舟渡国際法律事務所

公表されていない事案でも在留特別許可は取れる

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公表されていない事案でも在留特別許可は取れる

公表されていない事案でも在留特別許可は取れる

2026/08/06

「入管庁が公表している事例集を読んでみたけれど、自分と同じような話がどこにも載っていない」。在留特別許可をお考えのご本人やご家族から、そうしたお声をいただくことがございます。とりわけ薬物事件、偽造在留カード、不法就労助長といった類型では、事例集に並ぶのが不許可の記載ばかりで、そこで気持ちが折れてしまう方が少なくありません。本記事は、公表事例がどこまでを写した資料なのかを押さえたうえで、「載っていない」という事実が何を意味し、何を意味しないのかを整理いたします。当事務所は、公表事例では不許可が並ぶ類型において在留特別許可を得た経験を有しております。そこから見えたことを率直にお伝えします。

本記事の要点

  • 公表事例は行政自身が「許可相当」と判断した先例であり、同種事情における許可実績を示して、合理的理由なく異なる取扱いを受けていると主張する土台になります(憲法14条1項)。
  • もっとも事例集は許可・不許可それぞれ20件前後の抜粋にとどまります。平成20年から平成25年までの6年分は現在の出入国在留管理庁ウェブサイト上に本体が見当たらず、難民認定手続中の在特事例も原則として公表統計から除外されています。
  • したがって「公表事例に自分と同じ類型の許可例が見当たらない」ことは、許可の可能性がないことを意味しません。
  • 当事務所は、公表事例では不許可が並ぶ不法就労助長の類型において在留特別許可を獲得し、許可後もなお違反認定処分そのものの取消しを争っております。
  • 公表事例の傾向は出発点であって結論ではなく、理論構成と立証の工夫によって傾向を超えられる場合があります。

公表事例はどこまでを写した資料なのか

公表事例は、法務大臣の裁量判断の手掛かりが得られる数少ない公的資料ですが、その年に許可された全事案を載せたものではありません。

出入国在留管理庁(旧法務省入国管理局)は平成16年以降、在留特別許可をした事例としなかった事例を毎年公表してきました。発覚の端緒(出頭申告か、警察逮捕か、摘発か)、違反態様、在日期間、違反期間、婚姻期間、子の有無、刑事処分、許可された在留資格と期間が表形式で示されます。掲載された許可事例は、行政自身が「この程度の事情であれば在留を認めるのが相当である」と判断した先例ですから、依頼者の事案と本質的に同じ事情を備えた許可事例を複数抽出できれば、平等な取扱いを求める主張を具体的な根拠をもって組み立てられます。

もっとも、この資料には限界があります。まず量です。各年の事例集は許可・不許可それぞれ20件前後の抜粋にとどまり、令和6年分は改正法施行前が許可8件・不許可8件、施行後が許可10件・不許可8件と、さらに少数です。掲載事案の選定基準も公表されていません。

次に年次の欠落です。平成26年より前の年次別事例集は同庁サイトに掲載されておりません。平成15年から平成19年までは、法務省入国管理局が平成20年12月に公表した資料が許可114件・不許可60件を収録しており、当事務所はこれを入手して分析しております。しかし平成20年から平成25年までの6年分は、同庁サイトにも当事務所の入手資料にも本体が見当たりません。

加えて、掲載されているのは外形的な事実だけです。実際にどのような主張がなされ、どの点が判断の分かれ目になったのかは記載されていません。同じ「不法就労助長で罰金」と書かれた2つの事案でも、故意の有無について何をどこまで立証したかは判明しません。その主張と立証の余地こそが、弁護活動の働く場所です。

