舟渡国際法律事務所

平成30年の在留特別許可事例38件を全件解説(許可19件・不許可19件の分かれ目)

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平成30年の在留特別許可事例38件を全件解説(許可19件・不許可19件の分かれ目)

平成30年の在留特別許可事例38件を全件解説(許可19件・不許可19件の分かれ目)

2026/08/06

ご家族が入管に収容された、あるいは在留期限を過ぎたまま日本で暮らしていることに気付いた、という段階でこの記事にたどり着かれた方が多いと思います。平成30年分の事例集は、許可された19件と許可されなかった19件を同じ様式で並べており、日本人配偶者との婚姻がある事案でも結論が正反対に分かれていることが読み取れます。この年の許可事例は、19件のうち16件が自ら入管に出頭したことで発覚したものでした。本記事では38件すべてを1件ずつ検討し、現行のガイドライン(令和6年3月改定)に当てはめて、どこで結論が分かれたのかを整理します。

本記事の要点

  • 平成30年分では、配偶者が日本人である許可5件がいずれも出頭申告かつ刑事処分なしで、全件が「日本人の配偶者等(1年)」の許可でした。判断の型が最も明瞭に出た年です。
  • 同区分の不許可5件のうち3件は、同種前科に加えて実刑相当の判決と被退去強制歴2回が重なっており、婚姻期間が5年から8年あっても結論は変わっていません。
  • 不法就労助長は、罰金の略式命令にとどまる事案も含めて4件が不許可となっており、自ら経営する店で外国人を働かせた類型が繰り返し現れます。
  • 許可側では、子と共に不法滞在していた母子が家族そろって出頭した2件、日本国籍の実子を監護養育する2件、病気療養中の2件、高齢で本国に身寄りのない1件が救済されています。
  • 公表事例は各年38件前後の抜粋であり、同じ類型が掲載されていないことは、許可の可能性がないことを意味しません。

平成30年の事例集はどのような構成か

出入国在留管理庁が令和元年5月に公表した「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(平成30年)」は、許可19件と不許可19件を4つの区分に分けています。内訳は、配偶者が日本人の場合が許可5件・不許可5件、配偶者が正規に在留する外国人の場合が許可4件・不許可4件、外国人家族の場合が許可2件・不許可2件、その他が許可8件・不許可8件です。

表の列は、発覚理由、違反態様、在日期間、違反期間、婚姻期間(または家族構成等)、夫婦間の子、刑事処分等、許可内容(または在留希望の理由)、特記事項という構成です。不法就労助長、資格外活動、刑罰法令違反のように期間の概念になじみにくい違反態様の行では、違反期間の欄に斜線が引かれています。在日期間・違反期間・婚姻期間は、いずれも特別審理官による判定までの期間です。

以下の記述は、事例集に記載された属性の範囲にとどめ、それを超えた具体化はしません。量刑は事例集の原典表記をそのまま用います(懲役は事例集公表当時の原典表記であり、現行法では拘禁刑に相当します)。

配偶者が日本人の場合(許可5件・不許可5件)

この区分の許可5件は、すべて出頭申告・刑事処分なしで、許可内容も一律に「日本人の配偶者等(1年)」でした。他方、不許可5件は、婚姻・同居の実態への疑義が2件、実刑相当の判決と前科・被退去強制歴の重複が2件、不法就労助長が1件です。

許可された5件

第1事例 不法入国で在日約10年8月、違反期間も同じ約10年8月、婚姻期間約3年で夫婦間の子はありません。自ら出頭申告し、刑事処分もなく「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。約10年8月の不法在留は現行ガイドライン第2の5の消極要素として重く働く事情ですが、日本人と法的に婚姻して相当期間共同生活をしているという家族関係(第2の2(1)(ウ))と出頭申告(第2の9)が上回ったと読めます。分水嶺は、子がない事案でありながら、婚姻期間約3年の共同生活の実体に疑義が付されなかったことです。子がいない夫婦の場合、同居と相互扶助を示す資料の厚みがそのまま結論を左右します。

第2事例 不法残留で在日約3年4月、違反期間約2年4月、婚姻期間約1年1月、子はありません。出頭申告により「日本人の配偶者等(1年)」が許可されています。違反期間が約2年4月にとどまり、消極要素の総量が小さい段階での申告でした。分水嶺は、婚姻期間が約1年1月と短いにもかかわらず、婚姻の実体が確認されたことです。婚姻から在留手続の相談までの期間が短いほど、生活の記録は薄くなりますから、同居開始時期を裏付ける資料を意識して残しておくことが役に立ちます。

