令和6年後半(改正法施行後)の在留特別許可事例29件と、実刑でも許可された「ただし書該当」3件
2026/08/06
令和6年6月10日、令和5年改正入管法が施行され、在留特別許可の仕組みが大きく変わりました。それまで法務大臣の職権による恩恵的な措置とされてきた在留特別許可に、申請という手続が設けられ(入管法50条1項)、判断にあたって考慮すべき事情が法律上明示されました(同条5項)。出入国在留管理庁が令和7年7月に公表した令和6年後半(6月10日から12月31日まで)の事例集は、この新しい枠組みのもとで判断された最初のまとまった記録です。そして本記事で最も重く扱うのは、この事例集で初めて独立の区分として現れた「50条1項ただし書該当」の許可事例3件です。実刑判決を受けた方が在留特別許可を得た実例が、行政自身の資料に記載されているという事実は、ご家族にとって重い意味を持ちます。
本記事の要点
- 令和6年後半の事例集には、通常の許可13件、不許可13件、そして50条1項ただし書に該当する場合の許可3件、合計29件が掲載されています。前半(1月1日から6月9日まで)と比べ、掲載件数も区分の立て方も変わりました。
- 最大の変化は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けた方などについて、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限って許可されるという枠が明文化され、それに該当する許可事例が独立して公表されたことです。
- ただし書該当として許可された3件は、いずれも実刑判決を受けた方の事案です(覚醒剤取締法違反で懲役1年2月の実刑2件、盗品等有償譲受け・盗品等運搬で懲役1年6月・罰金20万円の実刑1件)。共通するのは、未成年の実子の監護養育と、前科・在留特別許可歴の記載がないことです。
- もっとも、ただし書は「特別の事情」がある場合に限るという限定を明確に置いています。実刑判決を受けた方が一般に許可されるという意味ではなく、実刑判決を受けた事案で不許可となった例も同じ事例集に4件並んでいます。
- 期間の起算も変わりました。前半では特別審理官による判定までの期間でしたが、後半では在留特別許可の申請までの期間として記載されています。申請の時点までに何を積み上げられるかが、資料の上でも問われる構造になりました。
なお、本記事で引用する量刑の表記のうち「懲役」及び「禁固」は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します。以下の各事例の記載は、この原典表記に従っています。
令和6年後半の事例集はどのような構成か
後半の事例集は、配偶者が日本人の場合、配偶者が正規在留外国人の場合、子と共に不法に滞在している外国人の場合、その他の4区分で構成されています。ここまでは前半と同じです。変わったのは、各区分の中に「法第50条第1項ただし書に該当する場合で、本邦への在留を認めないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認め在留特別許可された事例」という第3の枠が加わったことです。
原典に掲載されている件数は、配偶者が日本人の場合が通常許可4件・不許可4件・ただし書該当許可1件、配偶者が正規在留外国人の場合が通常許可4件・不許可4件・ただし書該当許可1件、子と共に不法に滞在している場合が許可1件・不許可1件(ただし書該当は「なし」)、その他が通常許可4件・不許可4件・ただし書該当許可1件です。合計すると通常許可13件、不許可13件、ただし書該当許可3件の29件になります。
前半との違いは、この区分の追加のほかに2点あります。第1に、期間の起算です。前半の事例集では在日期間・違反期間・婚姻期間はいずれも特別審理官による判定までの期間として記載されていましたが、後半では在留特別許可の申請までの期間とされています。子と共に不法に滞在している場合の区分では、子の年齢も在留特別許可の申請時のものと注記されています。申請という行為が手続の節目になったことが、資料の作り方に直接現れています。
第2に、掲載件数が増えました。前半は許可12件・不許可12件でしたが、後半は通常許可13件・不許可13件にただし書該当許可3件が加わっています。子と共に不法に滞在している場合の区分も、前半は「なし」でしたが、後半は許可1件・不許可1件が掲載されました。
なお、原典の注記により、難民認定手続の中で在留特別許可の許否を判断した事例は除かれている旨が明らかにされています。
配偶者が日本人の場合(A類型)
この類型では、通常許可4件のうち2件が自ら出頭した事案です。他方、不許可4件のうち2件には配偶者との別居が明記されており、婚姻期間の長さにかかわらず共同生活の実体が問われていることが分かります。
許可された4件
第1事例 不法残留の状態で自ら出頭した方で、在日約9年3月、違反期間約8年4月、日本人配偶者との婚姻期間約10月、子はなく、刑事処分もありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」です。現行ガイドライン第2の2(1)(ウ)の日本人との婚姻関係に、第2の9の出頭申告が加わっています。8年を超える違反期間は改定ガイドラインが明示的に消極要素と位置づけたところですが、それでも許可されました。改定によって不法在留期間の長期化が消極要素と明記されたことが、直ちに長期滞在者の一律の排除を意味しないことを示す、施行後最初期の実例として意味があります。
第2事例 不法残留で警察に逮捕され、入管法違反(不法残留)により懲役2年6月・執行猶予4年の判決を受けた方です。在日約20年10月、違反期間約10年3月、婚姻期間約2月、子はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」でした。懲役2年6月という量刑は軽くありませんが、全部執行猶予であるため入管法24条4号リの「1年を超える拘禁刑に処せられた者」からは除かれ、50条1項ただし書の対象にもなりません。婚姻期間が2月と極めて短く違反期間が10年を超える構成でありながら許可されており、罪名が退去強制の理由となった事実そのもの(不法残留)と重なっている点が、第2の6の反社会性の評価を抑える方向に働いたと読めます。執行猶予を確保することの意味が、ただし書の新設によってむしろ大きくなったことを示す事例です。
