売春関係事件と窃盗・詐欺・特殊詐欺と在留特別許可|1年を超える実刑という分水嶺
2026/08/06
「知らない人から荷物を受け取るだけの仕事だと言われました。まさか詐欺だとは思いませんでした」。「お店で働いていただけなのに、警察に呼ばれてから在留資格の話になっています」。特殊詐欺の受け子とされた方、あるいは風俗店や派遣型の店舗で働いていた方から寄せられるご相談です。この2つの類型は一見まったく別のものですが、在留特別許可の判断では、いずれも「特に考慮する消極要素」の中に位置づけられており、しかも刑の重さの評価の仕組みが異なるという共通の落とし穴があります。本記事では、出入国在留管理庁が公表した事例集の記載に即して、どこで結果が分かれているのかを整理いたします。なお、売春に関わる部分については、当事者の尊厳に配慮した記述にとどめます。
本記事の要点
- 現行ガイドラインは、自ら売春を行い又は他人に売春を行わせる等、社会秩序を著しく乱す行為又は人権を著しく侵害する行為を「特に考慮する消極要素」に掲げています(第2の3(エ))。事例集を見る限り、自ら従事した類型と、周旋・場所提供の類型では、評価の重さが明確に異なります。
- 自ら従事した類型では、売春防止法違反による罰金5万円の略式命令にとどまり、家族関係が安定していた事例で許可が出ています(平成26年分B類型許可第5事例、令和2年分A類型許可第4事例)。他方、周旋・場所提供の類型は、事例集で確認できる限り不許可が並びます。
- 人身取引の被害者として公的機関に保護された場合は、まったく異なる評価がなされます。平成26年分から令和2年分まで、毎年のように許可事例が掲載されています。
- 財産犯では、入管法24条4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑。全部執行猶予は除く)が中心の分水嶺です。常習性・累犯・特殊詐欺への関与・組織性が量刑を押し上げ、その結果として同号に該当する経路が、事例集からはっきり読み取れます。
- したがって、目標は執行猶予ではなく不起訴処分です。受け子・出し子の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的状況、詐欺の故意や共謀の認識の不存在を主張して不起訴を獲得する余地があり、窃盗・詐欺では被害弁償と示談の成否が処分を左右します。示談交渉は、そのまま在留資格の維持に直結します。
売春に関わる事件はガイドライン上どう評価されるか
結論を先に申し上げます。現行ガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日運用開始)は、「特に考慮する消極要素」の中で、出入国在留管理行政の根幹に関わる違反又は反社会性の高い違反の一例として、自ら売春を行い又は他人に売春を行わせる等、社会秩序を著しく乱す行為又は人権を著しく侵害する行為を掲げています(第2の3(エ))。
この条項の書き方には注目すべき点があります。「自ら売春を行い」と「他人に売春を行わせる」が並べて書かれつつ、後半に「人権を著しく侵害する行為」という評価が置かれているからです。他人に売春をさせる行為、その場所を提供する行為、借金を背負わせて働かせる行為は、他者の人権を侵害する側面を持ちます。事例集の帰結の差は、この構造を反映していると読むことができます。
また、日本の入管法は、売春に直接関係する業務への従事を、有罪判決の有無とは別に退去強制事由として定めています。このため、刑事処分がなくても退去強制手続が進む場面があります。令和5年分のA類型不許可第2事例は、売春従事につき職員探知で発覚し、刑事処分は「なし」と記載されているにもかかわらず退去強制手続に至った事例です(本人は永住者、在日約13年、婚姻期間約1年、配偶者と離婚協議中とされ、不許可となりました)。「刑事処分がなければ在留に影響しない」という理解は、この類型では成り立ちません。
自ら売春に従事した類型では何が結果を分けたのか
事例集を通読すると、この類型では刑の重さそのものよりも、家族関係の安定性と退去強制歴の有無が結果を分けています。
許可事例は2件確認できます。平成26年分のB類型(配偶者が正規在留外国人の場合)許可第5事例は、警察逮捕により発覚し、売春防止法違反(勧誘等)により罰金5万円の略式命令を受けた事案です(懲役は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。本人は永住者、配偶者は定住者、未成年のお子様2人はいずれも永住者、婚姻期間約6年1月、在日約14年10月という事情の下で、「定住者(1年)」が許可されました。令和2年分のA類型(配偶者が日本人の場合)許可第4事例も、売春防止法違反(勧誘)により罰金5万円の略式命令を受けた事案ですが、在日約23年7月、婚姻期間約23年5月、成年のお子様1人という長期の家族関係が認められ、「日本人の配偶者等(1年)」が許可されています。
