配偶者が永住者・定住者等の外国人である場合の在留特別許可
2026/08/06
配偶者が日本人ではなく、永住者や定住者、特別永住者として日本に暮らしている外国人である。この場合の在留特別許可は、日本人配偶者の類型に比べて情報が乏しく、「日本人と結婚していないから無理なのではないか」と諦めかけておられるご家族が少なくありません。実際はそうではありません。出入国在留管理庁が公表している事例集を平成26年から令和6年まで通して読むと、この類型では毎年4件から5件の許可事例が安定して掲載されています。ただし、配偶者がどの在留資格を持っているかによって、評価の重みがはっきりと違います。この記事は、その差がどこから生じるのかを、事例に即してご説明するものです。
本記事の要点
- 配偶者が永住者・特別永住者・定住者等の別表第二の在留資格を持つ場合、その家族関係は現行ガイドラインで「特に考慮する積極要素」に準ずるものとされ(ガイドライン第2の2(2))、許可事例の圧倒的多数がこの層です。
- 配偶者が「技術・人文知識・国際業務」「留学」「経営・管理」等の別表第一の在留資格の場合は評価が明らかに厳しく、平成26年から令和6年までの配偶者が正規在留外国人の類型(以下「B類型」といいます)では、許可3件に対し不許可10件です。
- 技能実習先から逃亡した後に同国人と婚姻した類型、及び収容中・勾留中に婚姻が成立した類型は、不許可の傾向が明確です。もっとも、収容前からの同居実態が確認された事例では許可されています。
- 薬物事犯は執行猶予でも、財産犯は実刑・執行猶予いずれでも、強い消極要素として働いています。
- 令和6年後半分の事例集では、覚醒剤取締法違反で実刑を受けた方に、改正法の「ただし書」に基づき「定住者(1年)」の許可が出た事例が現れました。
配偶者が外国人でも在留特別許可は得られるのか
得られます。しかも、日本人配偶者の類型と遜色のない件数の許可事例が公表されています。B類型の許可事例は、平成26年から令和6年までの各年の事例集を通じて52件(うち令和6年後半分の改正法第50条第1項ただし書該当の許可1件を含みます)、不許可事例は50件です。
その根拠は現行の在留特別許可ガイドライン(令和6年3月改定・同年6月10日運用開始)にあります。ガイドライン第2の2は、家族関係を「特に考慮する積極要素」とし、(1)で日本人又は特別永住者との家族関係を挙げた上で、(2)において、別表第二の在留資格(永住者、特別永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)で在留する者との家族関係についても、(1)に準じる要件で同じ位置づけを与えています。
これは条文構造から見て自然な整理です。別表第二の在留資格は、就労活動の内容ではなく身分又は地位に基づいて与えられるものであり、更新の見込みが相対的に安定しています。永住者には在留期間の定めがなく、特別永住者はさらに強い法的地位を有します。したがって、その配偶者を退去させることは、日本に生活の基盤を確立している者から家族を引き離す結果を生みます。日本人配偶者の場合と、保護すべき利益の質が近いのです。
実際の許可内容も安定しています。B類型の許可52件のうち、「永住者の配偶者等(1年)」が28件、「定住者(1年)」が21件、「家族滞在」が3件です。配偶者の在留資格の種別に応じた在留資格が付与されています。
配偶者の在留資格の種別で結果はどこまで変わるのか
ここが、この類型を理解する最大の鍵です。
B類型の許可52件のうち、配偶者の在留資格が別表第二のもの、すなわち永住者・特別永住者・定住者・永住者の配偶者等(事例集が単に「正規在留外国人」と記載するものを含みます)は49件です。内訳は、永住者が24件、定住者が15件、特別永住者が1件、永住者の配偶者等が1件、そして具体的な在留資格を記載せず「正規在留外国人」とのみ記す事例が8件です。
これに対し、配偶者の在留資格が別表第一のもの、すなわち「技術・人文知識・国際業務」「留学」「経営・管理」「特定活動」「教育」等である事例は、許可がわずか3件です。令和4年分のB類型許可第4事例(配偶者は「留学」・出頭申告・在日約3年5月・違反期間約5月・婚姻約1年6月・「家族滞在(1年4月)」)、令和5年分の同許可第1事例(配偶者は「教育」・警察逮捕・在日約1年1月・婚姻約2年8月・未成年の子1人で子に疾病があることを考慮・「家族滞在(1年)」)、令和6年後半分の同許可第2事例(配偶者は「技術・人文知識・国際業務」・出頭申告・在日約9月・婚姻約15年3月・「家族滞在(10月)」)です。
他方、配偶者が別表第一の在留資格である不許可事例は10件に及びます。「技術・人文知識・国際業務」が6件、「経営・管理」が2件、「留学」と「特定活動」が各1件です。令和6年前半分のB類型不許可第1事例は、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」、出頭申告、在日約4年2月、違反期間約1年1月、婚姻約1年、未成年の子1人、刑事処分なしという構成でありながら不許可となっています。同じ条件で配偶者が永住者であれば許可の可能性が相当程度ある構成です。