第3事例 不法就労助長により摘発された方で、在日約21年8月、日本人配偶者との婚姻期間約22年3月、子2人(うち未成年者1人)があり、刑事処分の記載はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」でした。他の外国人の不法就労に関わる行為はガイドライン第2の3(1)(イ)の素行不良として重い消極要素です。それを上回ったのは、22年を超える婚姻関係と、未成年の子を含む家族関係という第2の2(1)(イ)(ウ)の積極要素、そして刑事処分に至らなかったことの組合せと考えられます。同じ事例集の不許可第2事例(不法就労助長、罰金20万円、婚姻約34年2月、配偶者と別居)と対比すると、婚姻期間の長さではなく同居の実体と刑事処分の有無が結論を分けていることがよく分かります。
第4事例 不法入国の状態が約6年1月続いた後、自ら出頭した方です。婚姻期間約7月、未成年の子1人があり、刑事処分はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」でした。婚姻期間が7月と短いにもかかわらず許可されたのは、未成年の子の存在が婚姻の真摯さを裏づけ、加えて出頭申告があり、他に消極要素が見当たらないためと読めます。婚姻届の日付が浅い段階で発覚した事案でも、子の監護養育の実体を立証できれば道が残ります。
ただし書該当として許可された1件
第1事例 「永住者」の在留資格を有する方が覚醒剤取締法違反により懲役1年2月の実刑判決を受け、警察逮捕により発覚した事案です。在日約22年4月、日本人配偶者との婚姻期間約24年5月、未成年の子1人があり、前科・在留特別許可歴の記載はありません。結果は「定住者(1年)」でした。1年を超える拘禁刑の実刑ですので50条1項ただし書の対象となり、通常の判断枠組みではなく「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」の有無が問われます。ここで「特別の事情」を構成したと読めるのは、24年を超える日本人配偶者との婚姻関係、未成年の実子の監護養育、22年余にわたる永住者としての生活基盤という複合的な事情です。詳しくは後述の独立の節で他の2件と併せて論じます。
許可されなかった4件
第1事例 傷害と道路交通法違反により懲役2年2月の実刑判決を受け、ほかに前科2件があり、在留特別許可歴もある方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約32年9月、日本人配偶者との婚姻期間約17年1月、成年の子1人がありますが、配偶者及び子とは別居しています。32年を超える在日期間と17年の婚姻という積極要素がありながら不許可となったのは、実刑判決という第2の6の消極要素、前科2件による素行の評価、過去の在留特別許可歴、そして別居により第2の2の家族関係の実体が失われていることが重なったためです。ただし書該当許可第1事例と同じく1年を超える実刑ですが、こちらは前科と在留特別許可歴があり同居もありません。この対比が、ただし書の「特別の事情」の輪郭を示しています。
第2事例 不法就労助長により罰金20万円の略式命令を受け、摘発により発覚した方です。在日約33年8月、日本人配偶者との婚姻期間約34年2月と極めて長期ですが、子はなく、配偶者とは別居しています。34年に及ぶ婚姻期間があっても、別居により第2の2(1)(ウ)が求める「相当期間の共同生活」と「相互の扶助」が認められません。他方で他の外国人の不法就労に関わる行為という第2の3(1)(イ)の消極要素は残ります。許可第3事例との差は、同居の実体と刑事処分の有無です。婚姻期間の長さに依拠した主張が通用しないことを、この2件の対比が明確に示しています。
第3事例 大麻取締法違反により懲役6月・執行猶予3年の判決を受け、ほかに前科1件がある方です。警察逮捕で発覚し、在日約4年9月、婚姻期間約1年4月、子はありません。懲役6月・執行猶予3年ですので50条1項ただし書の対象にはなりませんが、薬物関係法令違反による有罪は執行猶予でも入管法24条4号チの退去強制事由に当たります。在日期間が4年9月と短く、婚姻期間も1年4月で子もいないため、第2の2の積極要素が薄いところに前科と薬物事犯が重なりました。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。もっとも、実際にどこまで争えたかは証拠関係によります。
第4事例 不法入国の状態が約26年1月続いた後、自ら出頭した方で、日本人配偶者との婚姻期間約11年4月、子はなく、刑事処分もありませんが、退去強制歴があります。11年を超える婚姻という積極要素がありながら不許可となったのは、26年を超える不法在留期間という改定ガイドラインが明示した消極要素と、退去強制歴が重なったためと読めます。許可第4事例(6年1月の不法入国、未成年の子あり、退去強制歴なし)との差は、不法在留期間の長さ、子の有無、退去強制歴の有無の3点です。
配偶者が正規在留外国人の場合(B類型)
この類型では、通常許可4件すべてが自ら出頭した事案です。他方、不許可4件のうち3件は実刑又は執行猶予付きの有罪判決を伴い、残る1件は在留諸申請における虚偽申告が理由として明記されています。
許可された4件
第1事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約7年9月、違反期間約7年6月、配偶者は「永住者」、婚姻期間約3年、子はなく、刑事処分もありません。結果は「永住者の配偶者等(1年)」でした。ガイドライン第2の2(2)の別表第二の在留資格者との婚姻関係に、第2の9の出頭申告が加わった構成です。7年を超える違反期間という消極要素がありながら許可されており、改定後も期間の長さのみで結論が決まるわけではないことが確認できます。
