在留特別許可「その他」の類型|日本国籍の喪失、DV被害、人身取引被害、難病、高齢、児童相談所での保護
2026/08/06
在留特別許可の事例集は、事案を4つの区分に分けて公表しています。配偶者が日本人の場合、配偶者が正規に在留する外国人の場合、子と共に不法滞在している場合、そして「その他」です。この4番目の区分は、最も件数が多く、そして最も予測が難しい区分です。日本人として生まれ日本で育ったのに、ある日の家庭裁判所の審判で出生に遡って日本国籍を失っていた方。配偶者の暴力から逃れる過程で在留期間の更新ができなかった方。重い病気で本国に帰る飛行機に乗れない方。親に養育を放棄され児童相談所に保護されたお子様。本記事では、平成26年から令和6年までの「その他」区分の事例を、サブ類型ごとに整理いたします。この区分の広がりそれ自体が、「公表事例に自分と同じケースが見当たらないから諦める」という判断が誤りであることの実証になっています。
本記事の要点
- 「その他」区分の許可事例は、日本国籍の喪失、日本国籍の実子の監護養育、DV被害、人身取引被害、難病・後遺症・認知症、高齢で本国に身寄りがないこと、児童相談所や児童福祉施設での保護、新型コロナウイルス感染症による出国便の確保困難など、極めて多様な事情に及びます。
- 日本国籍を失った経緯にご本人の帰責性がないケース、とりわけ戸籍上の日本人父との親子関係不存在審判が確定して出生に遡って国籍を失ったケースは、11年間ほぼ毎年許可事例が公表されている安定した類型です。
- 人身取引被害者としての保護は、他の類型と異なり摘発・逮捕・通報による発覚でも許可されており、許可内容は帰国の準備を前提とする短期の「特定活動」です。
- 難病・後遺症・認知症等による治療の必要性や出国困難は、「特定活動」又は「定住者」で許可され、在留期間が3年・5年に及ぶ事例もあります。
- 不許可側は、資格外活動、偽装結婚、偽造在留カード、不法就労助長、売春関係、薬物事犯という6つの類型に集約されます。もっとも、薬物事犯で許可された事例も存在し、傾向は動かし難い基準ではありません。
「その他」区分とはどのような事案の集まりなのか
日本人配偶者もなく、正規在留外国人の配偶者もなく、子と共に不法滞在しているのでもない、しかし退去を求めることが人道上相当でないと判断された事案の集まりです。
出入国在留管理庁の事例集は、この区分に平成26年から令和5年までは各年7件から8件、令和6年は前半・後半それぞれ4件の許可事例を掲載し、不許可事例も同数を掲載しています。他の3区分が家族関係という単一の軸で整理されているのに対し、この区分は「家族関係以外の理由で在留を認めるべき事情」の集合体です。したがって、ガイドラインの評価要素のうち、人道上の配慮(第2の7)、本邦入国の経緯(第2の4)、その他の事情(第2の9)が、ここで最も具体的な姿を見せます。
以下、許可事例をサブ類型に分けて見ていきます。事例集は匿名で公表されており、本記事もその匿名性を保ったまま、記載されている事情のみに即して整理いたします。
許可事例はどのようなサブ類型に分かれるのか
日本国籍を有する実子の監護養育(内縁関係を含む)
この区分で最も件数が多く、最も安定した許可類型です。
平成26年分の許可第2事例(在日約9年、出頭申告、「定住者(1年)」)、同第4事例(当局摘発による発覚でありながら「定住者(1年)」)、平成28年分の許可第2事例、平成29年分の許可第1事例・第4事例・第5事例、平成30年分の許可第2事例・第5事例、令和元年分の許可第1事例・第2事例、令和2年分の許可第7事例、令和3年分の許可第3事例、令和4年分の許可第5事例、令和5年分の許可第2事例、令和6年後半の許可第3事例と、11年間を通じて途切れることなく現れます。令和6年前半の許可第1事例は、在留希望の理由が「子の監護・養育」と記載されるにとどまりますが、同じ系列に属するものと読めます(「定住者(1年)」)。
注目すべき点が3つあります。第1に、法律上の婚姻がなくても許可されています。平成29年分の許可第1事例と第4事例、平成30年分の許可第5事例には「内縁関係にある日本人あり」と付記され、令和5年分の許可第2事例は「日本人内夫とともに日本人実子を監護・養育しているもの」と記載されています。ガイドライン第2の2(1)(イ)が求めるのは、未成年・未婚の日本人の実子を「相当期間同居して監護・養育していること」であり、監護養育者と日本人配偶者の婚姻は要件になっていません。
第2に、発覚経緯の不利を乗り越えた事例があります。平成26年分の許可第4事例は当局摘発、平成29年分の許可第1事例は職員探知、平成30年分の許可第5事例は職員探知による発覚です。他の類型では出頭申告が事実上の前提となっているのに対し、この事情は摘発による発覚も補えるだけの重みを持ちます。