この差は、ガイドラインの構造から説明できます。別表第一の在留資格は、当該活動を行うことを前提とする在留資格であり、その配偶者が得るのは「家族滞在」です。「家族滞在」は主たる在留者の在留資格に従属しており、主たる在留者が転職・退職・卒業等により在留資格を失えば、その基盤も失われます。ガイドライン第2の2は(1)(2)で別表第二との家族関係を特に考慮するものとしていますが、別表第一の在留資格者との家族関係は、そこには含まれていません。もっとも、含まれないことは考慮されないことを意味しません。上記3件の許可事例が示すとおり、子の疾病、婚姻期間の長期性、違反期間の短さといった事情を積み上げることで許可に至る道は開かれています。配偶者が別表第一の在留資格である場合こそ、家族関係以外の積極要素をどれだけ積めるかが勝負になります。
技能実習先から逃亡した後に婚姻した場合はどうなるのか
この類型は、事例集上、明確に不許可の傾向があります。平成27年分のB類型不許可第1事例は、出頭申告・不法残留・在日約10年2月・違反期間約7年2月・婚姻約11月・刑事処分なしという構成でありながら、「技能実習先から逃亡したもの」との記載により不許可となりました。同年の同不許可第2事例は、警察逮捕・在日約3年3月・違反期間約1年2月・婚姻期間わずか14日という事案で、技能実習先からの逃亡と、当局収容中に婚姻が成立したことの二つが指摘されています。平成28年分では、配偶者が日本人であるA類型の不許可第1事例においても、婚姻・同居の実態への疑義とあわせて技能実習先からの逃亡が挙げられています。
なぜこれほど重く扱われるのかというと、技能実習は、送出機関・監理団体・実習実施者が関与する制度的枠組みの下で在留が認められる仕組みであり、そこからの離脱は、出入国在留管理秩序の側から見て制度そのものの信頼を損なう行為と評価されやすいためです。ガイドライン第2の6は、退去強制の理由となった事実の反社会性の程度に応じて消極要素になるとしています。
もっとも、逃亡の背景に、賃金の未払、暴力、パスポートや通帳の取上げ、過大な違約金の設定といった事情があることは、実務上少なくありません。これらは、単なる逃亡ではなく、労働関係からの離脱を余儀なくされた事情として主張すべきものです。事例集の記載は結果だけを短く示すため、こうした背景事情が書かれていない場合も多いと考えられます。逃亡の事実を隠すのではなく、その理由を客観的な資料で示す方向で組み立てる必要があります。
収容中や勾留中に婚姻が成立した場合はどう評価されるのか
順序が問題になります。B類型では、身柄が拘束された後に婚姻が成立した事例に、不許可が並びます。平成26年分のB類型不許可第2事例は、当局摘発・在日約4年6月・違反期間約4年・婚姻約1月という事案で、「摘発後、当局収容中に婚姻が成立したもの」との記載により不許可となりました。平成27年分の同不許可第2事例も収容中の婚姻成立です。平成28年分の同不許可第3事例は、警察逮捕・不法入国・在日約12年6月・婚姻約1月で、入管法違反により懲役2年6月・執行猶予3年の判決を受け、逮捕後に婚姻が成立したものとされています(懲役は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。
ところが、平成17年から平成19年までの旧公表事例を見ると、様相が異なります。平成17年分の許可第9事例は、特別永住者の男性と同居していた女性が、ホステス就労で摘発・収容され、収容直後に婚姻届を提出した事案です。ここでは「収容前からの同居実態が確認され、婚姻が真摯である」と認定され、「永住者の配偶者等(1年)」の許可となりました。平成18年分の許可第17事例(永住者の同国人女性と同居した後に婚姻し、入管法違反で逮捕・起訴猶予)、同許可第20事例(永住者の男性と2003年から同居、2005年に婚姻した後に不法残留容疑で摘発)、同許可第25事例(永住者の男性と2004年から同居、2005年に婚姻した後に出頭申告)、平成19年分の許可第1事例と第7事例(いずれも永住者の配偶者と同居した後、入管法違反で逮捕された直後に婚姻が成立)も、同居事実と婚姻の信憑性が認定されて許可されています。
対照的に、平成18年分の不許可第24事例は、逮捕後に同国人永住者との婚姻が成立したものの、夫婦間の申立てに著しい齟齬があり相互の協力扶助も認められないとされました。平成19年分の不許可第2事例は、退去強制手続中に永住者の女性と婚姻が成立しましたが、当該女性が別の女性らと同居しているなどの事情から婚姻の信憑性が認められませんでした。同年の不許可第8事例では、同居していると申し立てられた永住者男性との同居事実がなく、申立てられた勤務先も1年以上前に解雇済みであることが判明しています。
