令和6年前半(改正法施行前)の在留特別許可事例24件を全件解説
2026/08/06
令和6年は、在留特別許可の仕組みが年の途中で切り替わった特別な年です。同年6月10日に令和5年改正入管法が施行され、それまで法務大臣の職権による恩恵的な措置とされてきた在留特別許可に、申請という手続が設けられました。そのため出入国在留管理庁は、令和6年分の事例集を1月1日から6月9日までの前半と、6月10日から12月31日までの後半に分けて公表しています。本記事が扱うのは、令和7年7月に公表された前半、すなわち改正法施行前の最後の期間に判断された事例です。前半と後半で何が変わり、何が変わっていないのかを見比べる出発点として、まず前半の全件を辿ります。
本記事の要点
- 令和6年前半(1月1日から6月9日まで)の事例集は、配偶者が日本人の場合、配偶者が正規在留外国人の場合、その他の3区分で構成され、子と共に不法に滞在している場合は「なし」と明記されています。
- この期間は改正法の施行前ですので、在留特別許可はなお法務大臣の職権による判断であり、申請手続も50条1項ただし書の類型区分も存在しません。後半の事例集との最大の違いはここにあります。
- 許可された事案には、入管法違反(不法残留)で執行猶予付きの判決を受けた例が複数含まれており、刑事処分があることが直ちに不許可を意味していません。
- 不法就労助長は2件現れ、罰金20万円の略式命令を受けた方が許可され、罰金30万円の略式命令を受けた方が不許可となっています。刑の重さの差だけでは説明が付かず、家族関係の実体が結論を分けています。
- 不許可事案の刑は、実刑判決(懲役1年6月・懲役4年6月・懲役1年4月・懲役6年)に集中しています。実刑を回避できるかどうかが、この期間でも実質的な分水嶺として働いています。
なお、本記事で引用する量刑の表記のうち「懲役」は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します。以下の各事例の記載は、この原典表記に従っています。
令和6年前半の事例集はどのような構成か
前半の事例集は、原典の区分に従い、配偶者が日本人の場合、配偶者が正規在留外国人の場合、子と共に不法に滞在している外国人の場合、その他の4区分で構成されています。もっとも、3番目の子と共に不法に滞在している場合については、見出しの下に「なし」とのみ記載され、許可・不許可のいずれも掲載事例がありません。したがって実質的に掲載があるのは3区分です。
原典によれば、掲載されているのは配偶者が日本人の場合に許可4件・不許可4件、配偶者が正規在留外国人の場合に許可4件・不許可4件、その他に許可4件・不許可4件で、合計24件です。原典の注記により、在日期間・違反期間・婚姻期間はいずれも特別審理官による判定までの期間である旨、また難民認定手続の中で在留特別許可の許否を判断した事例は除かれている旨が明らかにされています。後半の事例集ではこの期間の起算が「在留特別許可申請まで」に変わっており、申請手続の新設が資料の作り方にも及んでいることが分かります。
そして、前半の事例集には50条1項ただし書に対応する区分そのものが存在しません。これは前半が改正法施行前の期間であるためです。無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者について「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」を要求する仕組みは、まだ動いていませんでした。
配偶者が日本人の場合(A類型)
この類型では、許可4件のうち3件が自ら入管に出頭した事案であり、不許可4件のうち3件は実刑又は執行猶予付きの有罪判決を伴う事案です。発覚の端緒と刑事処分の重さが、そのまま結論の傾向に対応しています。
許可された4件
第1事例 不法残留の状態で自ら出頭した方で、在日約5年3月、違反期間約4月、日本人配偶者との婚姻期間約4年、未成年の子2人があり、刑事処分はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」です。現行ガイドライン第2の2(1)(ウ)の日本人との安定かつ成熟した婚姻関係に、夫婦間の2人の子が加わり、さらに第2の9の出頭申告が働いています。違反期間が4月にとどまるため、第2の5の不法在留期間の長期化という消極要素がほとんど作用していません。在留期限の経過に気づいた段階で速やかに出頭したことが、結果として最も効いた事案と考えられます。