第3に、許可内容は「定住者(1年)」が中心ですが、令和4年分の許可第5事例と令和5年分の許可第2事例は「特定活動(1年)」でした。同じ事情でも与えられる資格が異なり得るため、申請の際にどの資格を求めるかは検討を要します。
親子関係不存在審判の確定により出生に遡って日本国籍を喪失したケース
ご本人に何の帰責性もないまま在留資格を失う、最も救済の必要性が明白な類型です。
戸籍上は日本人の父の子として記載され、日本人として出生し、日本の旅券を持って生活してきた方が、後年、親子関係不存在確認の審判が確定したことによって、出生時に遡って日本国籍を有していなかったことになる。この場合、それまでの出入国が形式上は不法入国となり、在留自体が不法残留となります。
該当する許可事例は、平成27年分の許可第4事例(「日本人の配偶者等(1年)」。本邦出生で日本人実父から認知あり)、平成28年分の許可第6事例(父子とも「定住者(1年)」)、平成29年分の許可第6事例(「定住者(1年)」)、令和3年分の許可第4事例(「定住者(1年)」)、令和4年分の許可第2事例(「留学(1年)」)、令和5年分の許可第1事例(「定住者(1年)」)、令和6年前半の許可第2事例(「定住者(1年)」)、令和6年後半の許可第1事例(「定住者(1年)」)です。加えて令和4年分の許可第4事例は嫡出否認の訴えにより日本国籍を喪失した事案(「定住者(3年)」)、同年分の許可第1事例は日本人として出生した後に外国籍の実父から認知を受けて日本国籍を喪失した事案(「定住者(1年)」)、令和5年分の許可第5事例は日本人養父の認知により日本人の実子として在留していたところ生物学上の父でないことが発覚して在留資格を取り消された事案(在留特別許可歴があるにもかかわらず「定住者(1年)」)です。
この類型では、審判書・戸籍関係書類・国籍喪失の届出関係書類によって、国籍喪失の経緯がご本人の行為とは無関係であることを客観的に示せます。ガイドライン第2の9が挙げる「その他の事情」の評価において、この点は決定的に働きます。
外国籍を取得したことによる日本国籍喪失
国籍法11条1項により、自己の志望によって外国籍を取得すると日本国籍を失います。この事実を知らずに日本旅券で出入国を続けていた場合、形式上は不法入国となります。
平成27年分の許可第3事例は、「自己の志望で外国籍を取得したことにより、日本国籍を喪失したもの。法の不知により日本国籍喪失に気づかず、日本旅券を使用して入国したもの」と記載され、在日約32年の事情の下で「日本人の配偶者等(3年)」が許可されました。平成28年分の許可第1事例(在日約64年3月、自らの意思で日本国籍を離脱、更新申請を失念)、平成30年分の許可第8事例、令和5年分の許可第4事例、令和6年後半の許可第2事例も、いずれも「日本人の配偶者等(3年)」です。
この類型の許可内容が「3年」で揃っているのは、注目に値します。かつて日本国籍を有していたという事情が、改正法50条1項2号(かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき)の趣旨とも重なり、安定した在留を認める方向に働いていると読めます。
DV被害者として公的機関に保護されたもの
配偶者や内縁の相手からの暴力が原因で在留資格を失った、あるいは在留手続を取れなかった事案です。被害の具体的な内容は事例集にも記載されておらず、本記事でも立ち入りません。
平成26年分の許可第3事例は「DV被害者として公的機関に保護されたもの」として「定住者(1年)」、令和2年分の許可第1事例は「内縁の夫からのDVが原因で不法残留したもの」として「定住者(1年)」、令和6年前半の許可第4事例は「日本人夫からDV被害を受けていたもの」として「定住者(1年)」が許可されています。
とりわけ重要なのは、令和5年分の許可第6事例です。この事案では、「永住者」の在留資格を有するご本人が大麻取締法違反により懲役10月・執行猶予3年の判決を受けており(懲役は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)、警察逮捕による発覚でした。それにもかかわらず、外国人内夫からのDV被害を受けていたという事情の下で「定住者(1年)」が許可されています。薬物事犯は消極要素として最も重く働く事情の一つですが、被害者としての立場が認定されれば、その評価が覆り得ることを示す事例です。
公的機関による保護の記録は、この類型の中心的な立証資料です。配偶者暴力相談支援センター、婦人相談所、警察、市区町村の相談窓口での相談記録、一時保護の記録、保護命令に関する裁判所の記録が該当します。
人身取引被害者として保護され、国際機関の支援を受けるもの
この類型は、発覚経緯を問わないという点で、他のすべての類型と性質を異にします。