不許可事例と比べると、違いが浮かび上がります。平成26年分のA類型不許可第2事例は、売春従事につき警察逮捕で発覚し、刑事処分は「無」と記載されていますが、婚姻期間約1年2月、在日約2年10月で、被退去強制歴1回があり、同居・婚姻の実態に疑義がもたれたとして不許可となりました。令和2年分のA類型不許可第4事例は、売春防止法違反により懲役4月・執行猶予2年を受けた事案で、婚姻期間約1年、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反による罰金の前科と条例違反による罰金の前科の合計2件があり、不許可。同年分のD類型不許可第1事例は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により罰金100万円の判決を受けた事案で、在日約18年3月でも、被退去強制歴と条例違反の罰金前科があり不許可でした。
読み取れる分水嶺は次のとおりです。許可された2件は、いずれも婚姻期間が6年以上に及び、配偶者・お子様が正規の在留資格を有し、刑は罰金5万円の略式命令にとどまり、前科・退去強制歴の記載がありません。不許可となった事例は、婚姻期間が短いか実態に疑義があり、前科や退去強制歴が重なっています。刑が軽ければ許可されるという単純な図式ではなく、家族関係の実質がどこまで立証されているかが決定的です。
周旋・場所提供の類型はどう評価されているか
この類型は、事例集で確認できる限りすべて不許可です。年・類型・番号を挙げます。
自ら経営する店で売春の場所を提供した類型が中心にあります。令和4年分のA類型不許可第2事例は、売春防止法違反及び入管法違反(不法就労助長)により懲役3年・執行猶予4年、罰金150万円の判決を受けた事案で、自己が経営する店において売春を行う場所を提供し、複数の外国人を不法就労させたものと記載されています。配偶者は日本人でしたが別居中であり、不許可。同年分のB類型不許可第2事例も、入管法違反(不法就労助長)、売春防止法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により懲役2年・執行猶予4年、罰金50万円の判決を受け、自己が経営する店で売春を行う場所を提供し外国人を不法就労させたとして不許可となりました。
周旋の類型も同様です。平成29年分のA類型不許可第2事例は、売春防止法違反により懲役10月・執行猶予3年を受け、売春の周旋をしたもの、婚姻・同居の実態に疑義がもたれたものとして不許可。平成30年分のD類型不許可第8事例は、自己の経営するマッサージ店において「短期滞在」で在留する外国人を稼働させ、売春の周旋をしたとして、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反及び売春防止法違反により罰金50万円の略式命令を受け、在日約14年9月でも不許可でした。令和3年分のA類型不許可第4事例は売春周旋及び不法残留で懲役2年・執行猶予3年、在日約23年10月・婚姻期間約2年2月でも不許可。同年分のD類型不許可第4事例は不法就労助長及び売春周旋で懲役3年・執行猶予5年。令和5年分のD類型不許可第3事例は売春防止法違反及び風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により懲役1年・執行猶予3年、罰金30万円で、本人は「技術・人文知識・国際業務」で在留していましたが不許可です。
近年の事例も同じ方向です。令和6年前半のD類型不許可第3事例は、売春防止法違反及び入管法違反により懲役2年・執行猶予3年、罰金100万円の判決を受け、在日約25年10月、在留特別許可歴があるとして不許可。令和6年後半のD類型不許可第1事例は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反及び売春防止法違反により罰金150万円(ほか前科1件)を受け、在日約21年11月、本邦での病気療養を希望しましたが不許可となりました。罰金刑にとどまる事案でも不許可が出ていることは、この類型の評価の重さを示しています。
仮放免中の営業も強い消極要素になります。平成28年分のA類型不許可第2事例は、出頭申告により発覚した不法残留の事案でありながら、売春防止法違反及び風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により懲役1年6月・執行猶予3年、罰金20万円の判決を受け、仮放免中に違法な店舗を経営して逮捕されたものとして不許可となりました。
旧運用の時期にも同じ傾向が残されています。法務省が平成20年12月に公表した資料によれば、平成18年に在留特別許可をしなかった事例の第5事例は、自ら経営する店で同国人女性に借金を負わせて稼働させた事案で、売春防止法違反及び入管法違反(不法就労助長)により懲役2年6月・執行猶予4年を受け、過去2回の退去強制手続歴とあわせて不許可とされています。他者に経済的な支配を及ぼす形態が最も重く評価されるという構造は、20年近く一貫していると言えます。
人身取引の被害者として保護された場合はどうなるのか
まったく異なる評価がなされます。ここは必ず区別してご説明しています。