第3事例 不法残留で在日約4年5月、違反期間約3年5月、婚姻期間約10月で未成年の子が1人ある事案です。出頭申告により「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。婚姻期間は約10月と短いものの、夫婦間に子があることで婚姻の安定性・成熟性が裏付けられています。分水嶺は、婚姻期間の長さではなく、子の存在という客観的な事実です。令和6年改定で明示された子の利益の保護の必要性は、この型の事案をさらに支える方向に働きます。

第4事例 不法残留で在日約3年3月、違反期間約2年3月、婚姻期間約1年8月、子はありません。出頭申告により「日本人の配偶者等(1年)」が許可されています。第2事例とほぼ同型で、消極要素が少ない段階での自主的な申告が結論を支えました。分水嶺は、婚姻の実体が確認され、他に素行上の消極要素が存在しなかったことです。

第5事例 不法入国で在日約3年1月、違反期間も同じ、婚姻期間約1年6月で未成年の子が1人ある事案です。出頭申告により「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。不法入国は入国管理秩序の侵害の程度が大きいと評価されやすい違反態様ですが(第2の6)、婚姻と子という家族関係が上回っています。分水嶺は、不法入国という違反態様の重さを、家族関係の実体と自主的な申告が補ったことです。

許可されなかった5件

第1事例 不法残留で自ら出頭申告し、在日約4年9月、違反期間約1年8月、婚姻期間約1年5月、子はなく刑事処分もありませんが、婚姻・同居の実態に疑義がもたれて不許可となりました。許可された第2事例・第4事例と数値の並びはよく似ており、違いは婚姻・同居の実体の評価だけです。分水嶺は、届出の存在ではなく、同居・家計・扶助が資料で確認できたかどうかです。刑事処分がないこの種の事案では、違反審査の段階で生活の痕跡を提出し尽くすことが唯一の防御になります。住民票、賃貸借契約、公共料金や家計の記録、写真、近隣や親族の陳述を早期に揃えておく必要がありました。

第2事例 警察逮捕により発覚した不法就労助長の事案で、在日約9年10月、婚姻期間約6年5月です。風営法違反と入管法違反により罰金100万円の略式命令を受け、自ら経営するマッサージ店において在留資格「技能」で在留する外国人をマッサージ嬢として稼働させたもので、被退去強制歴が1回あります。他の外国人の不法就労に関わる行為は現行ガイドライン第2の3(イ)の素行不良として明示されており、罰金の略式命令という比較的軽い処分でも強い消極評価を受けます。分水嶺は、婚姻期間約6年5月という家族関係よりも、事業として不法就労を生じさせた点が重く評価されたことです。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、有罪を前提とする消極評価を生じさせずに済んだ余地があったと考えられます。加えて、在留資格「技能」の外国人にどの範囲の活動が許されるかという認識、すなわち故意・過失の内容は、刑事段階から徹底して争うべき論点でした。

第3事例 不法残留で出頭申告した事案で、在日約2年4月、違反期間も同じ、婚姻期間約2年2月です。刑事処分はなく、婚姻・同居の実態に疑義がもたれて不許可となりました。在日期間と違反期間が同じであることから、入国後ほどなく在留資格を失った経過が読み取れます。分水嶺は、第1事例と同じく生活実体の立証です。婚姻期間が在日期間とほぼ重なる事案では、婚姻の動機について慎重な審査を受けやすいため、交際の経緯から丁寧に説明する準備が求められます。

第4事例 警察逮捕により発覚した不法残留及び刑罰法令違反の事案で、在日約25年2月、違反期間約6月、婚姻期間約5年10月です。覚せい剤取締法違反により懲役1年2月の判決を受け、覚せい剤取締法違反による懲役1年6月・執行猶予3年の前科があり、被退去強制歴が2回あります。薬物法令違反は入管法24条4号チにより、実刑でも執行猶予でも退去強制事由となる類型です。分水嶺は、約25年2月という長い在留と婚姻期間約5年10月の家族関係が、同種前科の反復と実刑、被退去強制歴2回の前で機能しなかったことです。執行猶予中に同種の事件を重ねると、その時点で在留の道はほとんど閉ざされます。最初の事件の段階で不起訴処分を獲得することが、この構造を避ける唯一の方法でした。

