在留特別許可と初動対応|逮捕直後72時間、黙秘権、そして出頭申告という選択
2026/08/06
「今朝、夫が警察に連れて行かれ、家にも会社にも戻ってきません」。「入管に自分から出頭した方がよいと言われましたが、そのまま収容されてしまうのではないでしょうか」。こうしたご相談が、当事務所には中国語で日々寄せられます。在留特別許可の判断は手続の最後の段階で行われますが、その結論を左右する材料の多くは、逮捕直後の数日間、あるいは出頭するかどうかを決めた時点で、すでに形づくられています。本記事では、最初の数日で何が決まるのか、発覚の端緒によって結果がどう変わるのかを、出入国在留管理庁の事例集に即して整理いたします。
本記事の要点
- 逮捕から勾留が決まるまでの約72時間が、供述調書の骨格と身柄の帰趨を決める最初の分岐点です。ここで作られた調書は、後の刑事裁判と入管手続の双方で読まれ続けます。
- 事例集の許可事例は、その大半が自ら入管へ出頭した「出頭申告」による発覚です。摘発・逮捕で発覚して許可された事例は、人身取引被害や日本国籍の実子の監護養育といった人道的な事情がある場合に偏ります。
- もっとも、出頭それ自体が許可を導くわけではありません。出頭には収容の可能性が伴い、その時期と準備の内容が結果を左右します。
- 不法在留期間は、入管庁が不法滞在の事実を認知した時点で終期が区切られます(ガイドライン注3)。判断を先延ばしにするほど、消極要素としての期間が伸びます。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となるため、弁護活動は起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先目標とする必要があります。
逮捕された直後の72時間で何が決まるのか
この72時間で決まるのは、身柄を拘束され続けるかどうかと、供述調書の骨格です。どちらも後の在留特別許可の判断に直結します。
警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送り、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に、裁判官へ勾留(身柄を拘束し続ける手続)を請求するかどうかを決めます。勾留が決まれば、原則10日間、延長されて最長20日間、拘束が続きます。
その間、取調べが繰り返され、通訳人を介した一問一答が日本語の調書にまとめられ、署名を求められます。「知らなかった」が「気にしていなかった」と記録されるといった訳出のずれは、刑事裁判の見通しだけでなく、入管の違反審査における素行の評価も左右します。外国人の方が身柄を拘束された事件では捜査機関から入管へ通報が行われるのが一般的で、二つの手続はこの段階から並行して動きます。
黙秘権は行使した方がよいのか
黙秘権は憲法38条1項と刑事訴訟法198条2項が保障する権利です。行使したことを理由に不利益な取扱いを受けてはならない権利ですから、行使すること自体を恐れる必要はありません。
実務でお勧めしているのは「適切な行使」です。故意の有無、共謀の内容、報酬の約束、何をどこまで認識していたかという核心部分は、弁護人と方針を確認するまで供述を控える。他方、身分事項や客観的な記録で裏づけられる在留資格の経緯は、弁護人と相談の上で必要な説明を行う。この切り分けを最初の接見で決めておくことが要点です。
「早く帰りたいから認めてしまおう」という判断には、とりわけ注意が必要です。認めた内容が薬物関係法令違反や偽造在留カードの行使に及ぶ場合、執行猶予判決でも退去強制事由に該当する類型があります。
弁護人と通訳は誰のために動く立場なのか
逮捕された当日か翌日の接見を目標にしてください。逮捕直後は、各弁護士会の当番弁護士制度により1回の接見を無料で受けられます。被疑者国選弁護制度は勾留が決まった後の制度ですので、勾留前の最も重要な時期を国選で埋めることはできません。刑事事件としては軽微に見える罰金前科でも、罪名によっては在留特別許可の判断で重い消極要素となりますから、刑事弁護と入管手続の双方を見通せる弁護人かどうかが分かれ目になります。
通訳も同じです。取調べに立ち会う通訳人は捜査機関が手配した通訳人であり、依頼者の利益のために発言を補う立場ではありません。他方、弁護人が同席させる通訳は依頼者本人のために動く立場であり、調書の日本語表現が依頼者の趣旨と合っているかをその場で検証できます。「頼まれた」と「依頼を受けて報酬を得た」の違いが故意の認定を分けることもあり、当事務所が中国語専属通訳を常駐させているのは、この検証を初動から行うためです。
出頭申告した方が有利になるのか
自ら入管に出頭して不法滞在を申告したこと(出頭申告)は、許可事例に一貫して見られる特徴です。
