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令和4年の在留特別許可事例36件(許可18件・不許可18件)を全件解説

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令和4年の在留特別許可事例36件(許可18件・不許可18件)を全件解説

令和4年の在留特別許可事例36件(許可18件・不許可18件)を全件解説

2026/08/06

日本で生まれ、日本人として育ち、日本語しか話せない。それでも、後に届いた審判や訴えの結果として日本国籍を失い、在留資格のない状態に置かれる方がいます。令和4年の在留特別許可の事例集には、こうした事案が4件も並んでいます。認知による国籍喪失、親子関係不存在審判の確定、嫡出否認の訴え。いずれもご本人が選んだ出来事ではありません。本記事では、出入国在留管理庁が公表した令和4年分の許可18件と不許可18件のすべてを1件ずつ辿り、結論を分けた事情を現行ガイドライン(令和6年3月改定)の評価要素に当てはめて整理します。あわせて、同じ不法就労助長でも一方は許可され他方は不許可となった対照や、新型コロナウイルス感染症の持続化給付金の不正受給が問題となった事案も取り上げます。

本記事の要点

  • 令和4年分の事例集は許可18件・不許可18件の合計36件で、配偶者が日本人の場合が各5件、配偶者が正規在留外国人の場合が各4件、子と共に不法滞在している場合が各2件、その他が各7件という構成です。この年から、従来の「外国人家族の場合」という類型名が「子と共に不法に滞在している外国人の場合」に改められました。
  • 許可18件のうち15件が自主的な出頭申告による発覚でした。逮捕又は職員探知で発覚しながら許可された3件は、日本人配偶者との3年9月の婚姻、定住者の配偶者と子の存在、在留特別許可歴がありながら3人の子が本邦で長期に生活してきたことという別の強い事情を伴っています。
  • 許可18件のうち7件が、その他の区分における人道上の配慮又は本人の帰責性の乏しさによるものです。特に、認知・親子関係不存在審判・嫡出否認の訴えによって日本国籍を喪失した事案が3件あり、いずれも許可されています。
  • 不許可18件のうち15件に刑事処分があり、実刑は6件です。薬物法令違反、財産犯、偽造在留カード、不法就労助長、売春周旋の各類型が繰り返し現れます。
  • 公表事例は各年20件前後の抜粋にとどまるため、同じ類型の許可例が見当たらないことは、許可の可能性がないことを意味しません。

なお、本記事で引用する「懲役」の表記は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します。

令和4年の事例集はどのような構成か

出典は、出入国在留管理庁が令和5年12月に公表した「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(令和4年)」です。掲載件数と区分は次のとおりです。

  • A類型 配偶者が日本人の場合 許可5件・不許可5件
  • B類型 配偶者が正規に在留する外国人の場合 許可4件・不許可4件
  • C類型 子と共に不法に滞在している外国人の場合 許可2件・不許可2件
  • D類型 その他 許可7件・不許可7件

なお、令和4年分の表では、違反態様の性質上その期間区分が観念されない事案について、在日期間や違反期間の欄に斜線が引かれています。不法残留を伴わず不法就労助長のみが問題となった事案などが、これに当たります。以下、区分ごとに全件を見ていきます。

A類型 配偶者が日本人の場合(許可5件・不許可5件)

この区分では、許可5件のうち4件が刑事処分のない出頭申告事案です。他方、不許可5件のうち4件に刑事処分があり、3件は実刑又はそれに準ずる重さの判決に至っています。

許可された5件

第1事例 出頭申告による不法残留の事案です。在日約4年3月、違反期間約1年9月、婚姻期間約4月で未成年の子が1人あり、刑事処分はありません。許可は「日本人の配偶者等(1年)」でした。婚姻期間が4月と短い事案ですが、夫婦間に未成年の子があることで、ガイドライン第2の2(1)(ウ)にいう婚姻の安定・成熟が認められたと理解できます。子の存在は、婚姻の実体を生活の側から裏づける最も強い事実です。婚姻期間が短いことを理由に諦める必要がないことを示す事例です。

第2事例 在日約6年7月、違反期間約3年2月、婚姻期間約1年2月で未成年の子が1人、刑事処分なしの出頭申告事案です。許可は「日本人の配偶者等(1年)」でした。3年2月の不法在留は第2の5の消極要素ですが、婚姻と子の存在という積極要素が明らかに上回ったと考えられます。違反状態に気づいた段階で自ら出頭したこと(第2の9)が、この判断を支えています。

第3事例 在日約2年3月、違反期間約1年8月、婚姻期間約9月で子はなく、刑事処分もない出頭申告事案です。許可は「日本人の配偶者等(1年)」でした。子がない事案でも、婚姻期間が違反期間と重なっており、在留資格を失った後も夫婦としての生活が継続していると認められれば許可の方向で検討され得ます。婚姻の実体は、同居の期間、住居の同一性、家計の共同、親族との交際といった事実の積み上げで示すほかありません。