第2事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約9月、配偶者は「技術・人文知識・国際業務」、婚姻期間約15年3月、未成年の子2人が本邦外にいます。刑事処分はなく、結果は「家族滞在(10月)」でした。在留期間が10月という点で、この事例集の中でも特徴的です。配偶者の在留資格が別表第一であるため第2の2(2)には直接当たりませんが、15年を超える婚姻関係と、配偶者の在留資格に対応する「家族滞在」への切替えが認められています。在留期間が10月とされたのは、配偶者の在留期間の満了時期に合わせたものと考えられます。配偶者が就労資格の方である場合も、婚姻の実体と配偶者の在留の安定性を立証することで道が開ける例です。
第3事例 道路交通法違反により懲役1年2月・執行猶予3年の判決を受けた方で、不法残留で自ら出頭しています。在日約6年9月、配偶者及び子の在留資格は「定住者」、婚姻期間約6年7月、未成年の子1人があります。結果は「定住者(1年)」でした。懲役1年2月という量刑は1年を超えていますが、全部執行猶予であるため50条1項ただし書の対象にはなりません。ここが実務上極めて重要な分岐点です。仮に同じ1年2月が実刑であれば、ただし書の「特別の事情」を立証しなければならない立場に置かれることになります。執行猶予を得られるかどうかが、在留特別許可の判断枠組みそのものを左右します。
第4事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約6年6月、違反期間約5年8月、配偶者は「永住者」、婚姻期間約4月、未成年の子1人があり、刑事処分はありません。結果は「永住者の配偶者等(1年)」でした。婚姻期間が4月と短いにもかかわらず許可されたのは、永住者配偶者との間の未成年の子という第2の2(2)の家族関係と、出頭申告が働いたためと読めます。
ただし書該当として許可された1件
第1事例 覚醒剤取締法違反により懲役1年2月の実刑判決を受けた方で、関係機関からの通報により発覚しています。在日約30年4月、配偶者は「定住者」、婚姻期間約6年2月、未成年の子3人があり、前科・在留特別許可歴の記載はありません。結果は「定住者(1年)」でした。1年を超える拘禁刑の実刑ですので50条1項ただし書の対象となります。「特別の事情」を構成したと読めるのは、30年を超える在日期間、定住者配偶者との婚姻関係、そして3人の未成年の子の監護養育です。同じ事例集の不許可第4事例(覚醒剤取締法の罪により懲役1年6月の実刑、前科3件、在留特別許可歴あり)と量刑の水準は近いのですが、前科と在留特別許可歴の有無が結論を分けています。
許可されなかった4件
第1事例 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反と詐欺により懲役4年6月の実刑判決を受け、ほかに前科1件があり、在留特別許可歴もある方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約20年2月、配偶者は「永住者」、婚姻期間約8年10月、未成年の子1人があります。組織的な犯罪への関与は第2の6の反社会性の評価として最も重い部類で、懲役4年6月という量刑もこの事例集で最長です。永住者配偶者と未成年の子という積極要素がありながら、実刑・前科・在留特別許可歴が上回りました。組織性が認定される事案では、家族関係の立証によって結論を動かすことは困難です。
第2事例 過失運転致死により禁固3年・執行猶予4年の判決を受けた方で、不法残留で自ら出頭しています。在日約12年1月、配偶者は「技術・人文知識・国際業務」、婚姻期間約12年4月、未成年の子2人があります。過失犯であり全部執行猶予ですので、50条1項ただし書の対象にはならず、24条4号リにも当たりません。それでも不許可となったのは、退去強制の理由が不法残留であることに加え、人が亡くなった結果に対する第2の6の評価と、配偶者の在留資格が別表第一であるため第2の2(2)の積極要素に直接当たらないという構造が重なったためと読めます。12年の婚姻と2人の未成年の子という積極要素がありながら結論が動かなかった事案であり、この類型では過失の程度・示談の成否・遺族の意向を刑事段階で丁寧に積み上げることが、後の入管手続における主張の基礎になります。
第3事例 不法入国の状態が約15年4月続いた後、自ら出頭した方で、配偶者は「技術・人文知識・国際業務」、婚姻期間約7年7月、未成年の子3人があり、刑事処分はありません。不許可の理由として、在留諸申請において虚偽の内容を申告していたことが記載されています。刑事処分がなく出頭申告もあり、3人の未成年の子がありながら不許可となった点が重要です。在留諸申請における虚偽申告は、行政手続の基礎への侵害として独立に重く評価されます。手続の中で述べた内容の正確性が、家族関係の積極要素を打ち消すほどの重みを持つということです。申請書類の記載は、後の在留特別許可の判断まで影響し続けます。
第4事例 覚醒剤取締法の罪により懲役1年6月の実刑判決を受け、ほかに前科3件があり、在留特別許可歴もある方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約25年9月、違反期間約9年9月、配偶者は「定住者」で、子があります(人数と成年未成年の別の記載はありません)。1年を超える実刑ですので50条1項ただし書の対象となりますが、「特別の事情」は認められませんでした。ただし書該当許可第1事例(懲役1年2月の実刑、前科の記載なし、在留特別許可歴の記載なし、未成年の子3人)との対比が、この類型を理解する鍵になります。量刑の差は1年2月と1年6月であってわずかですが、前科3件と在留特別許可歴の有無が決定的に作用しています。
子と共に不法に滞在している外国人の場合(C類型)
前半の事例集ではこの区分に掲載がありませんでしたが、後半は許可1件・不許可1件が掲載されました。ただし書該当の枠については「なし」と明記されています。原典の注記により、違反態様及び在日期間は親(本人)に係るものであり、子の年齢は在留特別許可の申請時のものである旨が示されています。
許可された1件
