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平成15年・平成16年の在留特別許可事例54件(ガイドライン策定前の運用と、不許可事例が公表されなかったことの意味)

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平成15年・平成16年の在留特別許可事例54件(ガイドライン策定前の運用と、不許可事例が公表されなかったことの意味)

平成15年・平成16年の在留特別許可事例54件(ガイドライン策定前の運用と、不許可事例が公表されなかったことの意味)

2026/08/06

在留特別許可を調べていくと、平成15年や平成16年の古い許可事例に行き当たることがあります。「10年以上不法滞在していたのに定住者の資格をもらえた人がいる」「摘発された後で結婚しても許可された例がある」といった記述をご覧になり、ご自身やご家族の状況に重ねて希望を持たれる方は少なくありません。もっとも、これらは第1次ガイドライン(平成18年10月策定)より前の運用であり、そのまま現在に当てはめることはできません。本記事では、法務省入国管理局が公表した平成15年の許可26件と平成16年の許可28件、合計54件を1件ずつ辿り、当時の判断枠組みと現行ガイドラインとの違いを整理します。

本記事の要点

  • 平成15年・平成16年の公表は許可事例のみで構成され、不許可事例が公表されていないため、当時は「どこで落とされるのか」を外部から検証できませんでした。
  • 許可の中心は、自主出頭(出頭申告)と、日本人または正規在留外国人との安定した家族関係の組合せです。この骨格は現行ガイドラインでも変わりません。
  • 他方、当時は長期の不法滞在が事実上有利に働く場面がありましたが、令和6年3月改定ガイドラインでは不法在留期間の長期化が明示的に消極要素とされました。
  • 平成16年には人身取引被害者に対する許可が5件含まれ、被害者性そのものが保護の理由とされています。
  • 過去の許可事例は取扱いの均衡を論ずる出発点になりますが、公表事例は抜粋にとどまり、掲載のない類型でも許可の可能性は残ります。

平成15年・平成16年の公表事例はどのような資料か

出発点は、法務省入国管理局が平成20年12月に公表した「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」です。平成15年から平成19年までの許可114件と不許可60件を収録し、『入管訴訟マニュアル[第2版]』の巻末資料に転載されています。冒頭の運用説明によれば、在留特別許可は入管法50条に基づく法務大臣の裁量処分であり、在留を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢その他諸般の事情に加え、人道的配慮の必要性と他の不法滞在者に及ぼす影響を総合考慮するとされていました。令和5年改正入管法50条5項が考慮事情を法律に書き込んだ現在と比べると、当時は判断の枠組みそのものが行政の内部運用に委ねられていたことが分かります。

なぜ不許可事例が公表されていないのか、その意味

平成15年分・平成16年分は許可事例のみが公表され、不許可事例の公表は平成17年分から始まりました。許可例だけを示す公表は、「こういう場合に救っている」という説明にはなりますが、「こういう場合には救われない」という限界の説明にはなりません。申請者の側からすると、自分の事案が射程に入るかを許可例との距離だけで測るほかなく、判断基準を反証的に検証する手がかりを持てません。当時の在留特別許可が申請権を前提とする手続ではなく、職権発動による恩恵的措置と位置づけられていたことと、この非対称な公表は表裏の関係にあります。

令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)が申請手続を新設し(50条1項)、考慮事情を明示したこと(同条5項)は、この構造を変えるものです。もっとも、申請権が認められた分、積極要素の立証を申請者側が主体的に組み立てる必要も増しました。過去の許可事例を集めて同種事情における取扱いの均衡を論ずる作業は、現在いっそう重要になっています。

平成15年に在留特別許可がされた26件

日本人配偶者との婚姻を理由とするもの(現行第2の2(1)の家族関係)