第2事例 不法入国の状態が約12年2月続いた後、自ら出頭した方です。婚姻期間は約1年9月、子はなく、刑事処分もありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」でした。12年を超える不法在留は第2の5の消極要素として重く、子もいないという構成にもかかわらず許可されています。婚姻の実体が確認され、出頭申告があり、他に消極要素が見当たらないことが総合的に評価されたと読めます。長期の不法滞在それ自体で結論が決まるわけではないことを示す例です。
第3事例 不法残留で警察に逮捕され、入管法違反(不法残留)により懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を受けた方の事案です。在日約4年1月、違反期間約2年1月、婚姻期間約11月、子はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」でした。ここで注目されるのは、刑事処分があり、警察逮捕で発覚し、婚姻期間も1年未満で、子もいないという、積極要素の乏しい構成でありながら許可されている点です。もっとも罪名は不法残留であり、退去強制の理由となった事実そのものと重なっています。第2の6の反社会性の評価において、不法残留は他の刑罰法令違反と比べて重く扱われにくく、そのことが結論に反映されたと考えられます。刑事処分があるからといって在留特別許可の道が閉ざされるものではないことを示す、実務上有益な先例です。
第4事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約8年2月、違反期間約7年3月、婚姻期間約3月、未成年の子1人があり、刑事処分はありません。結果は「日本人の配偶者等(1年)」です。婚姻期間が3月と極めて短いにもかかわらず許可されたのは、未成年の子の存在が婚姻の真摯さを裏づけ、第2の2(1)(イ)(ウ)の積極要素として働いたためと読めます。7年を超える違反期間という消極要素を、子の存在と出頭申告が上回った構造です。婚姻届の日付が浅い段階で発覚した事案でも、子の監護養育の実体を立証できれば道が残ることを示しています。
許可されなかった4件
第1事例 電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役1年6月の実刑判決を受け、ほかに前科1件がある方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約9年3月、日本人配偶者との婚姻期間約7年、未成年の子3人があります。7年の婚姻と3人の未成年の子という強い積極要素がありながら不許可となったのは、虚偽の身分関係の登録に関わる罪責がガイドライン第2の3(1)(イ)(ウ)の素行不良に当たり、かつ実刑判決という第2の6の消極要素が重なったためです。この罪名は在留資格制度の基礎そのものへの侵害と評価されるため、家族関係の立証だけでは覆しにくい類型です。
第2事例 覚醒剤取締法違反により懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受け、ほかに前科1件があり、在留特別許可歴もある方です。関係機関からの通報で発覚し、在日約18年8月、違反期間約1年3月、婚姻期間約2月、子はありません。薬物関係法令違反による有罪は執行猶予でも入管法24条4号チの退去強制事由に当たります。婚姻期間が2月にとどまり子もいないため第2の2の積極要素が弱く、前科と在留特別許可歴という消極要素が上回りました。一度救済を受けた後の再度の違反は、極めて厳しく評価されます。
第3事例 強制わいせつの罪により懲役4年6月の実刑判決を受け、ほかに前科1件があり、出国命令歴もある方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約14年8月、違反期間約3年9月、婚姻期間約14年11月、子はありません。約15年の婚姻という積極要素がありますが、性犯罪の実刑という第2の6の反社会性の評価が突出しています。この類型では、家族関係の主張によって結論を動かすことは困難です。
第4事例 不法入国の状態が約17年3月続いた後、自ら出頭した方で、婚姻期間約2年6月、子はなく、刑事処分もありませんが、退去強制歴があります。刑事処分がなく出頭申告もあるにもかかわらず不許可となったのは、17年を超える不法在留期間と退去強制歴という2つの消極要素に対し、婚姻期間2年6月・子なしという積極要素が釣り合わなかったためと読めます。許可群の第2事例(12年の不法入国、子なし、退去強制歴なし)と比べると、退去強制歴の有無が明確な分岐点になっています。
配偶者が正規在留外国人の場合(B類型)