第1事例 不法残留の母が自ら出頭した事案で、母の在日期間は約9年3月、違反期間約1年7月です。子は本邦で出生した不法残留の状態で、在日期間約1年11月、違反期間約1年7月、2歳です。内夫(子の父)は「永住者」の在留資格を有しています。結果は、母が「特定活動(1年)」、子が「永住者の配偶者等(1年)」でした。永住者である内夫との家族関係と、その間に生まれた実子の存在が第2の2(2)に沿う積極要素として働き、加えて第2の9の出頭申告が評価されています。子について「永住者の配偶者等」が与えられているのは、永住者の子として本邦で出生した者がこの在留資格に対応するためです。法律上の婚姻がなくとも、内縁関係と子の出生の事実を立証すれば道が開けることを示す事例であり、現行ガイドラインが明示した「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」が正面から働いた例と読めます。
許可されなかった1件
第1事例 不法残留の本人が自ら出頭した事案で、本人の在日期間は約13年3月、違反期間約4月です。配偶者も不法残留(在日約8年9月、違反約8月)であり、子2人はいずれも本邦で出生しています(在日約7年11月・違反約8月、及び在日約5年3月・違反約8月)。不許可の理由として、本邦での事業継続を理由に在留を希望していたが、事業の実態が認められなかったことが記載されています。家族全員が在留資格を欠く構成であり、第2の2(2)の別表第二の在留資格者との家族関係という積極要素が存在しません。この類型で頼りになるのは、第2の2(3)の積極要素、すなわち子が本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けており、本国で教育を受けることが困難な事情があり、地域社会に溶け込んでいることです。本件では子が7歳台と5歳台と見られ、就学期間の積み上げが十分でなかったと考えられます。加えて、在留の根拠として主張した事業に実態が認められなかったことが、主張全体の信用性に及んだ可能性があります。この類型では、子の就学状況、日本語の習得状況、本国での教育環境の困難さを具体的な資料で示すことが柱になります。
その他(D類型)
D類型は、上記3区分に収まらない事情を集めた区分です。後半では、日本国籍の喪失、日本人実子の監護養育、売春周旋、偽造在留カード、薬物事犯、財産犯などが並びました。
許可された4件
第1事例 親子関係不存在審判の確定により、出生に遡って日本国籍を喪失した方の事案です。違反態様は出生資格未取得とされ、入管職員の探知により発覚しました。在日約20年9月、違反期間約1年8月、刑事処分はなく、日本で生まれたことと家族との同居継続を在留希望の理由としています。結果は「定住者(1年)」でした。在留資格を欠く状態が生じた原因が本人の意思や行為に基づかない点が決定的で、第2の7の人道上の配慮に接続します。20年余にわたり日本で生活してきた事実も、第2の9その他の事情として働いています。
第2事例 外国籍を取得したことにより日本国籍を喪失した方の事案です。不法入国として扱われ、在日約16年11月、違反期間約10年7月、刑事処分はなく、自ら出頭しています。本邦での生活継続を理由に「日本人の配偶者等(3年)」となりました。後半の事例集で唯一の在留期間3年です。国籍法上の当然喪失という本人の帰責性が乏しい原因により在留資格を失った類型であり、10年を超える違反期間があっても在留の安定性が強く認められています。同種の事案では、国籍喪失の経緯に本人の帰責性がないことを、届出書類や本国の国籍法の規定に基づいて説明することが有効です。
第3事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約1年7月、違反期間約1年3月、刑事処分はなく、日本国籍を有する実子の監護・養育を在留希望の理由としています。結果は「定住者(1年)」でした。日本人の実子を監護・養育していることは第2の2(1)(イ)の中核的な積極要素であり、在日期間が1年7月と短くても、この要素のみで許可に至り得ることを示しています。婚姻していない場合でも、認知の有無と監護養育の実体が立証できるかが要になります。
第4事例 不法残留の状態が約34年9月続いた方で、自ら出頭しています。刑事処分はなく、日本人内夫との同居継続を在留希望の理由としています。結果は「特定活動(1年)」でした。在日期間と違反期間がいずれも約34年9月で一致しており、当初から在留資格を得ないまま極めて長期にわたり滞在していた事案です。改定ガイドラインは不法在留期間の長期化を明示的に消極要素としましたが、それでも許可されています。日本人内夫との同居の実体と出頭申告、そして他に消極要素がないことが評価されたと読めます。34年という期間は、消極要素であると同時に、その間に築かれた生活と関係の厚みを示すものでもあります。長期化した事案では、期間の長さを消極要素として一方的に受け止めるのではなく、その期間の生活の中身を積極的に立証していく組み立てが求められます。
ただし書該当として許可された1件
第1事例 盗品等有償譲受け及び盗品等運搬により懲役1年6月・罰金20万円の実刑判決を受けた方の事案です。警察逮捕により発覚し、在日約21年、前科・在留特別許可歴の記載はありません。日本で生まれた実子の監護養育を在留希望の理由としており、その子(未成年者)は「永住者」の在留資格を有しています。結果は「定住者(1年)」でした。1年を超える拘禁刑の実刑ですので50条1項ただし書の対象となります。「特別の事情」を構成したと読めるのは、永住者である未成年の実子の監護養育の必要性と、21年にわたる生活基盤です。同じ事例集の不許可第4事例(窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺により懲役4年の実刑)と同じ財産犯の系列でありながら結論が分かれており、量刑の水準と家族関係の有無が対照的です。
許可されなかった4件
第1事例 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反と売春防止法違反により罰金150万円の処分を受け、ほかに前科1件がある方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約21年11月で、本邦での病気療養を在留希望の理由としています。売春に関わる行為は第2の3(1)(エ)が挙げる人権侵害的行為であり、消極要素として最も重い部類です。罰金刑にとどまっており実刑ではないため50条1項ただし書の対象にはなりませんが、通常の判断枠組みでも消極要素が上回りました。病気療養は第2の7の人道上の配慮に接続し得る事情ですが、本国での治療可能性まで踏み込んだ立証がなければ、この消極要素を上回るのは困難です。