第2事例 本国で日本人母から生まれた41歳男性。昭和61年の入国後の不法残留を平成15年に出頭申告し、他の違反もなく「日本人の配偶者等(3年)」。

第4事例 「就学6月」入国後に不法残留となった29歳男性が日本人女性と婚姻し、平成14年12月に出頭申告して「日本人の配偶者等(1年)」。

第10事例 「人文知識・国際業務」で3回更新の後に不法残留となった39歳男性が、日本人女性と婚姻して子1人を養育、平成15年に出頭申告して「日本人の配偶者等(3年)」。

第11事例・第12事例・第13事例 不法入国者が日本人配偶者と婚姻して出頭申告した3件で、いずれも「日本人の配偶者等(1年)」。第13事例には子が1人います。

第16事例 平成3年の入国後11年の不法残留となった30歳女性が、日本人男性と婚姻して子1人をもうけ、平成14年に出頭申告して「日本人の配偶者等(1年)」。

第8事例 不法入国後にホステスとして稼働中に摘発された24歳女性が、摘発の1月前から同居していた日本人男性と婚姻し、連れ子も養子縁組した事案。母子とも「日本人の配偶者等(1年)」。

この群の分水嶺は、婚姻の安定性と自主出頭です。第8事例のように摘発で発覚した場合でも、同居の実体が確認できれば許可されています。他方、第16事例の11年に及ぶ不法残留が障害とされていない点は、現行運用との差が最も表れる部分です。

配偶者が正規在留外国人であるもの(現行第2の2(2))

第5事例 「興行3月」入国・1回更新の後に不法残留となった32歳女性が、「日本人の配偶者等」で在留する日系二世男性と婚姻して子をもうけ、出頭申告して「定住者(1年)」。

第20事例 「短期滞在15日」で入国した30歳女性が、交際中の特別永住者男性の母を看病する間に不法残留となり、当該男性と婚姻して長女を出産、「永住者の配偶者等(1年)」。

第22事例 「短期滞在15日」入国後8年の不法残留となった54歳女性が、永住者の同国人男性と婚姻して出頭申告し「永住者の配偶者等(1年)」。

配偶者が別表第二の在留資格者である場合も、日本人配偶者の場合に準じて評価されます。第20事例では、不法残留に至った経緯が看病であったことが素行評価を和らげたと考えられます。

日本人の実子を監護養育しているもの

第14事例 平成4年に不法入国した38歳女性が、日本人男性との子2人(いずれも認知)を事実婚として監護養育し、平成13年に出頭申告して「定住者(1年)」。

第17事例 昭和63年に不法入国した34歳女性が、翌年から日本人男性と内縁関係にあり、認知された子2人を監護養育、平成11年に出頭申告して「定住者(1年)」。

婚姻していなくても、認知された日本人の実子を現に監護養育していることが独立した積極要素として働いています。この構造は現行第2の2(1)にそのまま引き継がれており、婚姻に至っていない方にとって重要な先例です。

本邦で出生した子に対する許可

第1事例 日本人父と不法在留中の母の間に本邦で出生し、在留資格取得許可を受けないまま不法残留となった子。父母は出生の約1年後に別居しましたが、以後は日本人父の監護養育を受け小学校4年に就学しており「定住者(1年)」。

第6事例 不法残留中の母と永住者の父の間に出生した子について、母の在留特別許可と父の監護養育を踏まえ「永住者の配偶者等(1年)」。

第7事例 日系二世で「日本人の配偶者等」の父と不法残留の母の間に出生した子が、父と安定した生活を送っている事案で「定住者(1年)」。

第15事例 不法残留中の母と日本人父の間に出生した子について、在留特別許可を得た母と日本人父の監護養育を理由に「日本人の配偶者等(1年)」。

以上4件からは、親の在留の帰趨と子の在留がひとまとまりで判断されていることが分かります。令和6年改定で「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」が明文の積極要素とされたため、現在はより正面から主張できます。

