舟渡国際法律事務所

平成19年の在留特別許可事例20件と、旧運用から現行運用(令和6年3月改定ガイドライン)への変化の総括

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平成19年の在留特別許可事例20件と、旧運用から現行運用(令和6年3月改定ガイドライン)への変化の総括

平成19年の在留特別許可事例20件と、旧運用から現行運用(令和6年3月改定ガイドライン)への変化の総括

2026/08/06

平成19年分は、法務省入国管理局が平成20年12月にまとめて公表した資料の最後の年にあたります。許可10件・不許可10件という小さな数ですが、同じような家族構成の事案が許可と不許可に分かれており、どこで結論が変わるのかを読み取るには適した年です。あわせて本記事では、平成15年から平成19年までの旧運用が、第1次ガイドライン(平成18年10月)、第2次改定(平成21年7月)、令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)と令和6年3月改定ガイドラインを経て、現在どのように変わったのかを総括します。古い事例を見て「自分も大丈夫だろう」と考えるのは危ういという点を、具体的に確認していただければと思います。

本記事の要点

  • 平成19年の許可10件と不許可10件には、家族全員が不法滞在という似た構成の事案が双方に含まれます。分かれ目は、自主出頭か摘発か、子の就学が長期に及んでいるか、親に被退去強制歴が重なっていないかです。
  • 許可第6事例は、覚醒剤取締法違反で執行猶予付きの判決を受けた本人について、日本人妻が難病に罹患していることを理由に許可した事案です。現行法50条1項ただし書の「特別の事情」を考える上で重要な先例です。
  • 子の先天性の難病により本国での治療が困難であることは、婚姻も認知もない事案でも許可を導いています(許可第9事例)。
  • 旧運用では長期の不法滞在が定着として有利に働く場面がありましたが、令和6年3月改定ガイドラインは不法在留期間の長期化を明示的な消極要素としました。古い事例をそのまま当てはめることはできません。
  • 令和5年改正により在留特別許可に申請手続が新設され、考慮事情が法律に明示されました。申請権が認められた反面、積極要素の立証を申請者側が組み立てる必要が増しています。

平成19年分の資料について

出典は、法務省入国管理局「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」(平成20年12月)です。平成15年から平成19年までの許可114件・不許可60件を収録しており、『入管訴訟マニュアル[第2版]』の巻末資料に転載されています。

なお、平成19年分については、行政書士のウェブサイトに掲載されていた抜粋も広く流通しています。当事務所はこれを一次資料と照合し、内容が一致することを確認しています。二次資料の抜粋を用いる場合でも、一次資料との照合を経て初めて書面に用いるべきものです。

平成20年から平成25年までの6年分については、年次別の事例集本体が、現在の出入国在留管理庁ウェブサイトにも当事務所の入手資料にも見当たりません。行政書士サイト等に年次不詳の表形式の事例が転載されていますが、どの年度に由来するかを特定できないため、書面での引用には適しません。平成26年分以降は、出入国在留管理庁のウェブサイトに各年の事例集PDFが掲載されています。

平成19年に在留特別許可がされた10件

配偶者との家族関係を理由とするもの

第1事例 「短期滞在90日」で入国後に不法残留となった32歳男性が、平成17年から「永住者」の同国人女性と同居し、平成19年に入管法違反で逮捕され起訴猶予となった後に婚姻が成立した事案。同居の事実と婚姻の信憑性が認められ「永住者の配偶者(1年)」。

第2事例 「就学6月」で入国して日本語学校に入学したものの通学せず不法残留となった27歳女性が、平成18年から「定住者」の男性と同居し、平成19年に不法残留で逮捕されたものの刑事処分を受けずに当局へ引き渡され、逮捕の直後に婚姻が成立した事案。入管法以外の法令違反がなく「定住者(1年)」。

第4事例 平成17年に寄港地上陸許可の後に不法残留となった23歳女性が、平成18年から日本人男性と同居して平成19年に婚姻し出頭申告した事案。入管法違反で逮捕されたものの刑事処分はなく当局へ引き渡され、同居の事実と婚姻の信憑性が認められ「日本人の配偶者等(1年)」。

第7事例 平成7年に稼働目的で不法入国した46歳男性が、平成10年に知り合った「永住者」の女性とその実子と平成12年から同居し、平成19年に入管法違反で逮捕されて懲役2年6月・執行猶予3年となり、逮捕の直後に婚姻した事案(懲役は当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。同居の事実と婚姻の信憑性が認められ、入管法以外の法令違反もないことから「永住者の配偶者(1年)」。