平成26年分の許可第5事例は当局摘発、平成27年分の許可第5事例は警察保護、平成28年分の許可第7事例は警察逮捕、平成29年分の許可第2事例は関係機関からの通報、平成30年分の許可第1事例は摘発、令和元年分の許可第6事例は出頭申告、令和2年分の許可第8事例は摘発による発覚です。にもかかわらず、いずれも許可されています。
許可内容は、平成26年・平成28年・平成29年・平成30年・令和元年・令和2年の各事例が「特定活動(1月)」、平成27年分の事例が「特定活動(3月)」です。いずれも「国際機関の支援を受け、早期帰国を希望したもの」と記載されており、日本での定住を認めるものではなく、安全に帰国するための在留を認めるものです。この点は、他の許可類型と目的が異なります。
歴史的にも一貫しています。法務省入国管理局が平成20年12月に公表した資料に収録された平成16年分の許可事例では、人身取引被害者に対して「短期滞在(90日)」又は「特定活動(3月)」が与えられていました。令和5年改正法は、人身取引等により他人の支配下に置かれて在留する者を50条1項3号として明文化しており、この運用は法律上の根拠を得たことになります。
被害に遭われた方に申し上げたいのは、摘発や逮捕という形で当局と接触することになったとしても、被害者としての立場が認定されれば取扱いは変わるということです。ご自身が売春や不法就労に従事させられていた事実を述べることは、処罰につながる告白ではなく、保護の要件に関する事実の申立てになり得ます。ただしその見極めには専門的な判断を要しますので、供述の前に弁護人にご相談ください。
難病・難治性疾患・後遺症・認知症等による治療の必要性又は出国困難
ガイドライン第2の7(1)が正面から掲げる人道上の配慮です。事例の数も多く、在留期間の幅が最も大きい類型です。
治療の必要性を理由とするものとして、令和2年分の許可第3事例(本国において治療困難な病気に罹患、在日約22年、「特定活動(1年)」)、平成29年分の許可第7事例(病気により単独での日常生活が困難、在日約37年2月、「永住者の配偶者等(3年)」)、令和4年分の許可第7事例(継続的な治療を要する疾病により自力での生活が困難、在日約30年5月、「特定活動(1年)」)があります。
出国そのものが困難であることを理由とするものとして、平成30年分の許可第3事例(病気療養中であり出国が困難、「特定活動(1年)」)、同第7事例(在日約60年、病気療養中、「永住者の配偶者等(1年)」)、令和3年分の許可第1事例(脳疾患等による後遺症のため出国が困難、「特定活動(6月)」)があります。
重篤な後遺症・意識障害・認知症の事例では、在留期間が長く設定される傾向があります。平成28年分の許可第3事例は、入院中に在留期間更新許可申請を失念した方について、重度の意識障害があり退院が見込まれないとして「定住者(3年)」が許可されました。同年分の許可第5事例は、「短期滞在」で入国後まもなく脳出血で倒れ、後遺症による歩行障害と高次脳機能障害による認知症、精神症状が顕著な状態となった方について、本邦において実子家族の介護を受けることが人道上相当であるとして「特定活動(1年)」が許可されています。平成29年分の許可第8事例は、認知症により在留期間更新許可申請を失念した方(在日約48年6月)につき「定住者(3年)」。令和元年分の許可第7事例は、脳疾患による後遺症のため寝たきりの状態にある方(在日約24年3月)につき「定住者(5年)」で、公表事例中で最も長い在留期間です。
ご親族の看護を理由とするものもあります。令和3年分の許可第8事例は、幼少時に母に連れられ入国した方が、病気により単独での日常生活が困難な母を介護するとして「定住者(1年)」を得ました。ガイドライン第2の7(1)は「そうした治療を要する親族の看護が必要と認められること」も積極要素に掲げており、ご本人の疾病でなくても主張し得ます。
立証は、医師の診断書、治療計画、通院・入院の記録、介護認定に関する資料、本国の医療事情に関する資料が中心となります。とりわけ「本国では同等の治療を受けられない」という点は、本国の医療機関・医療保険制度・薬剤の入手可能性に踏み込んで示す必要があります。
本国情勢に照らした帰国困難・無国籍者の不送還
ガイドラインは、この2つを積極要素として明示しています。第2の7(2)は、難民認定又は補完的保護対象者認定を受けていなくとも本国情勢に照らし帰国困難な状況が客観的に明らかであること、同(3)は、いずれの国籍・市民権も有しておらず入管法53条2項各号に掲げる国のいずれにも送還できない者であることを挙げます。