第4事例 出頭申告による不法入国の事案です。在日約10年6月、違反期間も同じ約10年6月、婚姻期間約2年9月で未成年の子が1人あり、刑事処分はありません。許可は「日本人の配偶者等(1年)」でした。不法入国は不法残留より重く評価される違反態様であり、10年6月に及ぶ不法在留も第2の5の強い消極要素です。それでも許可されたのは、2年9月の婚姻と未成年の子の監護養育(第2の2(1)(イ)(ウ))が、これを明らかに上回ると判断されたためです。長期の不法在留がある事案では、期間の長さそれ自体を持ち出すのではなく、その期間に築いた家族関係の中身を証拠で示す構成が要になります。

第5事例 警察逮捕により発覚した不法就労助長の事案です。在日約4年11月、婚姻期間約3年9月で子はなく、刑事処分は入管法違反(不法就労助長)により罰金20万円の略式命令でした。許可は「日本人の配偶者等(1年)」です。不法就労助長は、他の外国人の不法就労に関わる行為としてガイドライン第2の3(1)(イ)の素行不良に当たる強い消極要素ですが、刑事処分が罰金にとどまり、3年9月の婚姻という積極要素があることから、積極要素が明らかに上回ると判断されたと理解できます。同じ年の不許可事例(A類型不許可第2事例、B類型不許可第2事例、D類型不許可第2事例)がいずれも不法就労助長を含みながら不許可となっていることとの対比が重要です。この類型では、雇用した外国人の在留資格と就労可否についてどこまで確認していたのか、確認を尽くしたのに欺かれたのではないかという故意・過失の問題が正面から立ち上がります。退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする長年の実務の当否は、現在も争われている論点です。

許可されなかった5件

第1事例 出頭申告による刑罰法令違反及び不法残留の事案です。在日約4年、違反期間約1年10月、婚姻期間約1年11月で子はなく、刑事処分は無免許過失運転致傷により懲役8月・執行猶予3年の判決、そして退去強制歴があります。不許可の理由として記載された事情も「退去強制歴あり」です。自主出頭という積極要素と1年11月の婚姻がありながら、被退去強制歴という消極要素を覆せませんでした。被退去強制歴は、一度は退去強制手続を経て送還された者が再び違反状態に至ったことを意味し、出入国在留管理秩序の侵害の程度が重いものとして評価されます。加えて、無免許での運転により人を負傷させた事案であり、第2の6の反社会性も軽くありません。

第2事例 警察逮捕による売春周旋及び不法就労助長の事案です。在日約10年1月、婚姻期間約3年8月で子はなく、刑事処分は売春防止法違反及び入管法違反(不法就労助長)により懲役3年・執行猶予4年及び罰金150万円の判決でした。不許可の理由として記載された事情は、自己が経営する店において売春を行う場所を提供し複数の外国人を不法就労させたこと、及び配偶者と別居中であることです。許可群の第5事例(不法就労助長・罰金20万円・婚姻3年9月)との対比が、この類型の分水嶺を明瞭に示しています。婚姻期間はほぼ同じでありながら、こちらは別居により婚姻の実体が失われ、他方で自己の経営する店で売春の場所提供と組織的な不法就労という第2の3(1)(イ)(エ)の素行不良が重なっています。刑事処分の重さも罰金20万円と懲役3年・執行猶予4年及び罰金150万円では次元が異なります。

第3事例 警察逮捕による刑罰法令違反の事案です。在日約9年1月、違反期間約1年4月、婚姻期間約7年で子はなく、刑事処分は窃盗により懲役2年8月の実刑判決でした。不許可の理由として記載された事情は、特殊詐欺に関わり窃盗を繰り返していたこと、配偶者との同居の実態が認められなかったこと、虚偽の申告により在留資格を得ていたことです。7年の婚姻期間という数字がありながら不許可となったのは、同居の実体が否定され、婚姻の安定・成熟という評価が成り立たなかったことによります。加えて、特殊詐欺への関与という組織的な財産犯、実刑判決、在留諸申請における虚偽申告という消極要素が重なっています。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がありますが、実際にどこまで争えたかは証拠関係によるものであり、結果を遡って断定することはできません。

第4事例 警察逮捕による不法入国の事案です。在日約18年2月、違反期間約2年6月、婚姻期間約2年10月で子はなく、刑事処分はありません。不許可の理由として記載された事情は、ブローカーを経由して入手した他人名義の旅券を行使して不法入国したこと、及び退去強制歴があることです。刑事処分がないにもかかわらず不許可となった点が重要です。他人名義の旅券の行使は公的書類に関わる違反であり、第2の3(1)の素行不良として重く評価されます。加えて被退去強制歴があり、2年10月の婚姻という積極要素では覆せませんでした。刑事処分がない事案ですので、争うべきは違反審査段階での立証です。入国の経緯についてどこまで自らの判断が介在したのか、婚姻の実体をどこまで具体的に示せるかが問われる場面でした。