配偶者が永住者・定住者等の別表第二の在留資格で在留している場合、ガイドライン第2の2(2)により日本人配偶者の場合に準じて評価されます。他方、配偶者の在留資格が「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」等の別表第一である場合は、この積極要素に直接当たりません。前半の事例集では、この違いが結論と対応しています。
許可された4件
第1事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約5年4月、違反期間約4年10月、配偶者は「定住者」、婚姻期間約6月、子はなく、刑事処分もありません。結果は「定住者(1年)」でした。婚姻期間6月という短さと約5年の違反期間という組み合わせにもかかわらず許可されており、定住者配偶者との家族関係(第2の2(2))と出頭申告(第2の9)が、他に消極要素のない状況の中で評価されたと読めます。
第2事例 不法就労助長により罰金20万円の略式命令を受けた方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約27年3月、配偶者は「永住者」、婚姻期間約29年9月、成年の子2人があります。結果は「永住者の配偶者等(1年)」でした。他の外国人の不法就労に関わる行為はガイドライン第2の3(1)(イ)の素行不良として重い消極要素ですが、約30年に及ぶ永住者配偶者との婚姻関係と27年の在日期間が上回ったと評価されています。刑が罰金の略式命令にとどまったこと、すなわち公判請求に至らなかったことも、反社会性の評価に影響したと考えられます。この類型では、罰金にとどめること自体が入管手続における重要な目標になります。
第3事例 不法入国の状態が約30年11月続いた後、自ら出頭した方で、配偶者は「永住者」、婚姻期間約4月、子はなく、刑事処分もありません。結果は「永住者の配偶者等(1年)」でした。約31年という極めて長期の不法在留は第2の5の消極要素として最も重い部類ですが、それでも許可されています。婚姻期間4月・子なしという薄い積極要素の中で結論が分かれた要因としては、出頭申告と、刑事処分・退去強制歴・在留特別許可歴のいずれもないという消極要素の不在が考えられます。
第4事例 不法残留で警察に逮捕され、入管法違反(不法残留)により懲役2年6月・執行猶予3年の判決を受けた方です。在日約10年11月、違反期間約8年9月、配偶者は「永住者」、婚姻期間約9月、子はありません。結果は「永住者の配偶者等(1年)」でした。懲役2年6月という比較的重い量刑でありながら全部執行猶予であるため、入管法24条4号リの「1年を超える拘禁刑に処せられた者」からは除かれます。罪名が不法残留であり、退去強制の理由となった事実と重なっている点は、A類型許可第3事例と同じ構造です。永住者配偶者との婚姻関係が積極要素として働きました。
許可されなかった4件
第1事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約4年2月、違反期間約1年1月、配偶者は「技術・人文知識・国際業務」、婚姻期間約1年、未成年の子1人があり、刑事処分はありません。刑事処分がなく出頭申告もあり違反期間も1年余にとどまるにもかかわらず不許可となった点で、前半の事例集の中でも読み解きが難しい事案です。手がかりは配偶者の在留資格が別表第一であることで、ガイドライン第2の2(2)が挙げる家族関係に直接当たらないという構造上の弱さがあります。この類型では、配偶者の在留の安定性、子の養育状況、生活基盤の継続性を個別に丁寧に立証していく必要があります。
第2事例 不法就労助長により罰金30万円の略式命令を受けた方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約16年5月、配偶者は「永住者の配偶者等」、婚姻期間約2年5月、子はありません。許可群の第2事例と同じ不法就労助長でありながら結論が分かれています。罰金額の差(20万円と30万円)だけで説明することは難しく、婚姻期間(約29年9月と約2年5月)と成年の子の有無という家族関係の厚みの差が、より大きく作用したと読むのが自然です。第2の3(1)(イ)の消極要素を上回るには、家族関係の実体の積み上げが必要になります。
第3事例 詐欺、電子計算機使用詐欺、道交法違反により懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けた方です。関係機関からの通報で発覚し、在日約8年、違反期間約2年9月、配偶者は「技術・人文知識・国際業務」、婚姻期間約3月、子はありません。財産犯の併合による有罪であり第2の6の消極要素として相応に重く、他方で婚姻期間3月・子なし・配偶者が別表第一という積極要素の薄さがあります。全部執行猶予であるため24条4号リには当たりませんが、不法残留等の別の退去強制事由により手続が進んだ事案と考えられます。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、素行に関する消極要素の評価を大きく変えられた可能性があります。