家族全員が不法滞在であったもの

第19事例 昭和47年に船で不法入国した夫(50歳)と、平成2年の入国後に不法残留となった妻(41歳)が平成9年に本邦で婚姻して長女をもうけ、夫は定職と安定収入を得て平成13年に出頭申告、夫婦ともに「定住者(1年)」。

第26事例 夫(46歳)が昭和63年の入国後に日本語学校生のまま不法残留、妻(37歳)は昭和62年に不法入国し、本邦で婚姻して子2人をもうけたものの子の在留資格取得許可がなく、一家全員が不法滞在。夫婦の国籍が異なり出国後の家族統合が困難であることが考慮され、全員に「定住者(1年)」。

国籍の異なる夫婦の家族統合の困難は、現在も人道上の配慮を論ずる有力な切り口です。もっとも、第19事例のような超長期の不法在留は、現在では消極要素として正面から評価されます。

学業の継続を理由とするもの

第23事例 日本人男性と婚姻した母に伴われ「定住者6月」で入国した23歳男性が、母の離婚・帰国後も学業を志して「就学」に変更し、入試の失敗で不法残留となったところ、翌年に国立大学に合格し在学中の平成13年に出頭申告して「留学(1年)」。

第25事例 平成6年に日本人の子等を装った父母に伴われ入国した21歳男性が、小中学校に就学中の身分詐称発覚で上陸許可を取り消され、父母は帰国したものの、本人は大学2年に在学し学費等の援助が確約されており「留学(1年)」。

いずれも在留資格該当性を現に備えていることが決定的です。第25事例では、親の偽装について本人に帰責性がないことも重く働いています。

人道上の配慮・難民関係・長期在留

第3事例 インドシナ定住難民として入国した32歳女性が食料品を万引きして逮捕され、勾留(身柄を拘束される手続)中に在留期限が経過し、懲役10月・執行猶予3年となった事案(懲役は当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。夫のC型肝炎と子2人の就学が評価され「定住者(1年)」。

第9事例 平成15年に不法入国したアフリカ出身22歳男性が、難民認定申請を経て難民と認定され「定住者(1年)」。

第24事例 昭和44年に入国しインドシナ定住難民として在留していた53歳男性が、精神が不安定となり入院中に在留期限が経過した事案で「定住者(1年)」。治療のため手続を履践できなかった場合の典型です。

第18事例 昭和62年の入国後に不法残留となった67歳男性が、飲食店・農家・工場で稼働した後、余命数月と診断されて入院し、日本人と婚姻して合法に在留する娘らの看護を受けていた事案で「定住者(1年)」。現行第2の7(1)の難病等による本邦治療の必要性に直結します。

第21事例 昭和24年に本邦で出生し(父が外国人、母が日本人で日本国籍を有しない)54年間在留してきた男性が、覚醒剤取締法違反で懲役2年8月に処せられ、刑期中に不法残留となった事案。前妻との子2人が特別永住者として在留し姉も在留していることが考慮され「日本人の配偶者等(1年)」。薬物事犯は現在では強い消極要素であり、本邦出生と長期在留が上回った当時の例として読むべきものです。

平成16年に在留特別許可がされた28件

日本人配偶者との婚姻を理由とするもの

第4事例 平成14年に不法入国した29歳女性が同年11月に日本人男性と婚姻し翌年長男をもうけ、出頭申告して「日本人の配偶者等(1年)」。

第8事例 不法残留となり難民認定申請後に失踪した27歳男性が、平成13年に日本人女性と婚姻して平成14年に出頭申告。難民とは認定されなかったものの安定した生活が認められ「日本人の配偶者等(1年)」。難民手続と在留特別許可が別個の判断であることを示します。

第12事例 不法残留となった42歳女性が日本人男性と同棲を経て平成16年に婚姻し、同年出頭申告して「日本人の配偶者等(1年)」。

第1事例・第5事例・第7事例・第13事例 不法残留中に日本人配偶者と婚姻し、その後入管法違反で逮捕された4件です。第1事例(40歳女性)と第13事例(研修先を逃亡した24歳男性)は執行猶予付きの有罪判決、第5事例(31歳女性)と第7事例(44歳男性・子1人)は起訴猶予となりましたが、いずれも「日本人の配偶者等(1年)」。

