在留特別許可のすべて。よくあるご質問にお答えします
2026/08/06
在留特別許可について調べ始めると、聞き慣れない言葉が次々に出てまいります。退去強制、違反審査、口頭審理、異議申出。ご本人が身柄を拘束されている場合、ご家族はその意味を確かめる時間さえ与えられません。本記事は、中国籍の当事者とそのご家族から実際に多く寄せられるご質問を、そのまま見出しに立ててお答えするものです。結論を先に置き、理由と条文をその後に添えました。年ごとの公表事例、類型別の分析、罪名別の刑事弁護論、手続ごとの解説は、それぞれ別稿で取り上げております。
本記事の要点
- 在留特別許可は、退去強制の対象に当たると判断された方に対し、なお在留を特別に認める判断です。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により申請手続が新設されました(入管法50条1項)。
- 公表事例の許可事例は大半が自ら出頭申告した方であり、家族関係と子の利益が最も重く評価されています。
- 「執行猶予が付いたから日本に居られる」とは限りません。入管法24条は号ごとに構造が異なり、薬物関係法令違反(4号チ)は執行猶予でも退去強制事由となります。
- 公表事例は各年20件前後の抜粋にすぎず、同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。
- 動くべき時期は、判断が下る直前ではなく、刑事事件の初動と入管の違反審査の段階です。
在留特別許可とは何ですか
退去強制の対象に当たると判断された外国人に対し、法務大臣がなお日本での在留を特別に認める判断です。
日本に家族がいる、子が日本の学校に通っている、治療を続ける必要があるなど、送還すると著しく不当な結果になる事情を総合して判断されます。許可されると「日本人の配偶者等」「定住者」「特定活動」等の在留資格が、多くは1年の期間で与えられます。
誰が申請できるのですか
退去強制対象者に該当する外国人です。令和5年改正入管法により申請手続が正面から設けられました(入管法50条1項)。
同項は、永住許可を受けているとき、人身取引等により他人の支配下に置かれて在留するものであるとき、難民等の認定を受けているとき、その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき等を掲げます。改正前は職権による恩恵的措置でしたので、申請権を前提とする手続に変わったことには大きな意味があります。
どのタイミングで判断されるのですか
退去強制手続の最後、法務大臣への異議申出に対する判断の場面です。ただし、そこで初めて動いても遅い場面が多くあります。
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という三審構造を採ります。認定や判定に不服を留保せずに従うと、争点が事実上封じられます。
出頭申告と摘発で結果は変わるのですか
公表事例を見る限り、大きく変わります。自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことは、ガイドライン第2の9で積極要素として明示されています。
出入国在留管理庁が毎年公表する事例集では、許可事例の大半が出頭申告による発覚です。警察逮捕・摘発で発覚して許可された事例は、人身取引被害、DV被害、日本国籍の実子の監護養育といった強い人道的事情がある場合に限られる傾向が認められます。
執行猶予なら日本に残れるのですか
罪名によって結論がまったく異なります。「執行猶予が付いたから大丈夫」という理解は危険です。
入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますので、全部執行猶予は除外されます。他方、4号チ(薬物関係法令違反による有罪)は執行猶予でも退去強制事由となります。だからこそ当事務所は、起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先の目標としております。
不法滞在が長いと有利になるのですか、不利になるのですか
現行ガイドライン(令和6年3月改定・同年6月10日運用開始)では、基本的に不利な事情です。第2の5は、不法在留期間の長期化を在留管理秩序の侵害として消極要素に位置づけました。
期間の終期は、入管庁が不法滞在の事実を認知した時点です。ただし、その間に日本人や地域社会との関係を築いている場合は別途積極要素として考慮される留保があり、令和6年後半の事例集でも不法残留期間が8年を超える事案で許可がなされています。
日本人の配偶者がいれば許可されるのですか
強い積極要素になりますが、それだけで決まるものではありません。判断を分けるのは婚姻の実態です。
ガイドライン第2の2は、日本人・特別永住者と法的に婚姻し(偽装婚を除く)、相当期間共同生活をして相互に扶助し、婚姻が安定かつ成熟していることを積極要素とします。永住者・定住者等の別表第二の在留資格者との家族関係も同様です。他方、不許可事例には「同居実態なし」「婚姻実態に疑義」との記載が繰り返し現れます。
子どもが日本の学校に通っていればどうなるのですか
有力な積極要素です。令和6年改定では、本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性が明示されました。
ガイドライン第2の2(3)は、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受け、本国での就学が困難な事情があり、地域社会に溶け込んでいる子と、その監護養育者を積極要素に掲げます。公表事例でも、母子で出頭申告し子が相当期間就学している事案では、家族そろって「定住者(1年)」の許可を得た例が各年に見られます。
薬物事件だと絶望的なのですか
厳しい類型であることは事実ですが、絶望的と申し上げるべきものではありません。
