平成17年の在留特別許可事例50件(許可25件・不許可25件)と、不許可事例の公表が始まった意義
2026/08/06
在留特別許可について、許可された例だけを並べた資料と、許可されなかった例も並べた資料とでは、読み取れることが大きく違います。平成17年分は、法務省が初めて不許可事例を公表した年にあたります。許可25件と不許可25件が同じ数だけ並べられたことで、外部の者が初めて「何が結論を分けたのか」を対照して検証できるようになりました。本記事では、平成17年の50件を1件ずつ辿り、当時の分水嶺と、現行ガイドライン(令和6年3月改定)のもとでの読み替え方を整理します。ご家族の事案がどちらの側に近いかを考える手がかりとしてご覧ください。
本記事の要点
- 平成17年分から不許可事例の公表が始まり、許可25件と不許可25件の対照が可能になりました。判断基準を反証的に検証できる資料が初めて登場した年です。
- 許可側の共通項は、自主出頭または摘発後であっても同居の実体が確認され、婚姻や親子関係の真摯さが認定されたことです。
- 不許可側の共通項は、同居・婚姻の実体の疑義、拘禁刑の実刑を伴う重大事犯、売春関係、偽装結婚のあっせん、公的書類の偽変造、そして在留資格該当性を欠く資格外活動です。
- 当時は入管法違反での起訴猶予や執行猶予が許可の妨げになっていませんが、現行法では罪名によって退去強制事由該当性そのものが変わるため、同じ読み方はできません。
- 公表事例は各年25件前後の抜粋にとどまり、掲載のない類型でも許可の可能性は残ります。
平成17年に不許可事例の公表が始まった意義
出典は、法務省入国管理局が平成20年12月に公表した「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」です。平成15年分・平成16年分は許可事例のみでしたが、平成17年分から不許可事例が併せて公表されました。
これは、単に情報量が増えたという話にとどまりません。許可例だけでは、行政の判断の輪郭は上からしか見えません。不許可例が並ぶことで、初めて下からの輪郭、すなわち「ここを越えると救済されない」という限界線が見えるようになります。申請者側の立場からすると、自分の事案に最も近い許可例と最も近い不許可例の双方を特定し、両者のどちらに寄っているかを論ずる作業が可能になりました。この作業は、同種事情における取扱いの均衡(憲法14条1項)を論ずる基礎になります。
平成18年10月に第1次ガイドラインが策定される前年にあたることも重要です。積極要素・消極要素の例示が公表されるより前に、事例そのものによる説明が先に行われていました。裏を返せば、当時は基準が明文化されておらず、事例の集積から基準を推し量るほかなかったということでもあります。
平成17年に在留特別許可がされた25件
日本人配偶者との婚姻を理由とするもの
第1事例 「就学6月」入国後に不法残留となった36歳男性が、平成12年頃から日本人女性と同居し、平成17年に入管法違反で逮捕されて起訴猶予、収容中に婚姻した事案。逮捕の時点で既に同居の実体が確認され婚姻が真摯と認められ「日本人の配偶者等(1年)」。
第5事例 「就学」で在留していた32歳男性が通学せず飲食店で就労し資格外活動で摘発された事案。同年に日本人妻と婚姻し、同居の実体が確認され妻が妊娠中であったことから婚姻の真摯さが認められ「日本人の配偶者等(1年)」。
第6事例 日系二世として「日本人の配偶者等(3年)」で入国後に不法残留となった35歳男性が、平成17年に入管法違反で逮捕され起訴猶予となった事案。同時に入国した姉が永住許可を得ていることも踏まえ「日本人の配偶者等(1年)」。
第8事例 他人名義の旅券で不法入国して平成2年に退去強制となった46歳女性が、平成13年に自己名義の旅券で入国した後に不法残留となり、平成15年に日本人夫と婚姻して平成16年に出頭申告した事案。被退去強制歴がありながら、同居の実体と婚姻の真摯さが認められ「日本人の配偶者等(1年)」。
第15事例 平成9年に貨物船で不法入国した26歳男性が、平成16年に日本人妻とその連れ子と同居して出頭申告し、退去強制手続中の入管法違反で懲役2年・執行猶予4年となった事案(懲役は当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。同居の実体と婚姻の真摯さが認められ「日本人の配偶者等(1年)」。
第21事例 日本人との婚姻で在留資格を得た後、離婚が判明して更新不許可となり平成2年から不法残留であった39歳女性が、別の日本人男性と再婚し、入管法違反で逮捕され起訴猶予となった事案。同居の実体が確認され「日本人の配偶者等(1年)」。
第23事例 「興行3月」入国後に不法残留となった38歳女性が、平成14年に日本人男性と婚姻して出頭申告した事案。判断の時点で夫は服役中でしたが、逮捕までは同居しており出所後も同居する意思が認められ「日本人の配偶者等(1年)」。