第5事例 警察逮捕により発覚した不法残留及び刑罰法令違反の事案で、在日約12年7月、違反期間約2年1月、婚姻期間約8年7月です。商標法違反により懲役1年2月・罰金100万円の判決を受け、商標法違反による懲役1年6月・執行猶予3年の前科があり、被退去強制歴が2回あります。第4事例と構造が同じで、罪名が薬物から商標へ変わっただけです。分水嶺は、婚姻期間約8年7月という長期の家族関係が、同種前科の反復と実刑判決を上回らなかったことです。1年を超える拘禁刑の実刑は入管法24条4号リの退去強制事由に直結しますから、量刑の攻防は在留の可否そのものに関わります。

配偶者が正規に在留する外国人の場合(許可4件・不許可4件)

この区分の許可4件は、すべて出頭申告かつ刑事処分なしで、配偶者は定住者または永住者です。不許可4件は、財産犯とカード犯罪、偽装結婚を経た不法入国、不法就労助長、大麻取締法違反という消極要素を伴っています。

許可された4件

第1事例 不法入国で在日約19年2月、違反期間も同じ、婚姻期間約2年で未成年の子が1人ある事案です。配偶者と子はいずれも在留資格「定住者」で、出頭申告により「定住者(1年)」が許可されました。別表第二の在留資格者との家族関係は、日本人配偶者に準じて評価されます(第2の2(2))。分水嶺は、約19年2月という長期の不法在留に対し、家族全員の在留資格が整い、子を含む生活単位が確認されたことです。配偶者と子の在留カードの写しや世帯全員の住民票は、この類型で最初に固める資料です。

第2事例 不法残留で在日約5年1月、違反期間約5年、婚姻期間約1年3月で未成年の子が1人ある事案です。配偶者と子は「定住者」で、「定住者(1年)」が許可されています。分水嶺は、違反期間が約5年ある一方で、子を含む家族の在留資格が安定していたことです。

第3事例 不法残留で在日約2年4月、違反期間も同じ、婚姻期間約1年5月で未成年の子が1人ある事案です。配偶者と子は「定住者」で、「定住者(1年)」が許可されました。違反期間が約2年4月にとどまり、消極要素の総量が小さい段階での申告です。分水嶺は、早期の出頭と家族関係の実体という2つの積極要素が揃ったことです。

第4事例 不法残留で在日約8年7月、違反期間約8年4月、婚姻期間約1年6月で、夫婦間の子はありません。配偶者は「永住者」で、「永住者の配偶者等(1年)」が許可されています。子がなく違反期間が約8年4月に及ぶ事案でありながら許可された点が示唆的で、婚姻の実体に疑義が付されなかったことが効いています。分水嶺は、長期の不法在留それ自体ではなく、その間の生活関係の評価です。

許可されなかった4件

第1事例 警察逮捕により発覚した不法残留及び刑罰法令違反の事案で、在日約10年3月、違反期間約10月、婚姻期間約3年10月です。不正作出支払用カード電磁的記録供用と窃盗により懲役3年・執行猶予4年の判決を受けています。事例集の特記事項欄は空欄であり、不許可に至った事情としてそれ以上の記載はありません。分水嶺は、執行猶予が付いたかどうかではなく、他人の決済手段を不正に用いる行為の反社会性(第2の6)が重く評価されたことです。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。もっとも、カード犯罪では共犯者からの指示の内容と本人の認識が争点となりやすく、故意の有無を刑事段階から詰めておく必要がありました。

第2事例 不法入国で出頭申告した事案で、在日約7年6月、違反期間も同じ、婚姻期間約1年8月です。他人名義で日本人と偽装結婚をしたうえで不法入国し、その後、正規在留中の外国人との婚姻・同居を理由に出頭申告したもので不許可となりました。刑事処分の記載はありません。偽装結婚は、婚姻を偽装して在留資格を得る行為であり、現行ガイドラインが積極要素から偽装婚を明示的に除外していることからも分かるように、家族関係の評価の基礎そのものを失わせます。分水嶺は、後の婚姻が真摯であったとしても、入国の起点に偽装があったという経緯です。出頭申告という形式があっても、申告の内容に虚偽や隠蔽があれば積極要素として機能しません。