第5事例 警察逮捕による薬物法令違反の事案です。在日約21年3月、婚姻期間約1月で未成年の子が1人あり、刑事処分は覚醒剤取締法違反及び関税法違反により懲役9年・罰金500万円の判決、そして在留特別許可歴があります。不許可の理由として記載された事情は、覚醒剤の密輸に関与したこと及び在留特別許可歴があることです。21年3月の在日と未成年の子の存在という積極要素がありながら不許可となったのは、覚醒剤の密輸という反社会性の極めて高い違反と懲役9年の実刑、そして一度在留特別許可を受けながら再び重大な違反に及んだことの複合です。この量刑は現行法の入管法24条4号リに該当し、令和5年改正法50条1項ただし書の下では「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限って許可の対象となる類型です。

B類型 配偶者が正規に在留する外国人の場合(許可4件・不許可4件)

配偶者が永住者・定住者等の別表第二の在留資格を有する場合、ガイドライン第2の2(2)により日本人配偶者に準じて評価されます。令和4年分は、許可4件がすべて刑事処分のない事案、不許可4件のうち3件に刑事処分がある事案という対照です。

許可された4件

第1事例 職員探知により発覚した不法残留の事案です。在日約2年、違反期間約2年、婚姻期間約2年2月で未成年の子が1人あり、配偶者は「定住者」、刑事処分はありません。許可は「定住者(1年)」でした。職員探知という発覚の端緒は、自主出頭という積極要素を欠くことを意味しますが、定住者の配偶者と未成年の子という家族関係(第2の2(2))が明らかに上回ったと理解できます。発覚の端緒が唯一の決定要素ではないことを示す事例です。

第2事例 在日約4年、違反期間約3年11月、婚姻期間約1年6月で未成年の子が1人あり、配偶者は「定住者」、刑事処分なしの出頭申告事案です。許可は「定住者(1年)」でした。在日期間のほぼ全部が不法在留である点は消極要素ですが、婚姻と子の存在、そして自主出頭が積極要素として働いています。

第3事例 在日約8年6月、違反期間約7年6月、婚姻期間約1年6月で、特記事項に「夫婦間の子を妊娠中のもの」とあります。配偶者は「永住者」、刑事処分なしの出頭申告事案で、許可は「永住者の配偶者等(1年)」でした。7年6月に及ぶ不法在留という強い消極要素があっても、永住者との婚姻と妊娠という事実が明らかに上回ったと考えられます。ガイドライン第2の2は「夫婦間に子がある」ことを婚姻の安定・成熟の例として挙げており、妊娠中の場合も同じ趣旨で評価される余地があります。母子健康手帳等の客観的資料を早期に提出しておくべき場面です。

第4事例 在日約3年5月、違反期間約5月、婚姻期間約1年6月で子はなく、配偶者は「留学」、刑事処分なしの出頭申告事案です。許可は「家族滞在(1年4月)」でした。配偶者の在留資格が別表第一の「留学」であるため、第2の2(2)の準用は直接には及びません。それでも許可に至り、しかも与えられた在留資格が「家族滞在」であることは、この事案が在留資格該当性の側から評価されたことを示しています。第2の9は、別表第一の一の表又は二の表の在留資格該当性を有することを積極要素として挙げており、本件はその適用例と読めます。違反期間が5月と短く、早期に出頭申告したことも結論を支えています。

許可されなかった4件

第1事例 職員探知により発覚した不法残留の事案です。在日約2年1月、違反期間約1年10月、婚姻期間約11月で子はなく、配偶者は「永住者」、刑事処分はありません。不許可の理由として記載された事情は、配偶者が「永住者」であること及び本国に未成年の実子2人があることです。刑事処分がないにもかかわらず不許可となった理由は、婚姻期間が11月と短く、夫婦間に子がないため第2の2(2)の安定・成熟した婚姻という評価に届きにくいこと、そして本国に未成年の実子2人がいることが本国での生活基盤の存在を示す事情として評価されたことにあると理解できます。刑事処分がない事案ですので、争うべきは違反審査段階での立証です。婚姻の実体を具体的に示すとともに、本国の子との関係が帰国を要する事情ではなく別途の対応が可能であることを説明する構成が検討されるべき場面でした。

第2事例 警察逮捕による売春周旋及び不法就労助長の事案です。在日約9年、婚姻期間約2年3月で子はなく、配偶者は「経営・管理」、刑事処分は入管法違反(不法就労助長)、売春防止法違反及び風俗営業法違反により懲役2年・執行猶予4年及び罰金50万円の判決でした。不許可の理由として記載された事情は、自己が経営する店において売春を行う場所を提供し外国人を不法就労させたことです。素行不良の類型が二重に重なっており、加えて配偶者の在留資格が別表第一の「経営・管理」であるため第2の2(2)の準用が及びにくい構造にあります。

第3事例 警察逮捕による刑罰法令違反の事案です。在日約12年11月、婚姻期間約5年4月で未成年の子が1人あり、配偶者は「特定活動」、刑事処分は有印公文書偽造により懲役2年・執行猶予3年の判決でした。5年4月の婚姻と未成年の子という積極要素がありながら不許可となっています。公文書の偽造は第2の3(1)(ウ)に類する違反であり、出入国在留管理行政の信頼の基礎に関わるものとして重く評価されます。加えて、配偶者の在留資格が「特定活動」であり、別表第二の在留資格に比べて在留の基盤としての安定性が弱い点も影響していると考えられます。