この群の分水嶺は、逮捕・摘発・収容という発覚の形ではなく、それ以前から同居の実体が積み上がっていたかどうかです。第1事例と第9事例のように収容後に婚姻届を出した事案でも、収容前からの同居が確認されて許可されています。第8事例の被退去強制歴も、婚姻の実体によって相殺されています。
配偶者が正規在留外国人であるもの
第9事例 「短期滞在90日」入国後に不法残留となった32歳女性が、平成16年から特別永住者男性と同居し、平成17年にホステス就労で摘発されて収容された直後に婚姻届を提出した事案。収容前からの同居の実体が確認され「永住者の配偶者等(1年)」。
第10事例 日本人女性との婚姻を理由に変更を申請したものの審査中に離婚して不許可となり不法残留となった49歳男性が、「永住者」の妻と婚姻して妻の連れ子(日本国籍)と同居し出頭申告した事案。退去強制手続中の入管法違反は不起訴となり「永住者の配偶者等(1年)」。
第22事例 昭和60年に偽造旅券で不法入国した49歳女性が、インドシナ定住難民として「定住者」で在留する夫と平成12年頃から同居して平成13年に婚姻し、平成17年に入管法違反で逮捕され起訴猶予となった事案で「定住者(1年)」。
第25事例 他人名義の旅券で日系三世を装い入国して「定住者」となった48歳男性が、平成13年に偽装が判明して更新不許可となり、平成7年頃から同居する「定住者」の女性との間に平成13年に子が生まれ、平成17年に入管法違反と道路交通法違反で懲役2年6月・執行猶予4年となった事案で「定住者(1年)」。
配偶者が別表第二の在留資格者である場合も、日本人配偶者に準じて評価されます。もっとも、第25事例の日系人偽装は現行ガイドライン第2の3の素行不良に当たり得るもので、現在は同じ結論を期待しにくい類型です。
日本人の実子・親子関係を理由とするもの
第3事例 偽造旅券で不法入国した35歳女性が、平成8年に日本人男性との子を出産し平成15年に婚姻して夫が認知(子は「日本人の配偶者等」)、平成17年に万引きで逮捕され入管法違反と窃盗で懲役2年8月・執行猶予3年となった事案。夫が認知後に所在不明となり本人が子を監護養育し反省していることが評価され「定住者(1年)」。
第16事例 「興行3月」入国・1回更新の後に不法残留となった24歳女性が、日本人男性との子(平成14年に認知)を監護養育して出頭申告した事案。母は「定住者(1年)」、7歳の子は「日本人の配偶者等(1年)」。
第18事例 昭和62年の入国後に不法残留となった母(41歳)が、平成元年頃から日本人男性と同居し平成5年に子を出産した母子の事案。当該男性は既婚で離婚も認知もしていませんでしたが実質的な家庭関係が認められ、子が小学校6年であったことも踏まえ、母子とも「定住者(1年)」。
第24事例 日系三世に扶養される子として「定住者」への変更を申請したものの立証が不十分で不許可となり不法残留となった31歳女性が、入管法違反で逮捕され不起訴となった後、祖父が日本国籍を有することが判明して本人が日系三世であると明らかになった事案。「定住者(1年)」が許可され、本邦出生で不法残留であった子2人もその後「定住者(1年)」を得ています。
第4事例 夫(62歳)は「短期滞在15日」入国後に不法残留、妻(60歳)は貨物船で不法入国した夫婦の事案。夫が本国で日本人父と外国人母の間に出生した日本人の子であり(実兄は日本国籍)、夫婦で出頭申告したことから、夫は「日本人の配偶者等(1年)」、妻は「定住者(1年)」。
この群では、婚姻の有無ではなく、日本人の実子との親子関係が現に機能しているかどうかが決定的です。第18事例のように相手男性が認知すらしていない場合でも、実質的な家庭関係と子の就学が積極要素として働いています。第24事例は、本人が本来有していた身分関係が後に判明した例であり、身分関係の立証を尽くすことの重要性を示します。
人道上の配慮・高齢・疾病を理由とするもの
第2事例 平成6年に日本人夫と婚姻して「日本人の配偶者等」から平成12年に永住許可を得た37歳女性が、平成14年に覚醒剤取締法違反で懲役1年6月・執行猶予3年となった事案。日本国籍の子2人があり、夫が実刑で収監中のため本人が扶養しており、初犯で反省していることが評価され「日本人の配偶者等(1年)」。薬物事犯でありながら許可された例ですが、現行運用では薬物法令違反は実刑・執行猶予いずれも強い消極要素とされており、そのまま当てはめることはできません。
第11事例 昭和15年に本邦で出生し昭和47年に永住許可を得た64歳男性が、平成11年に無銭飲食の詐欺で懲役1年10月の実刑、満期出所後の平成14年に「定住者」で在留特別許可を得た後、さらに2回詐欺で実刑となった事案。本邦で生育し兄弟と子が在留し本国に頼る親族がなく、脳梗塞等の既往があることが考慮され「定住者(1年)」。