第2事例 偽造有印公文書行使と入管法違反により懲役3年・執行猶予5年の判決を受けた方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、違反態様は不法入国及び偽造在留カード行使、在日約20年1月、違反期間約19年10月で、退去強制歴があります。内妻及び子が日本で生活していることと本邦での生活継続を在留希望の理由としています。懲役3年ですが全部執行猶予ですので50条1項ただし書の対象にはなりません。それでも不許可となったのは、公的書類の偽造・行使という第2の3(1)(ウ)の消極要素、20年に及ぶ不法在留、そして退去強制歴が重なったためです。内妻と子の存在という主張は、これらの消極要素を上回るには至りませんでした。この事案は、刑事段階で偽造文書の入手経緯や行使の認識を争い不起訴処分を獲得できていれば、素行に関する消極要素の評価を大きく変えられた可能性があります。
第3事例 大麻取締法違反により懲役10月・執行猶予3年の判決を受けた方で、関係機関からの通報により発覚しています。在日約5年7月で、本邦での生活継続を在留希望の理由としています。全部執行猶予ですので50条1項ただし書の対象にはなりませんが、薬物関係法令違反による有罪は執行猶予でも入管法24条4号チの退去強制事由に当たります。在日期間が5年7月と短く、家族関係に関する積極要素の記載もないため、消極要素を打ち消す材料が見当たりません。薬物事犯では、執行猶予を得たとしても在留の場面では退去強制事由が成立しているという構造を、依頼者ご本人とご家族に正確にお伝えする必要があります。
第4事例 窃盗、詐欺、電子計算機使用詐欺の罪により懲役4年の実刑判決を受けた方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約27年11月で、本邦での生活基盤を在留希望の理由としています。1年を超える実刑ですので50条1項ただし書の対象となりますが、「特別の事情」は認められませんでした。ただし書該当許可第1事例(盗品等有償譲受け・盗品等運搬、懲役1年6月・罰金20万円の実刑、永住者である未成年の実子の監護養育)との対比が示唆的です。同じ財産犯の系列でありながら、量刑が懲役4年に及ぶこと、そして未成年の実子の監護養育という積極要素が見当たらないことが結論を分けています。27年の生活基盤という主張だけでは、ただし書の「特別の事情」に届かなかったということです。
実刑判決を受けても許可された3件(50条1項ただし書該当類型)
ここが本記事の中心です。結論を先に述べますと、令和6年後半の事例集には、1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けた方が在留特別許可を得た事例が3件掲載されています。実刑判決を受けたことが、在留特別許可の可能性を一律に失わせるものではないということが、行政自身の資料によって示されています。他方で、同じ事例集には実刑判決を受けて不許可となった事例も4件並んでいます。この両者を並べて読むことが、正確な理解につながります。
ただし書とは何か
令和5年改正入管法50条1項は、法務大臣が申請により又は職権で在留を特別に許可することができる場合を5つの号に整理しました。第1号は永住許可を受けているとき、第2号はかつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき、第3号は人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき、第4号は難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき、第5号はその他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときです。
そして同項ただし書は、次の方について許可の要件を絞りました。第1に、無期若しくは1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者です。全部執行猶予の場合と、実刑部分が1年以下の一部執行猶予の場合は除かれます。第2に、入管法24条3号の2、3号の3、4号ハ、又は同号オからヨまでに該当する者です。これらの方については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限り許可されます。
通常の判断は、ガイドライン第3のとおり、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に許可の方向で検討されるという枠組みです。ただし書の場合は、これに加えて、許可しないことが人道上の配慮に欠けるという水準の事情を求められます。したがってハードルは通常より高く設定されています。「実刑でも許可される」と単純に受け取ることはできません。
3件に共通するもの
3件を並べると、共通点が浮かび上がります。
配偶者が日本人の場合のただし書該当許可第1事例は、「永住者」の方が覚醒剤取締法違反で懲役1年2月の実刑判決を受けた事案で、在日約22年4月、日本人配偶者との婚姻期間約24年5月、未成年の子1人があり、前科・在留特別許可歴の記載はなく、「定住者(1年)」が付与されました。
配偶者が正規在留外国人の場合のただし書該当許可第1事例は、覚醒剤取締法違反で懲役1年2月の実刑判決を受けた事案で、在日約30年4月、配偶者は「定住者」、婚姻期間約6年2月、未成年の子3人があり、前科・在留特別許可歴の記載はなく、「定住者(1年)」が付与されました。
その他のただし書該当許可第1事例は、盗品等有償譲受け及び盗品等運搬で懲役1年6月・罰金20万円の実刑判決を受けた事案で、在日約21年、日本で生まれた実子(未成年、「永住者」)の監護養育を理由とし、前科・在留特別許可歴の記載はなく、「定住者(1年)」が付与されました。