第4事例 出頭申告による不法残留の事案です。在日約5年、違反期間約4年10月、婚姻期間約1年10月で子はなく、配偶者は「永住者」、刑事処分は入管法違反及び道路交通法違反(無免許運転)により懲役2年・執行猶予3年でした。自主出頭という積極要素がありながら不許可となっており、無免許運転を伴う有罪判決の重さと、婚姻期間1年10月で子がないという積極要素の薄さが結論を決めています。執行猶予付きの判決であっても、入管手続では第2の6の退去強制理由となった事実の反社会性として評価されます。

C類型 子と共に不法に滞在している外国人の場合(許可2件・不許可2件)

令和4年分から、従来の「外国人家族の場合」という類型名が「子と共に不法に滞在している外国人の場合」に改められました。名称の変更は、判断の中心が子の生活の定着にあることをより明確にしたものと理解できます。

許可された2件

第1事例 職員探知により発覚した不法残留の事案です。本人は在日約16年7月・違反期間約2年2月、子は3人でいずれも不法残留、11歳が在日約11年10月・違反期間約2年3月、9歳が在日約9年7月・違反期間約2年3月、7歳が在日約7年10月・違反期間約2年3月でした。本人には在留特別許可歴があり、刑事処分はありません。許可は家族4人とも「定住者(1年)」でした。在留特別許可歴があることは、一度救済を受けながら再び違反状態に至ったことを意味する消極要素ですが、違反期間が2年前後にとどまり、それ以前は正規の在留資格で生活していたこと、そして子3人がいずれも本邦で7年以上を過ごし本邦の教育機関で教育を受けてきたこと(第2の2(3))が明らかに上回ったと理解できます。令和6年改定で明示された「本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性」の趣旨に沿う判断です。

第2事例 出頭申告による不法残留の事案です。本人は在日約10年8月・違反期間約7月、配偶者も不法残留で在日約10年8月・違反期間約7月、子は2人でいずれも不法残留、14歳が在日約10年8月・違反期間約7月、9歳が在日約9年1月・違反期間約7月でした。ほかに在留資格「留学」で在留する実子が1人あり、父母には退去強制歴があります。許可は、本人(父)及び配偶者(母)が「特定活動(1年)」、子が「留学(6月又は1年)」でした。父母に退去強制歴があるという強い消極要素があってもなお許可に至ったのは、違反期間が7月と短く、家族全員が10年前後にわたり本邦で生活し、子が本邦の教育機関で教育を受け、さらに1人は正規の「留学」の在留資格で在留しているという家族の定着性が明らかに上回ったためと考えられます。許可される在留資格が家族の中で分かれている点も特徴的で、子の就学の継続を前提とした運用がなされています。

許可されなかった2件

第1事例 警察逮捕による薬物法令違反及び不法残留の事案です。本人は在日約22年5月・違反期間約2年1月、子は2人でいずれも不法残留、6歳が在日約6年7月・違反期間約1年5月、4歳が在日約4年10月・違反期間約1年7月でした。刑事処分は、覚醒剤取締法違反により懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受け、その執行猶予期間中に覚醒剤を使用して懲役1年4月の判決を受けたものです。22年5月の在日と子2人の存在という積極要素がありながら不許可となったのは、執行猶予期間中の再度の薬物使用という事情が、更生の見込みに対する評価を大きく損なったことによります。薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも入管法24条4号チの退去強制事由となる類型であり、本件は2度目の判決が実刑に至っています。この事案も、最初の刑事事件の段階で不起訴処分を獲得できていれば退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がありますが、証拠関係によるものであり結果を遡って断定することはできません。加えて、薬物依存の問題を抱える方の弁護では、医療機関や回復支援施設との連携を刑事段階から整えることが、その後の入管手続における更生環境の立証にも直結します。

第2事例 警察逮捕による不法残留の事案です。本人(母)は在日約2年4月・違反期間約11月、子は1人で6歳、不法残留、在日約2年4月・違反期間約11月でした。刑事処分の記載はありません。不許可の理由として記載された事情は、在留資格「短期滞在」で入国した後に不法残留となったことです。在日期間が2年4月と短く、子も6歳で本邦の教育機関における就学の期間が長いとは言えないため、第2の2(3)の積極要素が十分に立ち上がりません。刑事処分のない事案ですので、争うべきは違反審査段階での立証です。子の就学状況、日本語と本国語の能力、本国での教育を受けることの困難さ、地域社会との関わりを具体的な資料で示す作業がこの段階で求められていましたが、本件の在日期間からは積み上げる材料が乏しかったと見られます。

D類型 その他(許可7件・不許可7件)

その他の区分は、配偶者や子との関係以外の事情で在留を求める事案の集まりです。令和4年分の許可7件はすべて出頭申告であり、日本国籍の喪失、日系の身分、幼少時の入国、日本人実子の監護養育、疾病という主題で構成されています。不許可7件はすべて警察逮捕による発覚で、刑事処分を伴います。