第13事例 永住者を訪問して「短期滞在90日」で入国後に不法残留となった66歳女性が、心臓病と判明して本邦で手術を受け、本国での治療が困難であった事案で「特定活動(病気治療・1年)」。現行ガイドライン第2の7(1)に直結します。
第14事例 日本人前夫との婚姻で在留資格を得た後、前夫の失踪により不法残留となった44歳女性が、平成12年に離婚が成立し、別の日本人男性と平成15年に婚姻して出頭申告したところ、退去強制手続中の平成16年に夫が病死した事案。婚姻の真摯さと亡夫の親族との交流が認められ「定住者(1年)」。配偶者の死亡により身分関係の基礎が失われた場合の取扱いを示す先例です。
第20事例 昭和56年に西欧で日本人妻と婚姻して長男(日本国籍)を得た49歳男性が、昭和59年に入国して「投資・経営」に変更した後、妻子が子の教育のため西欧に居住する間に不法残留となった事案。会社経営の継続と妻子帰国後の同居を希望して出頭申告し、電子メールでの連絡や妻の年1回の帰国が確認され「定住者(1年)」。別居していても婚姻関係が維持されていると認められた例です。
学業・就労・在留資格該当性を理由とするもの
第7事例 「就学6月」で入国し日本語学校を卒業した後に更新を受けず不法残留となった45歳男性が、複数の大学等で芸術系の研究活動とボランティアを行い、大学院での研究継続を希望して出頭申告した事案。芸術家としての将来性が評価され「留学(1年)」。
第12事例 平成5年に父と入国した後に不法残留となった20歳男性が、小中高を卒業して大学に在学し、父が所在不明となった後は「永住者」の同国籍の祖母のもとで生活していた事案で「定住者(1年)」。
第17事例 「就学1年」で入国・更新した26歳男性が、大学を卒業して会社に採用されたものの在留期限までに変更を申請せず、直後に出頭申告した事案。期限内に申請していれば許可されたはずの内容として「人文知識・国際業務(1年)」。手続の失念が救済された典型例です。
第19事例 父(49歳)と母子が「短期滞在60日」で入国後に不法残留となった家族4名の事案。2人の子が本邦で義務教育を修了し、それぞれ大学生と高校生であったことが評価され、全員に「定住者(1年)」。
これらは、在留資格該当性を現に備えているか、本邦の教育機関で相当期間教育を受けているかが分水嶺です。前者は現行ガイドライン第2の9、後者は第2の2(3)に対応します。
平成17年に在留特別許可がされなかった25件
同居・婚姻の実体に疑義があるもの
第3事例 日本人女性と婚姻して出頭申告した32歳男性が、平成15年に子(日本国籍)を得たものの平成16年から別居し、同居していると虚偽の申立てをして監護の実績も認められなかった事案。
第5事例 平成15年に出頭して退去強制となった後、同年に他人名義の旅券で再び不法入国した30歳男性が、平成16年に日本人女性と婚姻して出頭申告したものの、同居の事実がなく供述に矛盾があり、当該女性は別の日本人男性と同居していた事案。
第7事例 他人名義の旅券で不法入国した39歳女性が、平成13年に日本人男性と婚姻して平成14年に別居し、婚姻を解消しないまま平成16年に別の日本人男性と婚姻届を提出した(重婚)事案。婚姻の破綻が認定され、現夫も離婚を希望していました。
第12事例 「短期滞在15日」入国後に不法残留となった53歳女性が、平成17年の合同摘発で収容された事案。平成14年から日本人男性と同居していたものの、本国に同国人の夫がおり離婚の見通しが立たず、婚姻成立の見通しがないとされました。
第18事例 「研修6月」入国後に不法残留となった42歳男性が、平成16年に日本人女性と婚姻して出頭申告し、退去強制手続中の入管法違反は起訴猶予となったものの、同居の事実がなく供述に矛盾があり扶助も認められず、婚姻が真摯と認められなかった事案。
第10事例 日系三世の妻の夫として「定住者」で入国・更新した30歳男性が、平成16年の離婚により平成17年に更新不許可となり不法残留となった事案。子の養育費を目的に在留を希望したものの、養育費が未払で1年以上面会もなく、本国の両親には定期送金していたことが指摘されました。
許可群の第1事例・第9事例と、この不許可群を並べると、線がはっきり見えます。婚姻届の有無ではなく、同居の実体と扶助の事実が積み上がっているかどうかが分水嶺です。とりわけ、同居について虚偽の申立てをした第3事例、供述に矛盾がある第5事例・第18事例は、事実関係の説明の破綻それ自体が決定的な不利益になっています。この点は現在も変わりません。
拘禁刑の実刑を伴う重大事犯
第2事例 13歳で入国し日本人と婚姻した母の連れ子として「定住者」となった23歳男性が、平成14年に強盗致傷で逮捕され懲役2年8月の実刑となり、在監中に不法残留となった事案。高校時に万引きが2回あったことも指摘されています。
第6事例 日系二世として「日本人の配偶者等(3年)」で入国した23歳男性が、平成14年に強盗・窃盗・住居侵入で懲役3年の実刑となり在監中に不法残留となった事案。
