舟渡国際法律事務所

不法就労助長罪と在留特別許可|「知らなかった」は通るのか、公表事例で不許可が並ぶ類型でも許可はあり得るのか

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不法就労助長罪と在留特別許可|「知らなかった」は通るのか、公表事例で不許可が並ぶ類型でも許可はあり得るのか

不法就労助長罪と在留特別許可|「知らなかった」は通るのか、公表事例で不許可が並ぶ類型でも許可はあり得るのか

2026/08/06

「従業員の在留カードは見ていました。まさか偽物だとは思いませんでした」。「店の名義は自分ですが、面接も採用も任せていました」。外国人を雇った側が入管法違反で摘発される事案では、必ずこうしたお話を伺います。不法就労助長は、雇われた側ではなく雇った側が問われる犯罪であり、しかも罰金の略式命令で刑事手続が終わった後に、自分自身の在留資格が失われるという展開をたどります。本記事では、出入国在留管理庁が公表してきた事例集からこの類型の全事例を洗い出し、不許可が並ぶ中で許可された事例がどこで分かれたのかを検証いたします。あわせて、「不法就労者だとは知らなかった」という主張が刑事手続と入管手続でどのように扱われるのか、当事務所が現に問うている論点をご説明いたします。

本記事の要点

  • 不法就労助長は入管法73条の2の犯罪であり、同時に入管法24条3号の4の退去強制事由でもあります。刑事処分が罰金の略式命令で終わっても、それとは別に退去強制手続が進みます。
  • 現行の在留特別許可に係るガイドラインは、「他の外国人の不法就労・在留資格の偽装に関わる行為」を「特に考慮する消極要素」として明示しています(第2の3(イ))。事例集でも、平成26年分から令和6年後半分までで違反態様に不法就労助長が挙げられた事例は32件あり、そのうち27件が不許可です。
  • もっとも、残る5件は許可されています。いずれも日本人配偶者又は正規在留外国人配偶者との家族関係がある類型であり、罰金20万円から30万円の略式命令を受けながら許可された事例も含まれます。「不許可が並ぶ類型だが、例外がないわけではない」というのが正確な描写です。
  • 雇用主が「不法就労者であることを知らなかった」と主張して刑事で争っても、入管手続では別途「客観的に不法就労助長があった」と認定されれば退去強制事由に該当するとされてきた運用があります。この運用は、責任主義の射程を行政処分にどこまで及ぼすかという根本問題を含んでおり、松村大介弁護士はこの論点を正面から問う訴訟を係争中です。
  • 当事務所が担当した不法就労助長事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しております。さらに、在留特別許可を得た後もなお、違反認定処分そのものの取消しを争っております。

不法就労助長罪とはどのような犯罪なのか

雇われた側ではなく、雇った側、支配下に置いた側、あっせんした側を処罰する犯罪です。

入管法73条の2は、次の3つの行為を処罰の対象としています。第1に、事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせること。第2に、外国人に不法就労活動をさせるために、これを自己の支配下に置くこと。第3に、業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は自己の支配下に置く行為に関しあっせんすること。法定刑は、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科とされています。

ここでいう「不法就労活動」は、在留資格を持たない方が報酬を得て働く活動のほか、在留資格で認められた範囲を超えて報酬を得る活動を含みます。「留学」の方を許可された時間を超えて働かせる場合、「技能」の方を全く別の業務に従事させる場合も、対象となり得ます。

そして、実務上最も重要なのは同条2項です。同項は、雇った者が、当該外国人が不法就労活動を行うことを知らなかったことを理由として処罰を免れることはできないと定め、ただし、過失のないときはこの限りでないとしています。つまり、「知らなかった」という弁解だけでは足りず、知らなかったことについて過失がなかったことまで示す必要がある構造になっています。

雇った側が退去強制の対象になるのはなぜか

入管法24条3号の4が、不法就労助長を独立の退去強制事由として掲げているためです。

この号は、73条の2と対応する形で、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者、不法就労活動をさせるために自己の支配下に置いた者、業としてそのあっせんをした者を、退去強制対象者としています。事例集の特記事項欄に「事業活動に関し、複数の外国人に不法就労活動をさせたもの」「業として、外国人に不法就労活動をさせる行為に関しあっせんしたもの」と記載されているのは、この号の文言をそのまま用いたものです。