許可された7件

第1事例 出頭申告による不法残留の事案です。在日約8年10月、違反期間約8年8月、刑事処分はありません。特記事項によれば、日本人として出生したものの、その後に外国籍の実父から認知を受けて日本国籍を喪失したものです。在留希望の理由は家族との同居の継続で、許可は「定住者(1年)」でした。日本国籍を失った経緯に本人の帰責性が全くなく、それまで日本人として生活してきた基盤がそのまま残っています。8年8月に及ぶ不法在留という消極要素があっても、この構造が明らかに上回ると判断されています。戸籍の記載の変動、認知の届出、それまでの生活の継続性を示す資料が中心の証拠になります。

第2事例 出頭申告による不法入国の事案です。在日約14年2月、違反期間も同じ約14年2月、刑事処分はありません。特記事項によれば、親子関係不存在審判の確定により、出生に遡って日本国籍を喪失したものです。在留希望の理由は生まれ育った日本で生活したいことで、許可は「留学(1年)」でした。許可された在留資格が「留学」であることは、この方が現に学業を継続していることを前提とした運用と読めます。第2の9は別表第一の在留資格該当性を積極要素として挙げており、在留特別許可の場面では、その方の生活の実態に即した在留資格が選ばれることが分かります。

第3事例 在日約9年6月、違反期間約4月の出頭申告による不法残留の事案です。刑事処分はなく、特記事項に「日系4世として入国したもの」とあります。在留希望の理由は本邦に生活基盤があることで、許可は「定住者(1年)」でした。違反期間が4月と短く、日系4世としての身分関係に基づく在留の基礎があることが総合的に評価されています。違反状態に気づいた時点で速やかに出頭申告したことが、違反期間の伸びを止め結論を有利にしています。

第4事例 出頭申告による不法入国の事案です。在日約7年11月、違反期間も同じ約7年11月、刑事処分はありません。特記事項によれば、嫡出否認の訴えにより日本国籍を喪失したものです。在留希望の理由は本邦で出生した者であり本邦に生活基盤があることで、許可は「定住者(3年)」でした。許可期間が3年と長い点が注目されます。本邦での出生と国籍喪失の経緯に本人の帰責性が全くないことから、在留の基礎が安定していると評価されたと理解できます。同種の事案では、単に1年の在留資格を得ることにとどまらず、より長い在留期間を求める主張も検討に値します。

第5事例 在日約10年4月、違反期間も同じ約10年4月の出頭申告による不法入国の事案です。刑事処分はなく、特記事項に「日本人との間に生まれた実子を監護・養育しているもの」とあります。在留希望の理由は家族との同居の継続で、許可は「特定活動(1年)」でした。第2の2(1)(イ)の日本人の実子を相当期間同居して監護養育していることが積極要素の中核であり、10年4月に及ぶ不法在留を覆しています。婚姻関係がなくても、実子との親子関係と監護の実態があればこの要素は成立します。認知の有無、同居の状況、養育費や生活費の負担、保育や就学への関与といった事実を具体的に示すことが要です。

第6事例 在日約18年9月、違反期間も同じ約18年9月の出頭申告による不法入国の事案です。刑事処分はなく、特記事項に「幼少時に入国し、本邦の教育機関で教育を受けたもの」とあります。在留希望の理由は本邦に生活基盤があることで、許可は「定住者(1年)」でした。幼少時に親に連れられて入国した方には、不法入国という違反態様について自らの意思決定が存在しません。加えて、本邦の教育機関での相当期間の教育(第2の2(3))と地域社会への溶け込みが積極要素として働きます。18年9月という長期の不法在留を覆した点で、この構造の強さが分かります。在学証明、通知表、担任や友人の陳述、日本語と本国語の能力に関する資料が要になります。

第7事例 在日約30年5月、違反期間も同じ約30年5月の出頭申告による不法入国の事案です。刑事処分はなく、特記事項に「継続的な治療を要する疾病にり患しており、自力での生活が困難なもの」とあります。在留希望の理由は本邦での病気治療で、許可は「特定活動(1年)」でした。30年に及ぶ不法在留という極めて強い消極要素があっても、第2の7(1)の本邦での治療の必要性が明らかに上回ると判断されています。ここで重要なのは、本国での治療が困難であることを、当該疾病の一般的な説明ではなく、本国の医療体制・当該治療の可否・費用・入手可能な薬剤といった具体的な水準で立証することです。

許可されなかった7件

第1事例 警察逮捕による刑罰法令違反の事案です。在日約8年5月、刑事処分は入管法違反(偽造在留カード行使)により懲役1年6月・執行猶予3年の判決でした。在留資格「技術・人文知識・国際業務」で在留していた方で、在留希望の理由は日本で稼働し本国から娘を呼び寄せたいことです。在留カード等の公的書類の偽造・行使は第2の3(1)(ウ)に明示された素行不良であり、就労資格を有していた方が偽造在留カードを行使したという事実は、在留管理制度の信頼を直接損なうものとして重く評価されます。他方、在留希望の理由は将来の希望を述べるものにとどまります。ガイドラインの積極要素は、既に本邦で形成された家族関係や生活の実体を評価するものであり、これから形成したい関係は積極要素として働きにくい構造にあります。