第14事例 日本人妻との婚姻で「日本人の配偶者等」を得た34歳男性が、平成11年に覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で懲役6年・罰金100万円の実刑となり在監中であった事案。妻は平成16年から所在不明でした。
第15事例 日系二世として在留していた34歳男性が、平成12年に強盗致傷と建造物侵入で懲役6年の実刑となった事案。「定住者」の内妻との子2人は本国に帰国し、内妻とも3年以上連絡が取れていませんでした。
第17事例 日本人夫との婚姻で在留していた39歳女性が、平成14年に麻薬及び向精神薬取締法違反・関税法違反で懲役4年の実刑となり在監中であった事案。子(日本国籍)がありましたが、夫も器物損壊で2回服役し出所後の同居予定がありませんでした。
第25事例 日本人夫との婚姻で平成8年に永住許可を得た41歳女性が、平成15年に覚醒剤取締法違反で懲役2年4月の実刑となった事案。日本国籍の子は平成14年から本国の親族に預けて就学していました。
この群では、重大事犯の実刑という消極要素に加えて、服役中に家族関係が事実上失われていることが共通しています。逆に許可された第2事例(覚醒剤取締法違反・執行猶予)や第11事例(詐欺の実刑を重ねた事案)では、扶養すべき日本国籍の子や本邦での生育・疾病という積極要素が残っていました。現行運用では、薬物事犯は執行猶予でも入管法24条4号チにより退去強制事由となり、より厳格に扱われます。
売春関係・風俗営業関係
第1事例 日本人前夫との離婚後に現夫と婚姻した28歳女性が、平成17年に風俗営業適正化法違反で罰金50万円となり、供述から売春業務への従事が認められた事案。現夫とは平成15年から長期別居で合理的な理由もありませんでした。
第22事例 「家族滞在」で在留していた31歳男性が、平成17年からエステ店に住み込んで稼働し妻と別居した後、売春防止法違反で懲役1年2月・執行猶予3年・罰金20万円となった事案。
売春に自ら関与する行為は、現行ガイドライン第2の3(エ)で明示的な消極要素とされています。平成16年の人身取引被害者に対する許可と対比すると、強いられた被害者であるか自ら関与したかの区別が決定的であることが分かります。
偽装結婚のあっせん・公的書類の偽変造
第8事例 日本人夫との婚姻・離婚後に子の監護で「定住者」となった42歳女性が、平成11年に偽装婚のあっせんに関する公正証書原本不実記載罪で懲役2年・執行猶予4年となり更新不許可で不法残留となった事案。平成6年の窃盗による前科もありました。
第9事例 日本人妻と婚姻して子を得た47歳男性が、平成7年に退去強制となった後、平成16年に偽造旅券で不法入国して逮捕され、覚醒剤も発覚して平成17年に両罪で懲役3年・執行猶予5年となった事案。退去強制後に妻子との交渉が途絶え平成13年に離婚していました。
第11事例 「技能(コック)1年」で入国した31歳男性が、同年に不正電磁的記録カード(偽造テレホンカード等)の所持で懲役1年・執行猶予3年となった事案。
第20事例 日系三世の妻の夫として「定住者」で入国・更新した37歳男性が、妻の日系人偽装が判明して妻が退去強制となり、本人も日系人の夫を偽装したとして平成17年に在留資格を取り消された事案。手続の過程で妻が日系人でない事実を認めていました。
公的書類の偽変造・不正受交付・行使・所持は、現行ガイドライン第2の3(ウ)で出入国在留管理行政の根幹に関わる違反として明示的な消極要素とされています。偽装結婚のあっせんも同様です。許可群の第25事例(日系人偽装)と結論が分かれた理由は、当該事案では「定住者」の妻との同居と子の存在という家族関係が積み上がっていた点にあると読めます。
財産犯・在留資格該当性を欠く活動
第13事例 「人文知識・国際業務」で在留していた33歳男性が、平成15年に盗品等保管罪で懲役10月・執行猶予3年となり、その後更新を申請せず平成16年から不法残留となった事案。
第16事例 「留学」で在留していた23歳男性が、平成16年に万引きで懲役1年・執行猶予3年となり、単位不足で4年での卒業ができず退学が決定する予定であった事案。
第4事例 「特定活動(ワーキングホリデー)6月」で入国後に不法残留となった30歳女性が、英会話学校での就労と正規在留の母との同居を理由に在留を希望したものの、大学中退で実務経験がなく「人文知識・国際業務」の基準に適合せず、母とも同居していなかった事案。
第19事例 「家族滞在」で入国した38歳女性が、平成17年に夫と別居してホステス就労に専従し摘発された事案。夫は本人の居住・就労を知らされていませんでした。
第23事例 「短期滞在90日」入国後に「就学1年」となった24歳女性が、同年にホステス就労に専従して摘発された事案。学業の継続を希望しましたが在籍校から退学処分を受けていました。
