舟渡国際法律事務所

令和5年改正入管法による在留特別許可の申請手続|50条1項各号・5項の考慮事情・ただし書と、申請権創設の落とし穴

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令和5年改正入管法による在留特別許可の申請手続|50条1項各号・5項の考慮事情・ただし書と、申請権創設の落とし穴

令和5年改正入管法による在留特別許可の申請手続|50条1項各号・5項の考慮事情・ただし書と、申請権創設の落とし穴

2026/08/06

「在留特別許可は法務大臣の恩恵であって、こちらから求めることはできないと聞きました」。これは長らく正確な説明でした。令和5年法律第56号による改正入管法が令和6年6月10日に施行され、在留特別許可には申請の手続が設けられ、法務大臣が考慮する事情が条文に書き込まれました。もっとも、実務でご相談を受けておりますと、この変化には見過ごしてはならない一面があると感じます。本記事では、改正後の条文の構造と、申請という形になったことで申請者側に生じた負担を整理いたします。

本記事の要点

  • 令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、在留特別許可に申請の手続が新設され(入管法50条1項)、法務大臣が考慮する事情が法律上明示されました(同条5項)。
  • 従前の職権発動による恩恵的な措置から、申請権を前提とする手続へと構造が変わりました。もっとも、許可の判断基準そのものが緩やかになったわけではありません。
  • 実務上の落とし穴は、積極要素の立証責任を事実上申請者側が負う場面が増えたことです。提出しなかった事情は、判断の材料にならないおそれがあります。
  • 無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた方などは、同条1項ただし書により「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限って許可されます。
  • 令和6年後半の事例集では、このただし書に該当しながら許可された事例が独立の類型として掲載されました。実刑判決を受けた方でも許可の可能性が閉ざされていないことが、公表資料から確認できます。

在留特別許可はいつから「申請」できるようになったのか

令和6年6月10日からです。

改正前の入管法50条は、法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決する場合であっても在留を特別に許可することができると定めるにとどまり、当事者の側から許可を求める手続は用意されていませんでした。

令和5年改正法は、この点を変えました。申請権者は退去強制対象者に該当する外国人であり、法務大臣は、申請により、又は職権で、在留を特別に許可することができるとされました。当事者の側から手続を起こす道が、条文上に置かれたということです。

入管法50条1項は、誰に許可できると定めているのか

同項本文は、次の5つの場合を掲げています。

  • 第1号 永住許可を受けているとき。
  • 第2号 かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
  • 第3号 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
  • 第4号 入管法61条の2第1項の難民の認定又は同条第2項の補完的保護対象者の認定を受けているとき。
  • 第5号 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。

実務上、多くの事案は第5号によることになります。第1号から第4号までは客観的に明確な地位を要件としていますから、これらのいずれかに当たる場合には、その地位自体を第1の主張の柱に据えることになります。

法務大臣は何を考慮するのか

改正法は、考慮事情を入管法50条5項に列挙しました。在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢、本邦における不法滞在者に与える影響、その他の事情です。

当事務所では、申請書と添付する意見書を各項目を逐条的に追う形で組み立て、項目ごとに主張する事実とその裏づけ資料を一対一で対応させております。

他方、条文に列挙されたことの副作用にも留意が必要です。列挙に収まりにくい事情、たとえば地域社会における具体的な役割、支援してくださる方々との関係の質、お子様の心情といった事柄は、「その他の事情」という受け皿に位置づけて主張することになります。ここを漫然と流すと、依頼者にとって最も切実な事情が書面から落ちます。列挙に沿った書き方をしないと拾われにくくなる一方、列挙の枠に事案を無理に押し込めると依頼者固有の事情が薄まるという兼ね合いは、書面作成の技術の問題です。

1年を超える実刑を受けた場合、もう申請はできないのか

申請そのものが封じられるわけではありません。ただし、判断の枠組みが一段厳しくなります。

入管法50条1項ただし書は、次の方については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可することができると定めています。

  • 無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者。全部執行猶予の場合と、実刑部分が1年以下の一部執行猶予の場合は除かれます。
  • 入管法24条3号の2、3号の3、4号ハ又は4号オからヨまでに該当する者。どの号に該当するかは、事案ごとに条文に当たって確認する必要があります。

通常の場合は、積極要素が消極要素を明らかに上回るかどうかで判断されます(ガイドライン第3)。これに対し、ただし書に該当する場合は、許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる「特別の事情」の有無が問われます。積極要素が多いというだけでは足りず、退去させることが人道の観点から相当でないといえる事情を、正面から立証する必要があるということです。

