守るうえで最も現実的な目標となります。
「その場にいた」ことと「所持していた」ことは別である
覚醒剤取締法41条の2が処罰するのは、覚醒剤の「所持」でございます。判例・実務上、所持とは物に対する事実上の支配を意味し、握っている必要も、身に着けている必要もありません。他方で、支配していると評価するためには、その物の存在を認識し、これを自己の意思に従って処分しうる状態にあったことが求められます。つまり、部屋の中に薬物があったという事実だけでは足りず、その薬物が誰の支配下にあったのかを個別に検討しなければなりません。
もっとも、捜査の初期段階では、この個別の検討が十分に行われないまま、居合わせた全員が同じ嫌疑で身柄を取られることが少なくありません。同室者の一部が所持を認めれば、その供述に引きずられる形で、他の者にも共同所持の嫌疑が及びます。ここで弁護人が早期に介入し、誰がどの位置におり、誰が薬物を持ち込み、誰がその存在を知りえたのかという事実関係を切り分けていくことが、事案の帰趨を分けます。
共同所持を基礎づけるのは「意思の連絡」である
複数人が同一の薬物を共同で所持していたと認定されるには、共同して支配するという意思の連絡が必要でございます。実務では、同席していた時間の長さ、金銭の拠出の有無、薬物の分配の約束、部屋の借主が誰であるか、といった間接事実から意思の連絡が推認されます。逆に申しますと、たまたま呼ばれて短時間立ち寄っただけであること、費用を一切負担していないこと、部屋の管理に関与していないこと等が具体的に示されれば、推認は揺らぎます。
この作業は、記憶が鮮明なうちに行う必要がございます。誰といつ連絡を取り、どのような経緯でその場に来たのか。通信アプリの履歴、交通系ICカードの利用記録、勤務先の勤怠記録といった客観資料は、時間の経過とともに失われてまいります。
薬物事犯は、刑の重さを問わず在留に直結する
外国籍の方にとって、薬物事犯が他の罪名と決定的に異なるのは、入管法24条4号チの構造にございます。同号は、覚醒剤取締法・大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法等の一定の法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由として掲げており、言い渡された刑が罰金であっても、また執行猶予が付されていても、原則として該当いたします。同法24条4号リが「無期又は1年を超える拘禁刑」という刑の重さを要件としているのと比べ、4号チには刑の重さによる絞りがありません。
「執行猶予が付いたから日本に残れる」という説明は、薬物事犯については当てはまらないとお考えください。この点を見落としたまま公判で執行猶予の獲得のみを目標に据えると、判決の直後に入管の収容が待っているという事態を招きます。
目標は不起訴処分に置く
以上の構造からいたしますと、薬物事犯の弁護活動は、起訴前の段階で嫌疑不十分による不起訴処分を得ることを最優先に組み立てるべきものと考えております。所持の帰属が争われる共同所持事案は、まさに嫌疑不十分による不起訴の余地が残されている類型でございます。検察官に対しては、居合わせた経緯の偶発性、薬物の管理者との関係の希薄さ、尿検査の結果、日本での生活実態といった事情を、意見書の形で具体的に示してまいります。
初動で押さえておきたい点
- 黙秘権は正当な権利でございます。「自分のものではない」と説明するつもりが、他の同席者の所持を認める供述として調書に残り、共犯関係の立証に用いられることがあります。
- 尿検査への対応は、弁護人と相談のうえお決めください。使用の事実がない場合、結果はご本人に有利な資料となりえます。
- 通訳の質は結果を左右いたします。「持っていた」「置いてあった」「預かった」の区別は、日本語でも中国語でも微妙であり、訳出の一語の違いが所持の認定を左右しかねません。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、薬物事犯および複数人が関与する組織型の事案について、数多くの弁護に取り組んでまいりました。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、押収物の管理経過や捜査手続を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問を尽くした結果、無罪判決を獲得した事例がございます。営利目的所持は法定刑が極めて重く、執行猶予も容易ではない類型ですが、所持の帰属や目的の立証が十分でない場合には、結論が覆る余地が残されております。
また、裁判員裁判の対象となる重大事件や、国際的に報道された事件についても対応してまいりました。関係者が多数にのぼる事案では、ご本人の位置付けを全体の構図の中で正確に示すことが要となります。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
薬物が見つかった部屋に居合わせたというだけで、人生の設計が根本から揺らぐことがございます。ご本人にとっては「自分は関係がない」という素朴な感覚があり、その感覚と捜査機関が描く見立てとの隔たりを、証拠によって埋めていくのが弁護人の仕事でございます。逮捕の直後は、ご家族にとっても情報が乏しく不安の大きい時期ですが、この段階でこそ打てる手が残されております。
なお、本記事は2026年8月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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