第1に、3件すべてに未成年の実子があり、その監護養育が理由として現れています。現行ガイドラインが「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」を積極要素として明示したことが、ただし書の「特別の事情」の判断にも及んでいると読めます。
第2に、3件すべてに前科の記載も在留特別許可歴の記載もありません。今回の刑事処分が初度の刑罰であり、かつ過去に在留特別許可という救済を受けていないという構成です。
第3に、3件すべてが長期の生活基盤を有しています。在日約22年4月、約30年4月、約21年です。3件のうち2件は本人又は子が「永住者」の在留資格に関わっており、日本社会における地位の安定性が背景にあります。
第4に、実刑の量刑がいずれも1年2月、1年2月、1年6月であり、ただし書の対象となる下限(1年を超える実刑)に近い水準にとどまっています。
第5に、いずれの事案でも許可された在留資格は「定住者(1年)」です。従前の在留資格が「永住者」であった事案でも、より短い期間の「定住者」への切替えという形で処理されています。ただし書該当の許可は、従前の地位の回復ではなく、限定された形での在留の継続として与えられていることが分かります。
不許可となった実刑事案との対比
同じ事例集には、実刑判決を受けて不許可となった事例が4件あります。配偶者が日本人の場合の不許可第1事例(傷害・道路交通法違反、懲役2年2月の実刑、前科2件、在留特別許可歴あり、配偶者及び子と別居)、配偶者が正規在留外国人の場合の不許可第1事例(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反・詐欺、懲役4年6月の実刑、前科1件、在留特別許可歴あり)、同不許可第4事例(覚醒剤取締法の罪、懲役1年6月の実刑、前科3件、在留特別許可歴あり)、その他の不許可第4事例(窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺、懲役4年の実刑)です。
最も示唆に富むのは、配偶者が正規在留外国人の場合の許可事例と不許可第4事例の対比です。前者は覚醒剤取締法違反で懲役1年2月の実刑、後者は覚醒剤取締法の罪で懲役1年6月の実刑であり、罪名も量刑の水準も近接しています。それでも結論が分かれた要因は、前科3件と在留特別許可歴の有無に求めるほかありません。同様に、その他の許可事例(懲役1年6月・罰金20万円の実刑)と不許可第4事例(懲役4年の実刑)は、いずれも財産犯の系列ですが、量刑の差と未成年の実子の監護養育の有無が対照的です。
ここから読み取れるのは、ただし書の「特別の事情」の判断において、(1)未成年の実子(特に日本国籍又は永住者の子)の監護養育の必要性、(2)前科がなく今回の処分が初度であること、(3)在留特別許可歴がないこと、(4)長期の生活基盤と同居の実体、(5)実刑の量刑がただし書の下限に近い水準にとどまること、という要素の複合が重視されているという傾向です。
実務としてどう受け止めるか
第1に、実刑判決を受けたご家族の事案でも、諦める前に検討すべき道があります。とりわけ未成年のお子さんがいらっしゃる場合、そのお子さんの在留資格、出生地、就学状況、監護養育の実体を丁寧に立証していく余地があります。ただし書該当として公表された3件は、行政自身が「許可相当」と判断した先例ですので、同種の事情がある事案では、これらを引いて主張を組み立てることができます。
第2に、それでもハードルは通常の判断より高いことを正確にお伝えしなければなりません。ただし書は「許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」を要求しており、積極要素が消極要素を上回るだけでは足りません。実刑判決を受けた事案の多くは、なお不許可となる可能性が高いと見るべきです。
第3に、そもそもただし書の適用を受けない位置に立つことが、最も確実な防御になります。ただし書の対象は「1年を超える拘禁刑の実刑」であり、全部執行猶予は除かれます。この事例集の中でも、配偶者が正規在留外国人の場合の許可第3事例は懲役1年2月でありながら執行猶予であったため、通常の枠組みで判断され許可されています。他方、ただし書該当許可の2件は同じ懲役1年2月でも実刑であったため、「特別の事情」の立証を求められました。同じ量刑でも、実刑か執行猶予かで判断枠組みそのものが変わるのです。したがって刑事弁護の目標設定は、まず不起訴処分、次に執行猶予、という順序で明確にしておく必要があります。
第4に、薬物事犯では執行猶予を得ても退去強制事由(入管法24条4号チ)が成立するため、退去強制手続そのものは避けられません。それでも、通常の判断枠組みで争えるかただし書の枠組みで争うかという違いは決定的です。この点を刑事段階の弁護方針に反映させることが、結果を分けます。
この年の事例から読み取れる分水嶺
第1に、実刑か執行猶予かです。改正法の施行により、この一線は単なる傾向ではなく法律上の枠組みの違いになりました。1年を超える拘禁刑の実刑は50条1項ただし書の対象となり、「特別の事情」の立証を要します。他方、全部執行猶予は除かれます。後半の通常許可13件のうち刑事処分の記載があるのは2件(配偶者が日本人の場合の許可第2事例の懲役2年6月・執行猶予4年、配偶者が正規在留外国人の場合の許可第3事例の懲役1年2月・執行猶予3年)にとどまり、いずれも全部執行猶予で実刑はありません。実刑の許可事例は、すべてただし書該当の3件に集約されています。
第2に、同居の実体です。配偶者が日本人の場合の不許可第1事例と第2事例には、いずれも別居が明記されています。婚姻期間は約17年1月と約34年2月であり、いずれも長期です。他方、許可第3事例は婚姻期間約22年3月で子2人があり、別居の記載がありません。婚姻期間の長さは共同生活の実体を証明する代わりにはならないという点は、改定後も変わりません。