もっとも、平成26年から令和6年までの「その他」区分の公表事例には、この2つを理由とする許可事例が見当たりません。これは、そうした許可が存在しないことを意味するものではありません。事例集は各年20件前後の抜粋にとどまるものであり、掲載されていない事情での許可は当然にあり得ます。むしろ、ガイドラインが明示する積極要素であるのに公表事例が見当たらないという事実は、公表事例を網羅的なものとして扱ってはならないことの好例です。
なお、令和5年改正法は、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているときを50条1項4号として明文化しました。難民認定手続と在留特別許可の関係は本記事の範囲を超えますので、別稿で扱います。
高齢で本国に身寄りがないもの
長期の在留と、本国に生活の受け皿がないことの組合せです。
平成30年分の許可第6事例は、在日約27年9月・違反約27年8月の方について「高齢であり本国に身寄りのないもの」として「定住者(1年)」。令和2年分の許可第2事例は、高齢で重度の認知症を発症し本国に身寄りがない方について、本邦に帰化した実子の介護を受けて生活したいという希望の下で「特定活動(6月)」が許可されました。平成28年分の許可第4事例は、「本邦在留期間が37年間に及ぶもの」という記載のみで「定住者(1年)」が許可されています。
歴史的な連続性もあります。法務省が公表した平成18年分の許可事例第13事例は、1972年に不法入国して以後本邦で生活してきた65歳の方について、相当期間の本邦生活・本国に身寄りがないこと・生計の安定を理由に「定住者(1年)」を許可しています。
ただし、長期在留それ自体では足りません。平成26年分の不許可第4事例は、在日約24年2月・刑事処分なしでありながら、「単身で生活しており、両親・姉弟・妻子はすべて本国に居住していたもの」として不許可でした。令和2年分の不許可第4事例(在日約22年1月)と令和3年分の不許可第2事例(在日約16年4月)も、刑事処分がないにもかかわらず、被退去強制歴があることを理由に不許可となっています。令和6年改定で不法在留期間の長期化が消極要素と明示された以上、年数を語るだけでは足りず、その年月の中に何が築かれたかを示す必要があります。
外国人親の養育放棄による児童相談所・児童福祉施設での保護
お子様ご自身が在留資格を持たないまま、保護される立場に置かれた事案です。
平成26年分の許可第7事例は、実母の育児放棄により児童相談所に保護されていたお子様について、本国の実父に引き取られるための準備期間が必要であるとして「特定活動(6月)」。平成27年分の許可第1事例は、日本人実父の育児放棄により児童相談所に保護され、日本人実父の母が未成年後見人に確定して同居予定となった事案で「定住者(1年)」。令和元年分の許可第5事例は、外国人親が養育を放棄し児童福祉施設における保護を希望する事案で「定住者(1年)」。同年分の許可第8事例は、本邦出生後に不法残留中の外国人両親が所在不明となり帰国困難となった事案で「特定活動(6月)」。令和2年分の許可第6事例は、外国人親の養育放棄で「特定活動(1年)」。令和3年分の許可第2事例は、実の親が所在不明となり日本人里親の監護・養育を受けている事案で「特定活動(1年)」です。
令和2年分の許可第4事例も、この系列に属します。日本人の配偶者である外国人の連れ子(未成年)について、実の親が所在不明となり義理の親の監護・養育を受けていること、幼少時に入国して本邦の教育機関で教育を受けていることを理由に「定住者(1年)」が許可されました。ガイドライン第2の2(3)の就学要素が、この文脈でも機能しています。
歴史的にも、法務省公表の平成18年分許可事例第10事例が、本邦出生後に在留資格取得手続を行わず、実母に養育意思がなく乳児院に入り、その後日本人夫婦に養育されて養子縁組が成立した9歳の男児に「定住者(1年)」を許可しています。
この類型で重要なのは、保護の記録が公的機関の手元にあることです。児童相談所の記録、一時保護の決定、未成年後見人選任の審判書、里親委託に関する記録は、当事者側で作成するものではないため、証拠としての力が強くなります。
新型コロナウイルス感染症の拡大による出国便の確保困難
令和3年分の許可第6事例は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で出国便が確保できなかったもの」として「短期滞在(90日)」が許可された事案です。在日約2年5月・違反約1月で、帰国便が確保できるまで本邦に滞在したいという希望が記載されています。
一見すると特殊な事案ですが、実務的には重要な示唆があります。退去強制の対象となる方が出国できない理由が本人の意思に帰せられないとき、当局は在留を認める処理を採るということです。この発想は、感染症に限らず、本国の政変・災害・航空路の断絶といった場面にも及ぶはずです。