この4件はいずれも、婚姻届の提出が逮捕や出頭より後です。それでも許可されているのは、同居が数年にわたって積み上がっており、婚姻の信憑性が独立して認定できたからです。あわせて「入管法以外の法令違反がない」という記載が繰り返されており、素行の評価が結論を支えていることが読み取れます。現行ガイドライン第2の2(1)・(2)の家族関係と、第2の3の素行に対応する構造です。

人道上の配慮を理由とするもの

第6事例 「短期滞在15日」で入国後に不法残留となった40歳男性が、平成12年に日本人女性と婚姻して「日本人の配偶者等」で在留特別許可を得た後、平成17年に覚醒剤取締法違反で懲役1年6月・執行猶予4年となった事案。婚姻の信憑性が認められ、日本人妻が難病に罹患していることが考慮されて「日本人の配偶者等(1年)」。

この事例は、旧運用の中でも特に重要な先例です。薬物法令違反は、現行運用では実刑・執行猶予いずれも強い消極要素であり、執行猶予でも入管法24条4号チにより退去強制事由となります。それにもかかわらず許可されたのは、配偶者の難病という人道上の事情が消極要素を上回ると判断されたからです。

現行法では、この構造が条文の上に現れています。令和5年改正入管法50条1項ただし書は、無期若しくは1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者、又は入管法24条3号の2・3号の3・4号ハ若しくはオからヨまでに該当する者については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されると定めています。配偶者の難病の看護は、まさにこの「特別の事情」を構成し得る事情です。したがって、第6事例は現行法のただし書の運用を考える手がかりとして、今も引く価値があります。

第9事例 「興行6月」で入国後に不法残留となった母(26歳)が、平成17年に日本人男性との子を出産したものの婚姻も認知に至らず、平成18年に不法残留で摘発された母子の事案。子が先天性の難病を有し本国での治療が困難であり、入管法以外の法令違反もないことから、母子とも「特定活動(1年)」。

婚姻も認知もない状態で、しかも摘発による発覚でありながら許可されています。決定的なのは子の医療上の必要性です。現行ガイドライン第2の7(1)に正面から当たり、令和6年改定で明示された子の利益の保護の必要性とも重なります。診断書のみならず、本国の医療体制に関する客観的資料を揃えることが実務上の要点になります。

第10事例 平成15年に、かつて交際していた日本人男性との同居を目的として不法入国し同居した31歳女性が、平成16年に当該男性との子を妊娠して胎児認知を受け出産したものの、当該男性が詐欺で服役し、平成18年に入管法違反で逮捕され起訴猶予となった事案。婚姻はしていないものの、日本人として出生した子を監護養育していると認定され「定住者(1年)」。

子の就学と家族の定着を理由とするもの

第3事例 平成11年に親族訪問で入国後に不法残留となった20歳女性が、日本人と婚姻している親族と同居して本邦の小学校・中学校・高校を卒業し、平成18年に出頭申告して大学に進学した事案。真摯に学業を継続すると認められ「留学(1年)」。

第5事例 平成3年に父が寄港地上陸許可の後に不法残留となり、平成8年に母と第1子が入国して不法残留、平成10年に第2子、平成14年に第3子が生まれた家族5名の事案。平成17年に一家5名で出頭申告し、入国以来家族として生活し、第1子が義務教育を修了して高校1年、第2子が小学校3年に在学していたことから、全員に「定住者(1年)」。

第8事例 平成2年に母が不法入国し、同年9月に父が入国後不法残留となり、本邦で知り合って同居して平成3年に子が生まれ、平成7年に父母が婚姻した家族3名の事案。子が本邦の小学校・中学校を卒業して高校1年に在学していたことから、全員に「定住者(1年)」。

平成19年に在留特別許可がされなかった10件

家族全員が不法滞在でありながら不許可となったもの

第4事例 平成7年に父が不法入国し、平成10年に母が入国後不法残留となり、同居して平成11年に子が生まれた家族3名の事案。父は平成12年に他人の身分事項で退去強制となった直後に真正な身分で入国して再び不法残留となり、平成19年に摘発されました。子は小学校2年に在学していましたが、父にはほかにも退去強制歴が判明しています。