第3に、未成年の子の存在です。通常許可13件のうち未成年の子があるのは、配偶者が日本人の場合の許可第3事例・第4事例、配偶者が正規在留外国人の場合の許可第2事例・第3事例・第4事例、子と共に不法に滞在している場合の許可事例、その他の許可第3事例です。ただし書該当許可3件はすべて未成年の実子の監護養育を伴います。現行ガイドラインが子の利益の保護の必要性を明示したことが、施行後最初の期間の事例に反映されています。
第4に、手続の中での申告の正確性です。配偶者が正規在留外国人の場合の不許可第3事例は、刑事処分がなく出頭申告もあり3人の未成年の子がありながら、在留諸申請における虚偽申告を理由に不許可となりました。子と共に不法に滞在している場合の不許可事例も、主張した事業の実態が認められなかったことが理由です。行政手続の中で述べた内容の正確性が、家族関係の積極要素を打ち消すほどの重みを持つということです。
第5に、不法在留期間の評価です。改定ガイドラインは不法在留期間の長期化を明示的に消極要素と位置づけました。もっとも、通常許可事例には違反期間約8年4月(配偶者が日本人の場合の許可第1事例)、約7年6月(配偶者が正規在留外国人の場合の許可第1事例)、約34年9月(その他の許可第4事例)という長期の事案が含まれています。明示的な消極要素化が、直ちに長期滞在者の一律の排除を意味するものではありません。
第6に、前科と在留特別許可歴です。後半の不許可13件のうち、前科の記載があるのは5件、在留特別許可歴の記載があるのは3件です。他方、通常許可13件とただし書該当許可3件には、前科・在留特別許可歴の記載が見当たりません。過去に一度救済を受けていることは、その後の評価に強く影響します。
刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか
令和6年後半の事例集は、改正法の施行により、刑事事件の結末が在留特別許可の判断枠組みそのものを決めるという構造を明らかにしました。刑事弁護と入管手続が表裏一体であることが、条文の上でも明確になったということです。
整理しますと、次の3層になります。第1層は、そもそも退去強制事由を生じさせないことです。不起訴処分を獲得できれば、入管法24条4号チ(薬物関係法令違反による有罪)や4号リ(1年を超える拘禁刑)はいずれも成立しません。第2層は、退去強制事由が生じるとしても、ただし書の対象にならない位置にとどめることです。全部執行猶予であれば50条1項ただし書の対象から除かれ、通常の判断枠組みで争えます。第3層は、ただし書の対象となる場合に、「特別の事情」を立証することです。
したがって弁護活動の目標設定は、第1層を最優先とし、第2層を次善とし、第3層は最後の砦と位置づけることになります。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、薬物事犯では成り立ちません。この事例集でも、その他の不許可第3事例(大麻取締法違反、懲役10月・執行猶予3年)は執行猶予でありながら不許可となっています。
不許可群のうち、次の事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだか、又は素行に関する消極要素の評価を大きく変えられた可能性があります。配偶者が日本人の場合の不許可第3事例(大麻取締法違反)、配偶者が正規在留外国人の場合の不許可第2事例(過失運転致死)、その他の不許可第2事例(偽造有印公文書行使・入管法違反)、その他の不許可第3事例(大麻取締法違反)です。もっとも、実際にどこまで争えたかは証拠関係によりますので、結果を遡って断定することはできません。
不法就労助長については、後半の2件を並べることに実務的な意味があります。配偶者が日本人の場合の許可第3事例は刑事処分の記載がなく許可され、同不許可第2事例は罰金20万円の略式命令で不許可となりました。もっとも、両者の差は刑事処分の有無だけではなく、同居の実体の有無(後者は配偶者と別居)にもあります。前半の事例集でも不法就労助長は許可1件・不許可1件で並んでおり、この罪名だから救済されないという整理は成り立ちません。
不法就労助長罪(入管法73条の2)では、雇用主が就労者の在留資格や在留期限をどこまで認識していたかが争点になります。在留カードを確認していた、更新中と説明されていた、名義貸しや偽造カードを見抜けなかったといった事情は、故意の有無に直結します。この点を捜査段階から徹底して争うことで、不起訴又は罰金にとどめる余地が生まれます。
もっとも、入管実務では、退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないという運用が長年踏襲されてきました。後半の事例集でも、配偶者が日本人の場合の許可第3事例のように刑事処分の記載がない不法就労助長事案が退去強制手続に乗っていることが確認できます。刑事責任が問われなかった行為が、行政の場面では素行不良として評価されるという構造です。この運用が責任主義の観点から許されるかは、現在も争われている論点です。当事務所は、不法就労助長の事案において、この点を正面から問う訴訟を係争中です。
違反審査の段階から何を争うべきか
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。改正法の施行により、これに在留特別許可の申請という手続が加わりました。もっとも、申請という形が用意されたことは、判断の時期が遅くなってよいことを意味しません。
後半の事例集で注目すべきは、期間の起算が「在留特別許可の申請まで」に変わったことです。在日期間・違反期間・婚姻期間、そして子の年齢は、いずれも申請の時点で確定します。婚姻や子の監護養育の実体を積み上げる時間的余裕は、申請までの段階にしかないということです。
また、退去強制令書が発付された後の事情変更は原則として考慮されません(ガイドライン注4)。婚姻届や認知の届出、治療の開始、子の就学手続を令書発付後に整えても、間に合わない場合があります。後半の配偶者が日本人の場合の許可第4事例のように婚姻期間が7月と短くても許可された例があるのは、その短い期間の中身が申請までに立証されていたからだと考えられます。