ここで気をつけていただきたいのは、この号が刑の重さを条件としていないことです。事例集には、刑事処分欄が「無」でありながら退去強制手続に付された事例が複数あります。罰金の略式命令で刑事手続が終わったから安心という判断は、この号の構造を踏まえていない可能性があります。

なお、不法就労助長により1年を超える拘禁刑の実刑を受けた場合には、在留特別許可は入管法50条1項ただし書の「特別の事情」がある場合に限られます。罰金や執行猶予にとどまる限り、通常の枠組みで判断されますので、どの号にどのような形で該当するのかを最初に確認しておく必要があります。

ガイドラインはこの類型をどう位置づけているのか

「特に考慮する消極要素」として、名指しで掲げられています。

現行の在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日運用開始)は、素行不良の具体例として、集団密航への関与、他の外国人の不法入国を容易にする行為と並べて、「他の外国人の不法就労・在留資格の偽装に関わる行為」を挙げています(第2の3(イ))。出入国在留管理行政の根幹に関わる違反として位置づけられているため、自分自身の在留状況に問題がなくとも、この一点で重い消極評価を受けます。

もっとも、ガイドラインは、「特に考慮する積極要素」があれば当然に許可されるものではなく、「特に考慮する消極要素」があれば一切許可されないものでもないと明記しています(注4)。判断は、積極要素が消極要素を明らかに上回るかどうかで行われます(第3)。ここに、後述する許可事例が生まれる余地があります。

事例集ではどれだけ不許可が並んでいるのか

平成26年分から令和6年後半分までを通じ、違反態様に不法就労助長が挙げられた事例は32件で、そのうち27件が不許可です。年別に主なものを挙げます。

平成27年分のその他類型不許可第3事例は、自己が経営する飲食店で外国人を不法就労させた事案で、刑事処分欄は「無」でありながら、「日本人の配偶者等」で在留中に離婚していたことと併せて不許可となりました。平成28年分のA類型不許可第3事例は、婚姻約10年でありながら、自己が経営する店で外国人を不法就労させ、婚姻・同居の実態に疑義がもたれ、被退去強制歴1回もあって不許可です。同年のB類型不許可第4事例は、不法就労活動をさせる行為に関し外国人に職業のあっせんをしたもので、被退去強制歴2回とあわせて不許可となりました。同年のその他類型不許可第5事例は、「人文知識・国際業務」で在留中に飲食店を経営し外国人を不法就労させたもので、入管法違反により懲役1年6月、執行猶予3年、罰金100万円の判決を受けています(懲役は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。

平成29年分のその他類型不許可第1事例は、自己の経営する飲食店で「短期滞在」等の外国人をホステスとして稼働させ、罰金50万円の略式命令を受けた事案、同年の不許可第8事例は、自己の経営する会社で不法残留者等を雇用し、罰金50万円の略式命令を受けた事案です。平成30年分のA類型不許可第2事例は、自己の経営するマッサージ店で「技能」の在留資格の外国人をマッサージ嬢として稼働させ、風営法違反及び入管法違反により罰金100万円の略式命令を受け、被退去強制歴1回もあって不許可でした。同年のB類型不許可第3事例は、飲食店で「短期滞在」の外国人をホステスとして稼働させ、入管法違反により懲役10月、執行猶予3年、罰金120万円の判決を受けています。

令和元年分のその他類型不許可第1事例は、在日約27年10月、日本国籍の成人の実子がいる方について、事業活動に関し複数の外国人に不法就労活動をさせ、罰金60万円の略式命令、被退去強制歴2回もあって不許可となりました。令和3年分のA類型不許可第5事例は、入管法違反(不法残留、不法就労助長)及び風俗営業法違反により懲役2年6月、執行猶予4年、罰金30万円の判決を受けた事案です。令和4年分のA類型不許可第2事例は、売春防止法違反及び入管法違反により懲役3年、執行猶予4年、罰金150万円の判決を受け、自己の経営する店で売春の場所を提供し複数の外国人を不法就労させたもので、配偶者と別居中でした。令和5年分のB類型不許可第2事例は、入管法違反(不法就労のあっせん、資格外活動)により懲役10月、執行猶予2年、罰金30万円の判決を受けた「家族滞在」の方で、未成年の子1人がいながら不許可です。令和6年前半分のB類型不許可第2事例は、罰金30万円の略式命令、婚姻約2年5月、子はなく、不許可となりました。