第4事例 虚偽文書作成により摘発され、刑事処分はない方の事案です。在日約4年10月、配偶者は「経営・管理」、婚姻期間約11年11月、未成年の子1人があります。11年を超える婚姻と未成年の子がありながら不許可となったのは、虚偽文書の作成がガイドライン第2の3(1)(ウ)の公的書類に関する不正の中核に当たり、かつ配偶者の在留資格が別表第一であるため第2の2(2)の積極要素に直接当たらないという構造によるものと読めます。刑事処分がないにもかかわらず不許可となっている点は、行政が刑事処分の有無とは独立に素行を評価していることを示しています。
子と共に不法に滞在している外国人の場合(C類型)
前半の事例集では、この区分の見出しの下に「なし」とのみ記載され、許可・不許可のいずれも掲載事例がありません。掲載がないことは、この期間に該当する事案がなかったことを必ずしも意味せず、公表の対象として抜粋されなかったことを意味するにとどまります。事例集は各期間20件前後の抜粋にとどまるため、掲載がないこと自体から結論を導くことはできません。
なお、後半の事例集ではこの区分に許可1件・不許可1件が掲載されています。前半に掲載がないことを理由に「この類型は救済されない」と考える必要はありません。この類型では、お子さんが本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けていること、本国で教育を受けることが困難な事情があること、地域社会に溶け込んでいることが、ガイドライン第2の2(3)の積極要素として働きます。現行ガイドラインでは、本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性が積極要素として明示されており、この類型の主張の基礎になります。
その他(D類型)
D類型は、上記の3区分に収まらない事情を集めた区分です。前半では、日本国籍の喪失、DV被害、薬物事犯、偽造在留カード、売春周旋などが並びました。
許可された4件
第1事例 不法残留で自ら出頭した方で、在日約4年6月、違反期間約4年6月、刑事処分はなく、子の監護・養育を在留希望の理由としています。結果は「定住者(1年)」でした。子の監護養育はガイドライン第2の2の家族関係の中核であり、現行ガイドラインが明示した子の利益の保護の必要性にも直結します。在日期間と違反期間が一致していることから、当初から在留資格を得ないまま滞在していた事案と見られますが、それでも子の監護養育が上回っています。
第2事例 親子関係不存在審判の確定により、出生に遡って日本国籍を喪失した方の事案です。不法入国として扱われ、在日約2年2月、違反期間約5月、刑事処分はなく、自ら出頭しています。家族との同居継続を理由に「定住者(1年)」となりました。不法入国という結果が生じた原因が本人の意思や行為に基づかない点が決定的で、第2の7の人道上の配慮に接続します。本人に帰責性のない身分関係の変動によって在留資格を失った場合は、期間の長短を問わず救済の対象になり得ます。
第3事例 不法残留で入管職員の探知により発覚した方で、在日約29年8月、違反期間約3月、刑事処分はなく、本邦に生活基盤があることを理由としています。結果は「定住者(3年)」で、前半の許可事例の中で唯一の3年です。約30年の在日期間に対して違反期間が3月にとどまるという構成であり、長期の適法な在留の後に手続上の空白が生じた事案と見られます。第2の9その他の事情としての生活基盤の厚みが評価され、行政が在留の安定性を強く認めたことが3年という在留期間に表れています。
第4事例 不法残留で入管職員の探知により発覚した方で、在日約6年10月、違反期間約1年1月、刑事処分はなく、日本人夫からDV被害を受けていたことが記載されています。子の監護・養育を理由に「定住者(1年)」となりました。DV被害は第2の7の人道上の配慮として評価される中心的事情であり、加えて子の監護養育という第2の2の積極要素が重なっています。DV被害の事案では、被害者が配偶者の協力を得られないために在留手続が滞ることが少なくありません。相談記録、保護命令、医療記録、支援機関の関与を示す資料が、この類型の立証の柱になります。
許可されなかった4件