第9事例 平成2年に父が寄港地上陸許可の後に不法残留、平成8年に母が「興行3月」で入国後に不法残留となり、平成10年に知り合って同居して平成12年に子が生まれた家族3名の事案。平成19年に摘発され、父母は婚姻しておらず、子は小学校2年に在学していました。

許可された第5事例・第8事例と、この第4事例・第9事例は、家族全員が不法滞在で本邦出生の子がいるという点で構成が似ています。それにもかかわらず結論が分かれた理由は、次の3点に整理できます。

第1に、発覚の形です。許可された2件はいずれも自主出頭(出頭申告)であり、不許可の2件はいずれも摘発です。現行ガイドライン第2の9でも、不法滞在を申告するため自ら出頭したことは積極要素とされています。

第2に、子の就学の長さです。許可された2件では第1子が義務教育を修了して高校1年に在学しており、不許可の2件では子が小学校2年でした。現行ガイドライン第2の2(3)は、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けており、本国で初等中等教育を受けることが困難な事情があることを求めています。就学期間の長短は、この「相当期間」の評価に直接響きます。

第3に、親の素行です。不許可の第4事例では、父が他人の身分事項で退去強制となり、その直後に再入国した上、ほかにも退去強制歴がありました。第9事例では父母が婚姻しておらず、家族としての安定性の評価に影響したと読めます。

似た構成の事案が分かれるとき、その差は当事者から見れば紙一重に思えるかもしれません。しかし記録に残された差は、出頭したかどうか、子が本邦で何年学んできたか、親に違反の反復があるかという、いずれも事前に把握でき、ある程度は準備できる要素です。

同居・婚姻の実体がないもの

第2事例 寄港地上陸許可の後に不法残留となった28歳男性が、平成19年に入管法違反で逮捕されたものの刑事処分を受けずに当局へ引き渡され、退去強制手続中に「永住者」の女性と婚姻が成立したものの、当該女性が別の女性らと同居しているなど婚姻の信憑性が認められなかった事案。

第5事例 「短期滞在90日」で入国後に不法残留となった31歳男性が、平成19年に日本人女性と知り合って婚姻した後、入管法違反と銀行法違反で逮捕されて懲役2年6月・執行猶予5年・罰金30万円となった事案。当該女性とは1週間同居した後に解消しており、夫婦の実態が認められませんでした。

第8事例 「就学1年」で入国して日本語学校に入学した23歳女性が、平成17年に日本人男性と婚姻して変更を申請したものの不許可となり離婚して不法残留となり、平成19年に「永住者」の同国人男性と婚姻した後、入管法違反で逮捕され起訴猶予となった事案。同居を申し立てた当該男性との同居の事実がなく、当該男性が申し立てた勤務先も1年以上前に解雇済みであることが判明しました。

第10事例 平成13年に船舶で不法入国した41歳女性が、翌年に知り合った日本人男性と同居したものの、平成18年にマッサージ店に住み込んで稼働して別居し、平成19年に不法在留で懲役2年6月・執行猶予5年となった事案。婚姻は成立していましたが夫婦の実態が認められず、過去にも不法入国による退去強制歴がありました。

許可群の第1事例・第2事例・第4事例・第7事例と対比すると、婚姻届が逮捕の後か前かは決定的ではありません。決定的なのは、同居と扶助が現に存在するか、そして本人と配偶者の説明が客観的な事実と符合するかです。第8事例のように、配偶者が申し立てた勤務先が既に解雇済みであったという事情は、婚姻の実体そのものへの疑いに直結します。

売春・不法就労助長・資格外活動

第1事例 「就学6月」で入国して日本語学校に入学した30歳女性が、平成15年に日本人男性と婚姻して「日本人の配偶者等」に変更した後に離婚し、平成17年に別の日本人男性と婚姻して風俗店を経営し、平成19年に売春防止法違反で懲役1年6月・執行猶予3年となった事案。当該店で他の外国人を不法就労させており、日本人夫との夫婦の実態も認められませんでした。

第7事例 平成17年に本国で日本人男性と婚姻して平成18年に「日本人の配偶者等1年」で入国した後に離婚し、別の日本人男性と婚姻して風俗店を経営した31歳女性が、平成19年に売春防止法違反で懲役1年6月・執行猶予3年となった事案。日本人夫との婚姻が安定かつ成熟しているとは認められませんでした。

第6事例 「人文知識・国際業務1年」で入国して貿易・翻訳業務に従事していた48歳男性が、勤務先の経営悪化により出社せず風俗店の従業員として稼働し、平成19年に資格外活動の容疑で摘発された事案。半年間、専ら風俗店の従業員として報酬を受ける活動を行っていたと認定されました。