第6事例 婚姻により「日本人の配偶者等」を得た後、離婚して不法残留となった47歳女性が、平成16年に別の日本人男性と再婚し、夫の逮捕に伴って本人も逮捕され起訴猶予となった事案で「日本人の配偶者等(1年)」。

第10事例 「興行3月」入国後に不法残留となった29歳男性が日本人女性と平成16年に婚姻し、同年入管法違反で執行猶予付きの有罪判決を受けた事案で「日本人の配偶者等(1年)」。

第11事例・第16事例 不法残留中に日本人配偶者と婚姻し、稼働先で摘発されて退去強制手続に入った2件(東欧出身24歳女性、東アジア出身29歳女性)で、いずれも「日本人の配偶者等(1年)」。

この群では、刑事処分の軽重が結論を分けていません。執行猶予でも起訴猶予でも摘発でも、婚姻の実体が確認されれば許可されており、当時の家族関係重視の姿勢が表れています。現在は退去強制事由該当性そのものが罪名によって左右されるため、同じ読み方はできません。

配偶者が正規在留外国人であるもの

第2事例 不法残留となった22歳男性が、日系三世で「定住者」の女性と婚姻して子をもうけ、平成16年に出頭申告して「定住者(1年)」。

第9事例 平成2年に研修生として入国し研修先を逃亡して不法残留となった40歳男性が、「定住者」の同国人女性と婚姻して子をもうけ、平成16年に出頭申告して「定住者(1年)」。

第14事例 2回の難民認定申請がいずれも不認定となった30歳男性が、「日本人の配偶者等」で正規在留する日系人と婚姻し「定住者(1年)」。

第17事例 乗員上陸許可で入国後に不法残留となった35歳男性が、難民認定を受けて「定住者」となった同国人女性と婚姻し、平成15年に出頭申告して「定住者(1年)」。

第18事例 「就学6月」入国後に不法残留となった38歳男性が、「定住者」の同国人女性と婚姻して子をもうけ、平成15年に出頭申告して「定住者(1年)」。

第9事例のような研修先・技能実習先からの逃亡は、近年の事例集では消極的に扱われる場面が増えており、注意を要する差異です。

家族全員が不法滞在で、子が就学しているもの

第3事例 昭和63年に就学生として入国し変更等の不許可により不法残留となった夫婦と本邦出生の長男の事案。平成16年に夫が逮捕され一家が退去強制手続に入りましたが、長男が中学校1年に在学し難病である眼の疾患の治療継続を希望していたことが考慮され、一家全員に「定住者(1年)」。

第15事例 「短期滞在」で入国した夫婦が平成7年に偽造旅券で長女を呼び寄せ(不法入国)、平成8年に長男が出生し、いずれも不法残留であった事案。平成14年に家族全員で出頭申告し、夫の自営が安定し長女が高校1年、長男が小学校2年に就学していたことが評価され、一家全員に「定住者(1年)」。

第22事例 「留学」で入国した夫妻が夫の就職により「人文知識・国際業務」「家族滞在」となり、長女を呼び寄せ次女が本邦で出生したものの、更新不許可で家族全員が不法残留となった事案。長女が都立高校2年、次女が小学校2年に在学しており、一家全員に「定住者(1年)」。

第25事例 不法残留となった夫婦と子2人の事案で、平成14年に家族全員で出頭申告し、夫が定職を有し長女が大学1年、次女が高校3年に在学していたことが評価され、一家全員に「定住者(1年)」。