占領下沖縄で出生した日本人の子
平成26年分の許可第6事例は、在日約44年10月・違反約17年4月の方について、「日本人の子として、占領下の沖縄で出生したもの」として「定住者(1年)」が許可された事案です。警察逮捕による発覚でしたが、許可されています。
日本の主権が及んでいなかった時期の沖縄で日本人の子として出生したという歴史的経緯が、本人の帰責性のなさとして評価されたものと読めます。件数は1件ですが、この1件があることは、歴史的経緯に根拠を求める主張が受け入れられ得ることを示しています。
在留期間更新許可申請の失念と長期在留
サブ類型として独立させるべき数の事例があります。在留期間更新許可申請の失念が明記されているものは、平成28年分の許可第8事例(日本人の実子として長期間在留、失念により更新を怠り自ら警察に出頭して逮捕、刑事処分なし、「日本人の配偶者等(3年)」)、平成30年分の許可第4事例(「定住者(1年)」)、令和元年分の許可第3事例(「経営・管理(1年)」)、令和2年分の許可第5事例(日系3世、「定住者(1年)」)、令和3年分の許可第5事例(日系3世、「定住者(1年)」)です。
失念の記載がなくとも、長期の在留と本邦の生活基盤のみを理由に許可された事例もあります。平成26年分の許可第1事例(在日約20年・違反約19年7月、「定住者(1年)」)、令和元年分の許可第4事例(日系3世として本邦で出生、「定住者(1年)」)、令和4年分の許可第3事例(日系4世として入国、「定住者(1年)」)、令和6年前半の許可第3事例(在日約29年8月・違反約3月、「定住者(3年)」)です。
違反期間が短く、在日期間が長く、刑事処分がない。この3条件が揃うと、失念という消極事情は相当に軽く評価されます。令和6年前半の許可第3事例が「定住者(3年)」であることは、その端的な現れです。
不許可事例はどのような類型に集約されるのか
6つに集約されます。いずれもガイドライン第2の3が掲げる素行不良の例示に対応しています。
第1に、資格外活動です。平成26年分の不許可第1事例(在留資格「宗教」で在留中、専ら運搬労務作業者として稼働)、同第2事例(就職先を偽装して「人文知識・国際業務」への変更を受けた後、専ら飲食店従業員として稼働)、平成27年分の不許可第1事例(学費滞納により大学を除籍後、飲食店従業員として稼働)、平成29年分の不許可第7事例、平成30年分の不許可第2事例(「技術・人文知識・国際業務」で在留中に清掃員として稼働)、令和元年分の不許可第5事例、令和5年分の不許可第2事例が該当します。除籍・退学後もアルバイトを継続していたという事案が繰り返し現れます。
第2に、偽装結婚です。平成26年分の不許可第5事例(電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役1年6月・執行猶予3年)、平成27年分の不許可第5事例、令和元年分の不許可第4事例・第7事例、令和2年分の不許可第5事例が該当します。いずれも在留資格の取消しを伴っています。
第3に、偽造在留カードの行使・所持・提供です。平成28年分の不許可第4事例(提供、入管法違反により懲役2年・執行猶予3年、被退去強制歴1回)、平成29年分の不許可第3事例(他人名義在留カードの行使)・第4事例(譲渡)、令和元年分の不許可第3事例、令和2年分の不許可第7事例、令和3年分の不許可第5事例・第6事例、令和4年分の不許可第1事例・第6事例、令和5年分の不許可第1事例、令和6年前半の不許可第2事例、令和6年後半の不許可第2事例が該当します。
このうち令和6年前半の不許可第2事例は、特に注意を要します。在日約19年4月、刑事処分は「無」、在留希望の理由は本邦に生活基盤があること及び病気の治療でありながら、偽造在留カードの行使という事実によって不許可となっています。刑事処分がなくても、行為自体がガイドライン第2の3(ウ)の「在留カード等公的書類の偽変造・不正受交付・行使・所持」に該当すれば、それだけで重い消極要素になるということです。
第4に、不法就労助長です。平成27年分の不許可第3事例、平成28年分の不許可第5事例・第6事例・第8事例、平成29年分の不許可第1事例・第8事例、平成30年分の不許可第6事例、令和元年分の不許可第1事例、令和2年分の不許可第6事例・第8事例、令和3年分の不許可第3事例、令和4年分の不許可第2事例、令和5年分の不許可第4事例が該当します。この類型では、罰金の略式命令にとどまる事例、さらには刑事処分が「無」の事例(平成28年分の不許可第8事例、平成30年分の不許可第6事例、令和2年分の不許可第6事例、令和5年分の不許可第4事例)まで、一貫して不許可となっています。自らが経営する飲食店・会社で外国人を不法就労させたという記載が繰り返されます。