したがって、分かれ目は「いつ婚姻届を出したか」ではなく、婚姻届の前から夫婦としての共同生活が実在していたかです。身柄拘束後の婚姻であっても、それ以前の同居を客観的資料で立証できれば評価される道はあります。逆に、収容後に慌てて婚姻届を出しても、それ以前の生活の実在を示せなければ、かえって手続回避目的と受け取られる危険があります。
婚姻・同居の実態に疑義があるとどうなるのか
B類型でも、この点は決定的です。事例集に「婚姻・同居の実態に疑義がもたれたもの」「婚姻・同居の実態が認められなかったもの」と記載された事例は7件あり、すべて不許可です。平成26年分のB類型不許可第1事例(出頭申告・在日約6年8月・婚姻約10月・刑事処分なし)、同不許可第3事例(当局摘発・資格外活動・婚姻約2月)、平成28年分の同不許可第1事例(出頭申告・在日約13年7月・違反期間約13年4月・婚姻約7月)、平成29年分の同不許可第2事例(被退去強制歴2回)、同不許可第3事例(在日約26年8月という長期在留でありながら婚姻約1月・入管法違反で懲役3年・執行猶予4年)、同不許可第4事例(出頭申告・違反期間約5月という軽微な違反でありながら被退去強制歴1回と疑義)、令和3年分の同不許可第1事例(配偶者は永住者・婚姻約1年9月・被退去強制歴あり)です。
婚姻関係の破綻も同様に扱われます。令和3年分のB類型不許可第2事例は、配偶者が永住者、婚姻約9年11月という長期関係でありながら、配偶者に婚姻継続の意思がないことが記載され、窃盗未遂による懲役1年の判決とあわせて不許可となりました。
子の在留資格と家族の定着性はどう評価されるのか
B類型の許可事例では、子の在留資格が記載されている事例が目立ちます。平成26年分の許可第4事例(配偶者は定住者・子も定住者)、平成28年分の許可第2事例(配偶者・子とも定住者)と第3事例(配偶者は永住者・子は永住者の配偶者等)、平成29年分の許可第1事例・第2事例・第4事例、平成30年分の許可第1事例から第3事例、令和元年分の許可第1事例(配偶者・子とも特別永住者)と第3事例、令和2年分の許可第1事例から第3事例、令和6年後半分の許可第3事例などです。
これらの記載が意味するのは、子が既に安定した在留資格を得て日本で生活しているという事実です。家族の中で本人だけが在留資格を欠くという構造では、本人の退去は家族の分離を直接意味します。ガイドラインが令和6年3月改定で「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」を積極要素として明示したのは、まさにこの局面に働く規範です。
家族単位の処理がされた例もあります。令和2年分のB類型許可第3事例は、配偶者が永住者で、子は入管法違反(不法残留)により本人と同時に退去強制手続を受け、本人とともに在留特別許可を受けたという事案です。子の疾病が明記された例として、令和5年分の許可第1事例(配偶者は「教育」・子に疾病があることを考慮・「家族滞在(1年)」)があります。配偶者の在留資格が別表第一であっても、子の医療上の必要性という人道的事情が働いた事例と読み取れます。
他方、子があっても結果が変わらない場面はあります。令和2年分のB類型不許可第2事例は、配偶者が「留学」、子が「家族滞在」、未成年の子1人という家族関係の下で、窃盗により懲役2年の判決を受け不許可となりました。令和6年後半分の同不許可第3事例は、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」、未成年の子3人、刑事処分なしという構成でありながら、在留諸申請において虚偽の内容を申告していたことが指摘されて不許可です。手続における虚偽は、家族関係の積極評価を相殺しうる重い消極要素として働いています。
薬物事犯・財産犯はどう評価されるのか
薬物事犯は、執行猶予でも実刑でも不許可が並びます。B類型の不許可50件のうち、薬物関係法令違反が問われた事例は8件です。平成26年分の不許可第5事例(麻薬及び向精神薬取締法違反及び関税法違反により懲役10年・罰金300万円。違法薬物の密輸入・被退去強制歴1回)、平成27年分の同不許可第3事例(覚せい剤取締法違反・懲役2年・執行猶予3年。婚姻約8年4月でありながら不許可)、平成30年分の同不許可第4事例(大麻取締法違反・懲役2年6月・執行猶予5年。婚姻約9年6月)、令和元年分の同不許可第3事例(覚醒剤取締法・鉄砲刀剣類所持等取締法違反等・懲役2年。婚姻約15年4月・未成年の子1人)、令和2年分の同不許可第3事例、令和3年分の同不許可第4事例(覚醒剤取締法違反・懲役1年6月・執行猶予3年。配偶者・子とも定住者・窃盗の前科)、令和5年分の同不許可第4事例(覚醒剤取締法違反・懲役1年6月・執行猶予3年。未成年の子5人・在留特別許可歴あり)、令和6年後半分の同不許可第4事例(覚醒剤取締法の罪・懲役1年6月の実刑・ほか前科3件・在留特別許可歴あり)です。婚姻期間が9年、15年に及び、子が5人いる事案でも結論が変わっていない点は、この類型の重さを示しています。