出入国在留管理庁の事例集には、人身取引被害者として公的機関に保護された方に在留特別許可がなされた事例が、平成26年分のD類型許可第5事例、平成27年分のD類型許可第5事例、平成28年分のD類型許可第7事例、平成29年分のD類型許可第2事例、平成30年分のD類型許可第1事例、令和元年分のD類型許可第6事例、令和2年分のD類型許可第8事例と、ほぼ毎年掲載されています。いずれも在日期間は約2月から約1年1月と短く、国際機関の支援を受けて早期の帰国を希望していたと記載され、許可内容は「特定活動(1月)」又は「特定活動(3月)」です。発覚の端緒は摘発、警察保護、警察逮捕、出頭申告、関係機関からの通報と多様であり、逮捕されていても被害者性が認められれば許可に至っています。
旧運用の資料にも、より詳しい事情が残されています。平成16年に在留特別許可をした事例には、来日費用名目で数百万円の借金を負わされて稼働を強いられた方、監視付きで稼働させられ逃亡して出頭した方などが含まれ、「短期滞在(90日)」又は「特定活動(3月)」が許可されています。
令和5年改正入管法は、この点を法律上も明確にしました。入管法50条1項3号は、人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるときを、在留特別許可の考慮対象として明示しています。
実務上重要なのは、被害者性が捜査の早い段階で認識されるかどうかです。借金の経緯、旅券や在留カードを取り上げられていた事実、監視の状況、収入がどこに渡っていたか、逃げられなかった理由といった事情は、被疑者としての取調べの中では十分に語られないことがあります。通訳を介した取調べで「自分の意思で働いた」という趣旨の調書が作られてしまえば、後にこれを覆すのは容易ではありません。ご本人のために動く立場の通訳と弁護人が、初動の段階で被害者性に関わる事実を丁寧に聴き取ることが要点になります。
財産犯では入管法24条のどの規定が問題になるのか
財産犯の中心的な分水嶺は、入管法24条4号リです。同号は「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。したがって、窃盗や詐欺で1年を超える実刑判決を受けると、この規定によって退去強制対象者となります。
もっとも、これだけでは不十分です。入管法は、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在、経営・管理等)で在留する方について、入管法上の一定の罪による有罪判決を、実刑か執行猶予かを問わず退去強制事由とする規定を別に置いています(該当する号は事案ごとに条文に当たって確認する必要があります)。永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者といった別表第二の在留資格の方は、この規定の対象ではありません。同じ罪名・同じ量刑でも、在留資格の区分によって退去強制事由の該当性が変わる構造になっているのです。
さらに、令和5年改正入管法50条1項ただし書により、無期若しくは1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた方は、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されます。財産犯で1年を超える実刑となった場合、単に積極要素を積み上げるだけでは足りず、この「特別の事情」の枠組みで主張を構成しなければなりません。
事例集の財産犯はどのような分布になっているか
不許可事例を並べると、量刑を押し上げた要因がはっきり見えてきます。
第1に、常習性と累犯です。令和5年分のA類型不許可第4事例は、常習累犯窃盗により懲役2年6月の実刑判決(ほか前科4件)を受けた事案で、本人は永住者、在日約19年8月、婚姻期間約19年5月、未成年のお子様1人という長期の家族関係がありながら不許可となりました。令和元年分のA類型不許可第4事例も、窃盗により懲役1年4月の判決を受け、窃盗等の前科4件と被退去強制歴3回があるとして、婚姻期間約16年5月でも不許可。平成29年分のD類型不許可第6事例は、窃盗・建造物侵入により懲役3年の判決を受け、前科3件(窃盗・建造物侵入で懲役2年、詐欺で懲役1年6月・執行猶予4年等)と被退去強制歴1回が記載されています。令和3年分のD類型不許可第1事例(窃盗により懲役10月、窃盗の前科2件)、令和2年分のD類型不許可第2事例(窃盗により懲役10月、窃盗・傷害で執行猶予の前科1件、被退去強制歴あり)も同様です。
第2に、特殊詐欺への関与と組織性です。令和4年分のA類型不許可第3事例は、窃盗により懲役2年8月の判決を受けた事案で、特殊詐欺に関わり窃盗を繰り返していたもの、配偶者との同居の実態が認められなかったもの、虚偽の申告により在留資格を得ていたものと記載され、婚姻期間約7年・配偶者は日本人でありながら不許可となりました。同年分のD類型不許可第3事例は、銀行職員等になりすまして他人のキャッシュカードを騙し取ったとして詐欺・窃盗により懲役2年、本人は永住者でしたが不許可。令和6年後半のB類型不許可第1事例は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反及び詐欺により懲役4年6月の実刑判決(ほか前科1件)を受けた事案で、在日約20年2月、婚姻期間約8年10月、未成年のお子様1人、配偶者は永住者、在留特別許可歴ありという事情でしたが不許可でした。同年後半のD類型不許可第4事例は、窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺により懲役4年の実刑判決を受け、在日約27年11月でも不許可となっています。