薬物関係法令違反は入管法24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由となり、公表事例でも不許可が並びます。他方、令和6年後半の事例集では、覚醒剤取締法違反で1年を超える実刑判決を受けた永住者について、改正法50条1項ただし書の「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」があるとして許可された事例が独立の区分として掲げられました。
偽造在留カードを使ってしまった場合はどうなりますか
ガイドライン第2の3(ウ)が公的書類の偽変造・不正受交付・行使・所持を消極要素に掲げており、公表事例でも不許可が目立つ類型です。
もっとも、偽造かどうかの認識、すなわち故意の有無が実際には争いになる事案も少なくありません。ここは刑事段階で徹底して争っておくべき点です。
不法就労助長でも在留特別許可は取れるのですか
取れた事例があります。当事務所は、公表事例では不許可が並ぶ不法就労助長の類型において、在留特別許可を獲得しております。
不法就労助長は、ガイドライン第2の3(イ)「他の外国人の不法就労・在留資格の偽装に関わる行為」として消極要素に明示され、事例集でも平成28年から令和6年後半までほぼ各年にわたって不許可事例が並びます。当事務所が担当した事案では、退去強制事由の判断に責任主義の射程がどこまで及ぶかという理論構成を掲げ、故意・過失の不存在を裏づける立証を積み上げました。この論点は現在も係争中であり、結論を申し上げられる段階にはありません。
退去強制令書が出てからでも間に合うのですか
段階が進むほど選択肢は狭まります。ガイドライン注4は、退去強制令書発付後の事情変更は原則として考慮しないとしています。
婚姻の届出、子の認知、治療の開始といった事情は、令書が発付される前に整えておく必要があります。令書発付後は行政訴訟や仮の救済の申立て、仮放免・監理措置の申請を検討することになりますが、負担は重くなります。
公表事例に自分と同じケースがない場合はどうなりますか
許可の可能性がないという意味ではありません。公表事例は網羅的な資料ではないためです。
事例集は各年、許可事例と不許可事例をそれぞれ20件前後ずつ抜粋するにとどまります。平成20年から平成25年までの6年分は現在の入管庁ウェブサイト上に本体が見当たらず、難民認定手続中の在特事例も原則として公表統計から除外されています。掲載されているのは外形的な事実だけで、どの点が判断の分かれ目になったのかは記載されていません。公表事例の傾向は出発点であって結論ではなく、理論構成と立証の工夫によって傾向を超えられる場合があります。別稿で詳しく論じております。
弁護士に頼むべきタイミングはいつですか
早いほど選択肢が多く残ります。刑事事件になっている場合は、逮捕された直後です。
逮捕直後の72時間が、勾留(身柄を拘束する手続)の決定までの勝負所です。黙秘権の適切な行使、早期の弁護人選任、依頼者ご本人のために動く通訳の確保が要になります。供述調書の訳出のニュアンスが、後の公判と入管手続の双方を左右いたします。
費用はどのくらいかかりますか
事案の内容によって大きく異なりますので、記事の上で金額を申し上げることは控えております。
刑事事件を伴うか、身柄が拘束されているか、通訳を要する場面がどの程度あるか、行政訴訟まで見込むかによって作業量が変わります。ご相談の際に、手続の流れと費用の見通しを具体的にご説明いたします。
このシリーズでは他に何を解説しているのですか
平成15年から令和6年までの公表事例を年ごとに全件取り上げた記事群、類型別の分析、罪名別の刑事弁護論、手続別の解説を用意しております。
類型別では、配偶者が日本人の場合、配偶者が正規在留外国人の場合、子と共に不法滞在の場合、その他(DV被害・無国籍・難病・日本国籍喪失等)に分けて分水嶺を整理しております。罪名別では薬物事犯、不法就労助長罪、偽造在留カード等、売春関係・財産犯を扱い、手続別では初動対応、違反審査から争う方法、改正法による申請手続を扱っております。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。解決事例を3件ご紹介いたします。
観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して婚姻と認知を成立させました。過去の許可事例の分析により、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。
不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した依頼者の事案では、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を覆すべく、責任主義・過失責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しております。
特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案では、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議により、全件について不起訴処分を獲得しております。
当事務所の方針の中心は不起訴目標主義です。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護活動を組み立てております。松村弁護士は接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を確保できます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
結語
在留特別許可の結果を左右するのは、判断が下る直前の主張ではなく、刑事事件の初動と入管の違反審査の段階でどれだけ手を打てたかです。ご不明な点は早い段階でお尋ねください。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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