旧運用の時期にも同じ傾向が見られます。法務省が公表した平成17年の不許可第21事例は、経営するスナックの摘発で不法就労者の雇用が判明し、在留期間更新が不許可となって不法残留に至った事案です。平成18年の不許可第5事例は、経営するスナックで同国人女性に借金を負わせてホステス兼売春婦として稼働させ、売春防止法違反及び入管法違反(不法就労助長)により懲役2年6月、執行猶予4年の判決を受け、過去2回の退去強制手続歴もあった事案でした。

ご家族に波及することもあります。平成27年分のその他類型不許可第4事例は、本人は「人文知識・国際業務」で在留しながら配偶者の経営する飲食店の従業員として稼働し資格外活動で罰金30万円の略式命令を受けた方ですが、その配偶者が不法就労助長により退去強制手続中であり、婚姻関係が破綻しているとして不許可となりました。

それでも許可された事例はあるのか

あります。5件です。しかも、そのすべてが摘発、警察逮捕又は関係機関からの通報によって発覚した事案です。

令和3年分のA類型許可第5事例は、入管法違反(不法就労助長)により罰金30万円の判決を受けた方について、在日約17年8月、日本人配偶者との婚姻約1年10月、日本国籍を有する未成年の連れ子がいることを踏まえ、「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。

令和4年分のA類型許可第5事例は、罰金20万円の略式命令を受けた方について、在日約4年11月、婚姻約3年9月、夫婦間に子はないという事案で、「日本人の配偶者等(1年)」が許可されています。

令和5年分のA類型許可第3事例は、業として外国人に不法就労活動をさせる行為に関しあっせんしたとされた方の事案です。事例集の刑事処分欄は「無」で、在日約7年5月、婚姻約1年11月、未成年の子1人という事情の下、「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。

令和6年前半分のB類型許可第2事例は、罰金20万円の略式命令を受けた方について、在日約27年3月、「永住者」の配偶者との婚姻約29年9月、成年の子2人という事情の下、「永住者の配偶者等(1年)」が許可されています。

令和6年後半分のA類型許可第3事例は、刑事処分欄が「無」で、在日約21年8月、日本人配偶者との婚姻約22年3月、子2人(うち未成年者1人)という事案で、「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。

許可と不許可はどこで分かれているのか

同じ年、同じ類型、同じ違反態様の事例を並べると、分水嶺が浮かび上がります。

第1に、家族関係の実体です。令和6年後半分のA類型では、許可第3事例(刑事処分なし、婚姻約22年3月、子2人)が許可され、不許可第2事例(罰金20万円の略式命令、在日約33年8月、婚姻約34年2月、子はなく配偶者とは別居)が不許可となりました。在日期間と婚姻期間はいずれも不許可事例の方が長いにもかかわらず、結論は逆です。別居という事実が家族関係の積極要素を失わせています。令和5年分のA類型も同じ構図で、許可第3事例(未成年の子1人)が許可され、不許可第5事例(在日約29年9月、婚姻約30年3月でありながら婚姻・同居の実態が認められなかった事案)が不許可でした。

第2に、他の犯罪との併合です。売春の周旋や場所の提供、風俗営業法違反が併せて問われた事例は、例外なく不許可です。ガイドライン第2の3(エ)の「自ら売春を行い又は他人に売春を行わせる」行為が重ねて消極評価されるためと考えられます。

第3に、行為の広がりと悪質性です。「複数の外国人」「業としてのあっせん」「自己の支配下に置いた」と記載された事例、罰金額が50万円以上に及ぶ事例、拘禁刑の判決を受けた事例は、いずれも不許可に傾いています。他方、許可事例の刑事処分は、罰金20万円から30万円、又は記載なしにとどまります。

第4に、被退去強制歴です。被退去強制歴が記載された不許可事例が目立ちます。許可事例にはいずれも記載がありません。

第5に、類型そのものです。事例集で「その他」に分類された不法就労助長の事例は15件ありますが、そのすべてが不許可です。許可された5件は、いずれもA類型(配偶者が日本人)又はB類型(配偶者が正規在留外国人)です。日本人又は別表第二の在留資格を持つ配偶者との家族関係という、ガイドライン第2の2に真正面から当たる積極要素の有無が、この類型では決定的に働いています。

「不法就労者だと知らなかった」という主張は通るのか

刑事手続では、争える余地があります。もっとも、その争い方には手順があります。

前述のとおり、入管法73条の2第2項は、知らなかったことを理由に処罰を免れられないとしつつ、過失のないときは免れると定めています。したがって、防御の中心は「知らなかった」という内心の主張ではなく、「知らなかったことに過失がなかった」ことを裏づける客観的事実の積み上げになります。