そこで、実務上は次の準備を違反審査から申請までの段階で済ませておくことになります。住民票と戸籍の記載、賃貸借契約書と光熱費の名義、家計の記録と送金履歴、日常の連絡記録や写真、親族・近隣の方や勤務先の陳述書、子の在学証明・母子健康手帳・診断書です。お子さんの在留資格が「永住者」「日本人の配偶者等」等である場合は、その在留カードの写しと出生届の記載が重要になります。配偶者が就労資格の方である場合は、配偶者の在留の安定性を示す資料(雇用契約、課税・納税証明、在職証明)を加えます。
ただし書該当の事案では、これに加えて、なぜ「許可しないことが人道上の配慮に欠ける」といえるのかを構成する必要があります。公表された3件が示す要素、すなわち未成年の実子の監護養育の必要性、初度の刑事処分であること、在留特別許可歴がないこと、長期の生活基盤と同居の実体を、証拠に基づいて一つずつ埋めていく作業になります。あわせて、お子さんに退去強制の影響が及ぶ場合の具体的な不利益、すなわち転校の困難、言語の問題、本国での監護者の不在などを、抽象論ではなく具体的な事実として示すことが求められます。
手続面では、認定・判定に対する不服を留保せずに従うと争点が事実上封じられるため、口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要があります。申請権が創設されたことにより、積極要素を主体的に提出できるようになった一方、立証の負担が事実上申請者側に寄る場面も増えました。準備の前倒しは、改正前よりむしろ重要になっています。
公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない
後半の公表は通常許可13件・不許可13件・ただし書該当許可3件の抜粋にとどまります。同じ期間に実際に在留特別許可が与えられた件数はこれをはるかに上回っており、公表されているのはごく一部にすぎません。したがって、不許可事例に自分と似た事情が載っていることは直ちに結論を意味しませんし、許可事例に同じ類型が見当たらないことも、許可の可能性がないことを意味しません。
現に、当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。ただし書該当の類型についても、公表されたのは3件にとどまりますが、これは同種の事情がある事案が3件しか存在しないことを意味しません。
もっとも、これは容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。事例集に自分と似た許可例がある場合は、同種の事情について異なる取扱いをすることの合理性を問う形で、法の下の平等(憲法14条1項)の観点から主張を組み立てることができます。似た許可例が見当たらない場合は、50条5項が列挙する考慮事情とガイドラインの評価要素そのものに立ち返り、なぜ本件の積極要素が消極要素を明らかに上回るのか、あるいはなぜ許可しないことが人道上の配慮に欠けるのかを、証拠に基づいて構成していくことになります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。
改正法の施行により、刑事事件の結末が在留特別許可の判断枠組みそのものを決める構造が明確になりました。当事務所は、刑事弁護と入管手続を一体のものとして設計します。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させました。入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問と証人尋問を行い、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1度の申請で在留特別許可を獲得しています。
不法就労助長に問われ強制退去の危機に至った方の事案では、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務の当否を問う訴訟を係争中です。この事案では、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しており、許可を得た後も違反認定処分そのものの取消しを争っています。
刑事段階では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。また、特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議により全件について不起訴処分を獲得しています。裁判員裁判の対象となる事件や報道された重大事件にも対応してまいりました。
当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。後半の事例が示すとおり、実刑判決を受けると50条1項ただし書の対象となり、「特別の事情」の立証という重い負担を負うことになります。執行猶予にとどめれば通常の枠組みで争えますが、薬物関係法令違反では執行猶予でも退去強制事由が成立します。そのため起訴前の段階から入管手続への影響を見通し、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。
松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
結語
令和6年後半の29件は、在留特別許可が申請という手続を伴う制度に変わった後の最初の記録です。そこには、実刑判決を受けた方が許可を得た3件と、実刑判決を受けて許可されなかった4件が並んでいます。両者を分けたのは、未成年のお子さんの監護養育、過去の処分歴の有無、そして生活の実体でした。いずれも、逮捕や摘発の後に急いで作れるものではありません。だからこそ、逮捕直後の段階や在留特別許可の申請に踏み出す前の段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人と一緒に整理しておくことが大切です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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東京を中心に刑事事件の弁護
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