第3に、重大な暴力を伴う犯罪です。平成26年分のA類型不許可第4事例は強盗致傷により懲役3年、婚姻期間約7年1月・配偶者は日本人でも不許可。令和4年分のD類型不許可第4事例は住居侵入・強盗致傷・覚醒剤取締法違反により懲役6年、本人は永住者でも不許可。平成26年分のD類型不許可第6事例は、覚せい剤取締法違反・建造物侵入・窃盗・住居侵入・強盗未遂により懲役7年の判決を受け、刑務所服役中に不法残留となった事案です。
第4に、執行猶予でも不許可となった事例が相当数あることです。平成30年分のB類型不許可第1事例は、不正作出支払用カード電磁的記録供用・窃盗により懲役3年・執行猶予4年、婚姻期間約3年10月でも不許可。同年分のC類型不許可第2事例は、窃盗により懲役1年6月・執行猶予3年を受けた事案で、本邦で出生した6歳のお子様がいても不許可。令和元年分のD類型不許可第6事例は窃盗未遂により懲役1年2月・執行猶予3年、「経営・管理」で在留中の事案。令和3年分のB類型不許可第3事例は詐欺により懲役2年6月・執行猶予4年、配偶者は永住者。令和4年分のD類型不許可第7事例は、自身の経営する会社で持続化給付金を不正に受給したとして詐欺未遂により懲役1年6月・執行猶予3年。令和6年前半のB類型不許可第3事例は詐欺・電子計算機使用詐欺・道路交通法違反により懲役1年6月・執行猶予3年です。
執行猶予が付けば入管法24条4号リには該当しません。しかし、退去強制事由に該当しないことと、在留特別許可の判断で有利になることは別の問題です。これらの事例は、不法残留や資格外活動といった別の退去強制事由で手続に乗った上で、財産犯の有罪判決が消極要素として評価された構造にあります。「執行猶予だから大丈夫」という見通しが危険であることは、この分布からも明らかです。
実刑判決を受けても許可された事例はあるのか
あります。事実として正確に申し上げます。
令和6年後半の事例集には、改正法50条1項ただし書該当事案の許可事例が独立の類型として掲載されました。そのうちD類型のただし書該当許可第1事例は、警察逮捕により発覚し、盗品等有償譲受け及び盗品等運搬により懲役1年6月・罰金20万円の実刑判決を受けた事案です。在日期間は約21年、在留希望の理由は日本で生まれた実子の監護養育であり、そのお子様(未成年)は永住者でした。結果として「定住者(1年)」が許可されています。
この事例が示しているのは、1年を超える実刑判決を受けた財産犯であっても、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」が認められる場合があるということです。読み取れる要素は、在日期間の長さ、日本で生まれた実子であること、そのお子様が永住者という安定した在留資格を有すること、監護養育の必要性です。同じ令和6年後半のD類型不許可第4事例(窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺により懲役4年の実刑、在日約27年11月)と比べると、在日期間はむしろ不許可事例の方が長いのですから、期間の長さそのものではなく、未成年実子の監護養育という具体的な家族関係の有無が判断を分けたと読むのが自然です。
令和5年分のD類型許可第7事例も参考になります。大麻取締法違反・詐欺未遂・覚醒剤取締法違反・邸宅侵入により懲役3年・執行猶予5年の判決を受けた事案で、本人は永住者、在日約26年3月、日本人内妻とともに日本人実子を監護養育しているとして「定住者(1年)」が許可されました。
旧運用の資料にも同方向の事例があります。平成15年に在留特別許可をした事例の第3事例は、店舗で食料品を万引きして逮捕され、懲役10月・執行猶予3年を受けた方が、C型肝炎の夫(定住者)と本邦で出生した2人のお子様の就学状況を考慮され、「定住者(1年)」を得た事案です。平成17年許可第3事例も、窃盗(万引き)による逮捕を経て入管法違反・窃盗罪により懲役2年8月・執行猶予3年を受けながら、日本人男性との間のお子様を監護養育していることを理由に「定住者(1年)」が許可されています。同年許可第11事例は、1940年に本邦で出生し永住許可を受けた方が、詐欺(無銭飲食)で実刑を繰り返した後も、本邦での生育と本国に頼る親族がいない事情、既往症を考慮され「定住者(1年)」を得た事案です。
いずれも旧運用に属する事例ですから、そのまま現在の見通しに用いることはできません。もっとも、これらが示す判断の構造、すなわち財産犯の前科があっても家族関係と生活の実態が十分に立証されれば許可の判断がなされ得るという構造は、令和6年後半のただし書該当許可事例に引き継がれていると見ることができます。
特殊詐欺の受け子・出し子で不起訴を目指すには
この類型は、当事務所が最も多く扱っている領域の一つです。実務上申し上げられることを率直に記します。
受け子・出し子とされる方の多くは、SNSや知人の紹介を通じて「荷物の受取り」「口座からの出金」といった説明で関与に至っています。指示役は匿名性の高い通信手段を用い、途中で「やめれば家族の住所を知られている」といった圧力をかけることも珍しくありません。この経緯を丹念に再構成することが、防御の出発点です。