第3事例 日系3世として「定住者3年」で入国した38歳男性が、平成17年に窃盗で懲役1年2月の実刑となり服役し、仮釈放後に同国人の恋人との婚姻を希望した事案。それまでに窃盗で2回の執行猶予判決を受け、退去強制手続も2回目であり、当該恋人には婚姻の意思がないことが判明しました。

第1事例と第7事例は、自ら経営する風俗店で売春に関与し、かつ他の外国人を不法就労させた類型です。現行ガイドライン第2の3では、他の外国人の不法就労に関わる行為が(イ)、自ら売春を行い又は他人に売春を行わせる行為が(エ)として、いずれも出入国在留管理行政の根幹に関わる違反又は反社会性の高い違反として明示的な消極要素とされています。第3事例は、財産犯の反復と被退去強制歴の重複という、消極要素が累積した類型です。

旧運用から現行運用への変化の総括

平成15年から平成19年までの5年間の運用と、現在の運用を比べると、変化は3つの層に整理できます。

第1の層は、情報公開の変化です

平成15年分・平成16年分は許可事例のみが公表され、平成17年分から不許可事例が併せて公表されるようになりました。平成18年10月には第1次ガイドラインが策定され、積極要素・消極要素が初めて文書で示されました。平成21年7月の第2次改定では、本邦の小中学校で相当期間教育を受けた子等を特に考慮する旨が明示され、「特に考慮する積極要素」と「その他の積極要素」の区別が導入されました。平成26年分以降は、毎年の事例集が入管庁のウェブサイトで公開されています。この流れは、恩恵的措置としての在留特別許可が、次第に基準の説明を伴う判断へと移ってきた過程として読むことができます。

第2の層は、法律そのものの変化です

令和5年法律第56号による改正(令和6年6月10日施行)により、在留特別許可に申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。考慮事情は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢、本邦における不法滞在者に与える影響、その他の事情です。

さらに50条1項ただし書が新設され、無期若しくは1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者(全部執行猶予及び実刑部分が1年以下の一部執行猶予を除く)、又は入管法24条3号の2・3号の3・4号ハ若しくはオからヨまでに該当する者については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されることとなりました。旧運用のもとで、覚醒剤取締法違反の実刑を受けながら本邦出生と長期在留を理由に許可された事例(平成15年第21事例)のような判断は、現在ではこのただし書の枠組みを通ることになります。

第3の層は、評価の方向の変化です

最も重要なのは、不法在留期間の評価です。令和6年3月改定ガイドラインは、我が国に不法に在留している期間が長いことが出入国在留管理秩序を侵害するものとして消極的に評価される旨を、初めて明示しました。期間の終期は、出入国在留管理庁が不法滞在の事実を認知した時点とされています。従前は積極にも消極にもなり得るとされていたものが、基本的に消極要素であると整理されたわけです。

旧運用の事例を見ると、この差は際立ちます。平成18年許可第13事例は昭和47年からの33年、同第21事例は昭和38年頃からの42年に及ぶ不法在留であり、いずれも期間の長さが本邦への定着として肯定的に評価されていました。平成15年許可第16事例の11年、平成17年許可第22事例の20年も同様です。現在、これらと同じ主張の立て方をすることは適切ではありません。長期の在留は、その間に築いた家族関係・地域社会との関係・納税や地域ルールの遵守といった中身を証拠で示し、積極要素の側へ組み替えて初めて意味を持ちます。もっとも、改定ガイドラインには、その間に日本人や地域社会との関係を構築している場合は別途積極要素として考慮される旨の留保があり、この留保を具体的な立証で埋めることが実務の課題になります。

他方、令和6年改定では「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」が積極要素として明示されました。参議院附帯決議14項を踏まえた改定です。旧運用で子の就学や難病治療を理由に家族全体が救済された事例は、この明文の積極要素を裏付ける実例として、今も有用です。

旧事例を今どう使うか

以上を踏まえると、旧事例の使い方は次のように整理できます。

引くことができる先例は、医療上の必要性(平成19年許可第9事例、平成18年許可第2事例・第3事例・第24事例、平成17年許可第13事例)、配偶者の難病と刑事処分の相殺(平成19年許可第6事例)、子の本邦での長期就学(平成19年許可第5事例・第8事例)、婚姻に至らない日本人実子の監護養育(平成19年許可第10事例)、親の偽装に本人の帰責性がないこと、手続の失念の救済です。いずれも現行ガイドラインの評価要素に直接対応します。