理由は条文構造にあります。入管法24条4号チは、薬物関係法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としており、刑期による限定も執行猶予による除外もありません。他方、同号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としつつ、刑の全部の執行猶予を受けた者を除外しています。つまり、薬物事件では執行猶予を得ても退去強制事由が消えないのです。「執行猶予が付いたから大丈夫」という説明は、この構造を見落としています。
財産犯も重く扱われます。平成27年分のB類型不許可第4事例(窃盗・懲役2年4月・窃盗の前科1件)、令和2年分の同不許可第2事例(窃盗・懲役2年)、令和3年分の同不許可第2事例(窃盗未遂・懲役1年・執行猶予の前科)、同不許可第3事例(詐欺・懲役2年6月・執行猶予4年)、令和6年後半分の同不許可第1事例(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、詐欺により懲役4年6月の実刑・ほか前科1件・在留特別許可歴あり)などです。
ここで見落とされがちな構造を一つ指摘します。令和3年分の不許可第3事例は、詐欺で執行猶予付き判決を受けた事案です。全部執行猶予であれば入管法24条4号リの退去強制事由には該当しません。それにもかかわらず退去強制手続に乗っているのは、違反態様が「刑罰法令違反及び不法残留」とされているとおり、不法残留という別の退去強制事由が先に存在するからです。この場合、詐欺の有罪判決は、退去強制事由そのものではなく、在留特別許可の判断における消極要素として働きます。ガイドライン第2の6が、退去強制の理由となった事実の反社会性の程度に応じて消極要素になるとしているのは、この場面です。したがって、執行猶予を得たとしても、在留特別許可の審査では有罪判決の存在が正面から評価されます。
刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか
この類型の不許可事例を読むと、刑事処分の存在が判断の中心に置かれている事例が非常に多いことに気づきます。B類型の不許可50件のうち、警察逮捕を端緒とするものが25件と半数を占め、その多くに有罪判決が記載されています。
したがって、次の視点が重要です。すなわち、これらの事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がある、あるいは少なくとも在留特別許可の判断における最も重い消極要素を一つ消せた余地があったということです。断定はできません。もっとも、薬物事件における4号チ、1年を超える拘禁刑の実刑における4号リ、文書偽造等における4号ハは、いずれも有罪判決を前提とする構造です。不起訴となれば、その前提が成立しません。
だからこそ、弁護活動は起訴前段階から不起訴処分の獲得を最優先目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に置いてはなりません。特に、逮捕直後の72時間は勾留決定までの勝負所です。黙秘権の適切な行使、早期の弁護人選任、そして依頼者本人のために動く通訳の確保が、後の公判と入管手続の双方を左右します。供述調書の訳出のわずかなニュアンスが、婚姻の実態や共謀の認識に関する認定を変えてしまうことがあります。
不法就労助長の類型では、対照的な2事例があります。令和6年前半分のB類型許可第2事例は、入管法違反(不法就労助長)により罰金20万円の略式命令を受けながら、配偶者が永住者、在日約27年3月、婚姻約29年9月、成年の子2人という事情の下で「永住者の配偶者等(1年)」の許可を得ています。他方、同年前半分の同不許可第2事例は、同じ罪名で罰金30万円の略式命令、配偶者は「永住者の配偶者等」、在日約16年5月、婚姻約2年5月、子なしという構成で不許可です。罪名が同じでも、家族関係の成熟度と定着性の差が結果を分けたものと読み取れます。
なお、不法就労助長のように故意・過失が争点となりうる類型では、刑事段階から故意・過失を徹底して争うことが、後の入管手続における主張の基礎を成します。入管実務では、退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないとする運用が長年踏襲されてきましたが、これは責任主義の射程を行政処分にどこまで及ぼすかという根本問題を含んでおり、現在、当事務所が担当する事案で正面から争われている論点です。
違反審査の段階から何を争うべきか
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という段階を踏みます。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、そこで初めて動くのでは遅い場面が多くあります。