第24事例 「定住者(日本人配偶者の連れ子)」で入国した25歳男性が、母の離婚・帰国後に「就学」に変更し、不法残留となったものの退去強制手続で大学入学が考慮され平成15年に「留学」で在留特別許可を得たところ、再び更新を申請せず平成16年から不法残留となった事案。改ざんした転学部合格証明書の提出と、資格外活動許可のないアルバイトへの専従が判明しました。
第21事例 日本人夫と婚姻して「日本人の配偶者等」で在留していた44歳女性が、平成16年に経営するスナックの摘発により外国人の不法就労者を雇用していたことが判明し、更新不許可で不法残留となった事案。日本人夫には糖尿病等がありましたが介護を要する病状ではないとされました。
許可群の第7事例・第12事例・第17事例・第19事例と対比すると、学業や就労を理由とする在留希望では、その活動が現に行われ在留資格該当性を備えているかが分水嶺です。第24事例のように一度在留特別許可を得ながら同じ違反を繰り返した場合の評価が厳しいことも読み取れます。第21事例の不法就労助長は、現行ガイドライン第2の3(イ)で他の外国人の不法就労に関わる行為として明示的な消極要素とされている類型です。
旧運用と現行運用はどこが違うのか
平成17年の50件を通読すると、判断の骨格は現在と共通しています。同居の実体・親子関係の機能・在留資格該当性・人道上の配慮を積極要素とし、重大事犯・偽変造・売春関与・実体のない婚姻を消極要素とする構造は、そのまま現行ガイドラインに引き継がれています。
他方、無視できない差異が3点あります。
第1に、不法滞在期間の評価です。当時は10年を超える不法残留が許可の妨げになっていません(許可群の第22事例は昭和60年の不法入国から20年、第18事例は昭和62年から18年です)。令和6年3月改定ガイドラインは、不法に在留している期間が長いことを出入国在留管理秩序の侵害として消極的に評価する旨を明示し、期間の終期を出入国在留管理庁が不法滞在の事実を認知した時点としました。長期滞在の事実そのものを有利な事情として持ち出すことは、現在では適切ではありません。その期間に築いた家族関係・地域社会との関係・納税の状況といった中身を、証拠によって積極要素の側へ組み替える必要があります。
第2に、薬物事犯の評価です。許可群の第2事例は覚醒剤取締法違反の執行猶予でありながら許可されていますが、現行法では薬物関係法令違反による有罪は執行猶予でも入管法24条4号チの退去強制事由となり、ガイドライン上も強い消極要素です。この事例を現在の見通しの根拠として用いることはできません。
第3に、被退去強制歴の評価です。許可群の第8事例は被退去強制歴がありながら許可されていますが、近年の事例集では被退去強制歴(特に複数回)が不許可の主要な理由として繰り返し現れます。
逆に、現在も強い意味を持つ先例もあります。本国での治療が困難な疾病(第13事例)、配偶者の死亡により身分関係の基礎が失われた場合(第14事例)、期限内申請の失念という手続的な過誤(第17事例)、本来の身分関係が後に判明した場合(第24事例)は、いずれも現行ガイドラインの人道上の配慮やその他の事情に接続し、行政自身が救済に値すると判断した記録として引くことができます。
刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか
平成17年の許可事例には、起訴猶予(不起訴)となった方(第1事例・第6事例・第21事例・第22事例)と、執行猶予付きの判決を受けた方(第3事例・第15事例・第25事例)が混在しています。当時は、いずれも家族関係の実体が確認されれば許可されていました。
しかし現行法では、罪名ごとに構造が異なります。入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、4号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも退去強制事由となります。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、罪名によっては成り立ちません。
不許可群を見ると、この点はより鮮明です。第2事例(強盗致傷)、第6事例(強盗等)、第14事例(覚醒剤営利目的所持)、第15事例(強盗致傷)、第17事例(麻薬・関税法)、第25事例(覚醒剤)は、いずれも実刑判決により退去強制事由該当性が明確に生じています。これらの事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。もっとも、実際にどこまで争えたかは証拠関係により、結果を遡って断定することはできません。