争点は主に3つあります。第1に、詐欺の故意です。受け取る荷物や引き出す金銭が犯罪によって得られたものであるという認識があったかどうかは、報酬の金額と支払い方法、指示の具体性、身分証の偽装を指示されたか、複数回にわたるか、途中で疑問を抱いた際のやり取りといった事情から判断されます。第2に、共謀の認識です。組織の全体像を知らないまま末端で行動していた場合、どの範囲について共謀が成立するかは慎重な検討を要します。第3に、脅迫的状況です。離脱を申し出た後に脅されていた事実があれば、責任の評価は大きく変わります。
これらは、逮捕直後の取調べでどのように供述したかによって、争える幅が大きく変わってしまいます。「早く帰りたいから認めてしまおう」という判断が、後の入管手続まで含めて最も重い結果を招くことがあるのは、この類型です。
当事務所が担当した事案では、特殊詐欺の出し子とされた20代の女性について、指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯と、犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。また、特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べへの対応を徹底し、不当な取調べに対して抗議を積み重ねることにより、全件について不起訴処分を獲得しております。
事例集の不許可事例の中にも、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由の該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がある事案が含まれていると考えられます。特に、執行猶予付きの判決にとどまった事例については、その余地があったと見る余地が残されています。断定はできませんが、弁護活動の目標を執行猶予ではなく不起訴に置くべき理由は、ここにあります。
示談・被害弁償はなぜ在留資格に直結するのか
窃盗・詐欺のような個人の財産を侵害する犯罪では、被害弁償と示談の成否が処分を大きく左右します。被害者との間で示談が成立し、被害が回復されれば、起訴猶予による不起訴処分の可能性が現実的に生じます。不起訴となれば、有罪判決を前提とする退去強制事由の該当性は生じません。示談交渉が在留資格の維持に直結するというのは、この経路を指しています。
もっとも、被害者との示談交渉をご本人やご家族が直接行うことは、通常は困難です。捜査機関は被害者の連絡先を加害者側に開示しませんので、弁護人を通じて連絡を取る必要があります。身柄を拘束されている状況では、なおさら弁護人の存在が前提になります。
当事務所は、被害者側に立つ事案も扱っております。卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得いたしました。加害者側・被害者側の双方の交渉を経験していることは、示談の落ち着きどころを見極める上で意味を持ちます。
なお、社会的な法益を侵害する類型(売春の周旋、公衆衛生に関わる違反等)では、被害弁償という手段自体が想定しにくく、示談による解決が期待できません。侵害された法益が個人のものか社会のものかによって、防御の組み立て方は根本的に変わります。この点は、罪名の表面ではなく保護法益から検討するという方針の帰結でもあります。
この罪名で摘発された場合、何をすべきか
時間の順に、三つの防御線として整理いたします。
第1の防御線:刑事段階
逮捕から勾留が決まるまでの約72時間が最初の分岐点です。警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送り、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に勾留を請求するかどうかを決めます。逮捕直後は各弁護士会の当番弁護士制度により1回の接見を無料で受けられますが、被疑者国選弁護制度は勾留が決まった後の制度ですので、勾留前の最も重要な時期を国選で埋めることはできません。
この段階で決めるべきことは、故意・共謀・脅迫的状況という核心部分について、弁護人と方針を確認するまで供述を控えるかどうかです。黙秘権は憲法38条1項と刑事訴訟法198条2項が保障する権利であり、行使したことで不利益な取扱いを受けてはならないものですから、行使自体を恐れる必要はありません。並行して、被害者がいる事案では被害弁償の準備を進めます。目標は不起訴処分です。
第2の防御線:入管の違反審査段階
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査と認定、特別審理官の口頭審理と判定、法務大臣への異議申出という順序で進みます。在留特別許可は最後の異議申出に対する判断の中で検討されますが、そこで初めて動くのでは遅すぎます。