現行の在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日運用開始)は、「不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を、その他の事情における積極要素として明示しています(第2の9)。出入国在留管理庁が令和7年7月に公表した令和6年後半(改正法施行後)の事例集では、配偶者が正規在留外国人である類型の許可事例はいずれも出頭申告による発覚であり、子と共に不法滞在している類型の許可事例も出頭申告です。平成26年分でも、この類型の許可3件はすべて家族又は母子での出頭申告でした。
理由は二つあります。第1に、自ら申告する行為が出入国在留管理秩序に対する誠実な姿勢の表れとして評価されること。第2に、不法在留期間の終期が入管庁の認知時点で区切られること(注3)です。令和6年改定で不法在留期間の長期化が明示的に消極要素と位置づけられましたので、出頭が遅れるほどこの消極要素だけが積み上がります。
「出頭すれば許可される」と考えてよいのか
いいえ、そのように読むべきではありません。誤解が最も深刻な結果を招くところですので、率直に申し上げます。
第1に、出頭申告をしても不許可となった事例は相当数あります。平成26年分では、出頭申告・不法入国で在日約10年5月に及ぶ事案が、被退去強制歴3回という一点で不許可となりました。令和6年後半の事例集にも、出頭申告でありながら退去強制歴があるとして不許可となった事例が掲載されています。判断は、積極要素が消極要素を明らかに上回るかどうかで行われます(ガイドライン第3)。
第2に、出頭後、収容令書によって収容される可能性があります。令和5年改正法により、収容に代えて監理人の監理の下で生活する監理措置が設けられ、仮放免と併せて身柄の解放を求める道はありますが、当然に認められるものではありません。
第3に、出頭の時期と準備が結果を左右します。婚姻や認知が未了のまま出頭すれば、家族関係という最も強い積極要素を立証できない状態で審査が始まります。同居の実態を示す資料、お子様の在学証明、納税の状況、身元を保証する方の存在は、出頭の前に整えておくものです。不許可事例に「同居・婚姻実態に疑義」との記載が頻出する意味は、ここにあります。
摘発や逮捕で発覚した場合はもう手遅れなのか
そうではありません。ただし、主張と立証の水準が上がります。
摘発・警察逮捕・職員探知で発覚しながら許可された事例は、人道的な事情が強く認められる場合に偏っています。平成26年分では、当局摘発で発覚した人身取引被害者の事案(「特定活動(1月)」の許可)、当局摘発で発覚したものの日本国籍の実子を監護養育していた事案(「定住者(1年)」の許可)があります。令和6年後半の事例集にも、警察逮捕で発覚した不法残留約10年3月の事案で「日本人の配偶者等」(1年)が許可された例があります。
他方、逮捕を端緒とする不許可事例には共通の型があります。平成30年分では、覚せい剤取締法違反で懲役1年2月の実刑(現行法では拘禁刑に相当)を受け、同種前科と被退去強制歴2回を有する事案が不許可とされました。逮捕という端緒それ自体が結論を決めているのではなく、犯罪行為の反社会性の程度(第2の6)と前歴の積み重ねが判断を分けています。
初動対応はガイドラインのどの評価要素に効くのか
初動対応は、次の各要素に直接効きます。
- 積極要素・その他の事情(第2の9)。自ら出頭したという事実そのもの。
- 積極要素・家族関係(第2の2)。日本人又は特別永住者の実子であること、その実子を相当期間同居して監護養育していること、法的な婚姻が安定かつ成熟していること。別表第二の在留資格者(永住者・定住者等)との家族関係もこれに準じます。
- 積極要素・人道上の配慮(第2の7)。難病等による治療の必要性、本国情勢に照らした帰国困難、無国籍。
- 消極要素・素行不良(第2の3)。取調べで認めた内容が、他の外国人の不法就労への関与や在留カード等の偽変造として記録されると、この項目に直結します。
- 消極要素・不法在留期間の長期化(第2の5)と、退去強制理由となった事実の反社会性(第2の6)。前者の終期は認知時点であり、後者は刑事処分の内容と罪名で評価されます。
判断は、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に許可の方向で検討されます(ガイドライン第3)。積極要素があれば許可されるというものでも、消極要素があれば一切許可されないというものでもありません(注4)。
刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば結果は変わったのか
入管法24条は、退去強制事由を号ごとに書き分けています。同条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を挙げますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、同条4号チは薬物関係法令違反により有罪の言渡しを受けた者を挙げ、こちらは執行猶予でも該当します。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、号ごとの構造を踏まえていない可能性があります。