第1事例 覚醒剤取締法違反により懲役1年4月の実刑判決を受け、ほかに前科1件がある方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約22年1月、違反期間約3年9月で、本邦の生活基盤と子の監護・養育を在留希望の理由としています。薬物関係法令違反の実刑という第2の6の消極要素と前科が重く、子の監護養育という積極要素を上回りました。22年の在日期間と子の存在という主張がありながら結論が動かなかったのは、実刑という一線を越えたためと考えられます。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。もっとも、薬物事犯では所持や使用の事実関係が明白な場合も多く、実際にどこまで争えたかは証拠関係によります。
第2事例 偽造在留カードの行使により警察逮捕で発覚した方で、在日約19年4月、刑事処分はなく、本邦の生活基盤と病気の治療を在留希望の理由としています。刑事処分がないにもかかわらず不許可となっており、偽造在留カードの行使がガイドライン第2の3(1)(ウ)の消極要素として独立に重く評価されていることが分かります。病気の治療は第2の7の人道上の配慮に接続し得る事情ですが、本国での治療可能性まで踏み込んだ立証がなければ、この消極要素を上回るのは困難です。
第3事例 売春防止法違反及び入管法違反により懲役2年・執行猶予3年・罰金100万円の判決を受け、在留特別許可歴もある方の事案です。関係機関からの通報で発覚し、在日約25年10月、違反期間約1年2月で、本邦の生活基盤を理由としています。売春の周旋は第2の3(1)(エ)が挙げる人権侵害的行為であり、消極要素として最も重い部類です。加えて在留特別許可歴があり、25年の在日期間という積極要素では均衡が取れませんでした。
第4事例 監護者性交により懲役6年の実刑判決を受けた方の事案です。警察逮捕で発覚し、在日約23年6月で、本邦の生活基盤と子の監護・養育を理由としています。保護すべき立場の者に対する性犯罪の実刑であり、第2の6の反社会性の評価として前半の事例集の中で最も重いものです。子の監護養育を理由とする主張は、行為の性質そのものと矛盾する場面でもあり、積極要素として機能していません。
この年の事例から読み取れる分水嶺
第1に、実刑か執行猶予かの一線です。許可12件のうち刑事処分があるのは3件(A類型第3事例の懲役1年・執行猶予3年、B類型第2事例の罰金20万円、B類型第4事例の懲役2年6月・執行猶予3年)で、いずれも実刑ではありません。他方、不許可12件のうち実刑判決を受けた事案は4件(A類型第1事例の懲役1年6月、A類型第3事例の懲役4年6月、D類型第1事例の懲役1年4月、D類型第4事例の懲役6年)で、すべて不許可でした。
第2に、罪名の性質です。許可群の刑事処分は、入管法違反(不法残留)と不法就労助長の罰金にとどまります。前者は退去強制の理由となった事実そのものと重なるため、第2の6の反社会性の評価が二重に働かない構造にあります。他方、不許可群には、虚偽記録、性犯罪、薬物、売春周旋、偽造在留カード、財産犯が並びます。これらはいずれもガイドライン第2の3が素行不良として例示する行為に対応しています。
第3に、配偶者の在留資格の種別です。B類型で許可された4件の配偶者は「定住者」「永住者」「永住者」「永住者」で、いずれも別表第二です。他方、不許可となった4件の配偶者は「技術・人文知識・国際業務」「永住者の配偶者等」「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」であり、3件が別表第一です。ガイドライン第2の2(2)が別表第二の在留資格者との家族関係を積極要素として挙げていることが、結論の傾向に表れています。配偶者が就労資格の方である場合は、この積極要素に頼れないため、別の要素を厚く積み上げる必要があります。
第4に、不法在留期間の評価です。現行ガイドラインは不法在留期間の長期化を明示的に消極要素と位置づけましたが、前半の許可事例には、不法入国から約12年2月(A類型第2事例)、約30年11月(B類型第3事例)という長期の事案が含まれています。期間の長さは決定的な要素ではなく、その期間に築かれた家族関係と、他に消極要素がないことによって相殺され得るということです。
第5に、退去強制歴と在留特別許可歴です。前半では、退去強制歴(A類型不許可第4事例)と在留特別許可歴(A類型不許可第2事例、D類型不許可第3事例)はいずれも不許可群にのみ現れます。過去に一度手続を経ていることは、その後の評価に長く影響します。
刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか
前半の24件を刑事処分の観点から整理すると、許可12件のうち刑事処分があるのは3件で実刑はなく、不許可12件のうち刑事処分があるのは7件でそのうち4件が実刑です。この対比は、刑事事件の結末が入管手続の結論に強く連動していることを示しています。
もっとも、連動の仕組みは号ごとに異なります。入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。したがってB類型許可第4事例のように懲役2年6月という重い量刑でも、全部執行猶予であればこの号には当たりません。他方、4号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも退去強制事由となります。A類型不許可第2事例が執行猶予でありながら手続に乗っているのは、この違いによるものです。したがって、薬物事犯では「執行猶予が付いたから日本に居られる」という理解は成り立ちません。
不許可群のうち、次の事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだか、又は素行に関する消極要素の評価を大きく変えられた可能性があります。A類型不許可第1事例(電磁的公正証書原本不実記録・同供用)、B類型不許可第3事例(詐欺・電子計算機使用詐欺・道交法違反)、D類型不許可第1事例(覚醒剤取締法違反)、D類型不許可第3事例(売春防止法違反・入管法違反)です。もっとも、実際にどこまで争えたかは証拠関係によりますので、結果を遡って断定することはできません。
不法就労助長については、前半の2件を並べることに実務的な意味があります。B類型許可第2事例は罰金20万円の略式命令で許可され、B類型不許可第2事例は罰金30万円の略式命令で不許可となりました。いずれも公判請求には至らず罰金にとどまっていますので、刑の軽重だけで結論を説明することはできません。差が生じているのは家族関係の厚み、すなわち婚姻期間(約29年9月と約2年5月)と成年の子の有無です。
もっとも、罰金にとどめることの意味は小さくありません。不法就労助長罪(入管法73条の2)は、雇用主が就労者の在留資格や在留期限をどこまで認識していたかが争点になります。在留カードを確認していた、更新中と説明されていた、名義貸しや偽造カードを見抜けなかったといった事情は、故意の有無に直結します。この点を捜査段階から徹底して争うことで、不起訴又は罰金にとどめる余地が生まれ、その結果が入管手続における反社会性の評価にも影響します。
さらに、入管実務では、退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないという運用が長年踏襲されてきました。D類型不許可第4事例(虚偽文書作成、刑事処分なし)やD類型不許可第2事例(偽造在留カード行使、刑事処分なし)のように、刑事処分がないにもかかわらず不許可となる事案が現れるのは、この運用と無関係ではありません。刑事責任が問われなかった行為が、行政処分の場面では素行不良として評価されるという構造です。この運用が責任主義の観点から許されるかは、現在も争われている論点です。当事務所は、不法就労助長の事案において、この点を正面から問う訴訟を係争中です。
違反審査の段階から何を争うべきか
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出の段階で判断されますが、実質的な勝負はもっと前の段階で決まっています。
前半の事例集で特に注意を要するのは、期間の起算に関する原典の注記です。在日期間・違反期間・婚姻期間は、いずれも特別審理官による判定までの期間として記載されています。つまり、これらの数値は口頭審理の判定の時点で確定します。婚姻や子の監護養育の実体を積み上げる時間的余裕は、判定までの段階にしかないということです。
また、退去強制令書が発付された後の事情変更は原則として考慮されません(ガイドライン注4)。婚姻届や認知の届出、治療の開始、子の就学手続を令書発付後に整えても、間に合わない場合があります。前半のA類型許可第4事例のように婚姻期間が3月と短くても許可された例があるのは、その短い期間の中身が判定までに立証されていたからだと考えられます。
そこで、実務上は次の準備を違反審査の段階までに済ませておくことになります。住民票と戸籍の記載、賃貸借契約書と光熱費の名義、家計の記録と送金履歴、日常の連絡記録や写真、親族・近隣の方や勤務先の陳述書、子の在学証明・母子健康手帳・診断書です。配偶者が就労資格の方である場合は、配偶者の在留の安定性を示す資料(雇用契約、課税・納税証明、勤務先の在職証明)を加えます。DV被害の事案では、相談記録、保護命令、医療記録、支援機関の関与を示す資料が柱になります。