現に、不許可が並ぶ類型で許可を得た事案がある

当事務所が担当した不法就労助長事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を得ております。

不法就労助長は、公表事例の中で最も厳しく評価される類型の一つです。現行ガイドライン(令和6年3月改定・同年6月10日運用開始)第2の3は、「他の外国人の不法就労又は在留資格の偽装に関わる行為」を、出入国在留管理行政の根幹に関わる違反として「特に考慮する消極要素」に明示しています(同項(イ))。事例集を追うと、平成28年から令和6年後半まで、ほぼ各年にわたって不法就労助長の不許可事例が並びます。平成30年のA類型(配偶者が日本人の場合)不許可第2事例は、自ら経営する飲食店で「短期滞在」の外国人をホステスとして稼働させたもので、入管法違反により懲役10月執行猶予3年・罰金120万円(現行法では拘禁刑に相当します。事例集由来の量刑は公表当時の原典表記です)とされ、不許可となりました。

許可例が皆無というわけではありません。令和3年から令和6年後半までのA類型には、不法就労助長で罰金の略式命令を受けながら「日本人の配偶者等(1年)」の許可を得た事例があります。ただしいずれも、日本人配偶者や日本国籍の未成年子という強い家族関係を備えた事案です。公表事例から読み取れる傾向は「家族関係という強い積極要素で押し返せる場合に限って許可の余地がある」というものになります。

当事務所が担当した事案は、この傾向とは別の経路をたどりました。積極要素を積み上げて消極要素を上回らせるという通常の構成にとどまらず、そもそも退去強制事由に該当するという評価自体を争ったのです。

傾向を超えるために何をしたのか

軸に据えたのは、退去強制事由の判断に責任主義の射程がどこまで及ぶかという論点と、故意・過失の不存在を裏づける立証の積み上げでした。

刑事事件では故意または過失の検討が当然の出発点です。他方、入管実務では退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないとする運用が長年踏襲されてきました。この運用は、責任なくして刑罰なしという考え方を行政処分にどこまで及ぼすべきかという、憲法論・行政法論の根本問題を含んでいます。松村大介弁護士はこの論点を正面から問う訴訟を現在も係争中であり、結論を申し上げられる段階にはありません。しかし、この理論構成を掲げ、雇用の実態、確認の経緯、当時の認識を示す客観的資料を積み上げて故意・過失の不存在を主張した結果として在留特別許可を得るに至ったことは、事実として申し上げられます。

実務上の示唆は明快です。故意・過失が争点となりうる類型、すなわち不法就労助長、無自覚な薬物運搬、共謀の認識、偽造文書の真偽の認識、過失運転致死傷といった事案では、刑事段階から故意・過失を徹底して争うことが、後の入管手続における主張の土台を作ります。認識を認める供述調書に署名してしまえば、入管手続でその評価を覆すのは容易ではありません。別稿では不法就労助長罪(入管法73条の2)についてこの論点を最も厚く展開しております。

なぜ許可を得た後も認定処分を争うのか

在留特別許可を得たことは、違反認定処分が消えたことを意味しません。当事務所は同事案において、許可後もなお違反認定処分そのものの取消しを求めて争っており、審理は上級審に係属しております。

在留特別許可は、退去強制対象者に該当することを前提として、なお在留を特別に認める判断です。したがって許可が出ても、退去強制事由に該当するとの認定は記録として残り、将来の在留期間更新・在留資格変更・永住許可の審査における素行の評価に影響しうるものです。それゆえ処分そのものを消しにいく方針を採っております。係争中の事件ですので、結論の見通しについては申し上げません。

それでも公表事例の分析は不可欠である

公表事例が網羅的でないからといって、その分析が不要になるわけではありません。むしろ逆です。依頼者の事案に最も近接する許可事例を複数抽出して許可実績を示し、類似の事情で不許可となった事例との相違点を明確にし、行政が何を重く見ているかを把握して立証の重点を決める。この作業から申請書や意見書の起案は始まります。別稿では、平成15年から令和6年までの公表事例を年ごとに全件解説し、類型別の分水嶺も体系化しております。