だからこそ、弁護活動は起訴前の段階で不起訴処分を獲得することを最優先目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に据えると、刑事裁判では成功したように見えて在留の場面で失うものが大きくなりかねません。加えて、不法就労助長(不許可群の第21事例)のように、経営者が従業員の在留資格をどこまで認識していたかが問題となる類型では、故意・過失を刑事段階から徹底して争うことが後の入管手続の土台になります。退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする実務の当否は、現在も争われている論点です。
違反審査の段階から何を争うべきか
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、実質的な勝負は違反審査の段階で決まっています。
平成17年の不許可事例には、「同居の事実なし」「供述に矛盾」「虚偽の申立て」という認定が繰り返し現れます(第3事例・第5事例・第18事例)。これらは違反調査・違反審査の段階で入国警備官・入国審査官が積み上げた事実であり、後の段階で覆すのは容易ではありません。逆に許可事例では、「逮捕の時点で同居の実体が確認された」(第1事例)、「収容前からの同居が確認された」(第9事例)という認定が結論を支えています。
したがって、住民票・賃貸借契約・家計や送金の記録・写真・親族や近隣の陳述といった資料を、違反審査の段階までに揃えて提出しておくことが実際的です。あわせて、認定・判定に対する不服を留保せずに従うと争点が事実上封じられるため、口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要があります。退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されないため(現行ガイドライン注4)、婚姻届や認知を令書発付後に整えても間に合わない場合があります。
公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない
平成17年分は許可25件・不許可25件の抜粋です。同年の実際の許可件数はこれをはるかに上回っており、公表されているのはごく一部にすぎません。したがって、不許可事例に自分と似た事情が載っていることは、直ちに結論を意味しませんし、逆に許可事例に自分と同じ類型が見当たらないことも、許可の可能性がないことを意味しません。
当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。平成17年不許可群の第21事例が同じ不法就労助長の類型であることを踏まえると、公表事例の傾向は出発点であって結論ではないことがよく分かります。もっとも容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。どの許可事例をどう引き、どの不許可事例との差異をどう論ずるかという設計が重要になります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。
許可事例と不許可事例を対照して自らの事案の位置を定める作業は、当事務所が実際に行ってきた手法です。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで1度の申請で在留特別許可を獲得しました。
刑事段階では、特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議により全件について不起訴処分を獲得しています。また、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した実績もあります。裁判員裁判の対象となる事件や報道された重大事件にも対応してまいりました。
当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制に至ります。そのため起訴前の段階から見通しを立て、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。
松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
結語
平成17年の50件は、許可と不許可の線がどこにあるかを初めて対照できるようにした資料です。その線の多くは、逮捕や摘発の後ではなく、それ以前に積み上がっていた生活の実体によって引かれています。だからこそ、逮捕直後や入管に出頭する前の段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人と検討しておくことが大切です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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東京を中心に刑事事件の弁護
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