第2事例 警察逮捕による不法就労助長の事案です。在日約19年10月、刑事処分は入管法違反(不法就労助長)により懲役1年・執行猶予3年及び罰金70万円の判決でした。在留資格は「永住者」で、不許可の理由として記載された事情は、事業活動に関し複数の外国人に不法就労活動をさせたことです。在留希望の理由は本邦に生活基盤があることでした。「永住者」という最も安定した在留資格と19年10月の在日期間という厚い基盤がありながら不許可となっており、他の外国人の不法就労に関わる行為が第2の3(1)(イ)の素行不良として極めて重く評価されることが分かります。A類型許可第5事例(不法就労助長・罰金20万円・許可)との対比が示すのは、刑事処分が罰金にとどまるか執行猶予付きの判決に至るか、そして関与が組織的・反復的であったかという点の重要性です。この類型では、雇用した外国人の在留資格と就労可否についてどこまで確認していたのかという故意・過失の問題を刑事段階から徹底して争い、その主張と証拠を入管手続に引き継ぐ設計が必要になります。

第3事例 警察逮捕による刑罰法令違反の事案です。在日約12年9月、刑事処分は詐欺及び窃盗により懲役2年の実刑判決でした。在留資格は「永住者」で、不許可の理由として記載された事情は、銀行職員等になりすまして他人のキャッシュカードを騙し取ったことです。在留希望の理由は本邦での在留の継続でした。特殊詐欺に類する手口の財産犯であり、被害者の信頼を悪用する態様が第2の6の反社会性として重く評価されます。「永住者」でありながら実刑判決に至った点で、この量刑は現行法の入管法24条4号リに該当し、令和5年改正法50条1項ただし書の下では「特別の事情」がある場合に限って許可の対象となる類型です。刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性がありますが、証拠関係によるものであり結果を遡って断定することはできません。

第4事例 警察逮捕による薬物法令違反及び刑罰法令違反の事案です。在日約15年11月、刑事処分は住居侵入、強盗致傷及び覚醒剤取締法違反により懲役6年の判決でした。在留資格は「永住者」で、在留希望の理由は本邦に生活基盤があることです。強盗致傷という重大な暴力犯罪と薬物法令違反が重なり、懲役6年の実刑に至っています。「永住者」の在留資格と15年11月の在日期間では覆せません。この量刑も入管法24条4号リに該当し、加えて薬物関係法令違反による有罪は4号チの退去強制事由となります。

第5事例 警察逮捕による薬物法令違反及び刑罰法令違反の事案です。在日約18年8月、不法残留について違反期間約3年7月、刑事処分は覚醒剤取締法違反及び関税法違反により懲役2年6月の判決でした。不許可の理由として記載された事情は、日系二世であること、在留特別許可歴があること、薬物法令違反による執行猶予期間中に覚醒剤の密輸未遂事件に関与したことです。在留希望の理由は本邦に生活基盤があることでした。日系二世として本来は「定住者」の在留資格該当性を有し得る立場であり、在留特別許可歴もある方ですが、執行猶予期間中の再度の薬物事犯という事情が更生の見込みに対する評価を大きく損なっています。一度在留特別許可を受けた方の再度の違反は、極めて重く評価されることが分かります。

第6事例 警察逮捕による偽造在留カード行使の事案です。在日約9月、刑事処分は入管法違反(偽造在留カード行使)により懲役1年6月・執行猶予3年の判決でした。不許可の理由として記載された事情は、在留資格「家族滞在」で在留中に稼働の目的で偽造在留カードを行使したことです。在留希望の理由は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」で在留する配偶者との同居の継続でした。配偶者は正規に在留していますが、その在留資格は別表第一のものであり、第2の2(2)の準用が及びにくい構造にあります。加えて在日期間が9月と短く、偽造在留カードの行使という第2の3(1)(ウ)の素行不良に対抗できる積極要素が乏しい事案です。この類型では、当該カードが偽造であることの認識、入手の経緯、使用の目的が刑事段階の主要な争点であり、そこでの認定が入管手続にそのまま持ち込まれます。

第7事例 警察逮捕による刑罰法令違反の事案です。在日約5年3月、刑事処分は詐欺未遂により懲役1年6月・執行猶予3年の判決でした。不許可の理由として記載された事情は、自身の経営する会社で新型コロナウイルス感染症に係る持続化給付金を不正に受給したことです。在留希望の理由は本邦での在留の継続でした。公的な給付金の不正受給は、公費の適正な配分に対する信頼を損なう行為であり、第2の6の反社会性として重く評価されます。在日期間5年3月では対抗できていません。同種事案では、給付金の申請の主体と経緯、申請要件の充足についてどのような認識があったのか、他者の関与がどこまであったのかという故意の範囲が刑事段階の主要な争点になります。