第3事例 摘発により発覚した不法就労助長の事案で、在日約13年6月、婚姻期間約5年1月です。入管法違反により懲役10月・執行猶予3年・罰金120万円の判決を受け、自ら経営する飲食店において在留資格「短期滞在」で在留する外国人をホステスとして稼働させたものです。第2の3(イ)の素行不良に当たり、婚姻期間約5年1月の家族関係では覆りませんでした。分水嶺は、執行猶予の有無ではなく、事業として不法就労を生じさせたという行為の性質です。この事案も、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば消極評価の前提を欠かせた余地があり、雇用時に在留カードをどのように確認したかという過失の程度を争う必要がありました。

第4事例 警察逮捕により発覚した不法残留及び刑罰法令違反の事案で、在日約12年6月、違反期間約1月、婚姻期間約9年6月です。大麻取締法違反により懲役2年6月・執行猶予5年の判決を受け、被退去強制歴が1回あります。違反期間が約1月と極めて短く、婚姻期間も約9年6月あるにもかかわらず不許可となった点が重要です。分水嶺は、大麻取締法違反が入管法24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由となる類型であることです。「執行猶予だから残れる」という理解は、薬物事犯では成り立ちません。

外国人家族の場合(許可2件・不許可2件)

この区分では、母子で出頭した2件が許可され、出国準備期間を過ぎた1件と親に刑事処分がある1件が不許可となっています。子の年齢と就学の実績が評価の中心にあります。

許可された2件

第1事例 不法残留で母子が出頭申告した事案です。本人は在日約13年10月、違反期間約13年7月で、子は本邦で出生して在留資格を得ていない11歳です。母には被退去強制歴が1回あります。それにもかかわらず、母は「定住者(1年)」、子は「日本人の配偶者等(1年)」が許可されました。子の許可内容が「日本人の配偶者等」であることから、子の父が日本人であることがうかがわれますが、事例集の記載からその詳細は判明しません。分水嶺は、被退去強制歴1回という消極要素があっても、本邦で出生して11歳まで育った子の利益(第2の2(3)、および令和6年改定で明示された子の利益の保護の必要性)が上回ったことです。子の在学状況と本国での就学の困難さを示す資料が、この類型の中核になります。

第2事例 不法入国で母子が出頭申告した事案です。本人は在日約13年4月、違反期間も同じで、子は本邦で出生して在留資格を得ていない12歳と10歳の2人です。家族3人ともに「定住者(在留期間6月)」が許可されました。在留期間が6月という短い設定である点に特徴がありますが、家族全員が在留資格を得ています。分水嶺は、母の違反態様が不法入国であり約13年4月の長期に及ぶという重い消極要素に対し、12歳と10歳という2人の子の本邦での成育が上回ったことです。

許可されなかった2件

第1事例 不法残留で出頭申告した事案です。本人は在日約10年10月、違反期間約8月で、配偶者も不法残留(在日約5年1月、違反期間約8月)、子は本邦出生の不法残留で2歳です。在留資格変更許可申請が許可されず、その後、出国準備期間として認められた在留期限内に出国しなかったことにより不許可となりました。刑事処分はありません。分水嶺は、出国準備期間という当局が明示的に与えた猶予に従わなかったことが、退去強制手続における姿勢の問題として評価されたこと、そして子が2歳で就学の実績がなく、家族の本邦定着性が積極要素の水準に達していなかったことです。出国準備期間の在留資格を得た段階で、その期間内に何を主張し何を立証するかを弁護人と検討しておく必要がありました。

第2事例 職員探知により発覚した不法残留の事案です。本人は在日約9年1月、違反期間約7月で、子は本邦出生の不法残留で6歳(違反期間約3年8月)です。窃盗により懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けたことにより不許可となりました。6歳の子が本邦で出生して育っているという積極要素がありながら、親の財産犯が上回っています。分水嶺は、子の利益という積極要素の水準と、親の刑事処分の反社会性との比較です。この事案は、刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性の評価が変わった可能性があります。窃盗は被害弁償や示談によって処分が動く余地のある類型であり、起訴前の弁護活動がそのまま家族全員の在留に及ぶ場面でした。

その他(許可8件・不許可8件)

この区分では、人身取引被害、日本国籍の実子の監護養育、病気療養、高齢で本国に身寄りがないこと、日本国籍の喪失、更新申請の失念が許可の理由として並びます。不許可側は、偽装日系人としての在留、資格外活動、財産犯と薬物事犯、不法就労助長に集中しています。