照合の枠組みとなる現行ガイドラインの評価要素は、次のとおりです。

  • 特に考慮する積極要素。日本人・特別永住者の実子であること、その未成年未婚の実子を相当期間同居監護養育していること、日本人・特別永住者と法的に婚姻し相当期間共同生活して婚姻が安定かつ成熟していること、永住者・定住者等との同様の家族関係、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受け本国での就学が困難で地域社会に溶け込んでいること(第2の2)。本邦への貢献(第2の3)。難病等による本邦での治療の必要性、本国情勢による帰国困難、無国籍で送還先がないこと(第2の7)。自ら出頭したこと(第2の9)。令和6年改定では子の利益の保護の必要性が明示され、地域社会との関係構築・第三者の支援・税の納付状況も考慮されます。
  • 特に考慮する消極要素。集団密航への関与、他の外国人の不法就労・在留資格の偽装への関与、公的書類の偽変造・行使・所持、売春に関わる行為(第2の3)。不法在留期間の長期化(第2の5。終期は入管庁が不法滞在を認知した時点です)。退去強制理由となった事実の反社会性の程度(第2の6)。仮放免・監理措置中の逃亡や条件違反。
  • 判断手法(第3・注4)。積極要素が消極要素を「明らかに上回る」場合に許可の方向で検討されます。積極要素があるからといって当然に許可されるものではなく、消極要素があれば一切許可されないというものでもありません。退去強制令書発付後の事情変更は原則として考慮されません。令和5年改正法50条1項ただし書により、無期または1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者(全部執行猶予及び実刑部分が1年以下の一部執行猶予を除く)等は「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されますが、令和6年後半の事例集ではその許可事例が独立の区分として掲げられました。

刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか

多くの事案について、「刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がある」と申し上げられます。断定はできませんが、その余地があった事案は少なくありません。

誤解が多いのは「執行猶予が付いたから日本に居られる」という理解です。入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除外されます。他方、4号チ(薬物関係法令違反による有罪)は執行猶予でも退去強制事由となります。号ごとに構造が異なるため、当該事件でどの号が問題となるのかを特定しなければ見通しは立ちません。弁護活動は、起訴前段階から不起訴処分の獲得を最優先の目標として組み立てる必要があり、執行猶予の獲得を最終目標に据えてはなりません。

違反審査の段階から何を争うべきか

在留特別許可は退去強制手続の最後の段階で判断されますが、そこで初めて動いても遅い場面が多くあります。防御線は3段階に分けて考えるべきものです。

刑事段階が第一の防御です。逮捕直後の72時間が、勾留(身柄を拘束する手続)の決定までの勝負所となります。黙秘権の適切な行使、早期の弁護人選任、依頼者本人のために動く通訳の確保が要です。供述調書の訳出のニュアンスが、後の公判と入管手続の双方を左右します。

入管の違反審査段階が第二の防御です。退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という三審構造を採ります。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、違反審査の段階から退去強制事由該当性そのものを争い、積極要素を裏づける証拠を提出しておくべきです。認定や判定に不服を留保せずに従うと、争点が事実上封じられます。

申請段階が第三の防御です。令和5年改正法により申請手続が新設され(50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。恩恵的措置から申請権を前提とする手続へと構造が変わり、積極要素の立証責任を事実上申請者側が負う場面が増えています。別稿ではこの三審構造と申請手続を、それぞれ独立の記事で解説しております。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。本記事の主題に近い解決事例を3件ご紹介いたします。

不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した依頼者の事案では、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を覆すべく、責任主義・過失責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得し、許可後も違反認定処分そのものの取消しを争っております。

観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して婚姻と認知を成立させました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、過去の許可事例の分析により1回の申請で在留特別許可を獲得しております。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者の事案では、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しております。事実そのものを争い抜く姿勢は、故意・過失を争う入管手続にも通じます。

当事務所の方針の中心は不起訴目標主義です。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護活動を組み立てております。松村弁護士は接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を確保できます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。

結語

公表事例に自分と同じ類型の許可例が見当たらないとき、そこで諦めてしまうのは早すぎます。事例集は抜粋であり、記載されているのは外形的な事実だけで、主張と立証の中身は書かれておりません。どの段階でどの争点を立てるかを早く決めることが、結果を大きく左右いたします。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


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