この年の事例から読み取れる分水嶺

令和4年分の36件からは、次の線が読み取れます。

第1に、発覚の端緒です。許可18件のうち15件が出頭申告でした。逮捕又は職員探知で発覚しながら許可された3件は、A類型許可第5事例(日本人配偶者・婚姻3年9月・罰金20万円)、B類型許可第1事例(定住者の配偶者と未成年の子)、C類型許可第1事例(子3人が本邦で7年以上の生活)であり、いずれも別の強い積極要素を伴っています。他方、不許可18件のうち出頭申告は2件にとどまります。

第2に、刑事処分の内容です。不許可18件のうち15件に刑事処分があり、実刑は6件です。内訳は、窃盗(懲役2年8月)、覚醒剤の密輸に係る覚醒剤取締法違反及び関税法違反(懲役9年)、執行猶予期間中の再度の覚醒剤使用(懲役1年4月)、詐欺及び窃盗(懲役2年)、住居侵入・強盗致傷及び覚醒剤取締法違反(懲役6年)、覚醒剤の密輸未遂に係る覚醒剤取締法違反及び関税法違反(懲役2年6月)です。他方、許可18件で刑事処分があったのは1件(不法就労助長による罰金20万円の略式命令)のみでした。

第3に、同じ違反態様でも結論が分かれることです。不法就労助長は許可群に1件(A類型許可第5事例)、不許可群に3件(A類型不許可第2事例、B類型不許可第2事例、D類型不許可第2事例)現れます。罰金にとどまるか執行猶予付きの判決に至るか、関与が組織的・反復的であったか、そして日本人配偶者との婚姻の実体があるかという点が結論を分けています。「永住者」の在留資格を有し19年10月の在日期間がある方が不許可となっている一方で、在日約4年11月の方が日本人配偶者との婚姻を基礎に許可されていることは、在留資格や在日期間の長さが結論を決めるものではないことを示しています。

第4に、婚姻や同居の実体です。A類型不許可第3事例は婚姻期間7年という数字を持ちながら「同居の実態が認められなかったもの」とされ、A類型不許可第2事例は「配偶者と別居中」とされています。他方、許可群のA類型第1事例は婚姻期間4月でありながら子の存在によって許可されています。数字ではなく実体が結論を決めるということです。

第5に、日本国籍の喪失という類型の強さです。認知による喪失(D類型許可第1事例)、親子関係不存在審判の確定(同第2事例)、嫡出否認の訴え(同第4事例)の3件が、いずれも許可されています。しかも、不法在留期間は8年8月、14年2月、7年11月と長期に及びます。国籍を失った経緯に本人の帰責性が全くなく、それまでの生活の基盤がそのまま残っているという構造が、期間の長期化という消極要素を明らかに上回っています。

第6に、一度在留特別許可を受けた後の再度の違反の重さです。A類型不許可第5事例(覚醒剤の密輸・懲役9年)とD類型不許可第5事例(執行猶予期間中の覚醒剤密輸未遂)は、いずれも在留特別許可歴を消極要素として明記されています。他方、C類型許可第1事例は在留特別許可歴がありながら許可されています。違いは、その後の違反の性質と、家族の定着性の厚みです。

刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか

令和4年分の不許可事例18件のうち15件に刑事処分があり、実刑は6件です。この構成が示すのは、刑事処分の内容が入管手続の結論を強く規定しているという事実です。

入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、4号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも退去強制事由となります。したがって「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、罪名によっては成り立ちません。令和4年分でいえば、C類型不許可第1事例は覚醒剤取締法違反で懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けた後、執行猶予期間中に再度覚醒剤を使用して懲役1年4月の実刑に至っています。最初の執行猶予判決の時点で在留が確保されたわけではなかったということです。

実刑判決に至った事案(A類型不許可第3事例・第5事例、C類型不許可第1事例、D類型不許可第3事例・第4事例・第5事例)は、いずれも刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。もっとも、実際にどこまで争えたかは証拠関係によるものであり、結果を遡って断定することはできません。だからこそ、弁護活動は起訴前の段階から不起訴処分の獲得を最優先目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に据えると、刑事裁判では成功したように見えて、在留の場面で失うものが大きくなりかねません。

故意・過失が争点となる類型についても、この年の事例は示唆に富みます。不法就労助長(A類型許可第5事例・不許可第2事例、B類型不許可第2事例、D類型不許可第2事例)では、雇用した外国人の在留資格と就労可否についてどこまで確認していたのかが、偽造在留カード(D類型不許可第1事例・第6事例)では当該カードが偽造であることの認識と入手の経緯が、持続化給付金の不正受給(D類型不許可第7事例)では申請要件の充足に関する認識と他者の関与の範囲が、それぞれ主要な争点になります。刑事段階でこれらを徹底して争うことが、後の入管手続における主張の基礎を成します。退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする長年の実務の当否は、現在も争われている論点です。

刑事処分のない不許可事例についても検討が要ります。A類型不許可第4事例(他人名義旅券の行使・退去強制歴)、B類型不許可第1事例(婚姻期間11月・本国に未成年の実子2人)、C類型不許可第2事例(在日2年4月・子6歳)は、いずれも刑事処分ではなく、違反審査段階における事実の認定と立証の在り方が結論を決めています。