許可された8件

第1事例 摘発により発覚した不法残留の事案で、在日約1年1月、違反期間約1年です。人身取引被害者として公的機関に保護され、国際機関の支援を受けて早期の帰国を希望したもので、「特定活動(1月)」が許可されました。人身取引等により他人の支配下に置かれて在留している場合は、令和5年改正入管法50条1項3号に明示された類型でもあります。分水嶺は、本人が違反者ではなく被害者として位置付けられたことです。摘発で発覚した事案でも、被害者性が公的機関の保護によって裏付けられれば救済され得ることを示しています。

第2事例 不法残留で出頭申告した事案で、在日約5年、違反期間約2年11月です。日本国籍を有する実子を監護・養育していることから「定住者(1年)」が許可されました。日本人の実子を相当期間同居して監護・養育していることは第2の2(1)(イ)の積極要素です。分水嶺は、婚姻の有無ではなく、実子との親子関係と監護の実績が現に機能していることです。認知の記載、住民票上の同居、保育所や学校の状況、家計の負担を示す資料が中核となります。

第3事例 不法入国で出頭申告した事案で、在日約20年11月、違反期間も同じです。病気療養中であり出国が困難であると認められ、本邦での治療と生活基盤を理由に「特定活動(1年)」が許可されました。難病等により本邦での治療を必要とすることは第2の7(1)の積極要素です。分水嶺は、約20年11月という長期の不法在留を、疾病による出国困難が上回ったことです。診断書、治療計画、本国での治療可能性に関する資料が立証の軸になります。

第4事例 警察逮捕により発覚した不法残留の事案で、在日約18年6月、違反期間約1年11月です。在留期間更新許可申請を失念したもので、刑事処分はなく「定住者(1年)」が許可されました。この区分で警察逮捕により発覚しながら許可された事例であり、発覚形態が不利であっても、不法残留に至った経緯に非難可能性がほとんどないと評価されれば救済され得ることを示します。分水嶺は、約18年6月の在留実績と、失念という経緯の説明が客観的に裏付けられたことです。

第5事例 職員探知により発覚した不法入国の事案で、在日約14年3月、違反期間は今次入国以降の約2年1月です。日本国籍を有する実子を監護・養育し、内縁関係にある日本人がいることから「定住者(1年)」が許可されました。分水嶺は、発覚が自主的な申告でなかったにもかかわらず、日本国籍の子との親子関係が現に機能していたことです。

第6事例 不法残留で出頭申告した事案で、在日約27年9月、違反期間約27年8月です。高齢であり本国に身寄りのないことから「定住者(1年)」が許可されました。約27年8月という極めて長期の不法在留は第2の5の重い消極要素ですが、高齢と本国に頼る親族がないという事情が人道上の配慮として評価されています。分水嶺は、帰国後の生活が客観的に成り立たないと認められたことです。本国の親族関係、年齢、健康状態、本邦での支援者の存在を具体的に示すことが求められます。

第7事例 不法入国で出頭申告した事案で、在日約60年、違反期間も約60年です。病気療養中であることから「永住者の配偶者等(1年)」が許可されました。在日期間が約60年に及ぶ事案であり、生活の基盤が完全に本邦にあることが前提となっています。分水嶺は、疾病による本邦での治療の必要性と、本国との結び付きが事実上失われていることです。

第8事例 不法入国で出頭申告した事案で、在日約6年、違反期間は今次入国以降の約11月です。外国国籍の取得に際して日本国籍を喪失したもので、「日本人の配偶者等(3年)」が許可されました。国籍喪失の経緯に本人の帰責性が乏しく、かつて日本国民であった者に当たることは、令和5年改正入管法50条1項2号にも対応する事情です。分水嶺は、違反状態が国籍法上の効果によって生じたことです。この類型では、国籍喪失の届出や戸籍の記載を揃え、経緯を時系列で示すことが必要です。

許可されなかった8件

第1事例 職員探知により発覚した不法入国の事案で、在日約17年3月、違反期間は今次入国以降の約13年3月です。他人名義の旅券で不法入国し、偽装日系人として在留していたもので、同国人配偶者との同居(婚姻期間は約4月)を理由としていましたが不許可となりました。刑事処分の記載はありません。他人名義の旅券の使用と身分の偽装は、公的書類に関する不正(第2の3(ウ))として強い消極要素です。分水嶺は、在留の基礎そのものが虚偽の身分に基づいていたことです。刑事処分がない事案ですから、争点は退去強制事由該当性と積極要素の立証であり、違反審査の段階で本邦での生活実態を主張する必要がありましたが、身分偽装の期間が約13年3月に及ぶ点は容易に覆せません。