弁護活動が目指すべき到達点は、執行猶予判決ではなく不起訴処分です。不起訴処分を獲得できれば、有罪の言渡しを前提とする退去強制事由の該当性そのものが生じません。事例集の不許可事例の多くについて、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がある、という余地は残されていたと考えられます。
違反審査の段階から何を争うべきか
在留特別許可は、法務大臣への異議申出に対する判断の中で検討されます。しかし、そこで初めて動き始めるのでは遅すぎます。
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査と認定、特別審理官の口頭審理と判定、法務大臣への異議申出という順序で進みます。認定に不服があれば口頭審理を請求し、判定に不服があれば異議を申し出る道がありますが、不服がないと述べてしまうと争点が事実上封じられます。そして、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(注4)。違反審査の段階から退去強制事由該当性そのものを争い、積極要素を裏づける証拠を提出しておくべきです。
公表事例に自分と同じ類型が見当たらないとき
「事例集を読みましたが、私と同じような事案は不許可ばかりです」。多くのご相談で伺う不安です。もっとも、公表事例は網羅的ではありません。各年20件前後の抜粋にとどまり、実際の許可件数のごく一部にすぎません。同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。現に当事務所が担当した不法就労助長の事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しています。公表事例の傾向は出発点であって結論ではありません。
他方、公表事例は行政自身が「許可相当」と判断した先例でもあります。同種の事情を有する事案について許可の実績があるにもかかわらず本件についてのみ異なる取扱いをすることは、法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で問題があるという主張が可能です。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。
初動対応に関わる解決事例をご紹介いたします。特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べへの対応を徹底し、不当な取調べに対して抗議を積み重ねることにより、全件について不起訴処分を獲得いたしました。特殊詐欺の出し子とされた20代女性の事案では、指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯、犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。また、観光目的で来日された相談者が日本人女性との間にお子様を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了であったため当局から一旦は受理を拒まれたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を成立させ、公的書類がほとんど存在しない状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することにより、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。
当事務所の方針を申し添えます。第1に、不起訴処分の獲得を最優先目標とすることです。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前段階に力を集中させます。第2に、松村弁護士が全工程を直接担当することです。初回の接見から公判の結審まで、事務員や若手弁護士による代行を行いません。第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐していることです。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者本人のために動く通訳が、供述の訳出を初動から検証いたします。第4に、提携する行政書士と連携し、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更まで一貫してお支えできる体制を整えていることです。
結語
在留特別許可という制度の入口は、入管の窓口ではなく、逮捕された直後の接見室、あるいは出頭を決断する前の準備の中にあります。最初の数日でどのような選択をしたかが、数か月後の判断を静かに決めていきます。ご不安を抱えたまま独りで判断される前に、どうか一度ご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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