違反審査の段階から何を争うべきか

退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出段階の判断ですが、実質的な勝負はそれより前の段階で決まっています。

令和4年分の記載を並べると、この点が明瞭です。「配偶者との同居の実態が認められなかったもの」「虚偽の申告により在留資格を得ていたもの」「配偶者と別居中」「ブローカー経由で入手した他人名義旅券を行使して不法入国したもの」という記載は、いずれも違反調査・違反審査の段階で積み上げられた事実であり、後の段階でこれを覆すのは容易ではありません。逆に許可事例では、「日本人として出生したものの、その後、外国籍の実父から認知を受け、日本国籍を喪失したもの」「親子関係不存在審判確定により、出生に遡って日本国籍を喪失したもの」「幼少時に入国し、本邦の教育機関で教育を受けたもの」「継続的な治療を要する疾病にり患しており、自力での生活が困難なもの」という認定が結論を支えています。

実際に取るべき手順は次のとおりです。まず、違反審査の段階までに積極要素を裏づける資料を揃えて提出します。婚姻・同居の実体であれば住民票、賃貸借契約、家計や送金の記録、写真、親族や近隣の陳述書。子の定着性であれば在学証明、通知表、担任や友人の陳述、日本語と本国語の能力に関する資料。国籍の喪失であれば戸籍と審判書、それまでの生活の継続性を示す資料。疾病であれば診断書、治療計画、本国の医療事情に関する資料。次に、退去強制事由該当性そのものを争う余地があるかを検討します。不法就労助長や偽造在留カードのように認識が問題となる類型では、この段階で認識の有無を主張しておくことが後の展開の基礎になります。

そして、認定・判定に対する不服を留保せずに従うと、争点が事実上封じられます。口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要があります。現行ガイドラインの注4は、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されないとしています。令書が出てから婚姻届や認知を整えても間に合わない場合があるということですから、発付前の段階での主張と立証が決定的です。手続中の仮放免や監理措置の条件に違反することも消極要素となりますので、生活の在り方についても弁護人と確認しておくことが大切です。

なお、令和4年分は令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)の前の運用に係るものです。現在は在留特別許可に申請手続が設けられ(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されています(同条5項)。従前の職権発動による恩恵的措置から申請権を前提とする手続へと構造が変わったことにより、積極要素の立証責任を事実上申請者側が負う場面が増えています。過去の事例集から同種事情の許可実績を抽出して主張する作業の重要性は、以前より高まっているといえます。

公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない

令和4年分の事例集は、許可18件・不許可18件の抜粋です。同年の実際の許可件数はこれをはるかに上回っており、公表されているのはごく一部にすぎません。したがって、不許可事例に自分と似た事情が載っていることは直ちに結論を意味せず、逆に許可事例に自分と同じ類型が見当たらないことも、許可の可能性がないことを意味しません。

公表事例の意義は別のところにあります。これらは行政自身が「許可相当」と判断した先例ですから、同種の事情について異なる取扱いをすることは、合理的な理由のない差別的取扱いとして憲法14条1項違反の疑いを生じさせます。令和4年分でいえば、認知による日本国籍の喪失(D類型許可第1事例)、親子関係不存在審判の確定(同第2事例)、嫡出否認の訴えによる喪失で「定住者(3年)」が許可された事例(同第4事例)、幼少時の入国と本邦での教育(同第6事例)、継続的な治療を要する疾病(同第7事例)、そして父母に退去強制歴がありながら子の就学の継続を前提に家族全員が許可されたC類型許可第2事例は、いずれも同種事情の事案で引くことのできる先例です。

そして、公表事例の傾向を超えられる場合もあります。当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。令和4年分でも、不法就労助長は不許可側に3件並んでいますが、A類型許可第5事例では同じ類型で許可されています。公表事例の傾向は出発点であって結論ではないということが、この年の対照からもよく分かります。もっとも容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。どの許可事例をどう引き、どの不許可事例との差異をどう論ずるかという設計が重要になります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。

令和4年分の事例が示すとおり、この分野では公表事例を精読して自らの事案の位置を定める作業が結論を左右します。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知が未了で当局から一旦受理されなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させました。入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を実施し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1度の申請で在留特別許可を獲得しています。

また、不法就労助長罪に問われて強制退去の危機に至った女性の事案では、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得し、そのうえで「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務の当否を問う訴訟を現に係属させています。

刑事段階では、特殊詐欺の出し子とされた20代の女性について、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を総合的に主張して不起訴処分を獲得した事例があります。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を得た実績もあります。

当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制に至ります。そのため起訴前の段階から入管手続までの見通しを立て、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。

松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。

結語

令和4年分の36件を通して見えるのは、在留資格を失った経緯に本人の判断がどこまで介在していたか、そして刑事処分がどの重さで確定したかという2点が、結論を大きく左右しているという事実です。国籍を失った、幼いころに連れて来られた、更新の手続が間に合わなかったという事情は、それ自体が救済に値する経緯として評価され得ます。他方、刑事処分の重さは後から動かせません。逮捕された直後、あるいは入管に出頭する前の段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人と検討しておくことが大切です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

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