第2事例 職員探知により発覚した資格外活動の事案で、在日約2年11月、違反期間約9月です。在留資格「技術・人文知識・国際業務」で在留中に清掃員として報酬を受ける活動に従事していたもので、稼働の継続を希望していましたが不許可となりました。刑事処分はありません。分水嶺は、現に従事している活動が在留資格に対応しておらず、在留資格該当性(第2の9)を欠いていたことです。就労資格をお持ちの方が業務内容を変えるときは、資格外活動許可や在留資格変更の必要性を事前に確認することが、この事態を避ける方法です。

第3事例 警察逮捕により発覚した刑罰法令違反の事案で、在日約17年3月です。住居侵入と窃盗により懲役2年の判決を受け、住居侵入・窃盗による懲役2年6月・執行猶予4年の前科があります。本邦に生活基盤があることを理由としていましたが、同種前科の反復と実刑判決が決定的でした。分水嶺は、在留期間の長さではなく、違反の反復性です。1年を超える拘禁刑の実刑は入管法24条4号リの退去強制事由に該当します。最初の事件が執行猶予で終わった段階で、再犯防止の環境整備まで踏み込んでおく必要がありました。

第4事例 警察逮捕により発覚した刑罰法令違反の事案で、在日約9年10月です。覚せい剤取締法違反により懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けたことにより不許可となりました。執行猶予付きの判決でありながら不許可となった点が重要で、薬物法令違反は入管法24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由となります。分水嶺は、刑の重さではなく罪名の構造です。この類型では、起訴前の段階で不起訴処分を目指すほかに在留を守る道はほとんどなく、執行猶予の獲得を最終目標に据えると在留の場面で失うものが大きくなります。

第5事例 警察逮捕により発覚した不法残留の事案で、在日約6月、違反期間約5月です。刑事処分はなく、同国人の恋人(在留資格「定住者」)との同居を理由としていましたが不許可となりました。事例集には不許可に至った事情の記載がありません。分水嶺は、恋人との同居という関係が、現行ガイドラインの家族関係(第2の2)に当たる法的な婚姻または実子との親子関係に達していなかったことにあると読めます。在日期間が約6月と短く、本邦定着性を示す事情も乏しい事案です。内縁関係を積極要素として主張するのであれば、同居の期間と相互扶助の実体を具体的な資料で示す必要があります。

第6事例 摘発により発覚した不法就労助長の事案で、在日約14年8月です。刑事処分はありませんが、自ら経営する会社において不法残留者を解体作業員として稼働させたことにより不許可となりました。刑事処分がないにもかかわらず不許可となった点が示唆的で、退去強制事由該当性と在留特別許可の判断は、刑事処分の有無に尽きるものではありません。分水嶺は、他の外国人の不法就労に関わる行為(第2の3(イ))そのものが強い消極要素として評価されたことです。この類型では、雇用の際に在留カードや就労資格をどのように確認したかという注意義務の履行状況が、違反審査の段階での主要な争点になります。退去強制事由の判断に故意・過失は要件でないとする実務が長年踏襲されてきましたが、その当否は責任主義の射程に関わる問題であり、当事務所は現にこの論点を正面から問う訴訟を係属させています。

第7事例 摘発により発覚した資格外活動の事案で、在日約3年4月、違反期間約1年です。在留資格「留学」で在留中に学校から除籍処分を受けた後もアルバイトを継続していたもので、同国人配偶者(在留資格「留学」)と子(在留資格「家族滞在」)との同居を理由としていましたが不許可となりました。刑事処分はありません。分水嶺は、家族が正規に在留しているという事情があっても、本人が在留資格の基礎を失ったまま就労を続けたことです。除籍の通知を受けた段階で、他校への進学や在留資格の変更を速やかに検討することが、この事態を避ける方法でした。

第8事例 摘発により発覚した不法就労助長の事案で、在日約14年9月です。風営法違反と売春防止法違反により罰金50万円の略式命令を受け、自ら経営するマッサージ店において在留資格「短期滞在」で在留する外国人をマッサージ嬢として稼働させ、売春の周旋をしたものです。他の外国人の不法就労(第2の3(イ))と他人に売春を行わせる行為(同(エ))が重なる事案であり、罰金の略式命令という軽い処分でも救済されていません。分水嶺は、刑の重さではなく、行為の性質が二重に素行不良の例示に当たったことです。もっとも、当事務所が担当した不法就労助長の事案では、この類型でありながら在留特別許可を獲得しています。この点は後の節で改めて述べます。