手続面では、認定・判定に対する不服を留保せずに従うと争点が事実上封じられるため、口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要があります。なお、令和6年6月10日以降は、在留特別許可について申請という手続が用意されました(入管法50条1項)。前半の事案には適用されませんが、現在ご相談をお受けする事案は原則として改正後の枠組みで進みますので、申請の時期と内容を意識した準備が必要になります。
公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない
前半の公表は許可12件・不許可12件の抜粋にとどまり、子と共に不法に滞在している場合の区分には掲載がありません。同じ期間に実際に在留特別許可が与えられた件数はこれをはるかに上回っており、公表されているのはごく一部です。したがって、掲載がないことや、不許可事例に自分と似た事情が載っていることは、直ちに結論を意味しません。
現に、当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。前半の事例集でも不法就労助長は許可1件・不許可1件で並んでおり、この罪名だから救済されないという整理が成り立たないことが分かります。公表事例の傾向は出発点であって結論ではありません。
もっとも、これは容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。事例集に自分と似た許可例がある場合は、同種の事情について異なる取扱いをすることの合理性を問う形で、法の下の平等(憲法14条1項)の観点から主張を組み立てることができます。似た許可例が見当たらない場合は、ガイドラインの評価要素そのものに立ち返り、なぜ本件の積極要素が消極要素を明らかに上回るのかを、証拠に基づいて構成していくことになります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。
不法就労助長に問われ強制退去の危機に至った方の事案では、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務の当否を問う訴訟を係争中です。この事案では、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得しており、許可を得た後も違反認定処分そのものの取消しを争っています。令和6年前半の事例集で不法就労助長が許可と不許可に分かれていることは、この類型で家族関係と故意の有無を丁寧に立証することの意味を示しています。
また、観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1度の申請で在留特別許可を獲得しています。
刑事段階では、特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議により全件について不起訴処分を獲得しました。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、無罪判決を獲得した実績もあります。
当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。前半の事例が示すとおり、多くの罪名では執行猶予判決を得ても退去強制の手続が始まります。薬物関係法令違反はその代表です。そのため起訴前の段階から入管手続への影響を見通し、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。
松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
結語
令和6年前半は、旧来の職権による判断の枠組みで動いた最後の期間です。それでも、そこに現れた24件が示しているのは、結論を分けるのが制度の形式ではなく、家族関係の実体、素行の内容、そして刑事処分をどこにとどめられたかという中身であるということです。手続が申請制に切り替わった後もこの中身は変わりません。だからこそ、逮捕直後の段階や入管に出頭する前の段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人と一緒に整理しておくことが大切です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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電話番号 :050-7587-4639
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