そのまま引くことができない先例は、長期の不法在留それ自体を理由とするもの、薬物事犯でありながら許可されたもの、公的書類の偽変造があるにもかかわらず許可されたもの、被退去強制歴があるにもかかわらず許可されたものです。これらは、現行ガイドラインが明示的な消極要素として位置づけた事情に当たります。用いる場合は、消極要素を認めた上で、それを上回る積極要素を別途構成する形にする必要があります。

刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか

平成19年の許可事例では、逮捕されたものの刑事処分を受けずに当局へ引き渡された方(第2事例・第4事例)と、起訴猶予すなわち不起訴となった方(第1事例・第10事例)が目立ちます。他方、不許可事例の多くは有罪判決を受けています。刑事処分の内容が在留の可否に影響することは、この対比から明らかです。

現行法の構造は、より明確です。入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、4号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも退去強制事由となります。加えて、50条1項ただし書に該当する場合は「特別の事情」がある場合に限られます。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、罪名によっては成り立ちません。

不許可群の第1事例・第7事例(売春防止法違反)、第5事例(入管法違反・銀行法違反)、第3事例(窃盗の実刑)は、いずれも刑事処分によって消極要素が確定した事案です。これらの事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。ただし、実際にどこまで争えたかは証拠関係によるものであり、遡って断定することはできません。

だからこそ、弁護活動は起訴前の段階で不起訴処分を獲得することを最優先の目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に据えると、刑事裁判では成功したように見えて在留の場面で失うものが大きくなりかねません。とりわけ、不許可群の第1事例のように自ら経営する店での不法就労助長が問題となる類型では、従業員の在留資格や就労の可否についてどこまで認識していたかが核心です。刑事段階から故意・過失を徹底して争っておくことが、後の入管手続の土台になります。入管実務では退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないとする運用が長年踏襲されてきましたが、当事務所はこの運用を正面から問う訴訟を係争中です。

違反審査の段階から何を争うべきか

退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、そこで初めて動いても間に合わないことがあります。

平成19年の事例が示すとおり、結論を支えている事実は、同居の期間、子の就学の年数、素行、退去強制歴といった、いずれも違反調査・違反審査の段階で確定していく事実です。不許可群の第8事例では、配偶者の申立てが客観的事実と食い違っていたことが決定的でした。この種の食い違いは、後の段階で説明を変えても回復が難しいものです。

したがって、住民票・賃貸借契約・家計や送金の記録・子の在学証明や成績・診断書・本国の医療体制に関する資料・親族や近隣の陳述を、違反審査の段階までに揃えておくことが実際的です。認定・判定に対する不服を留保せずに従うと争点が事実上封じられるため、口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要もあります。退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されないため(現行ガイドライン注4)、婚姻届や認知を令書発付後に整えても間に合わない場合があります。

公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない

平成19年分は許可10件・不許可10件と、特に小さな抜粋です。平成20年から平成25年までの6年分は事例集本体すら確認できていません。公表事例が網羅的でないことは、資料の状況そのものが示しています。したがって、自分と同じ事情の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。

当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。平成19年不許可群の第1事例が、まさに自ら経営する店で他の外国人を不法就労させた類型であることを踏まえると、公表事例の傾向は出発点であって結論ではないことがよく分かります。もっとも容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。どの許可事例をどう引き、どの不許可事例との差異をどう論ずるかという設計が重要になります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。

観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行い、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで1度の申請で在留特別許可を獲得しました。本記事のように旧運用まで遡って事例を読み込む作業は、この手法の基礎にあります。

また、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得し、あわせて「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を問う訴訟を係争中です。刑事事件では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しています。国際的な刑事事件、裁判員裁判の対象事件、世界的に報道された事件にも対応してまいりました。中国籍の方の重大事件にも数多く関わっています。

当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制に至ります。そのため起訴前の段階から見通しを立て、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。

松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。

結語

平成19年の20件と、旧運用から現行運用への変化を通して見えてくるのは、結論を分ける要素の多くが、手続に入る前の段階で既に決まっているという事実です。自ら出頭したか、子が何年学んできたか、同居と扶助の記録が残っているか、刑事処分をどこで止められたか。だからこそ、逮捕直後や入管に出頭する前の段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人と検討しておくことが大切です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


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