具体的には、次の点が検討の対象です。採用時に在留カードの原本を提示させ、写しを保存していたか。在留カードの番号を出入国在留管理庁が公開している在留カード等の読取り用アプリケーションや失効情報の照会で確認したか。在留資格の種類と、実際に従事させた業務内容が対応しているかを確認したか。「留学」や「家族滞在」の方については資格外活動許可の有無と時間の上限を確認し、勤務時間を管理していたか。在留期間の満了日を管理し、更新後の在留カードの再提示を受けていたか。外国人雇用状況の届出(労働施策総合推進法28条)を行っていたか。これらの記録が残っていれば、それが過失の不存在を支える事実になります。

在留カードが精巧な偽造であった場合には、より踏み込んだ検討が必要です。券面を目視するだけでは判別が難しい偽造カードが流通していることは公知の事実ですから、目視のほかにどのような確認手段を採り得たか、その手段を採らなかったことが当該事業の規模や業種に照らして過失といえるかが争点になります。

第三者に採用を任せていた場合には、そもそも当該行為が「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた」という構成要件に当たるのか、その認識と関与の程度はどこまであったのかが問題となります。名義上の経営者であることと、不法就労をさせた者であることは、当然に一致するものではありません。

刑事で争って無罪となっても、入管では退去強制となるのか

ここが本記事で最もお伝えしたい論点です。

入管実務では、退去強制事由の判断に故意や過失は要件ではないとする運用が、長年踏襲されてきました。この運用の下では、雇用主が不法就労者であることの認識を争って刑事事件で無罪を主張し、あるいは不起訴となったとしても、入管手続では別途「客観的に不法就労助長があった」と認定されれば、退去強制事由に該当するという判断がなされ得ることになります。

しかし、この運用は、責任主義(責任なくして刑罰なし)の射程を行政処分にどこまで及ぼすかという、憲法論・行政法論の根本問題を含んでいます。退去強制は、その方の生活の基盤、家族との同居、これまで築いてきた社会関係のすべてを断ち切る処分です。実質において刑罰に劣らない不利益を課す処分について、行為者の主観を一切問わずに要件充足を認めてよいのか。処分の性質と重大性に応じて、故意又は過失を要件として読み込む、あるいは少なくとも裁量判断において主観面を必ず考慮すべきではないのか。この問いは、これまで正面から論じられてきたとは言い難い領域です。

松村大介弁護士は、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に置かれた依頼者の事件において、この論点を正面から問う訴訟を係争中です。現在進行形の争点でありますので、結論を先取りしてお伝えすることはできません。もっとも、確かなことが一つあります。故意・過失が争点となり得る類型では、刑事段階から故意・過失を徹底して争っておくことが、後の入管手続における主張の基礎を成すということです。刑事手続で「認識がなかった」という事実関係を積み上げておかなければ、入管手続でその主張を組み立てる材料が残りません。

刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば結果は変わったのか

変わり得ました。刑事処分の有無と重さが、在留特別許可の判断に明確に反映されているからです。

前述の分水嶺のとおり、許可された5件の刑事処分は罰金20万円から30万円又は記載なしにとどまり、不許可事例には罰金50万円以上や拘禁刑の判決が並びます。事例集の不許可事例の多くについて、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、少なくとも消極評価の重さを大きく減じ得た可能性があります。

もっとも、この類型で注意していただきたいのは、不起訴になっても退去強制手続が当然に終わるわけではないという点です。前掲のとおり、刑事処分欄が「無」でありながら不許可となった事例も、逆に許可された事例もあります。だからこそ、不起訴処分の獲得と並行して、違反審査の段階から退去強制事由該当性そのものを争い、家族関係の積極要素を書証で固める作業が必要になります。

不起訴に向けた弁護活動としては、嫌疑不十分の方向では、在留カードの確認記録、資格外活動許可の確認記録、勤務時間の管理記録、雇用状況の届出、採用を担当した者との役割分担を示す資料を提出し、過失の不存在を裏づけます。起訴猶予の方向では、確認体制の是正、社内規程の整備、専門家による定期的な点検の導入、従業員数の適正化といった再発防止の実行を示します。