この年の事例から読み取れる分水嶺

平成30年分から読み取れる分かれ目は、次の3点に整理できます。

第1に、発覚の形態です。許可19件のうち16件が出頭申告によるものでした。出頭以外の形で発覚しながら許可されたのは3件だけで、その内訳は摘発による人身取引被害(D区分許可第1事例)、警察逮捕による更新申請の失念(同第4事例)、職員探知による日本国籍の実子の監護養育(同第5事例)です。いずれも独立して強い積極要素または非難可能性の乏しさがある事案でした。自ら出頭したことは現行ガイドライン第2の9の積極要素であり、この年のデータでも明瞭に現れています。

第2に、刑事処分の有無と罪名です。許可19件のうち、刑事処分があると記載された事例は1件もありません。他方、不許可19件のうち10件が有罪判決または略式命令を受けています。罪名の構造を見ると、薬物法令違反(A区分不許可第4事例、B区分不許可第4事例、D区分不許可第4事例)は実刑・執行猶予のいずれでも退去強制事由となり、実刑判決(A区分不許可第4・第5事例、D区分不許可第3事例)は入管法24条4号リに直結します。不法就労助長(A区分不許可第2事例、B区分不許可第3事例、D区分不許可第6・第8事例)は、罰金や刑事処分なしの事案でも一貫して不許可でした。

第3に、家族関係の内容です。婚姻期間の長さは、それ自体では結論を決めていません。不許可側には婚姻期間約9年6月(B区分第4事例)、約8年7月(A区分第5事例)、約6年5月(A区分第2事例)、約5年10月(A区分第4事例)の事案が並び、許可側には婚姻期間約10月(A区分第3事例)、約1年1月(同第2事例)、約1年3月(B区分第2事例)の事案が並びます。決めているのは、同居・扶助の実体があるか、夫婦間に子があるか、家族の在留資格が整っているか、そして本人に素行上の消極要素がないかです。

子と共に不法滞在していた家族の区分では、子の年齢が分かりやすい指標として現れています。許可側は11歳、12歳と10歳であり、不許可側は2歳、6歳です。本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けているかどうかは、第2の2(3)の積極要素そのものです。

刑事段階で不起訴を獲得できていれば結果は変わったか

この年の対比は、極めて明瞭です。許可19件に刑事処分のある事例はなく、不許可19件のうち10件に有罪判決または略式命令があります。刑事処分の存在が、そのまま在留の可否に投影されていると言ってよい状況です。

罪名ごとの構造を確認します。入管法24条4号リは「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は除かれます。他方、同号チに当たる薬物関係法令違反による有罪は、執行猶予でも退去強制事由となります。したがって「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、罪名によっては成り立ちません。B区分不許可第4事例(大麻取締法違反・執行猶予5年・違反期間約1月・婚姻期間約9年6月)は、この構造を最も鮮明に示す事案です。

刑事処分のある不許可10件は、いずれも刑事段階で不起訴処分を獲得できていれば、退去強制事由該当性そのものを生じさせずに済んだ可能性があります。とりわけ、罰金の略式命令にとどまるA区分第2事例とD区分第8事例(いずれも不法就労助長)、執行猶予付きのB区分第1事例(カード犯罪・窃盗)、C区分不許可第2事例(窃盗・執行猶予)、D区分第4事例(覚せい剤・執行猶予)は、証拠関係によっては起訴前の段階で処分を動かす余地があった類型です。もっとも、実際にどこまで争えたかは事案ごとの証拠に左右され、結果を遡って断定することはできません。

故意・過失の争いが特に意味を持つのは、不法就労助長(A区分第2事例、B区分第3事例、D区分第6・第8事例)と偽装結婚を経た在留(B区分第2事例)です。前者では、雇用時に在留カードをどのように確認したか、当該在留資格でどの範囲の活動が許されると理解していたかが、認識の内容として問題になります。後者では、婚姻の意思の有無が核心です。これらの事案では、刑事段階から故意・過失を徹底して争うことが、後の入管手続における主張の土台を作ります。

弁護活動は、起訴前の段階から不起訴処分の獲得を最優先目標として組み立てる必要があります。執行猶予の獲得を最終目標に据えると、刑事裁判では成功したように見えて、在留の場面で失うものが大きくなりかねません。

違反審査の段階から何を争うべきか

退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査(認定)、特別審理官の口頭審理(判定)、法務大臣への異議申出という順に進みます。在留特別許可は最後の異議申出の段階で判断されますが、実質的な勝負は違反審査の段階でついています。