ただし書に該当しながら許可された事例はあるのか

あります。公表資料から確認できる重要な事実です。

出入国在留管理庁が令和7年7月に公表した令和6年後半(改正法施行後)の事例集では、ただし書に該当しながら在留特別許可がなされた事例が、独立した区分として3件掲載されました。

配偶者が日本人である類型では、覚醒剤取締法違反により懲役1年2月の実刑判決(現行法では拘禁刑に相当)を受けた「永住者」の方について、在日約22年4月、婚姻期間約24年5月、未成年のお子様1人という事情の下で「定住者(1年)」の許可がなされました。配偶者が正規在留外国人である類型では、同じく覚醒剤取締法違反により懲役1年2月の実刑判決を受けた方について、在日約30年4月、婚姻期間約6年2月、配偶者「定住者」、未成年のお子様3人という事情の下で「定住者(1年)」の許可です。その他の類型では、盗品等有償譲受け・盗品等運搬により懲役1年6月、罰金20万円の実刑判決を受けた方について、在日約21年、日本で生まれた実子(「永住者」、未成年)を監護養育しているという事情の下で「定住者(1年)」の許可がなされています。

これら3件から読み取れる「特別の事情」の要素は、永住者としての生活基盤の安定性、未成年の実子(とりわけ日本国籍又は永住者の資格を有するお子様)を監護養育する必要性、日本人の内妻との家族関係といった事情の複合であると考えられます。実刑判決という重い消極要素があっても、これらの事情を具体的な証拠で示すことができれば判断の余地は残されているということです。

申請権ができたことで、当事者は有利になったのか

有利な面と、実務上見過ごされやすい負担の両方があります。

有利な面は明確です。求める内容を書面の形で正面から提出できるようになり、考慮事情が条文に明示されたことで何を主張すべきかが可視化されました。

他方、落とし穴として次の各点を申し上げます。

第1に、積極要素の立証責任を事実上申請者側が負う場面が増えました。申請という形式になった以上、申請書と添付資料に書かれていない事情は判断の材料に上がらないおそれが強くなります。診断書を取っていない、お子様の在学証明を出していない、同居の実態を示す資料が写真だけであるといった状態は、それ自体が不利に働きます。

第2に、判断の基準そのものは緩やかになっていません。積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に許可の方向で検討されるという枠組み(ガイドライン第3)は維持されています。申請権の創設は、判断を受ける機会を制度化したものであって、許可の可能性を広げることを保証したものではありません。

第3に、申請の時期です。令和6年改定のガイドラインは不法在留期間の長期化を明示的に消極要素と位置づけ、期間の終期は入管庁が不法滞在の事実を認知した時点とされています(注3)。申請を先延ばしにしている間、この消極要素だけが積み上がります。

第4に、これが最も重要ですが、退去強制令書が発付された後の事情変更は原則として考慮されません(注4)。準備に時間をかけているうちに手続が進み令書が発付されてしまえば、その後に整えた婚姻、認知、診断、就学の事情は評価されないおそれがあります。申請の時機を自分で選べるということは、時機を誤る責任も申請者側に来るということです。

申請書には何を書き、何を添付するのか

申請は、住居地を管轄する地方出入国在留管理局に対して行います。書面の中心は在留特別許可の申請書であり、これに意見書、ご本人の陳述書、各種の立証資料を添付する構成が基本になります。

添付資料は、入管法50条5項の考慮事情に対応させて整理します。家族関係については戸籍謄本、婚姻届・認知届の受理証明、住民票の異動履歴、賃貸借契約書、家計を示す口座の記録、第三者の陳述書。お子様については在学証明と本国での就学が困難な事情を示す資料。素行については納税証明と在職証明。人道上の配慮については診断書と本国の医療事情に関する資料です。

当事務所が重視しているもう一つの柱は、過去の公表事例との対照です。依頼者の事案に最も近接する許可事例を複数抽出して共通点を具体的に示し、同種の事情を有する事案について許可の実績があるにもかかわらず本件についてのみ異なる取扱いをすることは法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で問題があるという主張を、申請書に組み込みます。

ガイドラインの評価要素にどう当てはめるのか

申請書の構成は条文(50条5項)に沿わせますが、評価の重みづけはガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日運用開始)に従います。