第5に、売春関係です。平成30年分の不許可第8事例(風営法違反・売春防止法違反により罰金50万円の略式命令、売春の周旋)、令和2年分の不許可第1事例(風営法違反により罰金100万円、被退去強制歴あり)、令和3年分の不許可第4事例(売春防止法違反・入管法違反により懲役3年・執行猶予5年)、令和5年分の不許可第3事例、令和6年前半の不許可第3事例(在留特別許可歴あり)、令和6年後半の不許可第1事例(罰金150万円、ほか前科1件)が該当します。
第6に、薬物事犯です。実刑・執行猶予を問わず不許可が並びます。平成26年分の不許可第6事例(懲役7年)・第7事例、平成27年分の不許可第6事例・第7事例、平成28年分の不許可第7事例、平成29年分の不許可第2事例(懲役3年6月・罰金20万円)・第5事例、平成30年分の不許可第4事例、令和元年分の不許可第2事例(懲役11年)、令和2年分の不許可第3事例、令和3年分の不許可第7事例・第8事例、令和4年分の不許可第4事例(懲役6年)・第5事例、令和5年分の不許可第5事例、令和6年前半の不許可第1事例、令和6年後半の不許可第3事例です。
このほか、財産犯(窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺等)や重大な性犯罪の事例が不許可となっています。令和6年後半の不許可第4事例は窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺により懲役4年の実刑、令和6年前半の不許可第4事例は監護者性交により懲役6年の実刑です。
薬物事犯でも許可された事例があるのはなぜか
令和5年分の許可事例に2件あります。この2件は、傾向を例外のない基準として扱ってはならないことの実証です。
1件は、前述した許可第6事例です。「永住者」の在留資格を有するご本人が大麻取締法違反により懲役10月・執行猶予3年の判決を受け、警察逮捕により発覚したにもかかわらず、外国人内夫からのDV被害を受けていたという事情の下で「定住者(1年)」が許可されました。
もう1件は許可第7事例です。「永住者」の在留資格を有するご本人が、大麻取締法違反・詐欺未遂・覚醒剤取締法違反・邸宅侵入により懲役3年・執行猶予5年の判決を受けています。罪名の数も刑期も、不許可となった多くの事例より重いように見えます。それにもかかわらず、日本人内妻とともに日本人の実子を監護・養育していること、本邦に生活基盤があることを理由に「定住者(1年)」が許可されました。
両事例に共通するのは、ご本人が「永住者」であること、そして家族関係又は被害者性という積極要素があることです。ガイドライン第3は、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に許可の方向で検討するとし、注4は「特に考慮する消極要素」があれば一切許可されないものではないと明記しています。この2件は、その注4が実際に機能した例です。
改正法50条1項ただし書の「特別の事情」とは何か
令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者等については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されるとしました(50条1項ただし書)。全部執行猶予及び実刑部分が1年以下の一部執行猶予は除かれます。
令和6年後半の事例集は、このただし書に該当する許可事例を独立の類型として掲載しました。「その他」区分の該当事例は、盗品等有償譲受け・盗品等運搬により懲役1年6月・罰金20万円の実刑判決を受け、警察逮捕により発覚した方について、日本で生まれた実子(未成年、在留資格「永住者」)の監護養育を理由に「定住者(1年)」を許可したものです。在日約21年でした。
1年を超える拘禁刑の実刑という、従前であれば議論の余地が乏しかった場面でも、日本で生まれた未成年のお子様の監護養育という事情が「特別の事情」として認められています。実刑判決を受けたという一事で諦めるべきではないということが、法律と公表事例の双方から確認できます。
この類型で許可を得るために何を準備すべきか
サブ類型ごとに立証すべき事実が異なります。以下は一般的な整理であり、実際に必要な資料は事案によって異なりますので、個別の判断は弁護士にご確認ください。
- 日本国籍喪失の経緯に関する資料。親子関係不存在確認・嫡出否認に関する審判書又は判決書、確定証明書、戸籍謄本・除籍謄本、国籍喪失届の受理に関する書類、それまで日本の旅券・住民票で生活してきたことを示す資料。国籍喪失がご本人の行為に起因しないことを、時系列で示します。