まず、違反審査の段階で、退去強制事由への該当性そのものを検討します。資格外活動が問題となる事案では、活動の実態が「専ら」その活動を行っていたと言えるのか、収入を伴う事業の運営に当たるのかを精査します。不法就労助長が問題となる事案では、当該外国人の在留資格や就労可能性についての認識の有無を争います。認定・判定に対する不服を留保せずに従うと、後の段階で争点が事実上封じられます。
次に、この段階から積極要素の立証を始めます。ガイドライン注4は、退去強制令書発付後の事情変更は原則として考慮されないとしています。発付前に何を提出できたかが、そのまま結果を左右します。
令和6年の法改正で何が変わったのか
令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、在留特別許可に申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢、本邦における不法滞在者に与える影響、その他の事情です。従前の職権発動による恩恵的措置から、申請権を前提とする手続へと構造が変わりました。
同時に、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者や、入管法24条3号の2、3号の3、4号ハ等の一定の退去強制事由に該当する者については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されるという、ただし書の枠が置かれました。
令和6年後半分の事例集では、このただし書該当の許可事例が独立の類型として掲載されました。B類型のただし書該当許可事例は、関係機関からの通報を端緒として発覚し、覚醒剤取締法違反により懲役1年2月の実刑判決を受けた方について、配偶者の在留資格が「定住者」、在日約30年4月、婚姻期間約6年2月、未成年の子3人という事情の下で、「定住者(1年)」の許可がなされたものです。30年に及ぶ在留と、未成年の子3人の監護という要素が、実刑という重い消極要素を上回る「特別の事情」として評価されたものと解されます。
ただし、これは1件の事例にとどまります。同じ令和6年後半分のB類型では、覚醒剤取締法の罪により懲役1年6月の実刑を受け、ほかに前科3件と在留特別許可歴があった事案が不許可となっています。実刑があればただし書で救われるということではありません。
この類型で許可を得るために何を準備すべきか
以下は一般的な解説であり、個別の事案における助言ではありません。何をどこまで提出すべきかは事案によって大きく異なります。もっとも、事例集を通読すると、審査が見ている事項は明確です。
- 配偶者の在留資格の安定性を示す資料:在留カードの写し、永住許可を受けた経緯の資料、特別永住者証明書、在留期間の更新履歴、配偶者の在職証明・確定申告の記録。配偶者が別表第一の在留資格である場合は、その在留資格の継続見込み(雇用契約の期間、在籍状況、事業の継続性)を示す資料が特に重要になります。
- 同居の実態を示す資料:住民票の写し、同一住所での公共料金の領収書、賃貸借契約書、郵便物、生活の場面を写した写真、近隣の方や親族の陳述書。B類型の不許可事例で最も多い指摘が「婚姻・同居の実態への疑義」です。ここに正面から答える必要があります。
- 婚姻届の前から共同生活があったことを示す資料:交際期間中の連絡記録、同居開始時期を示す契約書類、共同で使用していた口座や携帯電話の契約、双方の親族との交流の記録。身柄拘束後に婚姻が成立した場合には、この点の立証が結果を分けます。
- 家計の一体性を示す資料:生活費の送金・引落しの履歴、相互に用いている口座の記録、扶養の実態、保険の加入状況。
- 子に関する資料:子の在留カードの写し、在学証明書、通知表、母子健康手帳、担任や学校関係者の陳述、医療上の必要性がある場合は診断書と本国での治療可能性に関する資料。
- 税・社会保険の納付状況:住民税の課税・納税証明書、国民健康保険料・年金保険料の納付記録。滞納がある場合は、可能な範囲で解消してから説明します。
- 技能実習先からの離脱がある場合の資料:賃金台帳、労働時間の記録、未払賃金に関する資料、旅券や通帳の管理状況に関する陳述、監理団体や労働基準監督署への相談記録。逃亡の事実を隠すのではなく、離脱を余儀なくされた事情を示す方向で組み立てます。
- 地域社会との関係を示す資料:勤務先の在職証明と上司の陳述、自治会活動、ボランティア、日本語能力を示す資料。
- 刑事事件が併走している場合の資料:不起訴処分告知書、示談書、被害弁償の受領書、贖罪寄付の受領証明、反省文、身元引受書、医学的所見。刑事段階で整えたこれらの資料が、そのまま入管手続における積極要素の立証資料になります。
公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない
最後に、必ず申し上げておきたいことがあります。事例集は各年20件前後を抜粋して掲載しているにとどまり、実際の許可件数のごく一部です。網羅的なものではありません。ですから、公表事例に自分と同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。
当事務所が担当した事案の中には、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ不法就労助長の類型でありながら、在留特別許可を獲得したものがあります。公表事例の傾向は、検討の出発点であって結論ではありません。他方、傾向に反する結果を得るには、理論構成と立証の設計が必要です。何もしなくても覆るという意味ではないことを、あわせて申し添えます。
そして、事例集は逆向きにも使えます。過去に同種の事情で許可された実績があるのに、本件についてのみ不許可とすることは、合理的な理由なく異なる取扱いをするものであって、法の下の平等を定める憲法14条1項に反すると主張する余地があります。行政自身が「許可相当」と判断した先例であるからこそ、この主張には重みがあります。この類型では、配偶者の在留資格の種別・婚姻期間・子の有無・違反期間という属性が事例集に明示されていますので、同種事例の抽出が比較的行いやすいという利点もあります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として運営しております。
この類型に近接する解決事例を、いくつかご紹介します。
不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に直面された女性を救済する裁判では、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を問い直すべく、責任主義・過失責任主義の射程を問う訴訟を係争中です。この事件では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ不法就労助長の類型でありながら、在留特別許可を獲得しております。本記事で述べたとおり、この類型は事例集上、家族関係の成熟度によって結果が大きく分かれる領域です。
在留資格を喪失して不法滞在で逮捕・起訴された相談者について、婚姻と認知が未了で当局から一旦は受理されなかったところ、憲法的観点から当局と交渉して婚姻と認知を成立させ、刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を実施した事案もございます。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を獲得しました。本記事で述べた「婚姻届の前から共同生活があったこと」の立証を、刑事手続と並行して積み上げた事案です。
刑事事件の側では、特殊詐欺の出し子とされた20代女性につき、指示役からの欺罔・脅迫的状況や犯意の不存在を総合的に主張して不起訴処分を獲得した事例、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者につき徹底した証拠分析と反対尋問により無罪判決を獲得した事例があります。財産犯と薬物事犯は、いずれも本記事で述べたとおり在留特別許可の審査で重い消極要素となる類型であり、不起訴又は無罪を目指す意味が最も大きい分野です。
当事務所の弁護方針として、次の点を申し上げます。
第1に、不起訴目標主義です。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制となります。起訴前段階からの不起訴処分の獲得を最優先目標に据え、そこから逆算して初動を組み立てます。
第2に、松村弁護士の全工程直接対応です。接見の初動から公判の結審まで松村弁護士が直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。
第3に、外国人事件に精通した中国語専属通訳の常駐です。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳が同席します。
第4に、提携行政書士による在留資格サポートです。刑事手続の終了後、在留資格の更新・変更手続までワンストップで対応いたします。
結語
配偶者が永住者・定住者等の外国人であるという事実は、それ自体が「特に考慮する積極要素」に準ずるものとして評価されます。この類型で結果を分けているのは、婚姻届の日付ではなく、その前から夫婦としての生活が実在していたことを客観的に示せるかどうか、そして刑事処分という消極要素を初動の段階で減らせたかどうかです。早い段階でのご相談が、選べる手の幅を大きく変えます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
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