この類型で違反審査の段階から争うべき点は、まず退去強制事由の該当性そのものです。判決の刑種と刑期が入管法24条4号リの要件を満たすのか、一部執行猶予の場合の実刑部分は1年以下ではないか、ご自身の在留資格が別表第一か別表第二かによって、別表第一の在留資格者を対象とする退去強制事由の規定の対象になるのか、といった当てはめは、争える余地のある論点です。認定に不服があれば口頭審理を請求し、判定に不服があれば異議を申し出る道がありますが、不服がないと述べてしまうと争点は事実上封じられます。退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(ガイドライン注4)。
第3の防御線:在留特別許可の申請段階
令和5年改正入管法により、在留特別許可には申請手続が新設され(50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。積極要素の立証を申請者側で組み立てる場面が増えています。
財産犯で1年を超える実刑となった場合は、50条1項ただし書の枠組みで「特別の事情」を構成する必要があります。令和6年後半のD類型ただし書該当許可第1事例から読み取れる要素、すなわち未成年実子の監護養育の必要性、お子様の在留資格の安定性、在日期間の長さ、生活基盤の実質を、具体的な資料で裏づけていく作業になります。売春関係の事案では、被害者性が認められる事情の有無を最初に検討します。あわせて、事例集から同種の事情を有する許可事例を年・類型・番号で特定し、同種事案について許可の実績があるにもかかわらず本件についてのみ異なる取扱いをすることは、法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で問題があるという主張を組み立てます。
公表事例が示す傾向は結論なのか
いいえ、出発点です。この点は率直に申し上げます。
出入国在留管理庁が公表する事例集は、各年20件前後の抜粋にとどまり、実際の許可件数のごく一部にすぎません。網羅的な統計ではないのです。したがって、公表事例に自分と同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。現に当事務所が担当した不法就労助長の事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています。理論構成と立証の工夫によって、公表事例の傾向を超えられる場合があります。
他方で、公表事例は行政自身が「許可相当」と判断した先例でもあります。この両面を場面に応じて使い分けることが、書面の組み立ての要点になります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。
この類型に関わる解決事例を3件ご紹介いたします。第1に、特殊詐欺の出し子とされた20代女性の事案です。指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯、犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。第2に、特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案です。取調べへの対応を徹底し、不当な取調べに対して抗議を積み重ねることにより、全件について不起訴処分を獲得しております。再逮捕が繰り返される事案では、1件ごとに争点が異なりますから、その都度方針を立て直す必要があります。第3に、卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案です。刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得いたしました。被害者側の交渉を数多く経験していることは、加害者側で示談を進める際にも活きております。
当事務所の方針を申し添えます。第1に、不起訴処分の獲得を最優先目標とすることです。財産犯では執行猶予でも在留特別許可の判断で重い消極要素として評価される例が事例集に並びますので、起訴前段階に力を集中させます。第2に、松村弁護士が全工程を直接担当することです。初回の接見から公判の結審まで、事務員や若手弁護士による代行を行いません。第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐していることです。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者本人のために動く通訳が、故意や被害者性に関わる供述の訳出を初動から検証いたします。第4に、提携する行政書士と連携し、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更まで一貫してお支えできる体制を整えていることです。
結語
財産犯では1年を超える実刑という一点が、売春関係の事件では自ら従事したのか他人に行わせたのかという区別が、その後の在留を大きく左右します。いずれの類型でも、判決が出てから入管対応を考え始めるのでは遅く、逮捕直後の取調べ対応と示談の準備、あるいは被害者性に関わる事実の聴き取りが、数か月後の判断を静かに決めていきます。ご不安を抱えたまま独りで判断される前に、どうか一度ご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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