- 日本国籍の実子の監護養育に関する資料。お子様の戸籍謄本、認知に関する届書記載事項証明書、同居を示す住民票の記載、保育所・学校の連絡帳や送迎の記録、養育費や生活費の負担を示す資料。「相当期間同居して監護・養育している」という要件は、時間の長さと日常の関わりの双方で支えます。
- DV被害に関する資料。配偶者暴力相談支援センター・婦人相談所・警察・市区町村の相談記録、一時保護の記録、保護命令に関する裁判所の書類、医療機関の受診記録。ご本人が被害の詳細を繰り返し語らずに済むよう、公的記録を軸に構成します。
- 人身取引被害に関する資料。保護に関与した公的機関・国際機関・民間支援団体の記録、渡航の経緯と債務負担の経緯を示す資料、旅券や在留カードを取り上げられていた事実に関する資料。
- 医療に関する資料。診断書、治療計画書、入通院の記録、投薬内容、主治医の意見書、身体障害者手帳や介護認定に関する資料。加えて、本国の医療事情(同等の治療の可否、薬剤の入手可能性、費用、受診までの距離と期間)に関する資料。
- 児童の保護に関する資料。児童相談所の相談・保護の記録、児童福祉施設の入所に関する書類、未成年後見人選任の審判書、里親委託に関する記録、学校での様子に関する記録。
- 高齢・単身の方に関する資料。本国に身寄りがないことを示す資料、本邦の親族の受入意思に関する陳述書、生計の安定を示す資料、地域の支援者の陳述書。
- 地域社会との関係に関する資料。町内会・自治会、宗教施設、ボランティア活動、勤務先や取引先の陳述書、納税と社会保険の納付状況。当局の内部資料には現れない生活の実像を伝える部分です。
刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば結果は変わったのか
この区分の不許可事例の多くについて、その余地が残されていたと考えられます。
入管法24条は退去強制事由を号ごとに書き分けています。同条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を挙げますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、同条4号チは薬物関係法令違反により有罪の言渡しを受けた者を挙げ、こちらは執行猶予でも該当します。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、号ごとの構造を踏まえていない可能性があります。
薬物事犯の不許可事例のうち、平成28年分の不許可第7事例、平成29年分の不許可第5事例、平成30年分の不許可第4事例、令和3年分の不許可第7事例・第8事例、令和6年後半の不許可第3事例は、いずれも執行猶予付きの判決です。刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、4号チの該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がありました。偽装結婚事案の電磁的公正証書原本不実記録・同供用、偽造在留カード事案の入管法違反についても、同じことが言えます。弁護活動の到達点を執行猶予判決に置くのではなく、起訴前の段階で不起訴処分の獲得に力を集中させる理由は、ここにあります。
なお、退去強制事由の判断に故意・過失は要件ではないという運用が長年踏襲されてきました。この運用が責任主義の射程との関係でどこまで許されるのかは、現在係争中の重要な論点です。松村大介弁護士は、不法就労助長の事案において、この点を正面から問う訴訟を進めています。故意・過失が争点となり得る類型では、刑事段階からこれを徹底して争うことが、後の入管手続における主張の基礎を成します。
違反審査の段階から何を争うべきか
在留特別許可は法務大臣への異議申出に対する判断の中で検討されますが、そこで初めて動き始めるのでは遅すぎます。
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査と認定、特別審理官の口頭審理と判定、法務大臣への異議申出という順序で進みます。認定に不服があれば口頭審理を請求し、判定に不服があれば異議を申し出る道がありますが、不服がないと述べてしまえば争点は事実上封じられます。そして、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(ガイドライン注4)。
この区分では、退去強制事由の該当性そのものを争える場面が少なくありません。親子関係不存在審判の確定によって出生に遡って日本国籍を失った方の「不法入国」は、行為の時点で本人が日本人であると認識し、日本の旅券で入国していた事実を前提とするものです。国籍法11条1項による国籍喪失に気づかなかった方についても同様の構造があります。違反審査の段階から、事実関係と法的評価の双方を丁寧に主張しておくことが要点です。