子が本邦の教育機関で相当期間教育を受けていることが、家族全体の許可を導く分水嶺です。この構造は現行第2の2(3)として維持されています。他方、第15事例の偽造旅券の使用は、現行第2の3(ウ)では明示的な消極要素であり、現在は同じ評価になりにくい点に留意が必要です。

人身取引被害者に対する許可

第19事例 平成15年に不法入国した17歳女性が、来日費用名目で500万円の借金を負わされ、ストリップ劇場で稼働させられ売春を強制された事案。送検されましたが人身取引被害者と認定され、帰国希望のため「短期滞在(90日)」。

第20事例 寄港地上陸許可後に不法残留となった31歳女性が、550万円の借金名目でホステスとして稼働させられ売春を強要され、逃亡して出国を試みた際に被害が判明した事案で「短期滞在(90日)」。

第23事例 平成14年に不法入国した28歳女性が、借金と脅迫により売春に従事させられ、在日大使館に助けを求めて出頭した事案で「特定活動(3月)」。

第24事例 平成16年に不法入国した21歳女性が、監視付きで稼働させられた後に逃亡して出頭した事案で「特定活動(3月)」。

第26事例 平成16年に不法入国した22歳女性が、借金名目で売春に従事させられ搾取された後、警察と入管に出頭した事案で「特定活動(3月)」。

以上5件は、家族関係や在留期間とは無関係に、被害者性それ自体を理由とする許可です。令和5年改正入管法50条1項3号が「人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき」を許可事由として明記したことは、この運用を条文化したものと理解できます。売春に従事させられた経緯は被害の結果であって素行不良として評価されるべきものではない、という主張は、現在も丁寧に立証すべき論点です。

学業・就労・親の偽装に起因するもの

第21事例 「就学」から「留学」に変更した31歳男性が、日本人の孫として「定住者」への変更を申請したものの血縁が認められず不許可となって不法残留し、平成14年に情報工学系の大学院博士課程を修了して関連企業に就職した事案で「人文知識・国際業務(1年)」。

第27事例 平成7年に日本人の子等を装った父母に伴われ入国した20歳男性が、小中高に進学した後に身分詐称発覚で上陸許可等を取り消され、父母は退去強制となったものの、本人は大学在学で学費等の援助を受けており「留学(1年)」。

第28事例 「興行3月」入国後に不法残留となった32歳女性が、稼働先の日本人男性との間に子をもうけ、その後別の日本人男性と婚姻して子2人と同居し、暴力等により別居した後も日本人夫との子を監護養育していた事案で「定住者(1年)」。配偶者からの暴力による別居の取扱いという、現在も重要な論点を含みます。

旧運用と現行運用はどこが違うのか

結論として、家族関係と自主出頭を軸とする骨格は変わっていませんが、不法滞在期間の評価が正反対に近い形で変わりました。

平成15年・平成16年の事例を通読すると、10年以上、時には20年を超える不法滞在が、それ自体としては許可の妨げになっていません。むしろ、長く日本で生活してきたことが、生活の安定・地域との結びつき・出国後の家族統合の困難という形で有利に働いていた場面が見受けられます。平成15年第19事例(昭和47年に不法入国した夫)や第26事例(一家全員が長期の不法滞在)は、その典型です。

これに対し、令和6年3月改定ガイドライン(同年6月10日運用開始)は、我が国に不法に在留している期間が長いことが出入国在留管理秩序を侵害するものとして消極的に評価される旨を、初めて明示しました。期間の終期は、出入国在留管理庁が不法滞在の事実を認知した時点とされています。したがって、「昔はこの程度の不法滞在でも許可されていた」という理解を前提に手続に臨むことは、現在では相当に危険です。長期滞在の事実だけでは有利に働かず、その期間に築いた家族関係・地域社会との関係・納税の状況といった中身を、証拠をもって積極要素の側へ組み替える作業が必要になります。