摘発されてしまった場合、何をすべきか

次の3段階を、時系列で押さえてください。

第1に、初動対応です。摘発の当日から、採用に関する記録の保全に着手してください。在留カードの写し、雇用契約書、シフト表、給与台帳、面接時のやり取りの記録は、後から作れないものであり、かつ過失の有無を左右する証拠です。逮捕された場合は、逮捕から勾留が決まるまでの約72時間が最初の分岐点となりますので、当日又は翌日の接見を目標に弁護人を選任してください。認識の核心部分については、弁護人と方針を確認するまで供述を控えることが基本です。依頼者本人のために動く通訳を確保し、「知らなかった」が「気にしていなかった」と訳出されていないかを検証することも重要です。

第2に、入管の違反審査段階です。退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査と認定、特別審理官の口頭審理と判定、法務大臣への異議申出という順序で進みます。在留特別許可は最後の異議申出に対する判断の中で検討されますが、そこで初めて動いても遅すぎます。認定に不服があれば口頭審理を請求し、判定に不服があれば異議を申し出るという不服の留保を、一つずつ漏れなく行ってください。「不服はありません」と述べてしまえば、退去強制事由該当性という最も重要な争点が事実上封じられます。そして、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(ガイドライン注4)。

第3に、在留特別許可の申請段階です。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により在留特別許可に申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。申請権を前提とする手続になった分、積極要素の立証は申請者側で組み立てる必要があります。この類型では、婚姻と同居の実態を示す資料が中心になります。同居の事実を示す客観的資料、家計の共同性、お子様の在学と生活の状況、配偶者ご本人の陳述、納税の状況、地域社会との関係、そして是正された雇用管理体制を、書証で裏づけます。あわせて、前掲の許可事例を年・類型・番号で特定して引用し、同種の事情で許可された実績があるにもかかわらず本件についてのみ異なる取扱いをすることは、法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で問題であると主張します。

公表事例で不許可が並ぶ類型でも、許可はあり得るのか

あり得ます。この点を、本記事の結論として申し上げます。

まず、公表事例は網羅的なものではありません。事例集は各年20件前後を抜粋して掲載するにとどまり、実際の許可件数のごく一部にすぎません。したがって、「自分と同じ類型の許可例が見当たらない」ことは、許可の可能性がないことを意味しません。

そして、現に当事務所が担当した不法就労助長の事案は、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しております。公表事例の傾向は出発点であって結論ではなく、理論構成と立証の工夫によってその傾向を超えられる場合があります。もとより、同じ事情であれば同じ結果になると保証できるものではありません。事案ごとの積極要素と消極要素の内容が異なるからです。

さらに申し上げます。当事務所は、在留特別許可を得た後もなお、違反認定処分そのものの取消しを争っております。在留特別許可を得れば当面の在留は続きますが、退去強制事由に該当するとされた認定処分の存在自体が、その後の在留期間の更新や在留資格の変更、永住許可の審査において不利に働きかねません。目の前の在留を確保することと、認定処分という記録を残さないことは、別の課題です。だからこそ、在留特別許可という結果を得た後も、争いを終えていないのです。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。

本記事の類型に関わる解決事例をご紹介いたします。不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に置かれた依頼者を救済する事件では、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を問い直すべく、責任主義及び過失責任主義の射程を問う訴訟を係争中です。この事件では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ不法就労助長の類型でありながら在留特別許可を獲得し、あわせて違反認定処分そのものの取消しを争っております。

また、観光目的で来日された相談者が日本人女性との間にお子様を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了であったため当局から一旦は受理を拒まれたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を成立させました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することにより、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。さらに、特殊詐欺の出し子とされた20代女性の事案では、指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯と犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。

当事務所の方針を申し添えます。第1に、不起訴処分の獲得を最優先目標とすることです。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前段階に力を集中させます。第2に、松村弁護士が全工程を直接担当することです。初回の接見から公判の結審まで、事務員や若手弁護士による代行を行いません。第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐していることです。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者本人のために動く通訳が、認識の有無に関する供述の訳出を初動から検証いたします。第4に、提携する行政書士と連携し、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更まで一貫してお支えできる体制を整えていることです。

結語

不法就労助長は、ガイドラインが名指しで消極要素に掲げた類型であり、事例集でも不許可が並びます。しかし、許可された事例は現に存在し、その分かれ目は家族関係の実体と、刑事処分の重さ、そして行為の広がりにありました。何より、「知らなかったのに、なぜ自分が国を出なければならないのか」という問いは、まだ法として決着していません。摘発の当日に記録を保全し、認識を争う準備を始めることが、数か月後に残される選択肢を決めていきます。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

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