令和5年改正入管法により、在留特別許可には申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢等を列挙しています。この区分の事案では、書面をこの各号の順序でトレースする形で構成することが、実務上有効です。
公表事例に自分と同じケースが見当たらないとき
この区分こそが、その問いへの答えになっています。
「その他」区分の許可事例を並べていくと、占領下の沖縄で出生した日本人の子、新型コロナウイルス感染症で帰国便が確保できなかった方、日本人実父の育児放棄で児童相談所に保護され祖母が未成年後見人となった方、脳出血の後遺症で実子家族の介護を受ける方、大麻取締法違反の執行猶予判決を受けながらDV被害者と認められた方まで、およそ「典型」と呼べる形を持たない事案が並びます。行政自身が、これらのそれぞれについて「在留を認めることが相当である」と判断してきたということです。
そして公表事例は網羅的ではありません。各年20件前後の抜粋にとどまり、実際の許可件数のごく一部です。前述のとおり、ガイドラインが明示的に積極要素として掲げる無国籍者の不送還や本国情勢による帰国困難についてすら、この11年間の公表事例に該当例が見当たりません。掲載がないことは、許可がないことを意味しないのです。現に、当事務所が担当した不法就労助長の事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しています。
他方で、公表事例は行政自身が「許可相当」と判断した先例でもあります。同種の事情を有する事案について許可の実績があるにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをすることは、法の下の平等を定める憲法14条1項との関係で問題があるという主張が可能です。ご自身の事案と完全に一致する事例を探すのではなく、ご自身の事案を支える積極要素ごとに、それが評価された事例を集めていく。この作業が、この区分における主張の組み立て方になります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。
人道上の配慮を要する事案に関わる解決事例をご紹介いたします。観光目的で来日された相談者が日本人女性との間にお子様を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了であったため当局から一旦は受理を拒まれたところ、憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することにより、1回の申請で在留特別許可を獲得しております。刑事事件では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得いたしました。裁判員裁判の対象となる重大事件や報道された事件にも多数対応しております。また、特殊詐欺の出し子とされた20代女性の事案では、指示役から欺罔され脅迫的な状況に置かれていた経緯、犯意が認められないことを総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。
当事務所の方針を申し添えます。第1に、不起訴処分の獲得を最優先目標とすることです。多くの罪名では執行猶予判決を得ても結果として退去強制となりますので、起訴前の段階に力を集中させます。第2に、松村弁護士が全工程を直接担当することです。初回の接見から公判の結審まで、事務員や若手弁護士による代行を行いません。第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐していることです。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者本人のために動く通訳が、供述の訳出を初動から検証いたします。第4に、提携する行政書士と連携し、刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更まで一貫してお支えできる体制を整えていることです。
結語
この区分の事案では、ご自身の身に起きたことが「制度の想定外」であるように感じられることが少なくありません。しかし公表事例を並べてみれば、想定外に見える事情の多くについて、行政はすでに在留を認める判断を重ねてきています。大切なのは、ご自身の事情がどの積極要素に当たるのかを見定め、それを裏づける記録を早い段階で揃えることです。ご不安を抱えたまま独りで結論を出される前に、どうか一度ご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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