平成30年分では、刑事処分の記載のない不許可事例が9件あります。A区分不許可第1・第3事例(婚姻・同居の疑義)、B区分不許可第2事例(偽装結婚を経た不法入国)、C区分不許可第1事例(出国準備期間内に出国せず)、D区分不許可第1事例(偽装日系人)、第2事例(資格外活動)、第5事例(恋人との同居)、第6事例(不法就労助長)、第7事例(除籍後の稼働)です。これらの事案で争うべきは、退去強制事由該当性そのものと、積極要素の裏付けです。

婚姻・同居の実態への疑義は、違反調査・違反審査の段階で入国警備官・入国審査官が積み上げた事実認定であり、後の段階で覆すのは容易ではありません。したがって、住民票、賃貸借契約、家計や送金の記録、写真、勤務先や学校の資料、近隣や親族の陳述を、認定より前に提出しておくことが実際的です。あわせて、認定・判定に対する不服を留保せずに従うと争点が事実上封じられるため、口頭審理の請求と異議申出を適切に行う必要があります。

C区分不許可第1事例は、出国準備期間として与えられた在留期限内に出国しなかった事案です。出国準備の在留資格を得た段階は、実質的に最後の交渉期間でもあります。その期間内に何を主張し何を立証するかを決めておかないと、期限の経過そのものが新たな消極要素になりかねません。

なお、退去強制令書の発付後の事情変更は原則として考慮されません(現行ガイドライン注4)。婚姻届や認知を令書発付後に整えても間に合わない場合があります。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により在留特別許可に申請手続が新設され(入管法50条1項)、考慮事情が法律上明示されました(同条5項)。従前の職権発動による恩恵的措置から、申請権を前提とする手続へと構造が変わったことで、積極要素の立証を申請者側が主導する場面が増えています。

公表事例に同じ類型がなくても諦める必要はない

平成30年分は、許可19件・不許可19件の抜粋です。同年の実際の許可件数はこれをはるかに上回っており、公表されているのはごく一部です。したがって、不許可事例に自分と似た事情が載っていることは直ちに結論を意味せず、逆に許可事例に同じ類型が見当たらないことも、許可の可能性がないことを意味しません。

公表事例には、行政自身が「許可相当」と判断した先例としての意味があります。同種の事情がある事案について合理的な理由なく異なる取扱いをすることは、法の下の平等(憲法14条1項)の観点から問題を生じ得ます。この年の許可事例、たとえば被退去強制歴1回がありながら11歳の子とともに許可されたC区分許可第1事例や、警察逮捕により発覚しながら更新失念として許可されたD区分許可第4事例は、申請者側が積極的に引くべき記録です。

同時に、傾向を超えられる場合があることも申し添えます。当事務所が担当した不法就労助長の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら、在留特別許可を獲得しています(許可を得た後も、違反認定処分そのものの取消しを争っています)。この年の不法就労助長4件がすべて不許可であることを踏まえると、公表事例の傾向は出発点であって結論ではないことが分かります。もっとも容易な道ではなく、結果をお約束できるものでもありません。どの許可事例をどう引き、どの不許可事例との差異をどう論ずるかという設計が、実際の作業になります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が担当いたします。

不法就労助長に問われて強制退去の危機に直面した女性の事案では、入管庁の公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を獲得し、その後も、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務の当否を問う訴訟を係属させています。平成30年分でも不法就労助長は4件すべてが不許可でしたが、雇用時の確認状況や認識の内容を精密に立証することで、評価が変わり得る場面があります。

刑事段階では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。また、特殊詐欺の受け子とされ複数回にわたって再逮捕された事案では、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議により、全件について不起訴処分を獲得しています。裁判員裁判の対象となる事件や報道された重大事件にも対応してまいりました。

当事務所の基本方針は、不起訴処分の獲得を最優先に据えることです。多くの罪名では、執行猶予判決を得ても結果として退去強制に至ります。そのため起訴前の段階から見通しを立て、刑事処分の内容そのものを動かすことを目指します。

松村弁護士は、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。あわせて、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士と連携してワンストップで対応いたします。

結語

平成30年分の38件が示すのは、刑事処分の内容と、それ以前に積み上げてきた生活の実体が、在留の可否をほぼ決めているという事実です。だからこそ、逮捕された直後や、入管への出頭を考え始めた段階で、何を積極要素として立証できるかを弁護人とともに検討しておくことが大切です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。

覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

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