  • 家族関係(第2の2)。日本人又は特別永住者の実子であること、未成年・未婚のその実子を相当期間同居して監護養育していること、法的な婚姻が安定かつ成熟していることが最も重い積極要素です。別表第二の在留資格者(永住者・定住者等)との家族関係もこれに準じます。
  • 素行(第2の3)。本邦への貢献が積極要素となる一方、他の外国人の不法就労や在留資格の偽装への関与、在留カード等公的書類の偽変造、売春への関与は消極要素です。
  • 人道上の配慮(第2の7)。難病等による治療の必要性、その治療を要する親族の看護、本国情勢に照らした帰国困難、無国籍で送還先がないこと。
  • 在留期間と法的地位(第2の5)、退去強制理由となった事実(第2の6)。不法在留期間の長期化は消極要素ですが、その間に日本人や地域社会との関係を構築している場合には別途積極要素として考慮される留保があります。
  • その他の事情(第2の9)と子の利益。自ら出頭したこと、別表第一の在留資格該当性。令和6年改定により、本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性が積極要素として明示されました(参議院附帯決議14項を踏まえたもの)。
  • 仮放免中・監理措置中の逃亡や条件違反は消極要素です。申請の準備期間中の生活の仕方が、そのまま判断材料になります。

刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば結果は変わったのか

入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、同条4号チは薬物関係法令違反により有罪の言渡しを受けた者を退去強制事由としており、こちらは執行猶予でも該当します。

そして改正法では、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑を受けた場合、50条1項ただし書により判断の枠組みが一段厳しくなります。刑事事件の結末が、在留特別許可の審査の入口を分ける仕組みになったということです。不起訴処分を獲得できれば、有罪の言渡しを前提とする退去強制事由の該当性そのものが生じません。執行猶予にとどめられれば、少なくともただし書の第1類型には当たりません。

事例集の不許可事例の多くについて、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がある、という余地は残されていたと考えられます。当事務所が執行猶予の獲得を最終目標とせず、起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先目標としているのは、このためです。

違反審査の段階から何を争うべきか

「在留特別許可は申請すればよいのだから、それまでは入管の言うとおりにしておこう」という考え方には、注意が必要です。退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査と認定、特別審理官の口頭審理と判定、法務大臣への異議申出という順序で進みます。認定に不服があれば通知を受けた日から3日以内に口頭審理を請求し、判定に不服があれば同じく3日以内に異議を申し出ることができますが、不服がないと述べてしまうと、その後に争える範囲が事実上狭まります。また、違反調査の段階で作られた調書は申請の段階まで基礎資料として残りますから、申請書の内容と調書の供述が食い違えば、それ自体が不利に働きます。違反調査での供述から申請書に至るまでを、一本の線として設計しておく必要があります。

公表事例に同じ類型が見当たらないとき

事例集は各年20件前後の抜粋にとどまり、実際の許可件数のごく一部を示すものにすぎません。したがって、公表事例に自分と同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。現に当事務所が担当した不法就労助長の事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しております。公表事例の傾向は出発点であって結論ではなく、理論構成と立証の工夫によってその傾向を超えられる場合があります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。

在留特別許可の申請に関わる解決事例をご紹介いたします。観光目的で来日された相談者が日本人女性との間にお子様を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了であったため当局から一旦は受理を拒まれたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を成立させ、公的書類がほとんど存在しない状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することにより1回の申請で在留特別許可を獲得しております。特殊詐欺の出し子とされた20代女性の事案では、指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯、犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。

当事務所の方針を申し添えます。第1に、不起訴処分の獲得を最優先目標とすることです。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前段階に力を集中させます。第2に、松村弁護士が全工程を直接担当することです。初回の接見から申請書の起案、公判の結審まで、事務員や若手弁護士による代行を行いません。第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐していることです。捜査機関や入管が手配する通訳人とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳が同席し、陳述書の作成にも関与いたします。第4に、提携する行政書士と連携し、許可を得た後の在留資格の更新・変更手続まで一貫してお支えできる体制を整えていることです。

結語

申請権が設けられたことは制度の前進です。もっとも、何を出すか、いつ出すかという判断の責任が申請者側に移ってきた面があります。出さなかった事情は評価されず、令書発付後に整えた事情は原則として考慮されません。申請書の起案は、書式を埋める作業ではなく、事案の全体を設計する作業です。準備の段階から、どうか一度ご相談ください。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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