もう1つの変化は、公的書類の偽変造に対する評価です。平成16年第15事例では偽造旅券による子の呼び寄せがありながら一家全員が許可されていますが、現行第2の3(ウ)はこれを出入国在留管理行政の根幹に関わる違反として明示的な消極要素に位置づけています。旧事例を援用する際には、この差異を踏まえた慎重な論じ方が求められます。

他方、旧事例が今も強い意味を持つ場面もあります。子の難病治療の必要性(平成16年第3事例)、余命の限られた本人の療養(平成15年第18事例)、親の偽装に本人の帰責性がないこと(平成15年第25事例・平成16年第27事例)、国籍の異なる夫婦の家族統合の困難(平成15年第26事例)は、いずれも現行第2の7の人道上の配慮に直結し、行政自身が救済に値すると判断した先例として今も引くことができます。

刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか

平成16年の許可事例には、入管法違反で執行猶予付きの有罪判決を受けた方(第1事例・第10事例・第13事例)と、起訴猶予すなわち不起訴となった方(第5事例・第6事例・第7事例)が混在し、当時はいずれも婚姻の実体が確認されれば許可されていました。

しかし、これをそのまま現在に当てはめることはできません。現行の入管法24条は号ごとに構造が異なります。4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、4号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予が付いても退去強制事由となります。つまり「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、罪名によっては成り立ちません。平成15年第21事例のように覚醒剤取締法違反の実刑を受けながら許可された例は、当時の運用の産物として読むべきものです。

したがって弁護活動は、起訴前の段階で不起訴処分を獲得することを最優先の目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に据えると、刑事裁判では成功したように見えて在留の場面で失うものが大きくなりかねません。加えて、故意・過失が争点となり得る類型(不法就労助長、無自覚な運搬、共謀の認識、偽造文書の真偽の認識など)では、刑事段階で故意・過失を徹底して争っておくことが後の入管手続の土台になります。退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする実務の当否は、現在も争われている論点です。

違反審査の段階から何を争うべきか

退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、そこまで待つのは適切ではありません。

平成15年・平成16年の許可事例には「同居実態が確認された」「婚姻が真摯と認められた」という認定が繰り返し現れます。これらは違反調査・違反審査の段階で入管が積み上げる事実です。この段階で同居の状況をうまく説明できなかったり供述に食い違いが生じたりすると、後の段階で覆すのは容易ではありません。住民票・賃貸借契約・家計の記録・写真・親族の陳述といった資料を早い段階で揃えることが実際的です。

さらに、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(現行ガイドライン注4)。婚姻届の提出や子の認知を令書発付後に整えても間に合わない場合があります。刑事手続と入管手続を並行して見通し、どの時点までに何を整えるかを逆算する必要があります。

公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない

平成15年分・平成16年分の公表は許可事例のみ、しかも各年30件に満たない抜粋であり、当時の許可件数の全体からすればごく一部です。したがって、自分と同じ事情の許可例が掲載されていないことは、許可の可能性がないことを意味しません。

当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。公表事例の傾向は出発点であって結論ではなく、理論構成と立証の工夫によって傾向を超えられる場合があります。もっとも容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。だからこそ、どの事例をどう引くかという設計が重要になります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。

本記事のように過去の公表事例を読み込む作業は、当事務所の実務の中核にあります。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで1度の申請で在留特別許可を獲得しました。

また、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得し、あわせて「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を問う訴訟を係争中です。特殊詐欺の出し子とされた20代女性については、指示役からの欺罔・脅迫的な状況と犯意の不存在を総合的に主張して不起訴処分を獲得しました。

当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制に至ります。そのため起訴前の段階から見通しを立て、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。

松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。

結語

平成15年・平成16年の許可事例は当時の運用を知るための貴重な記録ですが、そのまま現在の見通しに置き換えることはできません。とりわけ不法滞在期間の評価は方向が変わりました。だからこそ、逮捕直後や入管に出頭する前の段階で、何を積極要素として組み立てるかを弁護人と検討しておくことが大切です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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